性的マイノリティの人々が安心して医療を受けられるように

どんな人でも病院、診療所を訪れる可能性がある

 

日常生活を送っていると、健康である場合は何不自由なく活動できる。しかし、その健康な状態が破綻し病気に罹患したり、スポーツやレジャーなどで急なケガを負うと不自由な生活を強いられる。セルフケアできる場合は、自宅で療養したり手当を行って過ごすことができるかもしれない。できない場合は医療機関を訪れるだろう。

 

日本の有訴者率は人口千に対し322.2だと言われている(『国民生活の動向22年より』)。日本国民の中でこれだけ医療機関にかかる可能性がある。最近の統計では性的マイノリティの人口は約7%(『電通社2014年データより』)。当然、性的マイノリティの方が医療機関にかかる機会は多い。

 

どんな人でも病院や診療所など医療機関に訪れる可能性がある。だが……

 

 

性的マイノリティの場合、行きにくいという。なぜか?

 

a:レズビアン、ゲイのケース

腫れ物にさわるように扱われたり、もの珍しそうな視線で見てくる。

看護・介護参加が難しい上、生命の危機に直面した場合に血縁関係がないからといって代理決定などに参加することができない。

 

b:トランスジェンダーのケース

望む性別で扱われないことによる苦痛が生じる。

カミングアウトやアウティングの恐怖感がつきまとう。

 

 

GID/性同一性障害、性別違和を感じている方の相談や受診する窓口の地方格差

 

a:ジェンダークリニックがない都道府県

最近、メディアやソーシャルネットワークサービスなどで、性同一性障害など性別に違和を感じて治療など進めている方が体験談など情報公開している。その方々が住んでいる地域は非公開の場合が多いが、性的マイノリティの当事者支援をしている者としてはどの医療機関で治療をしているかなど大まかな検討はつく。

 

では、性同一性障害や性別違和をカウンセリング、性別適合手術など行っている医療機関はどのくらいあるのか。

 

精神科領域は約50カ所、外科領域は約10カ所。その多くは大都市圏中心であり、カウンセリングを行う精神領域の医療機関がない県もある。具体的には青森県などである。それらの県民に性別に関するカウンセリングを受けたい当事者がいないわけではない。こういった状況で、地方の格差が生じている。

 

現在、GID/性同一性障害学会では認定医制度を進めている。当事者に寄り添える医師が増え、医療という技術が社会に有益に還元されることを願う。

 

b:ホルモン療法の違法行為

性同一性障害の医療のなかでホルモン療法がある。特殊な薬剤を使用するため、扱う医療機関が限られてしまう。また、ホルモン療法を行い患者の健康管理をできる医療機関(医師)も多くはないのが現状である。

 

中には、自己輸入をしている方もいる。数が限られていたり、不便な状況があるからこそ、そこにつけ込んで「安易に」「利便性のみ」「リスク管理不足」の情報が流れ違法な怪しいものに飛びついてしまう。これは『自己責任である』と言ってしまえば解決するという問題ではない。

 

そうしてまでやらざるを得ない状況もあるかと思うからだ。個人的に、傷つきボロボロになった仲間が増えたり、違法な営業を行っている者が富を増やしている状況は納得がいかない。ボーダーラインギリギリのところでイベントなどで広報したり当事者が斡旋していることもあるのは危機感を感じる。やはり、医療従事者が現状を知ることが大切だ。そして、改善するための声をあげ働きかけていかなければ、患者である当事者の健康は守れないと考える。

 

こうした状況を改善するために、わたしたちは「にじいろナースネット」を立ち上げた。

 

 

にじいろナースネットが目指すもの

 

医療や看護を絡めながら、性的マイノリティに関する正しい知識と対応できる技術を広め、ケガや疾患で苦しい中でも「ありのままの姿」や「自分らしいカタチ」で治療を共に進めることができるようにハード面やソフト面を整えていく。

 

日本の都道府県全部にメンバーを配置し、何か困ったことがあれば医療機関から相談を受けて対応できる状態を作っていきたい。また、都道府県の特色やおかれている医療状況も様々であることから、その地域に住むネットワークメンバーだからこそ地域性を活かしつつ対応できるというメリットを利用し活動していきたい。メンバー同士、つながりをもちチームワークで助け合える環境を目指している。

 

 

看護師という役割のなかでできること

 

看護師は患者や家族を医師など医療へつなぐ中心であり、病院などの施設内においても様々な職種の方と接する機会が多い職業である。概ね、病院内の職員数で言うと全体の60%くらいをしめているのではないか。

 

だからこそ、実際に当事者である患者の声を聞く事ができ、看護師が中心となって当事者のケアを支え他職種に指導できると考える。看護師が性的マイノリティに関する知識や対応できるスキルを持つことによって、患者や家族(パートナー)も安心して治療や療養生活を送ることができる。そのスキルを共通認識として他職種にも広げることで、一貫した対応をスムーズに行うことが必要とされる。

 

 

当事者である看護師だからわかること

 

自分自身も性別に違和を感じ、望む性別で看護師として勤務している。性的マイノリティである患者とも接し看護をしてきた。もちろん、患者側として医療機関にかかったこともある。不安に思うことは千差万別で十人十色であるが、ある程度は想像できる。

 

「かゆいところに手が届く」ように「こういう時はこうした方がいいのではないか」や「こういったことに不安を感じているのではないか」など具体的に考え、確認する頃合いと環境を整えて接することができている。

 

対応スキルはすぐにできるものとそうでないものがある。やはり、経験していくしかない。経験し対応した事柄を振り返りを重ねていくことが次へつながるのではないか。その経験がこのネットワークに活かされ、メンバーや研修を受けていただいた医療従事者へ伝承できればと考える。【次ページにつづく】

 

 

 

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