2016.06.21

女子大学生刺傷事件から考える、ストーカーの疾患性と対策

小早川明子×荻上チキ

社会 #荻上チキ Session-22#冨田真由#ストーカー

音楽活動をしていた大学生の冨田真由さんが東京都小金井市のライブ会場付近で刺され重体となった事件。警察はなぜ、被害者を守ることができなかったのか。加害者に対する心理療法・カウンセリングを行うNPO法人「ヒューマニティ」理事長・小早川明子氏を解説に招き、具体的な事例とともにストーカーの疾患性と対策について改めて考える。2016年05月24日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「女子大学生が襲われた事件~ストーカー被害とメディア問題」より抄録。(構成/大谷佳名)

■ 荻上チキ・Session22とは
TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

典型的なストーキング

荻上 今日のゲストをご紹介いたします。『ストーカーは何を考えているか』(新潮社)などの著書がある、NPO法人「ヒューマニティ」理事長の小早川明子さんです。よろしくお願いします。

小早川 よろしくお願いします。

荻上 「ヒューマニティ」では、ストーキングの加害者と向き合ってカウンセリングを行っているということですが、普段はどういった活動をされているのですか?

小早川 まずはストーキングの被害者の相談に乗り、カウンセラーが中心となって解決まで付き添っていきます。その過程においては、加害者と会うこともありますし、弁護士を紹介したり、警察に同行することもあります。ストーカー被害を本当の意味で終わらせるという気持ちで取り組んでおります。

荻上 どういった相談が多いのでしょうか。

小早川 一番多いのは、交際していた相手が別れ話に納得せず付きまとってくるというケースです。これは男女間の場合で、全体の6割くらいを占めています。現在の法律では、男女間以外はなかなかストーカー規制の対象になりにくいのですが、実際は親子間、友人間、上司部下、ご近所など、さまざまな被害が起きています。

荻上 ストーカー被害そのものが増加傾向にある、あるいは相談件数が増えているなどはお感じになりますか?

小早川 16年間この活動を続けておりますが、相談は増えもしませんし、減りもしません。ただ世間的には、被害そのものは圧倒的に増えていると思います。実際に、ストーカー被害の認知件数も増加しています。

荻上 それは、ストーカーが社会的に問題視されるようになり、被害者が声を上げやすくなってきたということでしょうか。

小早川 それもあると思いますが、やはりここ数年でネットの情報が増え、SNSなどの通信手段も増えて、ストーキングが簡単に出来るようになったことが考えられます。Twitterやブログへの書き込みも含めてSNSにおける被害が非常に増えています。今はメールよりもLINEを使った被害が多いです。

荻上 今回の事件ではTwitterを使った執拗な粘着があったということですが、報道のされ方についてはどのようにお感じになっていますか。

小早川 たまたまメールアドレスを知らないからTwitterに書き込んでいただけで、もし知っていればメールをたくさん出したでしょうし、電話番号を知っていれば電話をかけていたはずです。しかも、彼は待ち伏せもしていますので、SNSの中の事件では決してないと思います。

荻上 実際にプレゼントを送ったり、送り返されて憤慨したということも報道されていますよね。リアルなストーキング行為にSNSも付随しているという印象でしょうか。

小早川 そうです。自分の愛情を受け取ってくれないことに対する怨恨ですよね。典型的なストーキングだと思います。

やめたくてもやめられない

荻上 ストーカーの定義というのはあるのでしょうか。

小早川 どんなタイプのストーカーにも共通するのは、特定の相手に対する過剰な関心が全然とれないこと、相手の反応を欲しがる禁断症状がある、ということです。これがあればストーカーだと感じていいと思います。また、行動としては許可なく接近してくる(無許可接近)ことが挙げられます。

荻上 恋愛感情の有無は関係ないのでしょうか。

小早川 私は恋愛感情は性的関心であり、性的関心は接近欲求(ストーキング)の元であると考えますが、過関心と接近欲求は性的関心だけではなく隣人に対する嫉妬や家族に対する支配欲などからも起きるので、すべてではないと思っています。法律で恋愛感情縛りがあるのは日本だけです。「恋愛感情その他の好意の感情またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で」と規定されており、それ以外の動機によるストーキングは処罰対象になっていません。

荻上 執拗なつきまとい行為ということであれば、恋愛関係以外においても、親子関係や仕事の関係、あるいはネット上で人種差別などと結びついて粘着してくる人もいたり、幅広く多くの方が被害にあっていますよね。

小早川 はい。ヘイトスピーチもネットの差別的な書き込みもストーカーと同様の嗜癖性が生じていると思います。やめようと思ってもやめられない状況に陥ってしまうのです。

単なるクレーマーの場合は、異議申し立てをしてお金を返してくれて謝罪をしてくれれば、そこで問題は解決します。しかし、嗜癖性が生じるとその行為自体が止められなくなります。私はそうなったらストーカーと呼んでよいと思います。ストーカーの場合は、「なぜ俺を捨てたのか」、「なぜ返事をくれないのか」、と文句をいう。「ごめんなさい」と返事をされても、そこで終わりません。

そもそも解決したくないので、「もっと謝ってよ」「これから心のケアをしてね」などと言って、延々と続いてしまうわけです。加害者自身も辛いので、何がゴールか分からない、行動を制御できない状況に陥ってしまう。ブレーキのない車みたいなものですよね。

荻上 一つの依存性があるような印象がありますね。

小早川氏
小早川氏

「自分こそが被害者」

荻上 ストーカーの危険度の見分け方などは議論されているのでしょうか。

小早川 私は一応、見分けるようにしています。というのは、被害の程度や危険度を被害者本人も把握しておく必要があるからです。なので、相談に来られたときに一緒に検討するようにしています。どのくらいのレベルのストーカーなのか、民事訴訟できるくらいの行為なのか、あるいは警察に取り締まってもらうくらいの行為が起きているのか。客観的な行為で見分けることは意外と簡単です。

ところが、ストーカー規制法にも脅迫罪にもあたらない、行為自体としては何も危険ではないように見えるが、加害者心理としては非常に危険だというケースもあります。それを見分けることは非常に難しいです。

たとえば以前、こんな相談がありました。ある男性から告白され、それを断った。ところがその後、「告白してごめんなさい」と一年間ずっと謝り続けていたそうです。女性が警察に相談しても、謝っているんだし別に危険ではないんじゃないか、という対応なんですね。本人も「まあ優しい人だったし、危険ではないのかも」と思っていましたが、私は非常に危険だと感じました。どう見ても異常な行為ですし、非常にストレスフルになっているはずです。

実際に、もう少しで危険なことが起きかねないような状況でした。このときの対応としては、被害者を一人にしないため警備員を配置しました。すると加害者がやって来たので、そこで捕まえて話をしました。

私は、介入して相手に話をすることを活動の主軸としています。被害者が救われるためには相手は変わらなければいけません。ブレーキが搭載されなければいけないのです。それには手順があり、まずは相手の言い分を聞きます。だいたいストーカーは、自分が被害者だと思っている人が多いです。自分が捨てられた、傷つけられたと思っているので。

荻上 今回の加害者の場合もプレゼントを送ったのに反応がないとか、送り返されたことについて、いろいろな人に向けてリプライを送っていたということですが、これはまさに被害者感情ですよね。

小早川 SNSでブロックされた、もしくは着信拒否された、それで「捨てられた、切り捨てられた」と言って、自分を被害者という立場に捉えて憎悪を膨らませていくわけです。なので、「文句があるなら私が聞きますよ、あなたも苦しいのではないですか」と言うと、たくさん喋り始めます。「自分こそが被害者なんです」と。「やっていることはストーカー行為かもしれませんが、道義的には相手が悪い」とか、まあ、すごいことを言ってくるんです。それをずっと聞いていって、一つ一つ言い分を潰していきます。そうすると、最終的に2、3カ月もすると、「僕の言っていることは通らないんだな」と、そこでやめる人もいます。

ところが、それでもやめられない人も中にはいるのです。それをどうするかという問題もありますが、カウンセリングの主軸としては、まずは加害者の考え方を修正していくために事実を確認する。「本当に彼女があなたを見下しているのか」など、加害者がこだわる事柄を、一つ一つ、一緒に検討していきます。そしてときには、事実確認のために被害者にも協力してもらい、「加害者はこう言っているけど、どういう意味なの?」と確かめることもあります。

被害者に多いのは、恨まれるのを恐れて別れ話のときにはっきりと「NO」と言っていないことです。だから、「やり直すつもりなのに、なんで話を聞いてくれないの」「もう一回くらい会ってくれてもいいでしょ」と言ってつきまとってくる。被害者の気持ちを分かっていない人が多いです。

まだやり直せるとか、少なくとも同情はされているはずだと信じ込んでいるので、そこで私が代わりに被害者の気持ちを聞きに行く。「嫌いって言っていますよ」と伝えると、「本当ですか!」といって怒ったり泣いたりするわけですが、事実をまず一旦受け止めることも大事なのです。

荻上 第三者が介入することは、それくらいの出来事なんだというメッセージを伝える効果もあると思います。他方で、間に入ることによって「お前が嘘をついている、会えば分かりあえるはずだ」というように食い下がってくる人もいませんか?

小早川 意外といません。私のキャラクターというのもあるかもしれませんが。事細かい事実を踏まえてお話しするので、私が操作しているとは思われないです。

荻上 なるほど。一方で、2、3カ月経っても解決しないケースも中にはあるわけですよね。

小早川 はい。それは、さきほど言った依存性という問題も関わってきます。つまり、「彼女が悪いのではなくて自分が非常識だった」、「もう離れなくてはいけないことも分かった」、「別れとは一方的でも仕方がないということも、相手が自分を嫌いになる権利があることも分かった」、「でも、自分はあの人がいないと生きていけない、死んでも彼女のそばにいたい」そんなことを言い始める人も中にはいます。

実はそこがチャンスなんです。「離れられないのは彼女のせいではないと分かった。それなら、あなたが自分の問題として彼女を必要としているだけなんじゃないの? どうしてそんなに苦しいんだろうね。一人で生きていけないんだろうね」と言うと、そこで初めて自分に問題があるんだと思える。

言い分を聞かず、取り扱いもせずに、藪から棒に「あなたが弱いんじゃないか、あなたの問題じゃないか」と言っても本当の原因に辿りつけないわけです。ですから皮をむくように加害者にアプローチし、「ようやくそこに気づきましたね、セラピーを受けてみませんか」と言うと、「じゃあ受けます」ということで、今度は心理療法をやってみるんです。

荻上 そこでようやく治療の段階に移るんですね。

小早川 最初から「あなたは病気だから治療しなさい」と言っても、「はい、分かりました」とはいかないわけです。どのように治療につなげるのか、カウンセリングやセラピーにつなげるのか、という繋げ方の問題は、ストーカーに治療法はあるのかという問題と双璧のテーマです。

ブレーキを補う

荻上 治療に関して難しそうだなと感じるのは、今おっしゃったように皮を剥いていった結果、相手に依存していることが分かったというケースと、あるいは妄想も含めた疾病と噛み合わさって、一つの症状としてストーキング行為に出ているケースもあると思います。そのあたりはどのように治療されますか。

小早川 まず、疾病があるなら疾病の治療をします。別に疾病がなくても、ストーカー特有の「行動制御ができない」という疾病、精神医学の世界ではまだ疾病として見られていませんが、それがまさにストーカーという疾患性の核であると考えています。従来の精神治療で対処しなくてはいけないものは、皮を剥いでいくときに一番上のところにありますので、まず、その症状を取り除きます。統合失調症があれば統合失調症の治療を受けてもらう。それですっかりストーキングをやめたという方もいらっしゃいます。

一方で、自閉症スペクトラムなど、思い込みが強くなるという形で症状が出るような方、あるいはコミュニケーション障害、妄想性障害による関係妄想があった場合など、なかなか治療自体が難しい場合もあります。それはもちろん、ストーカー問題だけに現れるのではなく、いろいろな問題として現れてくるものです。ただ、ストーカーという疾患性とは何かというと、私は「やめようがない」ということに行き着くと思います。

セラピーをしてもまだやめることができない人はいます。私もずっと、治療法はないんだ、恨みを消す薬はないのだと諦めていました。ただ、あるとき「条件反射制御法」という治療法の開発者から声をかけていただいて、以来、10名ほどが治療を受け、1人を除いては、本当に相手に対する関心が消去されたくらいに軽減しました。これに関しては良かったなと希望を感じました。

そもそも、治療と心理療法・セラピーの違いはなんなのかというと、心理療法やカウンセリングの目的は、人間とは不完全なものだと理解すること、そして不完全な相手も自分も許せるようになる、その心境に立つことを目指しています。それは医者でなくても、心理に詳しい者であればできることです。一方で、治療に期待しているものは私たちではできないことです。人間には不足がある、それを許せるようになる成長や成熟のテーマではなく、不足があるところを補ってくださいということなのです。

何を補わなくてはいけないかというと、「ブレーキがない」というところを補ってくださいと。ブレーキさえできれば、もう一度心理療法に戻したときに彼は成長もできます。そういう連携が、医者とカウンセラーであるべきだと私は思っています。

警察はなぜ事件を防げなかったのか

荻上 ストーカー事件では警察が早く介入して逮捕すべきだとか注意すべきだという議論になりがちですが、一方で、加害性を自覚してもらった上で更生や治療に繋げていくことも重要ですよね。小早川さんのケースでも、真っ先に警察にいくわけでは必ずしもないわけですか。

小早川 はい。処罰だけで解決できるなら警察に捕まえて貰えばすむ話ですが、刑務所から出てきても「まだ殺したい」と言っている人はいるわけです。そうした方々の再犯をどう防ぐかという問題は非常に大事です。犯罪性を取り締まることと、疾患性を治すという二つの柱がどうしても問われてきます。

荻上 今回の事件では、被害者の富田さんの母親が最初に岩崎容疑者の自宅を管轄する京都府の警察署に相談したところ、警視庁に説明するように言われたと報道されています。その後、警視庁・武蔵野署を訪れて岩崎容疑者の名前を伝えた上で「ブログやツイッターへの執拗な書き込みを辞めさせて」と相談していたということでした。ある意味、たらい回しのようなことが起きているわけですが、この対応についてはどのようにお感じになりますか。

小早川 加害者が京都にいるので京都で受けてもおかしくない案件ではないかと私は思います。加害者がどこに住んでいるのかということも被害者が把握しているわけですよね。違法行為が起きているかは別にしても、そこで加害者に話を聞いたり、もう少し深い対応をしても良かったはずです。

荻上 その後、継続的に対応するということで、110番登録(110番があったときには対応するように登録すること)はしていた。けれども、警備をしていたわけでもなく、緊急性が高いと判断していなかったために本部の部署には情報が届けられていなかった。このあたりについてはいかがでしょうか。

小早川 たしかにTwitterなどで「死にたい」とか「犯罪します」という内容の書き込みをされるという案件は山ほどあるので、もし見ていたとしても緊急だから人員を配備しようという判断になるかというと難しかったかもしれません。

しかし、少なくとも「女性一人でコンサート会場に行っても大丈夫」というような雰囲気で返したとしたら、それは問題ではないかなと思います。待ち伏せもあったわけですから、これはストーカー事件として考えて、本部にも情報を挙げ、加害者に対して指導をし、被害者には安全配慮を行うべきだったと思います。

実は、同じような事件が2013年8月に神奈川でありました。関西地方に住む15歳の少年が、Twitterで交際している女性がTwitterからいなくなってしまったので、恨みを感じて殺しに来たというケースです。このとき神奈川県警は本部と所轄が一丸となって対応し、関西地方の警察に口頭指導をするように連絡していました。

ところが、神奈川県警が少年に直接連絡をいれたところ、本人がいなくなっていた。すぐに刑事課とも連携をとり、捜査をしたところ、関東に向かっていることが分かりました。そして、県警本部の課長が被害者の自宅の前に立っていたところ、本人が刃物を持ってやって来たので逮捕したと。

このとき事件にあたった神奈川県警のチームリーダーが、「相談に対応した署員が危険ではないと判断したときが一番怖い」とおっしゃっていて、私は非常に感動しました。相談を受けた担当者は日々忙しくいろいろな案件を見ているなかで、どれが危険なのか判断できないかもしれない。

しかし、所轄の人が危険でないと判断しても、一歩引いた本部であるからこそ、やらなくてはいけないと判断できたとしたらそれは素晴らしいことです。しかも、県をまたいで連携ができ、刑事課も入ったことで事件を水際で防ぐことができた。こうした警察の成功例を生かしていくことも大事になってくると思います。

荻上 警察に相談するときに危険ではないと判断されないためには、どうすればよいのでしょうか。

小早川 遠慮しないということです。「とにかく怖い」、「身の危険を感じる」、「殺されるかもしれない」と必死で訴えることが重要です。私はまだ大丈夫ですという雰囲気だと、「そうですか」となってしまうので。また、「どうしたら良いでしょうか?」というような相談ではなく、むしろ、こうしてくださいと具体的な要望を伝えることも効果的だと思います。今回のような場合だと、「私はコンサートに出演するけど本当に怖いんです。なんとか一人でも配備してもらえませんか」とか。

荻上 それでもなかなか現場が動かない場合もあったりしますよね。自分で証拠集めをしておくことなども必要になってくるのでしょうか。

小早川 私は相談に来た方には、SNSでのやりとりを紙でプリントアウトして、警察に持っていくように言っています。それから、こういう書き込みがあるとマーカーを入れてビジュアルで訴えるような工夫をしたり、共感してもらえるような話し方、プレゼンテーションの仕方も教えています。

荻上 警察の側の意識啓発は進んでいるのでしょうか。

小早川 今年度から外部の講師を招いて警察官向けに研修をするという予算もついていますので、進んでいると思います。

荻上 研修の中身はどうなのでしょうか。弁護士の方を呼ぶのか、小早川さんのような方を呼ぶのか、ネットのプロのような人を呼ぶのかでストーカーの意味が全然変わってきますよね。

小早川 そうですね。ネットのプロを呼ぶというのはすごく良いアイデアだと思います。というのは、警察の方って年代的にもSNSに詳しくない方が多いのです。なぜかSNSの被害に対して軽視するような、それほど危機感をもたない傾向があるように感じます。

荻上 僕も以前ネットで殺害予告をされたときに、警察官の方にこういうリプライが来ているんです、とお話したら、まず「リプライ」の説明と、Twitterのシステムの説明からしなくてはいけなくて。「これはどこかで勝手に書いていることではないんですか」とか言われるのですが、いや、これはメッセージを送るという意味があって……とか。

小早川 それはよく聞きます。被害者の方がまず警察官の方にSNSについて教えて、それから相談を聞いてもらうと。

SNSを含めた法改正を

荻上 SNSが関わる事件はケースとして少ないと思われているのかもしれないですし、警察の側が対応するための訓練を受けていないというのも、まだまだ課題がありますね。そうした指導が警察で行われるようにするためには、まずは「ストーカー規制法」を最新のSNS事情をしっかりと反映した内容にするべきだと思います。この法律は2013年に改正されましたが、まだまだ他にも論点が残る中での不十分な改正となりました。そこではメールも一応、ストーカー行為の中に含まれるようにはなっていたのでしょうか。

小早川 前回の改正でメールがようやく入りました。しかし、TwitterやFacebookなどSNSはまだ含まれていません。

荻上 今はメールよりもLINEの方がメジャーですし、もう少しネット上のやりとりも含めて議論する必要があるのではないか。こうしたことは数年前からさんざん指摘されていますよね。メールについても議論が始まって十数年経ってようやく法律に入りました。SNSに関しても反対する人はいないのにもかかわらず、なぜか前に進んでいない。これはちょっと由々しき問題ですよね。規制法の改正は今後、どのように作っていけばよいでしょうか。

小早川 やはり、罰則はもう少し強化してほしいです。また、今は親告罪となっていますが、非親告罪化に向けて検討委員会でも報告をしていますので、そのように変わればなと思っています。被害者が告訴するのはなかなかハードルが高いからです。私がいつも思っているのは、警告が出るのが遅いんですね。また、警告違反をしても罰則はないわけで、二度目に禁止命令が出て、そこで違反があれば逮捕されるという流れになるので、緊急命令のような形でただちに禁止命令を出せる仕組みがあったらいいなと私は思います。

荻上 法改正をしていくことと同時に警察の内部のオペレーションをしっかりと変えていく。こうした両面の活動が必要になってくるわけですね。メディアとしても、そうした部分に特化した報道をしていくことが必要になってくると思います。

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プロフィール

小早川明子NPO法人ヒューマニティ

平成12年、ストーカー対策組織「A.K.友の会」を発足。同年、警備会社(有)ジャスティスとともに、あらゆるハラスメントに対処することを目的として「株式会社ヒューマニティ」を設立。平成15年「株式会社ヒューマニティ」を「NPOヒューマニティ」に組織変更し理事長に就任。平成25年、警察庁の「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会」委員。平成26年、内閣府の「ストーカー行為等の被害者支援実態等の調査研究事業」調査委員。著書に、『あなたがストーカーになる日』(廣済堂)、『ストーカーは何を考えているか』(新潮社) がある。

この執筆者の記事

荻上チキ評論家

「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『ネットいじめ』『いじめを生む教室』(以上、PHP新書)ほか、共著に『いじめの直し方』(朝日新聞出版)、『夜の経済学』(扶桑社)ほか多数。TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。同番組にて2015年ギャラクシー賞(ラジオ部門DJ賞)、2016年にギャラクシー賞(ラジオ部門大賞)を受賞。

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