変えるべきもの、変えられるもの 

前稿において、現在の統治不全の理由を個々の政治家ないし政党の能力不足のみに帰することはできないこと(もちろんそれを否定するものでもない)、現在の議会制度がより基礎的な問題になっていることを指摘した。では、われわれ国民が安心できるような水準の統治を実現するためにはどのような制度を構想する必要があるのだろうか。

 

 

両院権限の再配分

 

根本的な問題が強すぎる参議院の権限にあるとすれば、それを本格的に修正するためには衆参両院の権限の再配分が必要になるだろう。この際、重要なのは「再配分」であって必ずしも参議院の権限を弱めることではない。両院の多数派が異なることによるデッドロックを防ぎたいのだからどちらかの院の優越性が明確になっていれば十分である。

 

もちろん、イギリスのようにほぼあらゆる面において下院の優越が確立しており、上院には法案成立を遅らせる程度の権限しか認めないというモデルもあり得る。だがイギリスと異なりわが国では両院とも国民の直接選挙による選出という正統性を持っているので、両者に本質的な優劣関係はないと考えるべきだろう。したがってたとえば、現状の首相指名・予算・条約承認に加えて通常の法案についても衆院の優越をさらに明確にするかわり、逆に国会同意人事と決算については参院の優越を認めるというような選択肢を考えてもよい(もちろん前提として決算に実質的な意義を持たせるべきだ、とは言われるかもしれないが)。

 

だがこの案の最大の問題点は、憲法改正を必要とすることである。実現するとしても手間と時間がかなり必要になるし、憲法を改正するということ自体に(なぜか)抵抗感のある人びとがいることも考慮しなくてはならない。

 

 

選挙制度改革

 

憲法に手をつけないことを前提にした場合、必要な改革の中身は政治の目指すべき方向性としてどのようなものを考えるかによって異なってくる。

 

小泉政権のように、たとえ社会のある程度の部分が強く反対しているとしても統治者の強いリーダーシップにもとづく政策実現を一定期間は許容する方がよいと考えるなら、現在の二大政党制の方向を強化すべきだということになろう。具体的には、衆議院を完全小選挙区制に改め、政権に就く党が2/3を超える議席を得るのがむしろ常態であるようにする必要がある。もちろんその代償ないし暴走へのストッパーとして参議院を完全比例代表制にするなどの改革も考えられるが、「強すぎる参議院」の問題を残さないよう、両院協議会制度の改革などと一体に構想する必要がある。

 

一方、できるだけ社会の広汎な層が合意できるような政策を実現する方が(妥協を強いられる結果として多くの人が少しずつ不満を抱える結果にはなるとしても)望ましいと考えるなら、多様な有権者を代表できる議員を議会へと送り込み、その場での熟議を通じた合意形成を促進する必要がある(この場合、二院制を維持すべき理由がさらに弱まることについては注意しておくべきだが)。具体的には比例代表制を基礎にし、当選者選びの順位づけを政党に委ねきることに不満を覚えるなら小選挙区比例代表併用制などの採用を検討すべきだということになろう。

 

だが重要なのは、《代表者を集めて議論させれば必ず合意が得られるとはかぎらない》という点にある。比例代表制に立脚したコンセンサス型政治の典型と捉えられてきたベルギーにおいて、南北地域対立が深刻化した結果として総選挙後の組閣すらできない内閣不在状態が一年以上つづいていることに注意しなくてはならない(世界新記録を更新中とのこと)。合意へのインセンティブ、あるいは合意形成に協力しないことへのペナルティを制度化しておかないかぎりコンセンサス重視の政治にもデッドロックに陥る可能性はあるし、むしろその場合に状況を打破する方法を欠いていることは問題を深刻化させかねないのだ。

 

 

 

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