原発に責任、持てますか? トップをめぐる「政治」と「科学」

大地震が起きてから、はや50日がすぎ去った。被災地の惨状が伝えられる一方で、急速に日常を取り戻しはじめた地域もある。「被災」と「日常」の並存というこのギャップに、違和感をもって暮らしている人々も、多いのではないだろうか。

 

いま改めて、原発事故について考えてみる。いったい、原発事故は、防ぐことができたのだろうか、と。原発事故は、防げたかもしれない。だが、ドイツの社会学者、マックス・ウェーバーに即して考えてみると、原発の運営は、そもそも社会システム上、根本的な困難を抱えているようにもみえてくる。

 

 

ベントをめぐる政府の対応

 

原発事故が生じるまでの政府の対応について、まず振り返ってみよう。

 

「3.11」大地震が起きた翌朝、菅首相は、陸自ヘリで官邸屋上を飛び立った。ヘリには、内閣府にある原子力安全委員会の委員長、班目(まだらめ)春樹氏も同行していた。福島の原発はどうなっているのか。それが焦眉の問題だった。

 

 

「総理、原発は大丈夫なんです。構造上爆発しません」。

 

 

斑目氏は機内で、そのように首相に伝えたという。ところが第一原発1号機の原子炉建屋は、同日の午後3時半すぎに、水素爆発で吹き飛んでしまった。

 

いったい斑目氏は、この爆発の可能性を予測できなかったのだろうか。斑目氏は、原発の安全性をチェックする機関の最高責任者である。事件後の取材で、氏は「自分の不明を恥じる」と述べたうえで、事故が起きたときに、どう対応できるのかについては、「その備えが足りなかった」と告白している。

 

福島第1原発:東電、ベント着手遅れ 首相「おれが話す」『毎日新聞』ウェッブ版 を参照。

 

事故が起きてしまえば、手をつけられないほどの大惨事となる。パンドラの箱は開かれ、原発は御しがたいデーモンと化す。原発とは、それほどまでに恐ろしい装置であることが露呈した。いったいこの不気味なマシーンに、誰が最終的な責任をもちうるというのだろうか?

 

 

責任はどこにあるのか

 

一方で、経済産業省の原子力安全・保安院(以下、「保安院」)もまた、大地震が起きた当初、「原子炉は現状では大丈夫です」と官邸に報告していたという。保安院はこのとき、東京電力による現状認識を追認していた。

 

しかし、原子炉はいずれ、高圧に耐えられなくなるかもしれない。官邸は、12日の午前1時30分、海江田万里経産相の名で、正式にベント(圧力を下げるために格納容器の弁を開放して水蒸気を逃がす作業)の指示を出した。

 

ところが東電は、すぐには応じなかった。保安院も、東電に対して、ベントを強く要求できなかった。重大事故への対応は、「事業者の自主的な措置」に任されていたためである。原発の運命は、制度上、東電の判断に託されていた。

 

では東電は、どのように意思決定をしたのだろう。当時、東電の会長は北京に滞在し、社長は関西に滞在していた。東電の対策本部にはトップが不在だった。それでも東電は、緊急の判断を迫られていた。

 

もしあのとき、東電の会長と社長が関東地方に滞在していれば、ベントの判断を的確にできたかもしれない。あるいはもし、保安院が重大事故に際して権限をもっていたとすれば、事故は防げたかもしれない。別の可能性として、首相がベントの指示を東電側に強制することができれば、事故は防げたかもしれない。いろいろな可能性を推測することができるだろう。だがそれにしても、原発を制御することはできたのか。

 

たとえば、経産省の保安院にベントの権限を与えた場合、保安院もまた、産業の利害に配慮して、ベントを遅らせたのではないだろうか。電力会社が重要な情報を隠していた場合には、保安院は、的確に判断することができないのではないだろうか。

 

首相に強力な権限を与えた場合には、首相の判断は、実際には、内閣府におかれた原子力安全委員会にしたがう可能性が高いだろう。首相には、専門知識が欠けている。すると結局、問題は、原子力安全委員会がうまく機能するかどうかにかかっているのではないか。ところが先の斑目氏の判断が示すように、この委員会は、機能しないかもしれない。委員会の能力は、情報面でも決断面でも、原発に携わる現場の人たちよりも、劣っているかもしれないのだ。

 

 

 

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