民主主義の「定着」って何だろう? 

昨年は衆議院選挙があり、今年は参議院選挙がある。政権の帰趨に直接的な影響を与えかねない国政選挙が頻繁にあるのは、日本政治の特徴のひとつである。

 

 

「日本に民主主義を定着させたい」?

 

そのためもあってか、「日本に民主主義を定着させたい」といった表現を、昨年春ごろからよく耳にするようになった。もっとも、似たような言い方は以前から存在しており、「真の民主主義の実現」や「民主主義の危機」という言葉も、戦後日本の政治をめぐる語りにおいては、決して珍しいものではない。

 

いずれも発言者の政治的立場を表明するために使われることが多い言葉で、いわゆるポジショントークなのだから気にする必要はないのかもしれない。だが、何となく引っかかりを覚える言い方であることもたしかである。

 

民主主義の「定着」や「危機」とは、いったい何を指しているのだろうか。「真の民主主義」とは何なのだろうか。

 

このことを考えるためには、そもそも「民主主義」とは何かについての定義が得られなくてはならないが、これが意外に難しい。筆者の手許にある『政治学事典』(弘文堂)には「民主主義」も「民主制」も単独の項目としては立っていない。政治を語る上での基礎概念のひとつであるにもかかわらず、必ずしも安定した定義が与えられているとはいえないのである。

 

 

民主主義、「語源派」vs「本物派」

 

ときどき与えられる説明では、古代ギリシアの「デモス(人民)」と「クラティア(権力)」を組み合わせたのが「デモクラシー」の語源であって、多数派が権力を握っている状態、ないしは多数派の意向によって政治の行方が決まることが民主主義である、とされる。

 

場合によっては、ここからさらに議論を敷衍して、だから「デモクラシー」というのは「状態」とか「権力の所在」を意味しているだけで「主義」ではない、といわれることもある。こうした立場を仮に「語源派」とでもしておこう。

 

一理ある説明だと思うが、それならば戦後日本のように頻繁すぎるほど国政選挙を行って多数派に政権を与えてきた国で、なぜ「民主主義の定着」や「真の民主主義の実現」といった言い方が生きているのだろうか。

 

ポジショントークに使われるということは、その言葉を聞いて特定の政治的立場を支持したいと思う人が多くいるということなのであろう。つまり、日本には「真の」民主主義が「定着していない」と考える人も少なくないということである。こちらは「本物派」と呼ぶことにする。

 

 

重要なのは制度のデザイン

 

筆者には、「語源派」にせよ「本物派」にせよ、民主主義による政治は単一で、究極的にはいつでもどこでも同じだ、という思い込みがあるように見えてならない。現実の民主主義は実に多様である。多数派が権力を握るといっても、それがどれほど広い範囲に及ぶかはさまざまだし、政権交代が起こらないと民主主義といえないわけでもない。だから定義が難しいのである。

 

そう考えると、少なくとも現代日本が民主主義かどうかを論争するのは、あまり有益ではないだろう。当たり前のことではあるが、大事なのは「民主主義とは何か」とか「どれが本物の民主主義か」ではなく、多数派の意向が政治に反映されることを大前提にして「具体的にどのような仕組みを作り、それによって何を実現するか」である。仕組みすなわち制度のデザインは、決して枝葉末節の技術的な話ではない。

 

とりわけ重要なのが有権者の意思を代表させる仕組み、すなわち選挙制度である。最近では、インターネット等を介した直接民主主義の復権を構想する人もいるが、有権者の意思がつねに代表されることが最善とは限らない。

 

日本の政治が追求すべき価値は何であり、それを誰がどのように担い、誰に対して責任を負うのか、議論はそこから始められねばならない。

 

 

推薦図書

 

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豊富なデータを用いた多国間比較によって、現代世界における民主主義には多くのヴァリエーションが存在すること、しかし同時にそれは大きく多数決型とコンセンサス型に分類できることを論じた、比較政治学の名著。「語源派」と「本物派」の双方にお勧めしたい。訳文も平明で信頼できる。手前味噌で恐縮だが、同じように民主主義のヴァリエーションに注目しながら、それがなぜ生まれるか、というところに重点をおいて説明する、建林正彦・曽我謙悟・待鳥聡史『比較政治制度論 』(有斐閣)もどうぞ。

 

 

 

 

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