選挙やデモのほかにも方法が!?社会を変える”ロビイング”入門

選挙、デモ、記者会見や勉強会。民主主義の世の中で社会を動かす方法は多岐に渡る。「ロビイング」もその一つだ。日本では企業は団体など、特定の力のある団体が行うものというイメージが強いが、一般市民によるロビイングも広まりつつある。そもそもロビイングとは何なのか。日本での状況、その可能性などについて、実際にロビイングに関わる方々に伺った。2017年2月1日放送TBSラジオ荻上チキ・Session22「選挙やデモのほかにも方法が!?社会を変える“ロビイング”入門!」より抄録。(構成/増田穂)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →https://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

政治家へ直接要望を伝える

 

荻上 本日は3名の方にご出演いただきます。まずは「草の根ロビイング勉強会」のメンバーとして活動されている明智カイトさんです。よろしくお願いします。

 

明智 よろしくお願いします。

 

荻上 明智さんがロビー活動を始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

 

明智 私はいわゆるLGBT当事者で、男性同性愛者です。それが原因で小さい頃から女っぽいとか気持ち悪いといじめを受けていました。そうした経験をする中で「個人の尊重」とか「いじめはいけない」とか言われる社会で、なぜLGBTに対するいじめが許容されてしまうのか、ずっと疑問だったんです。

 

19歳のときには自殺未遂をしているのですが、助かった時に、自分はこうした不条理を社会や政治の世界に訴えて行きたいと思ったんです。その中で、ロビイングという手法、つまり政治家に対して直接要望を伝えることで、意向を反映してもらうという手法があることを知り、実践するようになりました。それが私がロビイングを始めたきっかけです。

 

初めは自身のいじめや自殺未遂の経験をもとに行動していました。しかし団体を立ち上げ、LGBTのいじめ対策を行うようになってから、他のLGBT当事者の方からもいじめや自殺未遂の経験があるといった話を聞くようになりました。自分だけが苦しんでいたわけではないと知ったんです。被害を被っている人がたくさんいるのだと。そうして私個人としてではなく、LGBT全体への差別をなくしたいと、本格的にロビー活動をするようになりました。

 

荻上 最初にロビイングという手法を知ったのはどういったきっかけだったんですか。

 

明智 政治に対して何か声を上げたいと考えたとき、当時民主党の都議会で行われていた議員インターンシップに参加することにしたんです。すでに私は企業に就職していたのですが、その傍らで政治の勉強をするため民主党の政治家養成スクールにも通っていました。そうした日々を送る中で、政策決定に大きな影響力を持つ圧力団体の存在を知ったんです。民主党の場合、労働組合だったのですが、政治家が彼らの意向を聞いて政策決定をしていく姿を、間近で見てきました。その光景を見て、マイノリティの声を政治の世界で活かしていくためには、政治家に対して当事者として直接要望を伝えていく存在が必要なのだと思うようになりました。それが自分が当事者として、政治家にロビー活動するようになったきっかけです。

 

 

明智氏

明智氏

 

荻上 ロビイングの方法は誰に教えてもらったのでしょうか。

 

明智 民主党の政治家養成スクールを修了した頃に、国際連帯税のロビイングをしている人たちに出会いました。国際連帯税とは、金融取引税や航空券連帯税といった、新しい税制の枠組みを作って、その税収を国際的な貧困や感染症対策、また気候変動対策などに使用しようとする取り組みです。その団体が積極的にロビイングをしている団体でした。私自身もその理念に賛同し、活動に参加する中で、ロビイングの手法を学んでいった感じです。

 

荻上 明智さんはこれまでどのようなテーマでロビー活動を行ってきたのですか。

 

明智 お話した通り、最初は国際連帯税でした。その次が私自身が当事者であったLGBTのいじめや自殺対策、その後は子育て支援とか、休眠預金活用法案などに関わって来ました。

 

荻上 セクシャルマイノリティの自殺対策では、明智さんが行ったロビー活動の結果、実際に自殺総合対策大綱にセクシャルマイノリティに対する配慮が記載されるようになりましたね。

 

明智 そうなんです。

 

 

面会に必要なのは要望書の中身

 

荻上 具体的に、ロビイングではどのような活動をするのですか。

 

明智 例えば国に新しい法律や制度を作って欲しい時や、既存の制度を変えて欲しい時は、要望書を作成して、国会議員や官僚、あるいは議員秘書といった方々と面会し、政策提言を行います。地方自治体であれば、条例ですね。こちらも行政に対して政策提言を行っていきます。

 

荻上 政治家や官僚は相手が一般の市民でも面会してくれるんですか?

 

明智 要望書や政策提言の内容、その主張がしっかりしていれば会ってくれます。みなさん要望書の中身をしっかり精査してくれています。大事なのは肩書きではなく要望の主張です。逆に、しっかりとした団体であっても、内容がいい加減であれば議員の方々は話を聞いてはくれません。

 

荻上 明智さんが最初に面会のアポを取った要望書の内容はどういったものだったのですか。

 

明智 LGBTの自殺対策についての提言でした。政府は2012年に自殺総合対策大綱を改定しているのですが、その見直しの時には、セクシャルマイノリティは自殺対策の対象として含まれていませんでした。大綱の中に、きちんとLGBTのことも記載して欲しいと要望書を提出し、面会していただいたんです。

 

荻上 要望は個人の意見ではなく、社会問題なのだと証明する必要がありますよね。そうした証明はどのように行うのですか。

 

明智 要望書提出の際は、必ずそれが社会問題であると示すエビデンスを添付します。すでに研究者やNPOなどにより統計調査が行われている時はその統計を提出します。既存の資料がない場合は、自分たちで調査を行い、数字を出していく作業が必要になります。LGBTに関する自殺総合対策大綱への要望書では、LGBT当事者の自殺未遂の割合や、いじめや暴力を受けたことのある当事者の統計などを一緒に提出しました。

 

荻上 議員の方からの対応に違いはありましたか。

 

明智 特にLGBTの場合は好き嫌いが激しいテーマですので、議員や秘書の方により対応も大きく異なりました。時には罵倒されることもありましたね。ただ、みなさんとお話してみると、生まれて初めてLGBT当事者に会ったという人も多く、偏見や誤解をされている方も少なくなかった。なので面会を通じて、当事者たちの苦しみを理解してもらいました。実際話してみると「初めて知りました」と言われることも多かったです。議員や秘書の方が、いかに社会的なマイノリティと接触がないまま活動されているのかを実感しましたね。

 

荻上 ロビー活動は個人でされていたんですか。

 

明智 基本的には役割分担をして、団体で動いていました。私は国会議員会館で政治家や秘書の方にアポを取って会いに行く、という役割でしたが、他にも統計調査担当者やメディア向けにプレスリリースをする担当者などがいました。

 

荻上 アポ取りとなると、議員に電話とかするんですか?

 

明智 そうですね。まずは秘書の方に電話連絡をします。そうすると大体、要望書をファックスで送るよう指示されますので、資料を送ります。それを見た上で議員が会うか会わないかを決める。会ってくれるのであればそこから日程調整に入ります。

 

荻上 ファックスなんですね。メールとかではいけないんでしょうか。

 

明智 基本的にはファックスですね。手紙やメールなどの手法も試しましたが、ファックスを送って、その直後に電話連絡で目を通してもらえるよう頼む、というのが1番確実な方法でした。

 

荻上 面会を依頼して、どのくらいの確率で会ってもらえましたか。

 

明智 うちの場合は1度に40~50人に依頼をして、実際に会ってもらえたのは1割、秘書の方を入れて2割くらいです。要望書の出来栄えや内容によっても変わってくると思います。

 

荻上 ロビイングの際は、与党以外の政党の議員にも働きかけるのですか。

 

明智 はい。ロビイングの基本としては超党派になりますので、党派は関係なく依頼を出します。その際気をつけなければならないのが、順番を守ることです。大きな政党から小さな政党へ、当選回数の多い議員から少ない議員へ。議員の方々はそうした順序を気にされますので、順番に回っていきます。きちんとその順序を守らないと、それだけで話を聞いてもらえなかったりしますので注意が必要です。

 

荻上 面会した上で、超党派の議員連盟や勉強会を作ってもらって、政策実現へ向けたステップを踏んでいくということでしょうか。

 

明智 そうですね。議員立法を目指す場合は、やはり議連の中で法案のたたき台を作って議会にあげることになりますので、超党派議連の設立が最初の目標になります。もちろん超党派といっても、そうした議連に参加しているのは政党内の一部の議員です。その方々に、法案が提出された時には他の議員にも承認してもらえるよう話をつけてもらうことが重要です。ロビイングはその大きな流れをつくる1番最初の取っ掛かりのような活動です。

 

荻上 リスナーからの質問です。

「ロビイングのためには東京に行くしかないのでしょうか。地方在住者として機会が均等でないことに不公平感を感じます」

いかがでしょうか。

 

明智 確かに国会での立法を目指す場合は東京で活動することになります。しかし地元の自治体の条例であれば、地方現地で活動することになります。また、国家議員の方は全国各地にいるので、地元の選挙区の国会議員にロビー活動していくことも可能です。メールやファックスなどで全国の国会議員に対して要望を伝えることもできますので、地方でも出来ることがないわけではありません。

 

荻上 勉強会などを設立して段階的に政策実現に向けて動いていくわけですが、テーマによってその速度に違いはあるとお感じですか。

 

明智 あると思います。LGBTの場合ですと、もともと差別や偏見がありますので、そうした点を解消するとことから始めなければなりませんでした。そもそもLGBTとはなんなのかという基本的なところから話を進め、それによってようやく私たちがいじめや自殺未遂のリスクを抱えていることを理解してもらえるようになる。そういう意味ではやはり時間のかかるテーマだったと思います。

 

荻上 メディアで大きく取り上げられるテーマの場合、議員や政党も積極的に対策を打とうとしますから、法案の可決までスピーディなこともあると思いますが、一方で社会的認知が低いテーマなどはなかなか取り上げてもらえないこともあるんですね。

 

明智 世間の後押しは重要ですね。特に私たちの場合、力もお金も、選挙で票につながるようなものももっていません。政治家の動機付けには世論の後押しが欠かせません。【次ページにつづく】

 

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