なぜSTAP細胞は驚くべき発見なのか――STAP細胞が映し出すもの

はやいもので、2014年最初の月はもう終わろうとしている、しかし、そのひと月だけでも、幹細胞研究やがん研究に関するニュースがいくつか報じられていた。

 

 

・小分子RNAによって悪性度の高いがんを正常な細胞に転換させる (鳥取大)

・神経幹細胞の分化制御に関わる小分子RNAを特定 (慶應・理研)

・化合物を加えてiPS細胞に似た集団を得る (京都大)

 

 

だが1月最終週になって、とんでもない報告が飛び出すことになった。それが、理化学研究所・発生再生科学総合研究センター(理研CDB)のグループリーダー、小保方晴子博士らによる「STAP細胞」の報告である。

 

 

多能性を再起動させる

 

STAPというのは「Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency」の略。日本語では刺激惹起性多能性獲得細胞、と名づけられているそうだが、ようするに、「とある細胞に刺激をあたえたら、身体を構成するあらゆる種類の細胞になる能力を身につけちゃった」、ということだ。これは、京都大・山中伸弥教授とイギリスのジョン・ガードン博士がノーベル賞を受賞したこととも大きく関係する。

 

2012年、山中教授らに与えられたノーベル賞は「体細胞のリプログラミング(初期化)による多能性獲得の発見」というのが受賞理由になっている。

 

ヒトを含む動物は、受精卵という1つの細胞から出発して、60~100兆個、体内でさまざまな役割をはたす250種類程度の「体細胞」へと分裂・分化していく。そして、いったん分化しきってしまえばそれっきりで、後戻りはできないというのが常識になっていた。それを覆すきっかけを作ったのがガードン博士であり、完全に打ち崩したのが山中教授であった。彼らの研究が高く評価されたのは、細胞のゲノムには受精卵のような性質、つまり「多能性」という能力を発揮するためのシステムは残されていること、そしてそのシステムを再起動させる方法を見出したことによる。

 

ガードン教授は卵細胞に、体細胞のコアである「核」を移植し、卵細胞が持っているリセット能力を利用した。また、山中教授はウイルスによって体細胞に遺伝子を組み込み、システムを再起動させるリセットスイッチを新しく作ったのである。すなわち、もともとの体細胞の中でつくられていない部品を利用したのである。

 

 

STAP細胞は「多能」ではなく「全能」?――iPS細胞との違い

 

STAP細胞は新たに外部から何かを付け足すのでもなく、細胞自身のシステムを再起動してみせた。小保方博士らは、以前の論文で、微細なガラス管体を用いて「選別」された細胞が「多能性を持っている」ことを報告していた。ただ、博士の記者会見などによれば、それは細胞を「選別」しているのではなく、細胞にとって一過的に窮屈な環境が作られること、つまり細胞に物理的なストレスが加えられることがトリガーとなって、内在的な多能性システムが活性化、つまり「初期化」されているのではないかと考えたという。

 

細胞にストレスを与えるにはどうすればよいのか。それを検討した結果、pH5.7(オレンジジュースでpH4くらい)――体の組織としてはなんていうことのない、しかし細胞が単体で生きるには「ほぼ致死量」にあたる――という酸性条件で25分間置く、という条件へとたどり着いた。

 

その結果、生後1週目のマウスから脾臓の中にある、白血球系統に分化した細胞を酸性条件で処理し、iPS細胞などと同様の培養液で7日間培養することで、体内にある様々な能力を持った細胞ができるとことが示された。さらには脳や皮膚、骨格筋、脂肪組織、骨髄、肺、肝臓、心筋といった組織の細胞でも、同様の性質の細胞を得られた。さらに、細胞膜に穴をあけるストレプトリシンOという細胞毒素で処理をしたりすることでも、頻度の違いはあれど同様の細胞が得られているという。

 

こうして得られた細胞を詳細に解析すると、ゲノムの状態は多能性に関連するシステムのスイッチが入った状態になっていた。さらにユニークな点でいえば、STAP細胞はこれまで多能性を持つ細胞の代表例として知られていたiPS細胞やES細胞と違い、胎盤は羊膜にも変化しうることが示されている。iPS細胞やES細胞は、基本的には体をつくるどんな細胞にでもなれるが、胎児を包む羊膜や、母胎とのジョイントシステムである胎盤には変化できないがゆえに「全能」ではなく「多能」と呼ばれてきたのである。

 

ただし、STAP細胞自体は、「幹細胞」という存在とは少し異なった存在である。幹細胞とは、前述の「いろんな細胞を作り出せる能力」(分化能)だけでなく、「自分と同じ能力を持った細胞を作り出す能力」(自己複製能)を持たなければならない。iPS細胞もES細胞もこうした条件を満たしているが、STAP細胞は試験管の中では、細胞分裂をして増殖することがほとんど起きない。しかし、ACTHというホルモンを培養液に加えてやると、STAP細胞は増殖を開始し、自己複製ができることが示されたほか、面白いことに、この細胞では胎盤などの細胞を作り出す能力が失われることも示されている。

 

これとは対照的に、STAP細胞の状態でFgf4というタンパク質を培地に加えると、ACTHの場合とは逆で体の細胞を造る能力が失われ、胎盤や羊膜にしか変化できなくなったのである。こうした性質は、今後のiPS細胞研究、そしてES細胞研究に大きなフィードバックを与えてくれるだろう。

 

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