世論調査をめぐる3つの「幻想」  

2010年9月14日に投開票が行われた民主党代表選は、菅直人首相が小沢一郎前幹事長を破って代表に再選される結果となった。この代表選をめぐって、マスメディアによる世論調査と、ネットでの人気投票の結果が大きく異なっていたことに、一部の注目が集まった。このことは、マスメディアではあまり報道されなかったように思う。例外のひとつは産経新聞のこの記事だ。

 

 

世論調査とネット投票のずれ

 

 

「民主党代表選、なぜ異なる結果 ネット投票と報道機関の世論調査」(2010年9月9日)

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100909/plc1009092108016-n1.htm

 

 

簡単にいえば、世論調査では当初から、菅首相との回答が多数を占める状況であるにもかかわらず、多くのネット投票では逆に小沢前幹事長が優勢だった、という話だ。根深いマスメディア不信からか、このことをネタに、世論調査の「偏向」を疑う意見がネット上で散見された。むしろネット投票の方が正しいのではないか、というわけだ。

 

あるいはそれらは、世論調査で繰り返し不利を伝えられた小沢氏に近い政治家や、その支持者によるやっかみや焦りに近いものだったかもしれない。しかし、世論調査に関して、かねてから「偏向」と批判する声があったことも事実だ。下に挙げる記事をみるまでもなく、ずっと以前から、政権の支持率が下がってくると、政権や与党、あるいはその周辺から、世論調査を含むマスメディアの報道への批判が上がるのは毎度おなじみのことになっている。

 

 

「世論調査でメディア批判=仙谷官房長官」(時事通信2010年7月5日)

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201007/2010070500647

 

 

もともと世論調査も多くのネット投票も、回答者に対して、「あなたは誰が民主党代表になってほしいか」を聞くものであって、代表選の結果自体を予測するものではない。

 

民主党代表選は、選挙とちがって国民全体ではなくその特定の一部、つまり民主党国会議員と地方議員、党員・サポーターの投票結果を、通常の選挙とはちがう所定の方式で集計して決めるものだし、政治家が自らの所属政党のトップを選ぶ際に世論以外の要素を考慮することになんらの制約もないから、世論調査等の結果を代表選での優勢、劣勢に直接結びつける必要は必ずしもないはずだ。

 

マスメディアの報道は多くの場合その点をきちんとふまえたものではあったが、ややはきちがえたような議論も、なかにはみられたように思う。

 

このような、世論調査をめぐる最近の言論をみていると、「人はしょせん見たいものしか見ないのだな」といいたくなるのだが、それはさておくと、人びとは世論調査に対して、ある種の「幻想」のようなものを抱いているように思われる。少しまじめに考えると、3つくらいあげられるのではないか。

 

 

第1の幻想 ―― 世論調査はうそっぱち

 

まずあげられるのは、世論調査がまったく信用に値しないとするような見解だ。いうまでもないが、このような考え方は、あまり妥当なものとはいえない。現在多くのマスメディアが世論調査に採用しているRDD方式は、国民全体の意見を千ないし数千程度のサンプルで効率よく把握すべく、統計学的知見に基づいて考えられたものだ。

 

たとえば朝日新聞社の「朝日RDD」についてみてみると、市外局番、市内局番に自動生成されたランダムな番号を組み合わせた電話番号から、使われていないものを除去し、それを調査対象世帯としている。

 

当然、回答者は固定電話をもつ世帯で、調査時点に在宅の人にかぎられるが、調査後に母集団の性別および年齢層の構成に応じたウェイト調整が行われる。完全なランダムサンプリングになっているというわけではないにしても、合理的なコストの範囲内でそれに近づけようとする工夫の結果ではある。

 

少なくとも、希望者が誰でも(場合によっては何度も)回答でき、サンプルバイアスを排除するしくみをもたないほとんどのネット投票と比べ、偏りははるかに少ないはずだ。

 

今回の民主党代表選において、一般国民にもっとも近い層である党員・サポーターからの得票は菅60:小沢40の比となったが、これは多くの世論調査結果とほぼ整合的なものだった。このことは、今回の世論調査が、おおむね適切に世論をとらえていたことについてのひとつの傍証となろう。

 

後記の通り、質問のしかた等で世論調査の結果をある程度左右することはできるが、仮にそうだとしても、特定の選挙について、世論調査の投票結果を望む構成比にすることはきわめて困難であろうし、ましてや実際の投票行動を世論調査結果の通りにコントロールすることなどできるわけがない。

 

さらに、今回の民主党代表選に関していえば、さまざまな政治的傾向をもつはずのマスメディア各社の世論調査結果がおおむね似通ったものとなっていることも説明できない。マスメディアが世論を思うままに操っているといった子供じみた陰謀論は、幻想以外の何ものでもない。

 

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シノドス国際社会動向研究所

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