一人一票を実現するための一案 

前回の衆議院総選挙に関して各地で争われていた、いわゆる1票の格差訴訟の高裁判決が相次いで出た。16件すべての判決でいずれも選挙は違憲ないし違憲状態で行われたとするもので、とくに選挙無効まで踏み込んだ厳しい判決が初めて出たのは特筆すべきだろう。政治の怠慢に対し「司法判断の甚だしい軽視」と判決は断じ、「司法の忍耐が限界に達した」とメディアは伝えた。しかし、軽視され、忍耐の限界に達したのはむしろ、自分の1票を軽く扱われてきた有権者だ。

 

 

「衆院選訴訟、無効2・違憲12=16訴訟の判決出そろう―最高裁が統一判断へ」(時事通信 2013年3月27日)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130327-00000085-jij-soci

2012年衆院選の「1票の格差」をめぐり、全国で起こされた16件の訴訟の判決が27日、出そろった。同日判決の仙台高裁秋田支部は、選挙を違憲と判断し、無効請求は退けた。16件の内訳は「違憲・無効」が2、「違憲」12、「違憲状態」2となり、格差是正を進めなかった国会に極めて厳しい結果となった。

 

 

当然、最高裁まで争われるだろうが、上告審判決は年内にも出される見通しらしい。選挙無効と判断するかどうかは別として、厳しい判決にはなると予想されている。まさに「待ったなし」の状況・・・のはずだが、こうした動きに対して、政治家たちの反応は、正直にいって、相変わらずだ。与党が「最優先で成立させる」と合意したいわゆる小選挙区の0増5減案は、すでに上記の判決の中に「必要最小限の改定にとどめようとしたもの」と批判するものがあるほどの、その場しのぎのものだ。

 

一方、「最優先」とまではいかない対策として、比例区で議論されている定数削減では、少数政党枠なるものが持ち出されてきている。自分たちに有利なように選挙区割をすることを「ゲリマンダー」と呼ぶ、と小学校で習ったような記憶があるが、どう呼ぶかは別として、今回与党が持ちだしてきた案もまた、自分たちの不利にはならないようにという「きめ細かい」配慮に満ちあふれていて、しかもそれを隠そうともしないあたりがなんとも「微笑ましい」。

 

 

「衆院選挙制度改革、14日に自民党案 石破氏「公明党が飲めない案出せない」」(産経新聞2013年3月8日)

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130308/stt13030811470002-n1.htm

石破氏は役連後の記者会見で「公明党が飲めない案は出さないだろうと承知している」と述べ、事前に公明党と水面下で調整を図る意向も示唆した。

提案は、比例定数(現行180)を30削減し、一部議席を第2党以下に優先配分する細田氏の「私案」がベースとなる見通し。

 

 

これで1票の格差がなくなるのかというと、もちろんそんなことはない。1.998倍、だそうだ。かろうじて2倍を切る、というのは、2倍を切れば違憲とはいわれまいという計算だろうが、今回の高裁判決の中には格差2倍未満でも違憲としたものが複数ある。そもそも、近年の人口動態からみて、次回の国勢調査をベースにすればふたたび2倍を超えるだろうことは容易に予想できる。「とりあえず」の案にしてもこれを出してくるというのは、有権者をなめているといわざるをえない。

 

 

「衆院区割り審、改定案を勧告…格差1・998倍」(読売新聞2013年3月28日)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130328-00001536-yom-pol

衆院選挙区画定審議会(区割り審、会長・村松岐夫京大名誉教授)は28日、衆院小選挙区のうち、17都県42選挙区の区割り改定案をまとめ、安倍首相に勧告した。

現在の区割りでは最大で2・524倍となっている1選挙区あたりの人口格差(1票の格差)は、改定案では、1・998倍に縮小される。

 

 

「<1票の格差>0増5減「直ちに成立させたい」 安倍首相」(毎日新聞2013年3月28日)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130328-00000016-mai-pol

安倍晋三首相は28日午前の衆院予算委員会で、昨年12月の衆院選での「1票の格差」をめぐって違憲・無効判決が相次いだことを踏まえ、「こうした状況を一刻も早く解消するため、政府としても努力したい」と表明した。衆院選挙区画定審議会は同日、小選挙区を「0増5減」する区割り改定案を首相に勧告する予定。首相は「法制化して直ちに成立させたい」と述べ、公職選挙法改正案の早期成立に意欲を示した。【小山由宇】

 

 

これに対し野党は、与党案は不十分だとして、より抜本的な改革を求めて反対する意向、と報じられている。抜本改革が必要という総論はいいとしても、各論に入るととたんにいつもの党利党略が顔を出すのはやはり鼻白む思いだ。

 

 

「与党「0増5減」優先 野党「抜本改革」対案提出へ」(産経新聞2013年3月28日)

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130328/plc13032823580015-n3.htm

政府・与党は28日、衆院選挙区画定審議会(会長・村松岐夫京大名誉教授)の区割り改定案勧告を受け、「一票の格差」を2倍未満に収める小選挙区「0増5減」のための公職選挙法改正案の早期成立を目指す方針を改めて確認した。ただ野党は0増5減の先行処理に対し「不十分だ」と一斉に反発。改正案の国会審議の行方は不透明だ。

 

 

「選挙無効」で改革は進むのか

 

別に政局を予想する術など持ち合わせてはいないが、政治の世界では「とりあえず」はしばしば「これでおしまい」であり、「当分のあいだ」はたいてい「半永久的」になる。これまでのパターンからすると、「より抜本的な改革」を迫る野党とのあいだでぐだぐだの議論が展開され、業を煮やした与党が一部野党などとも組んで与党案を強行可決し、野党がさらに反発してその後の審議が空転し・・・みたいなことをやっているあいだに別の緊急課題が浮上して関心がそれていき、やがて忘れ去られて、強行可決した与党案だけが成果として残る、といった経過をたどりそうな予感がむんむんと漂っている。今回司法は「選挙無効」という新たな領域に踏み込んだわけだが、最高裁がそれを支持するかどうかはわからないし、たとえ無効で確定したとしても、何らかの方法でかいくぐる「妙案」を考えだしてくるかもしれない。

 

これは単なる与党批判ではない。与野党の立場が変われば主張がそっくり入れ替わるだけで、むしろこれは、野党も含めた国会議員全体の問題だろう。そもそも、政治家に選挙制度を決めさせること自体、まちがいなのではないか、という気になる。現行の選挙システムによって選ばれた政治家たちには、今そこにある問題を解決しようという動機があまりないのだと思う。

 

この件については、専門家の皆さんがさまざまな意見を出しておられる。これまでも、さまざまな議論がなされてきた。しかし、ときの政権や政治家たちの思惑を超えた知恵が反映されることは、少なくとも短期的には残念ながらあまりなさそうだ。もちろん、これまでそうした専門家の知見が充分に生かされてきた上での現状なのだとしたら、なおさら事態は絶望的だが。

 

いずれにせよ、少なくとも素人目には、違憲判決で喜んでいられるほど事態は明るくないように思われる。とはいえ、関心が高まっている時期でもあるので、いろいろな議論が行われるのは悪いことではないだろう。というわけで、わたしもひとつ、素人なりの提案をさせてもらいたい。現状では容れられる見込みが低いという点では、わたしの妄言と専門家の意見とのあいだに、さしたるちがいはなかろう。

 

この意見は、別にわたしが最初の提唱者ではないし独自性があるとも思わない。基本的には、ちょっと考えれば誰でも思いつくような案だが、どうせ0増5減の弥縫策の後は議論が紛糾してそのうち棚上げになるだろう(勝手に決めつけて申し訳ないが)今の方向性よりも、少なくとも「1票の格差」の是正という観点では、はるかにましではないかと個人的には思っている。

 

 

 

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