2018.09.19

ブラックアウトは電力会社のせいか?――北海道ブラックアウトからの教訓

安田陽 風力発電・電力系統

社会 #ブラックアウト

2018年9月6日未明に発生した北海道胆振東部地震をきっかけに、苫東厚真石炭火力発電所にある発電機3台が停止し、北海道ほぼ全域が連鎖停電するというブラックアウトが発生しました。これまで、2011年3月の東日本大震災および原発事故に伴う広域大停電などはあったものの、いずれも電力システムの全域が停電したわけではなく、いわゆるブラウンアウトと呼ばれる状態です。今回、事実上日本で史上初めてのブラックアウトを経験したことになり、それ故、メディアを中心に必要以上の衝撃を以って受け止められているようです。

多くのメディアやネットでは、早速ブラックアウトの原因究明(というより犯人探し)の議論が盛んになっています。中には正義感からか、「再発防止のために」「このような事故を二度と繰り返さないために」というような常套文句も見られます。しかし、事故直後で冷静さを欠く議論も多く見られる中、筆者はここであえて、ブラックアウトを「二度と繰り返さないために」という言説は、リスクマネジメント的な観点から本当に妥当なのだろうか? という問題提起をしたいと思います。

忘れられがちな確率論的リスクマネジメントの発想

問題提起をするにあたって、電力工学の基礎理論を確認しておきましょう。ここでは大学の専門課程レベルの専門用語が若干登場しますが、この問題を理解する上で重要なコンセプトなので、多くの方に知ってもらいたいと思います。

停電をするかしないかは、電力工学では供給信頼度という指標で表されます。供給信頼度はさらに、アデカシーセキュリティという2つの概念に分かれます。前者のアデカシーは直訳すると「充分であること」という意味で、電力不足確率 (LOLP) などの確率的数値として与えられます。例えば米国では広く「1-to-10基準」として知られているアデカシーの基準があり、これは10年に1日の割合で大停電が発生する可能性があるということをあらかじめ想定することを意味します。LOLPに換算すると発生確率は0.027%です。

信頼度のもう一つの評価手法であるセキュリティは、いわば「緊急時」の指標です。電力システムに何らかの突発的な事故や擾乱が発生した際に、システム全体を安定的に維持できるかという指標です。セキュリティを維持するための概念として、N-1基準という考え方が世界各国で(日本でも)取られています。N-1(エヌ・マイナス・ワン)とは、電力システム全体 (N) から発電所や送電線などの設備が1ヶ所、何らか不具合で緊急停止したり断線したりする(–1)ことをあらかじめ想定しなければならないという基準です。万一その電力システム内の最大の設備1ヶ所が脱落したとしても、需給バランスを崩して連鎖停電に至らないことを保証する、ブラックアウトを未然に防ぐための基準です(注1)。

(注1)アデカシーとセキュリティ、停電に関する詳細は、拙著『世界の再生可能エネルギーと電力システム 〜電力システム編』, インプレスR&D (2018) もご参照下さい。

ここで重要なのは、「停電は絶対に起こしてはならない!」という発想ではなく、現在の技術と適切なコストを勘案すると、ある一定の確率で停電が発生することを想定(許容)した上で電力システムが設計されているということです。これは若干の数値の差はあれど、欧州や日本など世界中のほとんどすべての電力システムが採用している考え方です。もちろん、ブラックアウトは起こさない方がよいですし、起こさないように最善の努力がなされるべきですが、「絶対に起こってはならない」という設計思想はそもそも日本も含め世界中どの国でも採用されていません。この事実は多くの人に知ってもらいたいことです。

「想定外」だったのか?

さて、今回の北海道ブラックアウトでは、執筆時(9月15日時点)で得られる情報では、苫東厚真2号機(定格60万kW)および4号機(定格70万kW)が直下型地震によってほぼ同時に停止しました。その後、電力システム内の一部を負荷遮断(強制停電)させたり、北本連系線を通じて最大限応援融通したりして、なんとか電力システム内の需給バランスを取っていたところ、地震発生から18分後に苫東厚真1号機(定格35万kW)も緊急停止し、努力の甲斐なくバランスが崩壊しブラックアウトに至った、という事故経緯が推定されています。つまり、前述のN-1基準に照らし合わせれば、基準をはるかに超えたN-3事故が発生したことになります。

北海道電力の記者会見や過去の資料を見る限り、北海道では129万kWの電源脱落に対しても大丈夫なように対策を立てていたということなので、北海道では世界基準や法令に定められた基準を上回るN-2に相当する対策を自主的に行っていたことになります。実際、地震発生後18分間はその功を奏してか、なんとかギリギリ持ちこたえていたところを、不幸にして3つ目の電源脱落が続き、N-3規模の事故となってしまったことになります。ここで北海道電力に法令違反や内規違反の行為があったといえるでしょうか? 少なくとも現在得られる情報では、そのような瑕疵を見いだすことはできません。

今回のブラックアウトを受けて、一つの発電所に頼るような集中型の運用ではなく分散型にしていればよかったとか、はたまた原子力発電が稼働していればよかったなどの「もし〜ならば」という後出しジャンケン的な仮定の話が百家争鳴です。しかし、もしかしたらよりよい手段があったかもしれないという可能性(しかもあくまで可能性にすぎず、科学的・法的根拠がない個人願望を混入させているケースも多くみられます)と、してはならないことをしたり成すべきことを怠ったという制度上の瑕疵とは厳密に分けるべきです。

「またしても想定外だ!」と、あたかもN-3事故まで想定した対策を取っていなかったことで、電力会社を槍玉にあげるかのような表現を用いるメディアも散見されます。しかし、前述の通り世界中の電力システムは「絶対に停電を起こさない」ではなく、「ある一定の確率で停電が発生することを想定した上で」設計されています。N-2以上の事象は発生確率が極めて低く、それを予防するために投じるコストよりも、万一それが発生した場合に、生命や財産の安全を損なわない程度に被害を軽減するためのコストの方が安い可能性があります。

台風や地震など自然災害による被害は可能な限り小さくする努力をしなければならないものの、絶対的にゼロにすることはできませんし、それを前提とした対策は現実的ではありません。それと同様、台風や地震など自然災害に起因する停電も、絶対に起こしてはならないという立場に立つのは科学的に不合理です。むしろ絶対に起こしてはならないという非合理的な目標が設定された瞬間、安全神話や非合理的な忖度が発生し、より適切な対策を議論する機会が失われます

リスクマネジメントと費用便益分析

相当程度「停電しない」電力システムを構築することは、コストを無制限にかければ技術的には可能かもしれません。しかし、毎月の電力料金が2倍5倍10倍に上昇したとして、多くの人はそれを支持するでしょうか? ここは予防のための適切なコストと、被害を防ぐベネフィットのバランスを勘案する必要があります。すなわち怜悧な定量評価に基づく費用便益分析 (CBA) が必要となります。

気候変動(地球温暖化)のために異常気象が多発し、地震も活動期に入ったといわれる日本で、今なすべき議論は「ブラックアウトは二度と絶対に起こしてはならない」ではなく、「一定の確率で発生するもの」と確率論的に考え、万一発生した場合に最低限、生命や健康に脅威にならないような対策にこそコストを割くべきでしょう。しかし、残念ながら日本では、多くの人が「停電は起こらないもの」と期待し、「万一それが発生した場合に生命や財産の安全を損なわない程度に被害を軽減するための」具体的方策をあまりに怠ってきたのではないでしょうか。

例えば、病院、通信センターなど、人命や社会的影響が大きい設備にはディーゼル発電機や電源車などの準備が必要でしょう。今回もその対策があった設備と、そうでなかった設備で差がありました。停電で信号が機能しないと交通事故が発生し生命の危険を及ぼしますが、太陽電池と小容量の蓄電池で自立運転できるかもしれません。生産設備の損傷や商品の廃棄は、保険や補償など適切な制度設計でカバーできる可能性もあります。

家庭用屋根置き太陽光は、最新型のパワーコンディショナであれば、停電時に単独自立運転モードに手動で切り替えることが可能です。電気自動車があればさらに大きな助けになるでしょう。この点では分散型電源は災害時に有利といえますが、スマートコミュニティに代表されるような地域単位での災害時の単独運用は、研究開発が進むもののルールの整備が追いついていません。

一方で、真冬に災害が起こり、公民館や体育館に数百人規模で人が集まった場合、そこで暖をとったり煮炊きをするのに再生可能エネルギーや蓄電池はむしろ無力であり、こういう時こそエネルギー密度の高い化石燃料の備蓄が有利かもしれません。しかし、そもそもガス暖房機や灯油ストーブでもコンセントからの電気がないと動かない製品も多いので、その対策こそ急務です。

今回のブラックアウトは日本で事実上初めての事件だったため、驚愕的に受け止められがちです。しかし、ブラックアウトは各発電所や変電所を「安全のため」一時的に切り離す際に、電力システム全体の需給バランスが崩れることにより発生するため、物理的な損傷を伴うわけではありません。すべての発電機が停止してしまうため、バランスをとりながら順次再起動するのは大変な作業ですが、それでも通常3日程度で回復するものです。

事実、今回の北海道ブラックアウトも地震発生後約9時間程度で一部の送電が再開され、地震発生後24時間で32%、36時間で53%、48時間で99%以上の停電が解消されました(むしろその点は現場の電力マンの努力を評価すべきです)。ブラックアウトは広範囲に亘るものの1〜2日で回復することができるため、然るべき対応を取っていれば生命や財産に深刻な危機は十分に回避できます。もちろん、停電は起きないものという前提で然るべき対応を取らなければ、容易に生命や財産の危機に瀕します。

一方、北海道ではブラックアウトの解消後も電力不足に見舞われていますが、それはブラックアウトに起因するものではなく、地震による発電機の物理的損傷が原因です。この点でも印象論的に「停電はけしからん!」ではなく、原因と事故の性質、それに対応する対策を冷静に切り分ける必要があります。

余談ですが、台風や嵐による配電線の倒壊は、それこそ物理的復旧に多くの人員と時間が必要なため、自ずと停電時間も長期に亘ります。例えば2018年8月28日に関西地方を襲った台風21号では、1週間経っても停電が回復しない需要家が千軒単位で残されていました。このように一口に同じ「停電」といっても、発生要因とその取るべき対策は複数のパターンがあります。ますます冷静にならなければなりません。

このような冷静な議論の不在は、一義的には国や規制機関が事故は起こるものとして考え、行動するリスクコミュニケーションの努力をこれまで行ってきたか?という問題に帰着します。同時に、マスメディアやアカデミアの側にも、センセーショナルでない科学的説明をわかりやすくしてきたか?という反省も求められます。もしかしたら国民全体で、3.11の原発事故から絶対的な安全神話でなく確率論的リスクマネジメントに基づく合理的な考え方を学ぶべきところを、その教訓をすっかり忘却していたのかもしれません。

10年に一度程度の万一の停電時の最低限の危機対応コストを積算し、危機対応コストよりも電力システムの増強や電源の再構成の方が安く済む手段があれば、そこで初めて今回のブラックアウトを教訓に、「こうすればよかった」という点にコストをかけて改善すべきでしょう。その場合でも決して電力会社に責任を押し付けて電力会社任せにするのではなく、防災・減災の立場から多くの省庁が協力して行うべきものです。そのような、リスクマネジメントの観点に立ったグランドデザインこそ、今回のブラックアウトの教訓とすべきでしょう。

危機管理と情報開示には難あり

今回のブラックアウトの発生に関しては、電力会社を責めても何も解決しないというのが本稿の結論ですが、一方で、電力会社(さらにはその監督省庁)が早急に改善しなければならない点も別に存在します。それは事故後の情報開示です。今回の行動は、3.11の教訓からきちんと学べた結果になっていたでしょうか?

地震発生時に北海道電力のツイッターが休眠状態にあっただけでなく、経済産業省に指示されるかたちでようやく再開し、その発信もほとんどつねに経済産業省の発表よりも遅いという情報発信の姿勢は、緊急時こそ問題となります。さらには通常時であれば誰でも閲覧できる「でんき予報」や北本連系線の送電情報も、理由が明らかにされることなく一時中断するなど、危機的状況下での情報開示に大きく問題がある結果となりました。

このような基礎情報やデータがないと、多くの市民からの信頼が得られず、デマや扇動や火事場泥棒的な自己主張が跋扈する原因となります。「安心のコストは高くつく」と言われていますが、安心のコストは情報が不足した市民が勝手に釣り上げているのではなく、情報を多く持つ側の情報開示の軽視から発生します。

危機管理としての情報開示もリスクマネジメントの中の重要な一つの分野ですが、日本の多くの大企業が事故やトラブルの際の初動を誤り、本来不要な疑心暗鬼を増長させてしまうのも、この情報開示の不備・不足が遠因となります。このような広報や情報公開体制も、「事故は起こらないもの」「万一起こってからその場で対応するもの」ではなく、万一の事故を想定した日頃の体制づくりと訓練が必要です。

例えば、世界で発生した直近のブラックアウトは2016年9月28日に南オーストラリア州で記録的な暴風雨のために発生したものがありますが、その事故の際は、発生からわずか1週間後に約30ページの暫定報告書が規制機関から公表されました(注2)。そこには詳細な事故前の発電状況、事故イベント発生リスト、電圧・電力・周波数などの各種波形、ブラックアウト後の回復状況などのデータやグラフが満載です。

(注2)Australian Energy Market Operator (AEMO): Preliminary Report – Black System Event in South Australia on 28 September 2016, published 5 October 2016.

さらに事故発生から半年後には300ページ近くある最終報告書が発行され(注3)、事故時のデータだけでなく、将来同様のケースがあった場合の系統シミュレーション(数値解析)結果なども掲載されています。南オーストラリアの送電会社には事故を防げなかったという反省点は確かにありますが、それを乗り越えて透明性の高い情報提供と議論を行うことで信頼を回復し、例えばテスラ社の世界最大級の大容量蓄電池設備のように新しい投資とイノベーションを呼び込むことに成功しています。北海道もそうあって欲しいと願っています。

(注3)Australian Energy Market Operator (AEMO): Black System South Australia 28 September 2016 – Final Report,  published March 2017.

今回のブラックアウトに対する反省は、「停電はけしからん!」と犯人探しに躍起になって、「誰かに頭を下げさせて溜飲を下げる」「事態収拾のために取り敢えず頭を下げる」という謎の儀式でうやむやにするのではなく、そのような悪しき日本的風習こそ払拭しなければなりません。スケープゴート的な犯人探しや曖昧な謝罪は、物事の本質から目を逸らし合理的な改善策を遠ざけます。

日本が今なすべきことは、法令やルールを再確認し、客観的な費用便益分析を行うことで改善すべき点の優先順位を明らかにし、生命や財産へのリスクを効果的に減らせる手段に投資を行うことではないでしょうか。確率論に基づく合理的なリスクマネジメントの発想を国民全体で共有すること、それが災害多発時代に突入した日本の賢く生き残る術(すべ)だと筆者は考えています。

プロフィール

安田陽風力発電・電力系統

1989年3月、横浜国立大学工学部卒業。1994年3月、同大学大学院博士課程後期課程修了。博士(工学)。同年4月、関西大学工学部(現システム理工学部)助手。専任講師、助教授、准教授を経て2016年9月より京都大学大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 特任教授。

現在の専門分野は風力発電の耐雷設計および系統連系問題。技術的問題だけでなく経済や政策を含めた学際的なアプローチによる問題解決を目指している。

現在、日本風力エネルギー学会理事。IEA Wind Task25(風力発電大量導入)、IEC/TC88/MT24(風車耐雷)などの国際委員会メンバー。主な著作として「日本の知らない風力発電の実力」(オーム社)、「世界の再生可能エネルギーと電力システム」シリーズ(インプレスR&D)、「理工系のための超頑張らないプレゼン入門」(オーム社)、翻訳書(共訳)として「風力発電導入のための電力系統工学」(オーム社)など。

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