2017.06.08

選挙やデモのほかにも方法が!?社会を変える”ロビイング”入門

明智カイト×田中紀子×橋本岳×荻上チキ

政治 #荻上チキ Session-22#ロビイング#ロビー活動

選挙、デモ、記者会見や勉強会。民主主義の世の中で社会を動かす方法は多岐に渡る。「ロビイング」もその一つだ。日本では企業は団体など、特定の力のある団体が行うものというイメージが強いが、一般市民によるロビイングも広まりつつある。そもそもロビイングとは何なのか。日本での状況、その可能性などについて、実際にロビイングに関わる方々に伺った。2017年2月1日放送TBSラジオ荻上チキ Session-22「選挙やデモのほかにも方法が!?社会を変える“ロビイング”入門!」より抄録。(構成/増田穂)

■ 荻上チキ Session-22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →https://www.tbsradio.jp/ss954/

政治家へ直接要望を伝える

荻上 本日は3名の方にご出演いただきます。まずは「草の根ロビイング勉強会」のメンバーとして活動されている明智カイトさんです。よろしくお願いします。

明智 よろしくお願いします。

荻上 明智さんがロビー活動を始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

明智 私はいわゆるLGBT当事者で、男性同性愛者です。それが原因で小さい頃から女っぽいとか気持ち悪いといじめを受けていました。そうした経験をする中で「個人の尊重」とか「いじめはいけない」とか言われる社会で、なぜLGBTに対するいじめが許容されてしまうのか、ずっと疑問だったんです。

19歳のときには自殺未遂をしているのですが、助かった時に、自分はこうした不条理を社会や政治の世界に訴えて行きたいと思ったんです。その中で、ロビイングという手法、つまり政治家に対して直接要望を伝えることで、意向を反映してもらうという手法があることを知り、実践するようになりました。それが私がロビイングを始めたきっかけです。

初めは自身のいじめや自殺未遂の経験をもとに行動していました。しかし団体を立ち上げ、LGBTのいじめ対策を行うようになってから、他のLGBT当事者の方からもいじめや自殺未遂の経験があるといった話を聞くようになりました。自分だけが苦しんでいたわけではないと知ったんです。被害を被っている人がたくさんいるのだと。そうして私個人としてではなく、LGBT全体への差別をなくしたいと、本格的にロビー活動をするようになりました。

荻上 最初にロビイングという手法を知ったのはどういったきっかけだったんですか。

明智 政治に対して何か声を上げたいと考えたとき、当時民主党の都議会で行われていた議員インターンシップに参加することにしたんです。すでに私は企業に就職していたのですが、その傍らで政治の勉強をするため民主党の政治家養成スクールにも通っていました。そうした日々を送る中で、政策決定に大きな影響力を持つ圧力団体の存在を知ったんです。民主党の場合、労働組合だったのですが、政治家が彼らの意向を聞いて政策決定をしていく姿を、間近で見てきました。その光景を見て、マイノリティの声を政治の世界で活かしていくためには、政治家に対して当事者として直接要望を伝えていく存在が必要なのだと思うようになりました。それが自分が当事者として、政治家にロビー活動するようになったきっかけです。

荻上 ロビイングの方法は誰に教えてもらったのでしょうか。

明智 民主党の政治家養成スクールを修了した頃に、国際連帯税のロビイングをしている人たちに出会いました。国際連帯税とは、金融取引税や航空券連帯税といった、新しい税制の枠組みを作って、その税収を国際的な貧困や感染症対策、また気候変動対策などに使用しようとする取り組みです。その団体が積極的にロビイングをしている団体でした。私自身もその理念に賛同し、活動に参加する中で、ロビイングの手法を学んでいった感じです。

荻上 明智さんはこれまでどのようなテーマでロビー活動を行ってきたのですか。

明智 お話した通り、最初は国際連帯税でした。その次が私自身が当事者であったLGBTのいじめや自殺対策、その後は子育て支援とか、休眠預金活用法案などに関わって来ました。

荻上 セクシャルマイノリティの自殺対策では、明智さんが行ったロビー活動の結果、実際に自殺総合対策大綱にセクシャルマイノリティに対する配慮が記載されるようになりましたね。

明智 そうなんです。

面会に必要なのは要望書の中身

荻上 具体的に、ロビイングではどのような活動をするのですか。

明智 例えば国に新しい法律や制度を作って欲しい時や、既存の制度を変えて欲しい時は、要望書を作成して、国会議員や官僚、あるいは議員秘書といった方々と面会し、政策提言を行います。地方自治体であれば、条例ですね。こちらも行政に対して政策提言を行っていきます。

荻上 政治家や官僚は相手が一般の市民でも面会してくれるんですか?

明智 要望書や政策提言の内容、その主張がしっかりしていれば会ってくれます。みなさん要望書の中身をしっかり精査してくれています。大事なのは肩書きではなく要望の主張です。逆に、しっかりとした団体であっても、内容がいい加減であれば議員の方々は話を聞いてはくれません。

荻上 明智さんが最初に面会のアポを取った要望書の内容はどういったものだったのですか。

明智 LGBTの自殺対策についての提言でした。政府は2012年に自殺総合対策大綱を改定しているのですが、その見直しの時には、セクシャルマイノリティは自殺対策の対象として含まれていませんでした。大綱の中に、きちんとLGBTのことも記載して欲しいと要望書を提出し、面会していただいたんです。

荻上 要望は個人の意見ではなく、社会問題なのだと証明する必要がありますよね。そうした証明はどのように行うのですか。

明智 要望書提出の際は、必ずそれが社会問題であると示すエビデンスを添付します。すでに研究者やNPOなどにより統計調査が行われている時はその統計を提出します。既存の資料がない場合は、自分たちで調査を行い、数字を出していく作業が必要になります。LGBTに関する自殺総合対策大綱への要望書では、LGBT当事者の自殺未遂の割合や、いじめや暴力を受けたことのある当事者の統計などを一緒に提出しました。

荻上 議員の方からの対応に違いはありましたか。

明智 特にLGBTの場合は好き嫌いが激しいテーマですので、議員や秘書の方により対応も大きく異なりました。時には罵倒されることもありましたね。ただ、みなさんとお話してみると、生まれて初めてLGBT当事者に会ったという人も多く、偏見や誤解をされている方も少なくなかった。なので面会を通じて、当事者たちの苦しみを理解してもらいました。実際話してみると「初めて知りました」と言われることも多かったです。議員や秘書の方が、いかに社会的なマイノリティと接触がないまま活動されているのかを実感しましたね。

荻上 ロビー活動は個人でされていたんですか。

明智 基本的には役割分担をして、団体で動いていました。私は国会議員会館で政治家や秘書の方にアポを取って会いに行く、という役割でしたが、他にも統計調査担当者やメディア向けにプレスリリースをする担当者などがいました。

荻上 アポ取りとなると、議員に電話とかするんですか?

明智 そうですね。まずは秘書の方に電話連絡をします。そうすると大体、要望書をファックスで送るよう指示されますので、資料を送ります。それを見た上で議員が会うか会わないかを決める。会ってくれるのであればそこから日程調整に入ります。

荻上 ファックスなんですね。メールとかではいけないんでしょうか。

明智 基本的にはファックスですね。手紙やメールなどの手法も試しましたが、ファックスを送って、その直後に電話連絡で目を通してもらえるよう頼む、というのが1番確実な方法でした。

荻上 面会を依頼して、どのくらいの確率で会ってもらえましたか。

明智 うちの場合は1度に40~50人に依頼をして、実際に会ってもらえたのは1割、秘書の方を入れて2割くらいです。要望書の出来栄えや内容によっても変わってくると思います。

荻上 ロビイングの際は、与党以外の政党の議員にも働きかけるのですか。

明智 はい。ロビイングの基本としては超党派になりますので、党派は関係なく依頼を出します。その際気をつけなければならないのが、順番を守ることです。大きな政党から小さな政党へ、当選回数の多い議員から少ない議員へ。議員の方々はそうした順序を気にされますので、順番に回っていきます。きちんとその順序を守らないと、それだけで話を聞いてもらえなかったりしますので注意が必要です。

荻上 面会した上で、超党派の議員連盟や勉強会を作ってもらって、政策実現へ向けたステップを踏んでいくということでしょうか。

明智 そうですね。議員立法を目指す場合は、やはり議連の中で法案のたたき台を作って議会にあげることになりますので、超党派議連の設立が最初の目標になります。もちろん超党派といっても、そうした議連に参加しているのは政党内の一部の議員です。その方々に、法案が提出された時には他の議員にも承認してもらえるよう話をつけてもらうことが重要です。ロビイングはその大きな流れをつくる1番最初の取っ掛かりのような活動です。

荻上 リスナーからの質問です。

「ロビイングのためには東京に行くしかないのでしょうか。地方在住者として機会が均等でないことに不公平感を感じます」

いかがでしょうか。

明智 確かに国会での立法を目指す場合は東京で活動することになります。しかし地元の自治体の条例であれば、地方現地で活動することになります。また、国家議員の方は全国各地にいるので、地元の選挙区の国会議員にロビー活動していくことも可能です。メールやファックスなどで全国の国会議員に対して要望を伝えることもできますので、地方でも出来ることがないわけではありません。

荻上 勉強会などを設立して段階的に政策実現に向けて動いていくわけですが、テーマによってその速度に違いはあるとお感じですか。

明智 あると思います。LGBTの場合ですと、もともと差別や偏見がありますので、そうした点を解消するとことから始めなければなりませんでした。そもそもLGBTとはなんなのかという基本的なところから話を進め、それによってようやく私たちがいじめや自殺未遂のリスクを抱えていることを理解してもらえるようになる。そういう意味ではやはり時間のかかるテーマだったと思います。

荻上 メディアで大きく取り上げられるテーマの場合、議員や政党も積極的に対策を打とうとしますから、法案の可決までスピーディなこともあると思いますが、一方で社会的認知が低いテーマなどはなかなか取り上げてもらえないこともあるんですね。

明智 世間の後押しは重要ですね。特に私たちの場合、力もお金も、選挙で票につながるようなものももっていません。政治家の動機付けには世論の後押しが欠かせません。

関心のある人としっかりつながる

荻上 別のイシューでロビイングをされていた方にもお話を伺いたいと思います。「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんです。田中さんは超党派の議員に依存症問題に関する要望書を提出するなどの経験をお持ちです。よろしくお願いします。

田中 よろしくお願いします。

荻上 田中さんはどういったところからロビー活動を始められたんですか。

田中 私の場合はまず、落選されて政界復帰を狙っていらっしゃる先生のところにお願いに行きました。現職の議員でない方は時間にも余裕がありますし、じっくり話を聞いてくれるわけです。そこでその先生の知り合いの現職の議員の方につないでいただけないかお願いをする。現職議員の方にお会いするときは、元議員の先生にも同行していただきました。そうすると無下にはされないので、話を聞いてもらえる可能性は高くなります。

荻上 最初に落選された議員の方に打診されたのはなぜですか。

田中 第一には、時間に余裕がおありかと思ったので話をじっくり聞いてくれるのではないかと考えたからです。同時に、私たちは本当にただの主婦だったので、政治のことなんて全く知らなかったんです。なのでそもそも国会議員の方が話を聞いてくれるのかもわからなかった。だから、今や一般市民になっている、元議員の方のほうが話しやすかったんです。

荻上 最初はどのような話を持ちかけたのですか。

田中 まずはシンポジウムを開催したいとお話しました。そのシンポジウムは依存症問題が世間で取り立たされた波に乗って無事に開催できました。

荻上 波ですか。

田中 ええ。カジノ法案が国会に提出された時です。ギャンブル依存症に関する問題が注目を集め、対策法案を作ってもらう絶好のタイミングでした。シンポジウム開催に関しては以前から話をしておりましたので、そのタイミングで改めてプッシュしたところ、割とスムーズに話が進んだ感じですね。

荻上 シンポジウムには各党から議員の方がいらしたのですか。

田中 そうです。最初は話を持ちかけた元議員の先生が所属されている政党の方に話を通していただきました。全くつながりのない党に関しては、ファックスでシンポジウムの趣旨を説明して、誰かに来ていただけないか打診しました。

荻上 シンポジウム後はどのような活動をされたのですか。

田中 お礼という形で秘書や議員の方々にお会いしました。その時にこちらの話に関心を持ってくださった先生のところに、具体的に困っている内容などをお話した感じです。団体内での近況などもお伝えしていました。そうしたことを続けるうちに、その先生から国会で質問してあげるから、1番困っていることを教えてくれと言っていただいたんです。そこからその先生のアイディアで勉強会を開催したり、いろいろと進んで行きました。

荻上 まずはシンポジウム、そして議員の方とのつながりを作り、勉強会に至ったというわけですね。

田中 はい。そういったことをやっていくうちに超党派の勉強会が実現しました。勉強会には各省庁から官僚の方が参加されるので、そこで官僚の方とつながりもでき、個別の案件について具体的にお願いに行くようになりました。

もちろん勉強会も最初から議員の方がいらっしゃるとは限りません。秘書の方が代理で見えることも多々ありました。けれど集まりを続けているうちに、熱心に関わってくださる、頼りになる先生がわかってくるんです。そうした先生に質問趣意書などのお願いにあがりました。質問趣意書についても最初は何も知りませんでしたが、元官僚の方に書き方を教えていただいたり、ここでもつながりはとても重要でした。

荻上 そうして知識が浸透し、具体的な立法につながっていったのですね。

田中 ええ。こちらも先生方からの質問に答えていくうちに、一般の方々が、依存症のどんなことを御存じないのか?こちらが当たり前と思っていても、実はその小さなことが重要な論点であったりと、法律を作るうえで必要な情報などが見えていきました。

荻上 やはり議員の方にあたりながら関心をもってくれる人としっかりつながっていくことが重要なのですね。田中さん、ありがとうございました。

ロビイングを受けて知る問題もある

荻上 ロビイングを受ける立場の方からもお話を伺いたいと思います。厚生労働副大臣の橋本岳氏においでいただいております。よろしくお願いします。

橋本 よろしくお願いします。

荻上 橋本さんは実際にロビイングを受けているわけですが、依頼はどのくらい来るのでしょうか。

橋本 ロビイングにはさまざまな種類があります。明智さんのように草の根的に面会に来られる方もいらっしゃいますし、団体や後援会の集まりで政策について話をする事もあります。全てを合わせるとかなりの数がありますね。

荻上 草の根ロビイングで初めて知った問題などはありましたか。

橋本 いくつかありました。LGBTの問題はまさにそうです。他にはパーキンソン病に関するお話などもそうですね。パーキンソン病の方は薬が効いていれば動けるのですが、切れると動きが止まってしまうんです。面会中にお話を伺っていた方の薬が切れて、動けなくなってしまう様子を目の前で見て驚く、といった経験もありました。他にも医療事故調査制度の議論をしていた時は、関係者の方からの何十通ものメールを拝見して、その切実さを知るということもありました。

荻上 セクシャルマイノリティの話で、明智さんが見えたときはどのようにお感じになりましたか。

橋本 自民党内では、それまでLGBTの問題はほとんど取り上げられていませんでした。もちろん個人的に関心を抱いていた人はいましたが、党の議題として上がることはほぼゼロだったんです。そうした状況で明智さんからお話を伺って、それは確かに取り上げなければならない問題だと思いました。そうして何か力になれないかと動くようになったんです。

当時LGBTの問題に関しては党内に正式な機関もない状態でしたので、まずは内々に仲間を増やそうと動きました。また、LGBTの問題に関心を持っている人の中でも、実際どのような方がどのように悩んでいるのか、具体的には知らない状況でしたので、まずはそうしたことをちゃんと理解しようと、数人で勉強会を始めたんです。

荻上 やはり勉強会が重要なのですね。勉強会を作る上でロビー活動者が気をつけるべきことなどはありますか。

橋本 ひとつにはその問題の公益性を明確にすることです。もちろんその問題がご自身にとって切実な問題であることは、政治家が活動する動機として重要なものなのです。しかし同時にそれが単に個人の問題ではなく、社会全体の問題なのだとわかれば、みんなで議論しなければならないという意識が芽生えやすくなります。

あとは、やはり当事者の声やエビデンスがしっかりしていることが重要ですね。ロビー活動者からの話を聞いて議員が動くことになると、今度はその議員が周囲の人間を説得していかなければなりません。具体的なデータや資料があれば、そうした説得は格段にやりやすくなります。

荻上 よく、若手議員の勉強会などがありますが、やはりキャリアのある方が入っていないとなかなか事が進まないこともあるのでしょうか。

橋本 確かに若手は新しいことに関心を持ちやすく、勉強会の設立などにも積極的なことはありますね。ただ、キャリアのある方でも、この人なら話を聞いてくれそうだな、という人はいます。そうした人に声をかけて入っていただくと、「あの人がやっているなら」と、その周囲のシニアの方たちが認めてくださる。そうやって流れを作っていきます。

荻上 議連や勉強会は超党派で行うことも多いかと思いますが、超党派のメリット・デメリットなどはあるのでしょうか。

橋本 最終的に議員立法を目指すのであれば、全党が賛成してくれるのが目標になりますから、超党派で協力して進めていくことには大きな意義があります。ただ、1番最初に話を持ちかける段階で、「あの党もやっているんだからお宅も」といったアプローチをされると、あまり気乗りしないことはあります。「ぜひあなたの党にやってほしい!」くらいの言い方をされると悪い気はしません。こちらも人間ですので持ち掛けられ方ひとつで対応が変わることはあります。ロビイングをされる方は参考にしてみてください。

成功の鍵は「公益性」

荻上 リスナーからはロビイングを通じて議員と市民の癒着が進むのではないかと懸念する声もありますが、いかがでしょうか。

橋本 一般の議員の方に、政策の話をされる程度でしたら、そこまで神経質になる必要はないと思います。ただ、贈賄や収賄など法律で禁止されていることはありますし、直接の職務権限に関わることは話を持ちかけられても受け付けられないといったことはあります。そうした点には気をつけていただければと思います。

荻上 ロビイングと癒着との関連について、明智さんはどう思われますか。

明智 私の場合はLGBT当事者なので、同じ当事者の中から癒着などの批判がないように、超党派の中で各党の方にどれだけ公平に接することができるかかなり注意していました。

荻上 特定の政党を支持するイメージが強い市民団体もあると思いますが、そうした団体からの話だと聞きやすかったり、聞きにくかったりということはあるのでしょうか。

橋本 特定の政党を応援している団体だからといって話を聞かないということはありません。社会として取り組まなければならない公益性のある問題であれば、もちろん話は聞きます。やはり話の中身によりますね。

荻上 具体的にはどのようなステップを経て議員立法までたどり着くのでしょうか。

橋本 まず議員立法がゴールかというと、必ずしもそうではありません。省令の改正を目標にする場合もありますし、ロビイングのゴールはさまざまです。その問題に対する既存の枠組みがあるのであれば、その枠の中で出来ることを考えますし、全くなければ法律を作るところから検討する必要がある。そうした目標設定をするためにも、勉強会が存在するんです。

荻上 もともとある枠組みに手を加えるのと、新しく法律を作る場合では、ロビイングの難しさは変わってくるのでしょうか。

明智 そうですね。私の経験では、自殺総合対策大綱の時は、文面に「性的マイノリティ」を入れてください、というだけだったので比較的スムーズに進みました。しかし国際連帯税や休眠預金法案の場合は立法に向け議連から作らなければならなかったので、その分ハードルは高かったです。例えば休眠預金法案に関しては6年くらいかけてロビー活動をしました。

荻上 統計を取ったり海外の事例を集めたりもしたわけですよね。

明智 ええ。休眠預金法案の場合はイギリスや韓国の事例を入れたりして休眠預金白書というものを作り、国会議員や官僚の方に配るところから始めました。

荻上 こうした具体的な証拠や、海外の事例などがあると話は進めやすくなるわけですね。

橋本 「保育園落ちた」のTwitterが注目され法案が出たときは、具体的な証拠があったわけではありませんので、議員を動かすために100%エビデンスが必要とは言い切れませんが、一般論として事例や統計があることは大前提になりますね。

荻上 さまざまなロビイングを受けた経験を踏まえ、ロビー活動者にアドバイスなどありますか。

橋本 ロビイングもテーマやゴール設定によって、やり方はさまざまです。その時の政情で誰に何の話をすべきなのかといった戦略も変わってきます。世論の援護があれば勢いに乗っていく方法もあるし、そうでなければコツコツ認識を広めていく活動が必要になる。

ただ、先ほど田中さんのお話にもあったように、関心を持ってくれる人をしっかり把握して、そこから糸口をつかんでいく、というのは非常に大切だと思います。落選した議員に打診しに行くというのはいいアイディアだと思います。時間もありますし、伝手もありますからね。

荻上 ロビイング以外にも署名やデモなど、さまざまな政治活動がありますが、影響力に違いはあるのでしょうか。

橋本 私個人としては、直接面と向って話をして「自分たちはこれだけ困っている」「社会にはこうしたことが問題なんだ」と訴えられた方が響きます。とはいえデモを見て「なるほど」と思う人もいるでしょうし、それは人それぞれですね。

荻上 最近は特定の支持政党を持つ人も少なくなり、団体による活動も縮小ぎみですが、今後の市民活動についてはどのように思われますか。

橋本 政党に所属して、選挙で選んでもらう立場としては、支持政党というものは大事にして欲しいと思います。とはいえ私たちも当選したいだけで議員をしているわけではありません。多くの議員はやはりこの社会をよくしたいと思ってこの仕事をしているんです。なので、一緒に社会を良くしようといわれれば、「そうだよね」と乗ってくる議員はいるはずです。そういうところから始めて欲しいと思います。

荻上 最後に明智さん、草の根のロビイングの可能性、どうお考えですか。

明智 やはり選挙やデモだけだと、政治家とのつながりって希薄になってしまうと思うんです。もちろんデモがメディアで取り上げられることで、世論が動いて追い風になることもあります。ただ、ロビイングを通じて、直接面と向って対話し、政策や制度、法律、さらには国を動かしてきた身としては、こうした活動ももっと広まるといいと思っています。デモや署名活動と連動して、よりよい社会に向けて動いていけるといいですね。

誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術 (光文社新書)
明智カイト (著)

ギャンブル依存症(角川新書)
田中紀子(著)

プロフィール

田中紀子一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表理事

1964年生まれ。祖父、父、夫がギャンブル依存症者という三代目ギャンブラーの妻。夫と共に、ギャンブル依存症の問題から立ち直っていった経験を伝えていきたいと、カウンセラーとなり、ギャンブル依存症の問題を持つご家族からの相談に対応している。8年間弁護士事務所のパラリーガルとして、債務整理に携わった経験から、借金問題に詳しいカウンセラーと頼りにされるようになり、ギャンブル依存症者とその家族の支援に関わる。2014年2月に、「ギャンブル依存症問題を考える会」を立ち上げ、代表就任。「ギャンブル依存症問題の社会への啓発運動」と、「学校教育、企業に向けた依存症予防教育の導入」を掲げ、活動している。2015年「ギャンブル依存症対策を推進する超党派勉強会」にオブザーバーとして参加。自民党政策審議会をはじめ、各政党の勉強会や経団連、地方自治体の研修会等でも講師を務めている。著書に『祖父・父・夫がギャンブル依存症!三代目ギャン妻の物語』(高文研)、『ギャンブル依存症』(角川新書)。

この執筆者の記事

橋本岳厚生労働副大臣

衆議院議員(当選三回、岡山県第四選挙区選出)、厚生労働副大臣、自由民主党岡山県支部連合会会長、前自由民主党政務調査会外交部会長、元厚生労働大臣政務官、昭和49年2月5日生まれ。岡山県総社市出身。平成8年慶應義塾大学環境情報学部卒、平成10年同大学院・メディア研究科修了。

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明智カイトNPO法人市民アドボカシー連盟代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。中学生の時にいじめを受け、自殺未遂をした経験から「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、ホワイト企業の証しである「ホワイトマーク」を推進している安全衛生優良企業マーク推進機構の顧問などを務めている。

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荻上チキ評論家

「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『ネットいじめ』『いじめを生む教室』(以上、PHP新書)ほか、共著に『いじめの直し方』(朝日新聞出版)、『夜の経済学』(扶桑社)ほか多数。TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。同番組にて2015年ギャラクシー賞(ラジオ部門DJ賞)、2016年にギャラクシー賞(ラジオ部門大賞)を受賞。

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