女子大学生刺傷事件から考える、ストーカーの疾患性と対策

音楽活動をしていた大学生の冨田真由さんが東京都小金井市のライブ会場付近で刺され重体となった事件。警察はなぜ、被害者を守ることができなかったのか。加害者に対する心理療法・カウンセリングを行うNPO法人「ヒューマニティ」理事長・小早川明子氏を解説に招き、具体的な事例とともにストーカーの疾患性と対策について改めて考える。2016年05月24日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「女子大学生が襲われた事件~ストーカー被害とメディア問題」より抄録。(構成/大谷佳名)

 

■ 荻上チキ・Session22とは
TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

典型的なストーキング

 

荻上 今日のゲストをご紹介いたします。『ストーカーは何を考えているか』(新潮社)などの著書がある、NPO法人「ヒューマニティ」理事長の小早川明子さんです。よろしくお願いします。

 

小早川 よろしくお願いします。

 

荻上 「ヒューマニティ」では、ストーキングの加害者と向き合ってカウンセリングを行っているということですが、普段はどういった活動をされているのですか?

 

小早川 まずはストーキングの被害者の相談に乗り、カウンセラーが中心となって解決まで付き添っていきます。その過程においては、加害者と会うこともありますし、弁護士を紹介したり、警察に同行することもあります。ストーカー被害を本当の意味で終わらせるという気持ちで取り組んでおります。

 

荻上 どういった相談が多いのでしょうか。

 

小早川 一番多いのは、交際していた相手が別れ話に納得せず付きまとってくるというケースです。これは男女間の場合で、全体の6割くらいを占めています。現在の法律では、男女間以外はなかなかストーカー規制の対象になりにくいのですが、実際は親子間、友人間、上司部下、ご近所など、さまざまな被害が起きています。

 

荻上 ストーカー被害そのものが増加傾向にある、あるいは相談件数が増えているなどはお感じになりますか?

 

小早川 16年間この活動を続けておりますが、相談は増えもしませんし、減りもしません。ただ世間的には、被害そのものは圧倒的に増えていると思います。実際に、ストーカー被害の認知件数も増加しています。

 

荻上 それは、ストーカーが社会的に問題視されるようになり、被害者が声を上げやすくなってきたということでしょうか。

 

小早川 それもあると思いますが、やはりここ数年でネットの情報が増え、SNSなどの通信手段も増えて、ストーキングが簡単に出来るようになったことが考えられます。Twitterやブログへの書き込みも含めてSNSにおける被害が非常に増えています。今はメールよりもLINEを使った被害が多いです。

 

荻上 今回の事件ではTwitterを使った執拗な粘着があったということですが、報道のされ方についてはどのようにお感じになっていますか。

 

小早川 たまたまメールアドレスを知らないからTwitterに書き込んでいただけで、もし知っていればメールをたくさん出したでしょうし、電話番号を知っていれば電話をかけていたはずです。しかも、彼は待ち伏せもしていますので、SNSの中の事件では決してないと思います。

 

荻上 実際にプレゼントを送ったり、送り返されて憤慨したということも報道されていますよね。リアルなストーキング行為にSNSも付随しているという印象でしょうか。

 

小早川 そうです。自分の愛情を受け取ってくれないことに対する怨恨ですよね。典型的なストーキングだと思います。

 

 

やめたくてもやめられない

 

荻上 ストーカーの定義というのはあるのでしょうか。

 

小早川 どんなタイプのストーカーにも共通するのは、特定の相手に対する過剰な関心が全然とれないこと、相手の反応を欲しがる禁断症状がある、ということです。これがあればストーカーだと感じていいと思います。また、行動としては許可なく接近してくる(無許可接近)ことが挙げられます。

 

荻上 恋愛感情の有無は関係ないのでしょうか。

 

小早川 私は恋愛感情は性的関心であり、性的関心は接近欲求(ストーキング)の元であると考えますが、過関心と接近欲求は性的関心だけではなく隣人に対する嫉妬や家族に対する支配欲などからも起きるので、すべてではないと思っています。法律で恋愛感情縛りがあるのは日本だけです。「恋愛感情その他の好意の感情またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で」と規定されており、それ以外の動機によるストーキングは処罰対象になっていません。

 

荻上 執拗なつきまとい行為ということであれば、恋愛関係以外においても、親子関係や仕事の関係、あるいはネット上で人種差別などと結びついて粘着してくる人もいたり、幅広く多くの方が被害にあっていますよね。

 

小早川 はい。ヘイトスピーチもネットの差別的な書き込みもストーカーと同様の嗜癖性が生じていると思います。やめようと思ってもやめられない状況に陥ってしまうのです。

単なるクレーマーの場合は、異議申し立てをしてお金を返してくれて謝罪をしてくれれば、そこで問題は解決します。しかし、嗜癖性が生じるとその行為自体が止められなくなります。私はそうなったらストーカーと呼んでよいと思います。ストーカーの場合は、「なぜ俺を捨てたのか」、「なぜ返事をくれないのか」、と文句をいう。「ごめんなさい」と返事をされても、そこで終わりません。

 

そもそも解決したくないので、「もっと謝ってよ」「これから心のケアをしてね」などと言って、延々と続いてしまうわけです。加害者自身も辛いので、何がゴールか分からない、行動を制御できない状況に陥ってしまう。ブレーキのない車みたいなものですよね。

 

荻上 一つの依存性があるような印象がありますね。

 

 

小早川氏

小早川氏

 

 

「自分こそが被害者」

 

荻上 ストーカーの危険度の見分け方などは議論されているのでしょうか。

 

小早川 私は一応、見分けるようにしています。というのは、被害の程度や危険度を被害者本人も把握しておく必要があるからです。なので、相談に来られたときに一緒に検討するようにしています。どのくらいのレベルのストーカーなのか、民事訴訟できるくらいの行為なのか、あるいは警察に取り締まってもらうくらいの行為が起きているのか。客観的な行為で見分けることは意外と簡単です。

 

ところが、ストーカー規制法にも脅迫罪にもあたらない、行為自体としては何も危険ではないように見えるが、加害者心理としては非常に危険だというケースもあります。それを見分けることは非常に難しいです。

 

たとえば以前、こんな相談がありました。ある男性から告白され、それを断った。ところがその後、「告白してごめんなさい」と一年間ずっと謝り続けていたそうです。女性が警察に相談しても、謝っているんだし別に危険ではないんじゃないか、という対応なんですね。本人も「まあ優しい人だったし、危険ではないのかも」と思っていましたが、私は非常に危険だと感じました。どう見ても異常な行為ですし、非常にストレスフルになっているはずです。

 

実際に、もう少しで危険なことが起きかねないような状況でした。このときの対応としては、被害者を一人にしないため警備員を配置しました。すると加害者がやって来たので、そこで捕まえて話をしました。

 

私は、介入して相手に話をすることを活動の主軸としています。被害者が救われるためには相手は変わらなければいけません。ブレーキが搭載されなければいけないのです。それには手順があり、まずは相手の言い分を聞きます。だいたいストーカーは、自分が被害者だと思っている人が多いです。自分が捨てられた、傷つけられたと思っているので。

 

荻上 今回の加害者の場合もプレゼントを送ったのに反応がないとか、送り返されたことについて、いろいろな人に向けてリプライを送っていたということですが、これはまさに被害者感情ですよね。

 

小早川 SNSでブロックされた、もしくは着信拒否された、それで「捨てられた、切り捨てられた」と言って、自分を被害者という立場に捉えて憎悪を膨らませていくわけです。なので、「文句があるなら私が聞きますよ、あなたも苦しいのではないですか」と言うと、たくさん喋り始めます。「自分こそが被害者なんです」と。「やっていることはストーカー行為かもしれませんが、道義的には相手が悪い」とか、まあ、すごいことを言ってくるんです。それをずっと聞いていって、一つ一つ言い分を潰していきます。そうすると、最終的に2、3カ月もすると、「僕の言っていることは通らないんだな」と、そこでやめる人もいます。

 

ところが、それでもやめられない人も中にはいるのです。それをどうするかという問題もありますが、カウンセリングの主軸としては、まずは加害者の考え方を修正していくために事実を確認する。「本当に彼女があなたを見下しているのか」など、加害者がこだわる事柄を、一つ一つ、一緒に検討していきます。そしてときには、事実確認のために被害者にも協力してもらい、「加害者はこう言っているけど、どういう意味なの?」と確かめることもあります。

 

被害者に多いのは、恨まれるのを恐れて別れ話のときにはっきりと「NO」と言っていないことです。だから、「やり直すつもりなのに、なんで話を聞いてくれないの」「もう一回くらい会ってくれてもいいでしょ」と言ってつきまとってくる。被害者の気持ちを分かっていない人が多いです。

 

まだやり直せるとか、少なくとも同情はされているはずだと信じ込んでいるので、そこで私が代わりに被害者の気持ちを聞きに行く。「嫌いって言っていますよ」と伝えると、「本当ですか!」といって怒ったり泣いたりするわけですが、事実をまず一旦受け止めることも大事なのです。

 

荻上 第三者が介入することは、それくらいの出来事なんだというメッセージを伝える効果もあると思います。他方で、間に入ることによって「お前が嘘をついている、会えば分かりあえるはずだ」というように食い下がってくる人もいませんか?

 

小早川 意外といません。私のキャラクターというのもあるかもしれませんが。事細かい事実を踏まえてお話しするので、私が操作しているとは思われないです。

 

荻上 なるほど。一方で、2、3カ月経っても解決しないケースも中にはあるわけですよね。

 

小早川 はい。それは、さきほど言った依存性という問題も関わってきます。つまり、「彼女が悪いのではなくて自分が非常識だった」、「もう離れなくてはいけないことも分かった」、「別れとは一方的でも仕方がないということも、相手が自分を嫌いになる権利があることも分かった」、「でも、自分はあの人がいないと生きていけない、死んでも彼女のそばにいたい」そんなことを言い始める人も中にはいます。

 

実はそこがチャンスなんです。「離れられないのは彼女のせいではないと分かった。それなら、あなたが自分の問題として彼女を必要としているだけなんじゃないの? どうしてそんなに苦しいんだろうね。一人で生きていけないんだろうね」と言うと、そこで初めて自分に問題があるんだと思える。

 

言い分を聞かず、取り扱いもせずに、藪から棒に「あなたが弱いんじゃないか、あなたの問題じゃないか」と言っても本当の原因に辿りつけないわけです。ですから皮をむくように加害者にアプローチし、「ようやくそこに気づきましたね、セラピーを受けてみませんか」と言うと、「じゃあ受けます」ということで、今度は心理療法をやってみるんです。

 

荻上 そこでようやく治療の段階に移るんですね。

 

小早川 最初から「あなたは病気だから治療しなさい」と言っても、「はい、分かりました」とはいかないわけです。どのように治療につなげるのか、カウンセリングやセラピーにつなげるのか、という繋げ方の問題は、ストーカーに治療法はあるのかという問題と双璧のテーマです。【次ページにつづく】

 

 

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