普遍的価値の擁護者としての「極右」―― リベラリズムのアイロニー

ヨーロッパの政界で「極右」が話題にならない日はないといってよい。主要なものだけを数えても、EU27カ国で20以上もの極右政党が存在しており、各国の国政選挙でも、ときによって20%近くの得票率を得るまでの存在になった。

 

「極右」というと、いまだに、スキンヘッドで部屋にナチスのハーケン・クロイツを掲げた愚連隊崩れというイメージで語られることが多い。そうでなくとも、たとえば最近では『ミレニアム1ドラゴン・タトゥーの女』(スティーグ・ラーソン)で描かれたように、ナチスだった経験を持つ年老いたファシストの集まりといった認識も根強い。

 

こうした描写はまったく間違いだというわけではないが、もはや「ファシスト」や「ネオナチ」といった形容詞でもって極右を語るのは、ミスリーディングという以上に、間違いに近い。ヨーロッパの極右政党は、とくに9.11を以降になって、どちらかといえばアメリカの「ティーパーティ」に類似する、ポピュリスト政党として進化してきているからだ。

 

最近では、すでに第一党としての地位を築いたスイス人民党(UDC)の主導で、実刑判決を受けた外国人の強制送還措置やミナレット(モスクの塔)建設の是非を国民投票にかけたことに象徴されるように、一国の政策に大きな影響を与えるまでになっている。以下に、その類型と理由を見てみよう。

 

 

3つの類型と3つの局面

 

ヨーロッパの極右といっても、国によって大きなヴァリエーションがある。

 

ひとつは、ノルウェーの進歩党やフランスの国民戦線(FN)、ベルギー・オランダの「フラームス・ベラング」のように、選挙で10から20%の支持を得ながら、政権運営にはタッチしない(できない)極右政党である。これらの政党は、いまだ移民排斥を主張の力点にしており、そうした意味でも、獲得できる支持は限定的である。

 

次は、オーストリア自由党(FPO)やこれから分派した「オーストリア未来同盟」、デンマーク国民党、イタリアの北部同盟のように、何らかのかたちで、政権与党と協力関係にあり、政策に実質的に影響を及ぼしている諸政党がある。こうした政党は、地方政治ではもちろんのこと、国政でも完全な足場を築いている。

 

最後に、とくに旧東欧諸国のブルガリアの「アタカ」や、フィンランドの「真のフィンランド人党」といった、市場化と民主化を90年代に経験した国々での新興極右勢力がある。

 

それぞれの国での文脈は違っており、一括りにすることはできないが、いずれも既存政党のポジショニングに影響を与えるまでの勢力になっている。オーストリア自由党の台頭に対して見られたように、当初、既存政党はこうしたラディカルな政党に対して、政治的左右の垣根を超えて「予防壁」を形成しようとする。しかし、これは既得権を守るだけの行為としてしか有権者には認知されず、逆に極右の伸張を許すという悪循環を招くことになる。この場合、既存の政党は、部分的な協力関係を極右政党と結ぶか、彼らが掲げる政策を部分的に取り入れて支持者を懐柔するかの選択を迫られることになる。このような状況配置は、日本でも再現されつつあることには注意しなければならない。

 

ヨーロッパのこうした極右政党は、90年代まで、戦後のファシズム文化や反共勢力、帝国主義者をまとめあげる雑多な政治組織でしかなかった。もちろん、これだけでは政治勢力としてはマージナルな存在でしかない。現在につづく極右政党の伸張は、大きく言って3つのフェイズに分けることができる。

 

最初のフェイズは70年代、オイルショックによって移民問題が社会で表面化したときである。その後、ロジックはさまざまだが、移民排斥は現在に至るまで極右政党によって争点化されるようになっていく。

 

次のフェイズは、90年代に、既存の諸政党が多かれ少なかれ、とくに経済政策において中道化していくと同時に低成長率時代に本格的に突入し、共産党をはじめとする極左政党の支持者を獲得していったときに求められる。冷戦崩壊とともに、共産主義イデオロギーを掲げる政党が失墜するのと入れ替わって台頭するようになったのが極右政党だったのである。貧しい労働者ゆえに、極右政党を支持するというのは不思議な構図ではない。

 

三つ目の、そしてもっとも重要なフェイズは、2001年の同時多発テロ以降、ヨーロッパにおいて「文明の衝突」の構図が押し寄せたときである。折りしも、2002年にはオランダの極右政治家ピム・フォルタインが暗殺され、彼が創設した反イスラム政党は議会で第二党となるという、エポックメイキングな事件があった。

 

ポスト9.11が重要な契機となったのは、これを機にヨーロッパ極右政党は明確なポジション・チェンジをみせたからだ。イタリアのMSIのようなファシズム政党は除けば、それまで色濃く引きずっていた戦前のファシズムや冷戦時代の反共イデオロギーを掲げるのではなく、むしろ西欧文明に敵対するものとして反イスラム主義を明確にしたのである。しかも、これはたんにイスラム系移民の差別ではなく、西欧的普遍主義の擁護という容を採ることになった。

 

 

 

シノドスの楽しみ方、あるいはご活用法のご案内

http://synodos.jp/info/18459

 

salon-banner_synodos-ptn11

1 2

α-synodos03-2

困ってるズ300×250

lounge

vol.209 特集:交渉/ネゴシエーション

・松浦正浩氏インタビュー「『交渉学』とは?――誰もが幸せになる問題解決のために」

・国境なき医師団・村田慎二郎氏インタビュー「人道援助と交渉――『中立・独立・公正』の実践で信頼関係を築く」

・幡谷則子「コロンビア和平プロセスの課題――新和平合意をめぐって」

・橋本努「南仏エクス・アン・プロヴァンス滞在とハン・サンジンの社会学」

・片岡剛士「経済ニュースの基礎知識TOP5」