ロボットになぜ「弱さ」が必要なの!?――ロボットと生き物らしさをめぐって

自分ではゴミを拾えない「ゴミ箱ロボット」、「む~む~」の声にあわせぷるるんと揺れる「む~」、相手の目線を気にしながらオドオドと喋る「トーキング・アリー」。岡田美智男さんは一見役に立たないながらも、目が離せない「弱いロボット」 をつくっていると言います。本インタビューでは「ロボットになぜ弱さが必要なのか」をテーマに、人間はなぜロボットに心を感じるのかお話を伺いました。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

「弱いロボット」とは

 

――岡田さんが開発されたロボットたちを簡単に紹介していただいていいでしょうか。

 

もう16年くらい前になるんですが、はじめに作ったのがこの〈む〜〉というロボットです。目玉のような、幼児のような、というわけで、「こんにちは!」と話しかけると、幼児の喃語のような「む〜む〜」という声にあわせプルルンとした動きで応える。あるいは、積み木をかざすと、すこし考え込むようにして、「あかいろ!」と間違えて答えてしまうような。なにも役にたたないけれど、そこに居ないとなんだか寂しい、そんな存在感はどのようにして生まれるのか。このロボットでそのようなことを考えてきました。

 

 

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また〈ゴミ箱ロボット〉というのは、ゴミを拾い集めようとしても自分ではゴミを拾えない。で、子どもたちからの手助けを上手に引き出しながら、結果としてゴミを拾い集めてしまうというものです。ゴミを拾い集めるロボットを作ろうとするなら、ゴミを見つけるためのセンサーやゴミを摘み上げるためのアームをつけて実現すればいいのですが、ここではちょっと他力本願というか、人を上手に使ってしまおうということですね。手伝ってもらうと、ペコリと頭を下げる。で、手伝った方もまんざら悪い気はしない。そういうソーシャルな関わりを指向したなんです。

 

 

 

 

〈マコのて〉という、手をつないで一緒に並んで歩くためだけのロボットもあります。〈マコのて〉は、どちらがどちらの手を引くというわけではなく、子どもと一緒に歩くような感覚でただ手をつないで一緒に歩くだけのものです。人とロボットとが対峙しながらコミュニケーションするのではなく、人とロボットと並んだ関係でのコミュニケーションもおもしろいのではないか思っています。

 

 

 

ぼくたちのつくるロボットは総じて、ちょっともどかしいとか、おぼつかない、たどたどしいとか、そういう頼りないロボットが多いですね。「弱いロボット」と呼んでるんですが、どこか不完全なところがあるんだけれど、なんだかかわいい、放っておけない。そんな「弱さ」を内包しているからこそ、人との関わりとか、コミュニケーションを引き出せるのではないかと考えています。

 

その頼りなさといえば、3つのロボットたちが「ああでもない、こうでもない」と考え込むような、ちょっと頼りないカーナビなんかも開発中です。「どっちにいく?」「そろそろ、右に曲がったほうが……」「いや、もう少し先だよ」「そうそう」「ここを左にいくとケーキ屋さんがあるんだけどなぁ」「でも、先を急がなくちゃ……」などとおしゃべりする。ちょっと頼りないくらいのほうがドライバーも「こうしちゃいられない」って、いくぶんは主体的になるんじゃないかと。

 

 

「人間らしさ」って?

 

――コミュニケーションについて探るロボットを考えたとき、見た目が「人間らしい」ロボットをつくろうとするのではなく、人間とかけ離れた姿のものをつくろうとしているのが面白かったです。

 

ぼくはもともとロボットの研究者ではなく、むしろコミュニケーションの認知科学的な側面について興味を持ってきました。コミュニケーションの仕組みを探るための道具としてロボットを作ってきたわけです。ロボット技術に関してはまったくの素人と言えるかもしれません。ですから、ヒューマノイドのような立派なロボットを作る技術がなかっただけなんですね……(笑)。

 

苦肉の策として、いろいろな機能を足し算していくアプローチではなく、むしろ〈ゴミ箱ロボット〉のような機能を引き算していくようなアプローチを取るようになっていたんですね。「ゴミを拾うのが技術的に難しいのであれば、まわりの子どもたちに手伝ってもらえばいいじゃないか」というように。

 

それと「人らしさ」ということを考えるとき、その姿をはじめから「人のように」ではなく、むしろ、それからはもっとも遠い「ゴミ箱」くらいからスタートしても面白いかなと思ったんです。その姿は「人らしさ」からはほど遠いんですが、他との関わりや関係性の中から立ち現われる「人らしさ」というのもあるのではないかというわけです。

 

 

――ロボットにとって「人間らしさ」はどの程度重要なのでしょうか。岡田さんは著書の中でASIMOがはじめて登場したときドキドキしたとおっしゃってましたね。

 

そうですね。ASIMOのふるまいをみていると、思わず「なにを考えているのか」「どこに向かおうしているのか」とこちらが考えてしまうようなところがある。結局、ぼくらが人の心を読もうとしてしまうのも、同じような身体を備えているからでしょう。その対象に自分の身体を思わず重ねてしまう。それは、そんなふうに重ねることのできる対象だからです。この水の入ったコップに対して、「コイツはなにを考えているのか」ってあまり思わないですよね。

 

目の前の相手がなにを考えているのか探ろうとしたとき、自らの身体がこの場に対して感じていることを手掛かりに、相手がなにを感じているのかを探ろうとするんですね。その対象に自分の身体を重ねながら理解することがコミュニケーションにとってはベースとなっているわけです。

 

たとえば、幼児がヨタヨタと歩きはじめるとき、思わずその背中を追いかけてしまいますよね。その重力に逆らいながらバランスをとるものに対して、ぼくらは思わず、自分の身体を重ねてしまうことがある。〈ペラット〉というおぼつかないロボットは、倒立振子の原理によるんですが、そのヨタヨタした動きに対して、その様子を見入ってしまうということがある。そこにおもわず自分の身体を重ねてるんですね。

 

 

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――ASIMOに心を感じるのは、私たちと同じ体の形をしているからなのでしょうか?

 

そうですね。でも、もっと基底のところで「同型」なのではないかと。

 

ASIMOの方がコップよりも「私たちと同型な身体を備えている」ということなんですが、それは必ずしも同じ姿である必要はないのです。むしろ、〈ペラット〉のように、周囲との切り結びの様式が似ていることが大切だと思っています。

 

どういうことかというと、私たちの身体は外からみると完結しているように見えます。でも、実は周囲の環境に支えられながら自分の身体を調整しているという要素が大きいんですね。

 

たとえば、顔。自分の顔だけど、自分の内側から見えない。そういう顔が欠けた状態で人と関わるわけです。それでも不自由しないのは、自分の頭を動かす中で、その見えの変化から自分がいまどんな状態にあって、なにをしようとしているのかがわかる。

 

あるいは、ぼくがいまどんな表情で話をしているのかは、目の前の山本さん(注:インタビュアー)の表情に映し込まれた自分の表情を手掛かりにしているわけです。自分の身体を自分の内側からみると、それは閉じていない、不完結なんですね。そういう身体の備えている制約を、ぼくらの「弱いロボット」の研究では本源的な〈弱さ〉として捉えているわけなんです。

 

だから、自己完結していない、そんな〈弱さ〉を備え、周囲と上手に切り結んでいるロボットであれば、必ずしも人と同じような格好をしていなくても「同型」といえるのではないか。アンドロイドやジェミノイドロボットなどでは「実体としての同型性」ということを追求するわけですが、一方で周囲との切り結びの様式が同じである「関係としての同型性」を追求していく。それによって、人に近づけていくというアプローチもあると思うのです。

 

ぼくたちがつくる〈ゴミ箱ロボット〉は、一生懸命にゴミを拾おうとするのだけれど、自分ではなかなかゴミを拾えない。その場でヨタヨタとしながら困っているだけです。そうすると、周りの人が見かねてゴミを入れてくれる。

 

その〈弱さ〉が他の人のアシストをうまく引き出すわけですね。「人間らしさ」とは、こうして他者からの支えの中でどうにか自己完結させていくという様式からたち現れてくるのではないか。同様に、周囲との切り結びの中でどうにか自己完結ようとする姿が「生き物らしさ」を生み出しているのではないか、と思います。【次ページにつづく】

 

 

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