企業による統治? 

企業と国家の本質的違いとは?

 

一昔前のSF小説にしばしば登場した構図として、「国家ではなく企業が世界を統治する」というのがあった。たとえば、国家は存在しているものの、実際には巨大な企業あるいはその連合体がその国の重要な意思決定を行っているというものや、あるいは国家そのものに企業が取って変わっているというようなものである。とりわけ、このような構図に情報ネットワークが拡大し、個人が巨大なネットワークに接続する近未来社会という状況を重ね合わせるのは、当時のSFのひとつパターンであったといってもよいだろう。

 

単純に、国家の中で巨大な企業が政治的影響力を行使する、というような状況はしばしば起こりうる現象であるが、それだけでなく企業が実際にある地域を統治する、という状況もじつはときどきみられる。イギリス東インド会社によるインド統治や東清鉄道、南満州鉄道の鉄道附属地が有名な例だが、イギリス東インド会社以外の植民企業や新しい島を企業が開発した場合など、ほかにもいくつかの例がある。

 

しかし、このような例は必ずしも多くはない。また、SF小説でしばしば使われるということ自体が物語るように、どうもわれわれはこのような状況をどこか奇妙なものと感じるらしい。それではなぜ、この「企業による統治」というのは奇妙に感じられるのだろうか? 言い換えれば、企業と国家の本質的な違いとはなんなのだろうか。今回はこのことを考えてみたい。

 

 

企業が地域を統治することは可能

 

企業が統治する、といった場合、先に述べた巨大企業による政治的影響力の行使という場合を除けば、ふたつぐらいの状況に分けることができる。

 

ひとつは、国家は存在しているものの、ある地域においては企業が実際に統治を行っているというケースである。言い換えれば、企業がある地域において行政サービスを提供している状況である。歴史上存在した「企業による統治」の例のほとんどはこのケースだ。例えば南満州鉄道の鉄道附属地では南満州鉄道が行政を担当したが、行政権そのものはあくまで日本政府が保有しており、警察、司法等については日本政府が担当していた。

 

実際、ある地域を企業が地方自治体に近いかたちで統治することは、現在の日本でも不可能ではない。ある地域をある企業が買い取って、その地域に大規模な集合住宅とともに上下水道や学校、警備、インフラ整備のようなサービスを提供し、同時に契約により毎月の管理費や契約違反時の違約金のようなものを定めればよい。もちろん、さまざまな許可を取らなくてはならないために現実には簡単ではないが、そのような許可を取ることができれば、地方自治体が行っている業務のかなりの部分は企業にも提供可能なはずである。

 

明らかに不可能なのは、上の鉄道附属地のケースもそうであるように、警察や司法の部分、言い換えれば住民の身体に直接影響が及ぶような国家権力の行使の部分だけである。つまり、この点を除けば地方自治体と企業には明確な差は認められない。

 

ただし、ひとつだけ注意すべき点がある。それは、その企業からの利益の配分を受け取る株主(その他の出資者)と行政サービスの受け手である住民とが異なる場合、両者の間で利害にずれが生じるため、住民が望む行政サービスがすべて提供されるとはかぎらない、という点である。

 

企業が株主の利益を考えるかぎり、住民が希望する行政サービスが利益に結びつかないのであればそのようなサービスは提供されないかもしれない。この点は地方自治体と企業とのずれとなりうる点である。しかし、住民と株主が同じである場合には利害の対立がないため、住民が望むような行政サービスが提供されうる。言い換えれば、株主と住民が一致するかぎり、企業の「営利性」は地方自治体と企業を区別する根拠にならない。

 

 

 

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