環境エネルギー社会への想像力と実践(2)―― 自然エネルギービジネスの展開

前回は、加速する世界の自然エネルギーの潮流と、それを支える政策枠組みについて紹介し、世界の潮流とは逆行してきた日本の新エネRPS法の失敗、そして、現在進行中の日本版固定買取価格制への移行について概観しました。今回は、それらの政策枠組みのもと、どのように自然エネルギー事業が展開されていくのか、風力発電を事例としてみていきましょう。

 

 

自然エネルギービジネスの考え方

具体的な事業プロセスに入る前に、まずは自然エネルギービジネスの基本的な考え方について、従来エネルギー(化石燃料・原子力)とどのように異なるのか、確認しておきましょう(表1)。

 

 

表1. 供給プッシュと需要プル 出典:Martinot, E., Chaurey, A., Lew, D., Moreira, J.R. and Wamukonya, N. 2002. "Renewable Energy Markets in Developing Countries" Annual Review of Energy and the Environment. 27: 309-348.

表1. 供給プッシュと需要プル
出典:Martinot, E., Chaurey, A., Lew, D., Moreira, J.R. and Wamukonya, N. 2002. “Renewable Energy Markets in Developing Countries” Annual Review of Energy and the Environment. 27: 309-348.

多くの先進工業国は、工業化を進めるなか、国策のもとでエネルギー技術の開発を進め、独占・寡占市場をつくり、中央集権的にコントロールするエネルギーシステムを構築してきました。そのため、従来エネルギー事業の背景には「供給プッシュ」と呼ばれる考え方を読み取ることができます。

一方、電力市場の自由化(発電・送電・配電の分離)が進んだ国や地域では、独立した送電事業者が「安定供給」の責任を負うため、発電事業者は電力系統への公平なアクセスを前提とした競争下におかれます。そのため、発電・配電事業者は、利用者のニーズ(電源の種類、価格など)に対応すべく、市場環境への感受性を高め、「需要プル」と呼ばれる考え方のもとでビジネスを展開します。

自然エネルギービジネスの展開を考える上で、これら2つの考え方を理解しておくことは非常に重要です。また、電力市場の自由化は、スマートグリッドの前提条件でもあるのですが、日本ではごく限定的にしか行われていません。これについては、インターネットのアナロジーで読み解いている高橋洋さんの論考が参考になります。

 

自然エネルギーの事業プロセス

それでは、風力発電を例として、自然エネルギー事業がどのように展開されていくのかみていきましょう(表2)。

 

 

表2. 風力発電事業の一般的なフロー 出典:北海道グリーンファンド 市民風車の手引き

表2. 風力発電事業の一般的なフロー
出典:北海道グリーンファンド 市民風車の手引き

まず事業者は事業計画を作成するにあたり、風車を設置する現地の風況や地理的条件を測定し、その場所でどれだけの発電量が見込めるのかを評価します。よく「風が吹いてないときは発電しないから風力発電はダメだ」という批判を聞くことがあります。しかし、実際には年間を通じて季節ごとに吹く風の特性はおおよそ一定であり、気象情報をもとに他の電源との組み合わせのなかで送電事業者がそのときどきの需給を調整することで、即座に停電になってしまうような問題は起こりません。欧州では送電事業者と多様な発電事業者がそのような情報のコミュニケーションを重ねるなかで学習が進み、変動する電源への運営能力を高めているという報告もあります。

また、環境にやさしいエネルギーとはいえ、風車は高さ100メートルにもなる巨大構造物であるため、設置することで生態系や地域社会にどのような影響を与える可能性があるのか事前に評価します。そのなかで甚大なリスクが認められるようであれば、それを考慮した導入方法を考え、事業計画に反映させます。

このような風力発電のリスクについては、導入量が増えるにつれて問題として取り上げられることが多くなってきており、環境省による検討会も行われています。この点については、「設置可能地域を段階的に明示するゾーニング」「事業計画作成への地域ステークホルダーの早い段階での参加」「地域ステークホルダーのファイナンス面での参加」など、問題の紛争化を未然に防ぐ方策がいくつかあるのですが、次回以降のファイナンスやコミュニティのトピックに関連させて別途議論したいと思います。

そして、事業計画を作成し、基本設計のもとで電力系統への接続や売電価格が決まり、具体的な実施設計を行い、許認可等の各種法令への対応や資金調達を済ませ、ようやく風車の建設が行われ、運転および売電がはじまります。運転開始後は定期的に保守点検が行われます。

おおまかには以上のような流れで風力発電事業は行われており、事前調査の内容・時間・コストはそれぞれ異なりますが、他の自然エネルギー事業においてもほぼ同様のプロセスで進められると考えられます。太陽光発電については、自らの事務所に導入した東京都副知事の猪瀬直樹さんの設置体験が参考になります。

では、自然エネルギービジネスを検討・実施する上でもっとも重要となる、売電価格についてはどのようになっているのでしょうか?

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.277 

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