改めて考える、「ポピュリズム」とは一体何か?

トランプ大統領の誕生や、英国のEU離脱の原動力となったとも言われる「ポピュリズム」。日本では、小泉純一郎元総理や橋下徹元大阪市長などに対する批判的な言葉として用いられるが、しばしば民主主義との区別が明確でないまま使われているのが現状だ。そもそもポピュリズムとは一体何なのか、その功罪を専門家とともに考える。2017年1月16日放送TBSラジオ荻上チキ・Session22「トランプ大統領誕生、英国のEU離脱の原動力!? 『ポピュリズム』とは一体何?」より抄録。(構成/畠山美香)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

なぜポピュリズムは生まれるのか

 

荻上 今夜のゲストをご紹介します。ヨーロッパ政治、比較政治学がご専門、千葉大学教授の水島治郎さんです。

 

水島 よろしくお願いいたします。

 

荻上 のちほど、政治学者の遠藤乾さんにも、お電話でお話を伺っていきたいと思います。

 

さて、昨年12月に出版された水島さんのご著書、『ポピュリズムとは何か』(中公新書)が話題になっています。なぜ、このタイミングでポピュリズムについて本を書こうと思われたのですか。

 

水島 近年、世界中で次々とポピュリズム政党が躍進するという状況が続いています。その中で現代のポピュリズムを捉えるためには、安易に「排外主義」「大衆迎合主義」といった批判的な言葉で片付けてしまうのではなく、歴史を追って比較政治学的な視点から考える必要があると思いました。例えば、20世紀のラテンアメリカでは、ポピュリズムがエリート支配から人民を解放する原動力となったという事例もあります。こうした流れを踏まえて分析することで、ポピュリズムが持つさまざまな機能を明らかにすることができるのではないかと思ったのです。

 

荻上 そもそも、ポピュリズムとは何を指す言葉なのでしょうか。

 

水島 さまざまな解釈がありますが、やはり本質にあるのは、反エリート、反既成政治、反既得権益だと考えます。近年のヨーロッパやアメリカ、日本では「日本維新の会」がそれに相当しますね。メディアでは、利益をばらまいて人気取り政治をする人を「ポピュリスト」と呼ぶ場合も多いのですが、近年の英国のEU離脱やトランプ当選などの事例を考えると、むしろ下から上への反逆、一般大衆のエリートへの反感をすくい上げて政治運動に変えていくといった側面が強いですね。

 

また、現代においては「人気取り政治=ポピュリズム」と定義してしまうと、どんな政治家もポピュリストになってしまいます。そうすると、ポピュリズムの持つ劇薬のような性質が見えなくなるんですね。

 

荻上 なるほど。すると、与党、野党の二大政党が存在する国の場合は、「既成政党には任せられておけない」という形でポピュリズム政党が誕生するケースが多いのでしょうか。

 

水島 はい。これは日本にもヨーロッパにも共通する展開なのですが、歴史的に見てみると、かつての20世紀型の政治では、左右にそれぞれ安定した政党があり、各政党を支える団体(労働組合や農業団体、中小企業団体など)がいくつも存在し、それらの団体に個人が属しているという構造がありました。つまり、個人は自らが所属する団体が支持する政党に投票していたわけです。

 

ところが、この構造は1990年代以降崩れていきます。特定の団体・政党に属さない人が増え、既成政党に対して「既得権益を守っているだけだ」という後ろ向きな見方が一般的になっていきます。そして、既成政治を批判しながら大胆な改革を求める方向性が支持されるようになるわけです。イギリスやドイツでは、かつては保革を代表する二大有力政党が政治空間を占めていたわけですが、今その基盤は相当崩れています。ポピュリズム政党の批判が市民に届きやすい状況になっています。

 

荻上 なるほど。日本では90年代以降、安定成長期から低成長期に入り、55年体制が崩れたことも相まって無党派の割合が大きくなっていきましたよね。ヨーロッパの場合はどうだったのでしょうか。

 

水島 やはり日本と同様、冷戦の終了のインパクトは大きいです。それまで対峙していた左右の政党間の対立が薄れ、大連立政権も珍しくなくなります。しかしそうなると、「既成政党はどちらも同じようなことを言っている」という批判から免れません。

 

そもそも特定の政党を支持するメリットが失われてきている、ということもあります。国によっては、かつては何らかの団体に属していることが、政党からの恩恵を被るための条件でした。しかし、経済成長が衰えてくれば、当然ながらそういった利益配分の流れからこぼれ落ちていく層が出てきます。彼らからしてみれば、既存の団体・政党はまさに旧来の利益に固執する守旧派としか見えなくなってしまうのです。

 

それに加え、個人個人のライフスタイルも変わっています。「平日は仕事をして、休暇は家族とゆっくり過ごしたい」という人が増え、何らかの団体に所属して活動する時間を取ることがなかなか難しくなってきたからです。個人のあり方が大きく変わり、それを受けて団体や政党も変化しているわけです。

 

荻上 産業形態の変化も関係するかもしれませんね。現在、日本では6割以上がサービス業という状況になっているので、既存の第一次産業、第二次産業をベースにした支持母体は相対的に影響力が弱まっている。

 

水島 はい。比較的自由に働ける第三次産業の労働者が増えるにつれ、工業労働者を基盤としてきた労働組合が持つ凝集性がかなり弱まっている側面もあるでしょう。組織や政党から個人が自由になっていく中で、ポピュリズム政党が支持を受ける余地が増えていることは否定できないと思います。

 

水島氏

水島氏

 

置き去りにされた人びと

 

荻上 現代のポピュリズム的な動きを加速させているのは、どのような要素があるのでしょうか。

 

水島 今のヨーロッパは緊縮財政の動きが広がり、また中東からの移民も増えている状況です。そうした中で、移民に仕事を奪われている、あるいは、グローバル化によって海外への工場移転が進み、無責任なグローバル・エリートによって自分たちの生活が脅かされているという意識が広がっています。いわば「置き去りにされた人びと」と呼ばれる層が生まれています。イギリスでは、この「置き去りにされた人びと」がEU離脱を問う国民投票で決め手となりました。

 

荻上 それはアメリカのトランプ現象にも通じるところがありそうですね。

 

水島 まさにそうです。「忘れられた人びと」とトランプ氏は呼んでいましたね。

 

ただ私としては、トランプ氏自身はポピュリスト的な政治家だとは思いますが、共和党そのものがポピュリスト政党になったわけではないと認識しています。トランプ氏の支持層には旧来の共和党支持者も多く含まれます。今回の選挙では、激戦州のうち特にラストベルトの衰退した工業地帯の労働者層、つまり「忘れられた人々」の投票が、決定打となり、そのためラストベルトが特に注目されたわけですが。

 

荻上 それは今までの政権に対する鬱屈であると同時に、第三極を求める期待があったわけですよね。

 

水島 そう思います。トランプ氏はいわゆる伝統的な共和党とはかなり違っていて、ある意味では「保守のアウトサイダー」ともいえます。例えるならば、小泉純一郎氏に近いとも言えるでしょう。つまり、アウトサイダーとして既成の保守政党のトップにのしあがり、ポピュリスト的なスタイルで支持を集めていく。

 

一方で橋下徹氏は、自前のポピュリズム政党を作り、既成政党に真っ向から挑戦しようとした点で、ヨーロッパのポピュリズム政党のリーダーと似ています。

 

荻上 現在の都知事である小池百合子氏や石原元都知事はどうでしょうか。

 

水島 石原氏は旧来の保守政治家の中ではやや尖った部分はあるものの、反エスタブリッシュメントとはいえない。異色の右派政治家、というあたりでしょうか。

 

逆に、小池氏のスタイルは非常にポピュリズム的です。自分が既成保守政党である自民党から、「いじめられている」「抑圧されている」ようにメディアの前で演出するところがうまい。ただ、その場しのぎで対決を演出しているようにもみえ、具体的にどういう政策を掲げて新しい政治運動を作っていくのかという面が見えてきません。

 

荻上 劇場化することが目的化しているようにも見えるということですね。トランプ氏や、他のポピュリストと呼ばれる方々にも共通するかなと思うのは、メディア批判を強烈にするということですよね。

 

水島 はい。主要メディアを批判しながら、自らTwitterやその他のメディアを活用して、「自分は直接有権者に発信しているんだ」とする姿勢は、ポピュリストの場合顕著ですね。ただ逆説的なのは、ポピュリズムの躍進にはメディアが相当貢献しているということです。

 

例えば今回のアメリカ大統領選でも、トランプ氏がメディア露出したおかげで、テレビ局は広告費換算で相当な収益を得たという計算もあります。メディアを批判しながらメディアを利用しているというのが、勝ち上がってきたポピュリストの特徴ではないかと思います。そしてメディアはポピュリストと対決しつつ、そこから利益を引き出している。一種の共犯関係とは言えないでしょうか。

 

荻上 逆にメディア側からすると、自分たちが政治家にうまく利用されていることになりますよね。しかし、だからと言って「あの政治家はポピュリストだ」という報道をしても、その政治家を支持している人にとっては「ポピュリストだから良いんだ」という形に響くこともある。メディアの認識と支持している人との認識の間には随分と溝がありそうな気がします。

 

水島 そうですね。まさに今回の大統領選で、世論調査のデータを大きく裏切る結果になりました。世論調査の際には、一般市民がメディアに対して距離をとってしまっている。でも最後にサイレントマジョリティは投票所で自らの意思を示したわけです。その「ずれ」が今回、はっきりと見えてしまったのが面白い現象かなと思います。

 

 

民主主義の劇薬

 

荻上 ポピュリズムと呼ばれる運動が最初に始まったのは、いつごろなのでしょうか。

 

水島 19世紀末のアメリカです。このころ、世界初のポピュリズム政党と言われる「人民党」が誕生しました。この動きは、その後20世紀のラテンアメリカ諸国におけるさまざまな政権、政治運動にも影響を及ぼしていきます。

 

19世紀末のアメリカでは、共和党と民主党の二大政党が確立していましたが、腐敗した金権政治が行われ、庶民の生活になかなか目が向かない状態が続いていました。そうした中で、特に農民層などの「置き去りにされた人びと」が中心となって、二大政党では反映しえない自分たちの要求を表明するため、人民党を結成します。すると、既成政党側はすぐさま人民党の要求を部分的に取り入れるようになり、人的にも取り込んでいきました。そして役割を果たした人民党は、しばらくすると解体していくことになります。

 

荻上 庶民の意見を政治に反映するという目的を果たしさえすれば、ポピュリズムの運動はあっさりと消えてしまうということなのですか。

 

水島 はい。ポピュリズム政党のジレンマといえましょう。野党である時は非常にラディカルな改革を声高に主張し、多くの人の支持を得るのですが、与党に入ったとしても、要求を全て実現することはほとんど不可能です。むしろ、既成政党が部分的にその意見を取り入れることで、ポピュリズム政党が牙を抜かれてしまうということが現実にはよく起こります。ただ、だからと言ってポピュリズム政党をどんどん政権に引き入れたら良いのかというと、それもリスクがあるのです。

 

ポピュリズム政党は概して、人民の主張をエリートを介さずに直接実現するという立場を取りますので、単独政権を握った場合には、権力が極端に集中してしまうという状況が起こりえます。純粋民主主義という側面を持つが故に、「三権分立は、エリートが人民の要求を邪魔する制度である」と解釈するのです。もちろんそれは急進的な改革を短期に実行するという意味では効果的かもしれませんが、他方で反対派に対する抑圧や権力の乱用に陥る危険性があります。

 

現代でも、例えばフィリピンのドゥテルテ大統領は多くの民衆から支持を集めているものの、超法規的な殺人を認めており、きわどい存在です。大統領を批判する者の自由が確保されているのかという疑問もあります。ポピュリズムは人民の立場から問題提起を行うと同時に、権力を握った場合に暴走するリスクもある。その意味では、「民主主義の劇薬」であると思いますね。【次ページにつづく】

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シノドス国際社会動向研究所

vol.222 特集:沖縄

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