都市計画道路に「見直し」が求められる理由――財政支出・住民投票・順応的管理

昨年くらいから、東京都の公金支出のあり方に関心が集まっている。新国立競技場の建設費も問題視されたし、舛添要一前都知事の出張費なども槍玉に上がった。舛添氏の問題は、政治家の倫理の問題になるが、新国立競技場に関しては、都市の環境整備のあり方を問う「都市の環境倫理」の問題領域に入るだろう。また、このように注目を集めてはいないが、都市の環境倫理の視点から注目したい問題がある。それは、自治体の道路建設にかかわる公金支出の問題である。

 

 

都市計画道路に関する小平市住民投票の顛末

 

都市の環境整備として自治体が建設する道路を、都市計画道路という。2013年5月に、小平市で行われた住民投票は、都市計画道路(小平3・2・8号線)の建設を住民参加型で見直すかどうかを問いかけたものであった。東京都で初の直接請求による住民投票は画期的な試みとして話題を集めた。しかし、住民投票条例が可決した後に、市長によって投票の成立要件(投票率が50%に満たなければ不成立)が付けられ、投票が行われたものの、結果的に投票率は50%に届かず、投票は不成立とされ、投票用紙は焼却されてその結果が永久に分からなくなってしまった。

 

このような、何とも割り切れない感じを残しながら、着々と用地買収が進み、多くの住民が転居していき、玉川上水緑道の樹木や、雑木林が伐採され、やがて小平3・2・8号線は開通することになる(詳しい経緯については國分功一郎『来るべき民主主義――小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』幻冬舎新書を参照)。

 

 

小平中央公園の雑木林。 柵の左側(東側)が伐採され、道路になる。

小平中央公園の雑木林。
柵の左側(東側)が伐採され、道路になる。

 

 

住民投票を呼び掛けた人々は何を問題にしたか

 

この住民投票は、住民の直接請求によって実施されたものである。住民投票を呼び掛けた人々(小平都市計画道路に住民の意思を反映させる会)は、(1)50年前の計画であり、住民の声が反映されていないこと、(2)近くにすでに府中街道が存在すること、(3)玉川上水の緑道と雑木林が伐採されること、(4)総工費が200億円かかること(都の予算が50%、国の補助金が50%)、(5)220世帯が立ち退きを迫られることから、計画の見直しを求めていた。

 

一般には、住民投票を呼び掛けた人々は、道路計画によって地域の環境が改変されることを問題視したと受け取られているかもしれない。もちろんそれはその通りである。しかし、彼らはそれ以外に、道路建設の必要性や、事業にかかる莫大な財政支出にも疑問を呈している。総工費200億円の多くは立ち退き料に使われているという話もある。國分氏の次の言葉は、この道路計画に対する疑念をうまく表現したものといえよう。

 

 

「たかだか一・四キロの道路に二〇〇億円も使うのだ――脇に道路がある場所に、人々と木々をどかして」(前掲書)。

 

 

あわせて、50年前の事業を現在行うことの妥当性や、事業に関する情報公開と住民参加の不備なども指摘されている。これらの点を総合して、道路建設計画の見直しが訴えられていたのである。

 

 

小平市の住宅地のようす。 道路建設のための用地買収が進んでいる。

小平市の住宅地のようす。
道路建設のための用地買収が進んでいる。

 

 

他にもある都市計画道路――「小平3・3・3号線」など

 

東京都の都市計画道路の建設計画は他にもある。例えば、小平市を通る都市計画道路は、1963年までに24本が計画決定されており、現在までにそのうちの8本が完成し、16本が一部着手・未着手の状態である。住民投票の現場となった道路予定地を多くの人に見てもらおうと「小平3・2・8現地を歩く会」を開催してきた神尾直志氏によると、より多くの問題が予想される道路は、小平3・3・3号線と呼ばれる道路であるという。

 

神尾氏は現在、「小平3・3・3予定地を歩く会」を毎月開催し、将来建設される予定の道路の影響について、多くの人々と意見交換している。この道路の予定地には800戸以上もの住宅があり、莫大な立ち退き料が発生することが予想されるという。このように、都市計画道路には、財政支出の問題がつきまとっている。【次ページにつづく】

 

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