現代日本政治の対立軸をどのように捉えるべきか? 

先月の参議院選挙が与党の過半数割れに終わったことから、連立の組み替えや部分連合、さらには民主党と自民党による大連立と、さまざまな見解や憶測が連日報じられている。

 

 

議席数と政策的距離、連立政権ふたつの形成要因

 

衆議院の優越が規定されている予算案など一部の例外を除き、与党のみの賛成では議案が国会を通過しない以上、「べき論」としては望ましくなくとも、参議院での多数派形成に焦点が向かうのは当然だといえよう。

 

一般に、連立政権(より厳密には、閣外協力を含む連合政権)の形成には、議席数と政党間の政策的距離という2つの要因が作用すると考えられている。

 

このうち議席数に関しては、配分できる閣僚ポスト数に限りがあるために、与党となる政党の総議席数は過半数を上回る中で最小の組み合わせ、すなわち最小勝利連合になることが多いという。

 

これを現在の参議院に当てはめると、たとえば民主党と公明党の組み合わせになるが、民主党とみんなの党の組み合わせも無所属議員などの動向によっては該当する。

 

その一方で、政策的距離から連立の形成を考える議論は少し難しい。冷戦期までのような明確な保革対立がなくなったこと、政党の離合集散が激しい場合には各政党の位置と距離関係がつかみにくいことが、その理由であろう。

 

東京大学法学部の谷口研究室と朝日新聞社、あるいは早稲田大学政治経済学部の研究グループと読売新聞社など、議員や候補者へのサーヴェイ調査によって対立軸を探る研究がなされていて、外交・安全保障と経済・財政という軸はおおむね析出されているものの、それぞれの軸における政党の位置や距離関係はあまり安定的でないというのが、現在の知見であるようだ。

 

 

「公共部門への信頼の有無」という第3の軸

 

ただ筆者には、これら2つの対立軸と並んで、「公共部門への信頼の有無」という第3の軸があるようにも思われる。

 

調査結果などから裏付けられているわけではないので、あくまで試論の域を出ないのだが、通常は経済・財政をめぐる「大きな政府」か「小さな政府」かという対立軸に吸収されてしまうとされる「公共部門への信頼」は、もしかすると別の軸であり、かつ外交・安全保障よりも大きな意味を持っているのではないだろうか。

 

というのも、「公共部門は信頼しておらず、官僚や政治家への不信は強いが、政府からのサーヴィスや給付は求める」という有権者が相当程度存在しており、無視できない影響を与えているように感じるからである。

 

それを示してみたのが、下の図である。「公共部門への信頼+小さな政府」は伝統的な保守主義、「公共部門への不信+小さな政府」は新自由主義、そして「公共部門への信頼+大きな政府」は社会民主主義で、ここまでは従来も見られた理念であろう。

 

これに対して「公共部門への不信+大きな政府」は、論理的には矛盾した立場だとしても、感覚的には受け入れられるということなのかもしれない。ここでは、この立場をとりあえずポピュリズムと名付けておきたい。

 

 

ポピュリズムへの回帰か社会民主主義への移行か

 

この構図がもし妥当するのなら、「脱官僚」を標榜しつつ有権者への直接給付を重視した鳩山・小沢時代の民主党はポピュリズムであり、現在はそれを社会民主主義路線に変更しようとしていると考えることができよう。

 

自民党は、小泉時代には新自由主義が中心になった保守主義との連合だったのだが、現在は保守主義色が強まったと理解できるだろう。代わって新自由主義のエリアに入ってきたのが、みんなの党である。

 

政党の路線転換は、軸のすべてについて一気に行うことはできないから、図における斜め方向への移動は難しい。だとすると、菅政権が社会民主主義に傾斜するほど、みんなの党との連携のハードルは高くなるであろう。

 

ただ、消費税問題を含む税制改革にせよ、社会保障改革にせよ、今後は負担と給付のバランスを変えることに有権者の理解が必要となる場面が増えると考えられる。そのときに、公共部門に対する信頼を構築しておくことは不可欠であり、鳩山政権が模索していた「新しい公共」といった発想も究極的にはここを目指すものとも考えられる。

 

ポピュリズムへの回帰か社会民主主義への移行か、民主党にとっては思案のしどころかもしれない。

 

 

推薦図書

 

2009年、なぜ政権交代だったのか―読売・早稲田の共同調査で読みとく日本政治の転換

著者/訳者:田中 愛治 河野 勝 日野 愛郎 飯田 健 読売新聞世論調査部

出版社:勁草書房( 2009-10-24 )

定価:

Amazon価格:¥ 32,692

単行本 ( 217 ページ )

ISBN-10 : 4326301821

ISBN-13 : 9784326301829


 

本文に挙げた早稲田大学と読売新聞社による調査の成果で、昨年夏の政権交代の意味を計量分析によって明らかにしている。こうした書物の内容そのものは時間の経過とともにどうしても古びてしまうが、適切な方法論に依拠した分析を志向する政治学研究者が持つツールは、眼前で起こっている政治現象を解明する上でも有効であることを示す好例である。なお、東京大学と朝日新聞社による調査については、今のところ残念ながら包括的な著作としては刊行されていない。

 

 

 

 

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