フェイクニュースはなぜ蔓延するのか――加速化するネットメディアに対抗する「スローニュース」とは?

事実を確認し、真実を報じる

 

――フェイクニュースに対抗すべく、英国放送協会(BBC)は「スローニュース」というスローガンを打ち出しています。具体的にはどのような報道なのでしょうか。

 

スピードを競う速報ニュースばかりではなくて、検証や解説という、深掘りをしたニュースに力を入れることで、そのニュースの意味や位置づけを理解してもらおうという狙いのようです。

 

具体的には、昨年の英国のEU離脱国民投票で試みたファクトチェックのプロジェクト「リアリティチェック」を拡充し、そのテーマを米国のトランプ新政権など、国外にも広げて展開していくようです。BBCは、「ウソや歪曲、誇張との戦いに加わっていく」と表明しています。

 

スローニュースという考え方は、2009年ぐらいから、アメリカのジャーナリストでアリゾナ州立大教授のダン・ギルモアさんなどが提唱してきました。もとになっているのは画一化したファストフードに対して、地域の多様な食べ物を見直そうと提唱されたスローフード運動です。

 

ニュースのスピードはどんどん加速し、しかも大量にあふれ出しています。

 

速報ニュースの一番乗りは、多くのユーザーの注目を集める原動力だからです。速報ニュース競争だけでなく、それにいち早くコメントすることを競う〝コメントダービー〟まで起きている、とギルモアさんは言います。24時間のニュースサイクルは1440分、さらに8万6400秒のニュースサイクルになっている、と。

 

そんなニュースのスピードを落として、いったん立ち止まり、ニュースの正確さや意味をちゃんと考えよう、というものです。

 

 

――イギリス以外でもファクトチェックの取り組みは行われているのでしょうか。

 

「スローニュース」とは言っていませんが、CNNでもこれと似たような動きがありました。トランプ大統領就任式翌日、スパイサー大統領報道官による初めての記者会見を、あえてライブ中継せずに、ファクトチェックをした上で、配信したのです。

 

メディアはこの時、前日の就任式の観衆の数について、8年前のオバマ前大統領の就任式と写真を比較し、かなり少ないと報じていました。ところがトランプ政権は、これを否定。報道官も会見で「過去最高」と主張しました。

 

このように政権の一方的な主張をそのまま伝えるのではなく、確認の上で報じる、という取り組みは、「スローニュース」の考え方に通じると思います。

 

英国では6年前に、「ディレイド・グラティフィケーション」という、”スロージャーナリズム”を掲げるメディアも登場していますし、日本でも、朝日新聞が国会の論戦をファクトチェックして、紹介する取り組みを始めています。

 

 

――ファクトチェックは具体的にどのように行われているのですか。

 

基本は通常の取材の確認作業と変わりません。政治家の発言の内容などについて、資料などと照らし合わせて、それが事実と言えるのかどうかを判断するわけです。

 

特に米大統領選では、メディアは大がかりな態勢を組んでファクトチェックを行っていました。

 

ニューヨーク・タイムズは、トランプ、クリントン両候補者による公開討論会で、安全保障・外交、経済、医療、環境からホワイトハウス、最高裁までの11分野で、担当記者・専門記者合わせて18人のチームを編成し、それぞれの発言をリアルタイムでファクトチェックしていました。

 

ファクトチェックの判定は、事実かどうか、というだけでなく、「大半は誤りだが一部は事実」といったグラデーションもあります。

 

ファクトチェックサイトの「ポリティファクト」によると、トランプ氏の発言のうち、「事実」「ほぼ事実」と認定されたのは2割以下で、残りは「半分事実」「ほぼ間違い」「間違い」「とんでもない間違い」に分類。このうち「間違い」「とんでもない間違い」だけで5割を占めている、と言います。

 

フェイクニュースは、発信者が不明のケースがほとんどです。ただ、それを探る手がかりはあります。

 

フェイクニュースを発信しているサイトの「***.com」といったドメイン名の登録情報を調べるという方法です。「whois(フーイズ)」というデータベースで検索すると、登録者の名前や住所がわかることもあるんです。

 

ただ、ドメイン名の仲介業者が登録をしているケースも多く、そうなると発信者にたどり着くのは難しくなります。

 

 

――米大統領選に関するフェイクニュースの発信に関しては、米国内外の人々が関係していると聞きました。誰が、何の目的でフェイクニュースを発信していたのですか。

 

フェイクニュースの広がりには、様々なプレーヤーが絡んでいます。

 

まず、フェイクニュースの発信者たちがいます。ご指摘の通り、こういった発信者は米国内だけではなく、東欧のマケドニアやジョージアの若者たちも、参入していたようです。彼らの目的はアクセス数拡大による広告収入でした。

 

100万回以上共有されたフェイクニュース「ローマ法王、トランプ氏支持」には、いくつかバリエーションがありました。ネットでは「ローマ法王、クリントン氏支持」「ローマ法王、サンダース氏支持」というフェイクニュースも流れていたんです。

 

ところが、「クリントン氏支持」「サンダース氏支持」の方は一向に拡散せず、「トランプ氏支持」の話題だとどんどん拡散して、お金になった、ということのようですね。

 

 

――もとは政治と関係のない目的で発信されてたものも多かったのですね。

 

ええ。ただ、もちろんアメリカ国内では、トランプ氏の支持者たちが選挙目当てでこのようなフェイクニュースをどんどん拡散していった、という面もあります。「オルタナ右翼(オルトライト)」と呼ばれる過激な右派グループも、フェイクニュースの拡散を後押ししていたようです。

 

さらに、米国政府の情報機関が発表した報告書によると、ロシア政府が大統領選でトランプ氏を当選させようとしてサイバー攻撃を行った、という認定が示されています。このサイバー攻撃で流出したメールなどをもとにしたフェイクニュースも拡散しました。

 

フェイクニュースの広がりには、このように政治的、金銭的な理由をはじめ、様々な動機が入り乱れていたようです。

 

 

信じたい情報ほど、慎重に見る

 

――スローニュースはフェイクニュースの拡散防止に繋がるのでしょうか。

 

スローニュースは、フェイクニュース拡散の防止に向けた一つの取り組みです。ただ、それだけでは難しいでしょう。

 

フェイクニュースの拡散防止には、情報の発信者側であるメディアの取り組みに加えて、拡散の舞台となっているフェイスブックなどプラットフォーム、そしてユーザーレベルの取り組みも必要だと思います。

 

プラットフォームの動きとしては、すでにフェイスブックなどがフェイクニュースへの広告配信停止や、ファクトチェックに取り組むメディアと連携したフェイクニュースの判定、排除の取り組みを明らかにしています。

 

また、フェイクニュース拡散の背後にある情報のタコツボ化”フィルターバブル”を破ろう、という動きも出ています。

 

ウォールストリート・ジャーナルは、保守派とリベラル派のフェイスブックに流れるニュースがどれだけ違うかというのを見せるページを立ち上げています。これをみると、出てくるニュースの配信元が見事に分断されていることがよくわかります。

 

また、あえて違う立場の意見が目に触れるようにする、という取り組みも始まっています。イギリスのリベラル派の新聞ガーディアンは、読者に毎回、保守派の論考5本を紹介する「バブルを破れ」という定期コーナーを新設しました。

 

このほかにも、保守派のユーザーならリベラル派のニュース、リベラル派なら保守派のニュースが表示されるような、ブラウザ用の拡張機能も開発されています。

 

 

――フェイクニュースにだまされないために、個々人が気をつけるべきことはありますか。

 

一つは、目にしたそのニュースを、他のニュースサイトも報じているかどうかを確かめてみること。

 

重要なニュースなら、他の主要なニュースサイトも報じているはずです。グーグルニュースなどで、キーワードを検索してみれば、それを確認することができます。もし、他にどのサイトも報じていなければ、注意が必要です。

 

他のサイトも報じているようなら、ニュースのポイントに違いはないか、読み比べてみることもお薦めします。

 

もう一つは、そのニュースを書いている筆者は誰か、ということ。グーグルで筆者名を検索すれば、他にどんなニュースを書いているかがわかります。

 

ニュースの情報源はどこかということも大事です。通常のニュースには、「~によると」といった情報源(ニュースソース)が明示されています。また、その情報源からの引用も記載されているでしょう。

 

そのような情報源が一切なければ、注意が必要です。

 

 

――複数の信頼できる情報源からのニュースを比較することが重要なのですね。

 

ええ、スローニュースを提唱したダン・ギルモアさんは大学で、このようなデジタルメディアリテラシーの講義を行っています。そしてギルモアさんは、私が翻訳を担当した著書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』の中で、ニュースを受けとるユーザー側が、その内容を鵜呑みにしない、などの基本的なポイントをまとめています。

 

中でもギルモアさんは、「信じたいと思うセンセーショナルなニュースほど、より慎重に疑ってかかるべきだ」と注意喚起をしています。

 

ソーシャルメディアを手にしたことで、私たちみんなが、ニュースの受け手であると同時に発信者にもなっています。友達から回ってきたフェイクニュースを条件反射のようにリツイートしてしまえば、それは、自分自身がフェイクニュースを発信したことにもなります。

 

まず一呼吸おいて、これ本当かな、と思ってみるというのは、大事なことだと思います。

 

 

――人々が求めていたのは「ファクト(真実)」ではなく、自らが共感できる「物語」だったと指摘する声もあります。こうした人々に対して、リテラシーの警告は有効なのでしょうか。

 

陰謀論などを信じる人々に、それが事実ではないことを説明しようとすると、逆に確信を深めてしまう「バックファイヤー効果」というものを、ダートマス大学教授のブレンダン・ナイハンさんが指摘しています。

 

まさに、事実よりも共感、という状況です。ただ、ギルモアさんは、それについて悲観的ではありません。「トランプ氏が言うことを、何でも信じるという人たちはいる。ただ幸い、それは多数派ではありません」

 

そして、こう強調しています。「世界が急に事実を重んじるようになるなら結構ですが、それは起きそうにない。現状を少しでも改善するために、リテラシー教育は必要です」

 

少しずつでも、粘り強く、フェイクニュースの排除に取り組んでいくことが大切ではないでしょうか。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体 (朝日新書)
平和博(著)

 

 

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朝日新聞記者のネット情報活用術
平和博(著)

 

 

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あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術
ダン・ギルモア (著), 平和博 (翻訳)

 

 

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・【今月のポジ出し!】吉田徹「形骸化する地方自治――『くじ引き民主主義』を導入せよ!」

・藤代裕之氏インタビュー「フェイクニュースが蔓延するメディア構造はいかにして生まれたのか」

・塚越健司 学びなおしの5冊 <統治>

・齋藤直子(絵)×岸政彦(文) 「Yeah! めっちゃ平日」第八回