サッカーをしながら、ダイバーシティについて考えてみた ――「ダイバーシティ・フットサルカップ」の壮大な挑戦

 

今回の大会は今までの大会で味わったことのないような温かさを感じました。それは、相手のチームの人たちも、ホームレス状態ではないにしろ、ひきこもりやうつ病など何らかの苦労をしてきていて、でも、それぞれががんばろうとしている姿から感じたのかもしれません。ほんと、見た目は、みんな元気で何者かなんてわからないんですけどね。

(『ダイバーシティカップ2015報告書』より野武士ちゃんぷる選手の声を抜粋)

 

2016年7月30日(土)に「ダイバーシティ・フットサルカップ2016」が開催される。ホームレス、若年無業者、ひきこもり、うつ病、養護施設、被災地の若者、LGBT、不登校、ニート、依存症など様々な背景をもった当事者15チーム300名ほどが集まるこの大会は、ホームレスサッカーチーム「野武士ジャパン」の活動がきっかけではじまった。

 

「野武士ジャパン」はこれまで、世界大会である「ホームレスワールドカップ」出場を目指して活動をしていた。そんな彼らが、なぜ「ダイバーシティカップ」を開催することになったのだろうか。今回は、ダイバーシティカップ実行委員で、出場チーム「野武士ちゃんぷる」コーチである蛭間芳樹さんにお話を伺った。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

誰もが何かのマイノリティ

 

――以前、蛭間さんには「出場条件はホームレス!――もうひとつのワールドカップ」(https://synodos.jp/newbook/9831)というインタビューで、ホームレスの人たちが出場するサッカーの世界大会についてお話を伺いました。その後、野武士ジャパンの活動はいかがですか。

 

私たち野武士ジャパンがホームレスワールドカップに出ることはないと思います。言い切ってしまう必要はありませんが、可能性は相当に低いです。いまW杯に出る準備はしていません。応援はしていますが。

 

というのも、2011年にホームレスワールドカップのパリ大会に出場しましたが、野武士ジャパンは惨敗しました……。海外チームの圧倒的な強さの中、私たちは世界ランク最下位のチームになりました。それでも、私たちコーチやスタッフは「がんばれ!」「あきらめるな!」と言い続けて出たのがパリ大会だったのです。帰国してからホームレス日韓戦を開催するなど、他国の代表と同じような事業活動や環境を創ろうと私たちも努力してきました。

 

「2015年にホームレス・アジア杯を、2020年にホームレスワールドカップを日本で開催したい」と本(注)に書きましたが、アジア杯は今年香港で開催されましたし、2020年の日本での開催も殆ど実現不可能だと思います。昨年あたりから、代表の長谷川知広さんをはじめ、チーム関係者で「これから野武士ジャパンの活動をどうしていこうか」と、ずっと悩み考えていましたね。「この場所でがんばることに意味はあるのか……」と感じたのです。

 

(注)『ホームレスワールドカップ日本代表のあきらめない力』(「第8章スポーツによる社会変革」)

 

 

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各国の代表が集う「ホームレスワールドカップ」(「野武士ジャパン」ホームページより転載http://www.nobushijapan.org/)

 

 

そんな中、現場にヒントがあったんです。

 

ある日、私たちが公園で練習していると、白髪のおっちゃん――ぼくたちはタラちゃんと呼んでいます――が、一人でボールを抱えてやってきました。チームの練習をコーチングするなか、彼は公園の隅でリフティングや壁パスの練習を一人でしていたので、スタッフとともに「一緒にやりませんか?」と声をかけました。タラちゃんは「オタクらなんのチーム?」と関西弁で答えました。「ホームレスワールドカップを目指している、一応、日本代表チームなんです」と答えると、「そう、俺もまぜてや。訳わからんけど(笑)」と入ってきた。

 

基本的に私たちはオープンなので、近所の子どもたちが練習に加わることもありました。あと驚いたのは、和歌山の中学生――私たちは彼をニックネームで「和歌山くん」と呼んでいます――が、練習のためだけに夜行バスで駆けてくれることもありました。選手のこともあるので、積極的な広報や情報発信は、あえてしていないのですが(過去、メディアに我々の真意とは異なる形で面白おかしく取り上げられたこともあって)、何らかの方法で我々の活動の情報を得て、集まってきてくれたのです。このような偶然の出会いが積み重なり、徐々に参加する人が増えていき、いつの間にか、いろんな人が来るごちゃまぜのチームになりました。

 

ですので、いまの野武士ジャパンの練習に参加しているのはホームレスの方だけではありません。生活困窮者、LGBT、うつ病などの若者や支援者、近所のおじさん、公園で遊んでいる子どもなども参加しています。

 

そうなるとますます、私たちのチームの活動目的ってなんだろう? と考えざるを得なくなってきます。今までは競技としてのサッカーを志向して練習してきました。選手自身の自立が目的のホームレスワールドカップですが、世界大会はプロも驚くレベルの競技サッカーです。ですので、当時の我々は練習メニューも試合に勝つことを念頭に置いた企画、チームづくりをしていました。しかし、いろんな人が集まる中で、体を動かしたい、話がしたい、友達を作りたい、なんとなく面白そうだからこの場にいる、というように参加者の目的も多様化しました。「ダイバーシティ」や「インクルージョン」ってこういうことなのかなぁ、と考えるようになりました。

 

であれば、ダイバーシティを掲げたコミュニティを創ってみようと、去年の7月に、ホームレスの人だけでなく、児童養護施設出身者、若年無業者、うつ病、LGBTなど様々な背景をもつ当事者によるフットサル大会「ダイバーシティカップ」を開催することになりました。【次ページにつづく】

 

 

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(「野武士ジャパン」ホームページより転載http://www.nobushijapan.org/)


 

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