2014.08.19
氷水を被ってALS支援!――世界中で大流行の「アイスバケツチャレンジ」とは?
ザッカーバーグ、ビルゲイツ、スピルバーグ、レディガガ……いま各界の著名人が頭から氷水を被る動画をネット上にアップしている。これは筋肉が委縮し、身体が動かなくなってしまう難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の認知度を上げるためにアメリカで始まったチャリティで、名を「アイスバケツチャレンジ」という。ルールは簡単。24時間以内に氷水を被るか、100ドル(1万円)をALS支援団体に寄付すること(あるいはその両方)。そして次の挑戦者を3名指名すること(※あくまで遊びであり、強制性は一切ありません)。すでに日本にも伝播し、流行の兆しを見せつつあるこのチャリティについて、日本ALS協会理事の川口有美子さんに緊急電話インタビューを行った。(聞き手・構成/金子昂)
2週間で約400万ドルの寄付
―― いま世界中で爆発的に流行しつつあるALSの認知度を高めるための「アイスバケツチャレンジ」ですが、そもそもどういう経緯ではじまったものなんでしょうか?
もともとALS当事者で、元大学野球選手のピート・フレーツさんの発案で、7月末から始まったそうです。
それからは、爆発的に広まっていって、いまではFacebookを作ったマーク・ザッカーバーグや、ザッカーバーグに指名されたビル・ゲイツ、そしてスティーヴン・スピルバーグやレディガガなど、各界の著名人が氷水を被って動画をアップしています。アメリカ人はノリがいいですね。この異常な火の付き方。
自ら装置まで製作するビルゲイツ
The International Alliance of ALS/MND AssociationsというALS協会の国際同盟は、ALSをより多くの方に知ってもらうための広報にかなりの力を入れていました。アーチストにチャリティーコンサートを開いてもらうとか、PRビデオを映画館で流すとか工夫をして、それなりの成功をおさめてきたんです。
ただ今回はいままでにない異常な盛り上がり。しかも患者団体は何もしていないのに、一般の人が次々に参加してくれて、なんとアメリカ協会に寄せられた寄付は2週間で約400万ドルに達しているそうです。
日本でも流行の兆し
―― 日本ではどうなんでしょうか? まだあまり見かけないような……?
そうですね、アメリカみたいには流行っていません。でも協会にどんどん問い合わせが来てます[*1]。「団体で参加できるのか」とか「個人じゃないと寄付できないんですか?」とか。日本人は真面目(笑)。24時間以内に実行、さもなければ1万円を寄付する(もちろん実行と寄付両方していい)というルールがあるだけで、あとは好きなように始めてくださっていいのです。
[*1] 日本ALS協会 ALSアイスバケツチャレンジ http://www.alsjapan.org/-article-705.html
次の人を指名するとその人に迷惑をかけるんじゃないかとか、嫌われるんじゃないかとか考えたらそこでストップ。難しいこと考えないで童心に戻って(笑)。もちろん、これはただの遊びで、強制性はいっさいありません。だから氷水を被りたい人は氷水を、寄付をしたい人は寄付を、どちらもしたくない人は無視してくださっていいということだけは断っておきますね。あと、体調の優れない方や心臓の弱い方などは絶対にやらないでください。
―― 認定NPO法人フローレンスの代表・駒崎弘樹さんが氷水を被っていましたね。
はい。チャリティの内容を説明するのって難しいんですけど、やっぱり駒崎さんはお上手でしたね。
認定NPO法人フローレンス代表・駒崎弘樹さん
いつになったら自分の番が周ってくるんだって、ドキドキして待ってる人もいるんじゃ。でも、自分から始めちゃえばいいんです。もうお盆を過ぎましたし、涼しくなる前に氷水をかぶってしまいましょう。でも、何度も繰り返しますが、心臓の弱い人は止めておいてね。
―― ちなみに川口さんは……?
やったんですが、指名されてから24時間以内にはできなかったので、どこかに寄付しなくちゃいけませんね。
アイスランド協会で元アライアンス議長のグージョンが自ら車いすの上で氷水に似せた紙ふぶきを被ってる映像をFacebookにアップ。そしてトルコの患者、アルパーを指名。そしたらなんと呼吸器をつけているアルパーが頭から氷水を被ったんです。その様子がホントに楽しくって笑ってみてたら、彼、私を指名して。
普段からグージョンやアルパーと懇意にしていて、東日本大震災のときも真っ先に私に連絡をくれて、日本ALS協会に寄付してくれた二人です。二人が私にやれっていうのだから、こりゃあ、やらないわけにはいかないって、朝5時にマンションの中庭で一人で氷水かぶってiPhoneで自分撮りしました。気分が上がりましたね。子ども時分に帰ったような気持ち。私はALS患者や同窓生を指名しました。そこから、輪が広がっているところです。
せっかくやるなら楽しく
―― ニコニコ動画の「○○をやってみた」みたいに流行ったら面白いですよね。
そうですね、あとツイッターでやってくれたら嬉しいなあ。ハッシュタグ付けて。スマートフォンなら簡単に動画が取れるので、思いついたらすぐにできますし。
ただ、私もやってみてわかったんですけど、カメラに向かって、病気やチャリティの説明をするのって結構難しいんですよね。日本で流行っていない理由のひとつかもしれない。だったら、チャリティの内容を説明している記事のURLと動画を一緒にツイートしちゃえばいいと思う。
あとはね、大学のサークルとか会社とかグループで、しかも大勢でやったら楽しいんじゃないかな。アメリカの動画を見ているとナンセンスで豪快なんですけど、日本人のは妙にシュールなのや、修行みたいのもある(笑)。クリエイターはそれなりに凝った作品にしてますし、東北の温泉宿の若旦那が氷水かぶって、当館はバリアフリーですって宣伝をしてるのもあった(笑)。そういえば、iPS細胞を研究している山中伸弥さんも英語でスピーチしてから氷水を被っていました。
ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さん
国によって患者会の質も異なる
―― 先ほどアメリカにあるALS協会の国際同盟は広報活動に重点を置いているとおっしゃってしましたが、日本にあるALS支援団体とは活動の質が違うのでしょうか?
欧米の患者会はとにかく宣伝して寄付を集める。最初にお話したように、これまでも様々なチャリティを開いてお金を集めてます。
ただ、そうやって集めたお金が患者さんのQOLの向上のために使われているかというと微妙……。日本の多くの難病患者会は、政府省庁への政策提言、国会議員へのロビイング、患者さんの個別支援が主な活動で、病気の宣伝や寄付集めにほとんど時間を割けずにきました。少数のボランティアでは募金活動や宣伝にまで手が回らないんですよね……。
きちんと調べてから寄付を!
―― 日本だとどのくらい寄付があるんですか?
ふつう難病患者会では多くても年間数百万程度。理事をはじめ執行部は無料奉仕が原則です。
でも、ITが発達した今は患者会の運営自体が欧米化して宣伝広報部門に力を入れないと会員は集まらない。そのためにもファンドレイジングを第一に目指す傾向になっていくかも。
昔と違ってネットでいくらでも情報収集できる。同病の人も探せる。だから患者会の存在理由が薄まって、従来の患者会の会員はどんどん減っていて。だから、善くも悪しくもファンドレイジングは必要です。でも、寄付を集めることが目的になってしまっては本末転倒ですよね。それでは、お金集めのための病気の宣伝広報が第一義になり、個々の会員の療養支援が手薄になってしまう。
ALS国際同盟、アライアンスは自分が選んだALS支援団体に寄付をしてほしいと言っています。どの団体でも寄付はもちろん大歓迎でしょう。でも、寄付を集めたら、どういう使い方をしているか、ちゃんと公表しないといけないです。
患者会には任意団体が多いんですが、集めた寄付を患者のために還元しているか、有言実行か。よく調べてから寄付しましょう。チャリティイベントで集めたお金をさらなるイベントのために使っていく海外の患者会にはファンド専任の職員が高給で雇用されていて、お金持ちを捕まえては寄付の話をしています。個々の患者の支援は二の次になっているところもあって、節操ない感じに映ります。
スマートフォンの普及で、いま撮影した動画をすぐアップし全世界に向けて公開できるし閲覧場所もある。無料で使える。ファンドレイジングの新たな手法として発展しそうな予感がしますが、実態のない患者会が今後タケノコのように設立されるかもしれない。なので、執行部に複数の患者が参加しているか、会計を公表しているか。寄付金をどのように還元しているか。寄付する際は患者会の活動内容をよく確かめて、寄付するようにしましょう。また、もしよろしければ、私が理事を務める日本ALS協会への寄付をご検討ください。
日本ALS協会「ALSアイスバケツチャレンジ」 http://www.alsjapan.org/-article-705.html
―― ありがとうございました。これからどんな方が氷水を被るのかとても楽しみです(笑)。
スティーヴン・スピルバーグまで!
(2014年8月18日 電話にて)
サムネイル「Bill Gates ice bucket challenge」Waseem Ashraf
プロフィール
川口有美子
1995年に母がALSに罹患。1996年から実家で在宅人工呼吸療法を開始し、2003年に訪問介護事業所ケアサポートモモ設立。同年、ALS患者の橋本操とNPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会を設立。2004年立命館大学大学院先端総合学術研究科。2005年日本ALS協会理事就任。2009年ALS/MND国際同盟会議理事就任。共編著書に「在宅人工呼吸器ポケットマニュアル」(医歯薬出版)。「人工呼吸器の人間的な利用」『現代思想』2004年11月(青土社)。単著に第41回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した「逝かない身体-ALS的日常を生きる」(医学書院)。