2013.05.15
見えない「ヘルプ」を可視化する ―― 東京都「ヘルプマーク」の取り組み
配慮やサポートが必要なのに、外見からはわからない人たちのための新しいマークが登場! 東京都が作成した「ヘルプマーク」が昨年10月から、都営地下鉄大江戸線で配布されている。今回は、東京都福祉保健局の藤井さんと多田さんに、「ヘルプマーク」とはどのようなものなのか、その取り組みについてうかがった。(聞き手/金子昂、構成/山本菜々子)
ヘルプマークとは
―― 「ヘルプマーク」はどのようなものなのでしょうか。
藤井 義足や人工関節を使用している方、また内部障害や難病の方は、支援が必要にもかかわらず、周りの方からは見た目だけではわからないということがあります。そういった方たちが、周りの人に、自分が困っていることを知ってもらいたい、助けてもらいたいという気持ちがあるときに、それがわかるようなマークをつくれないかというのをコンセプトにしています。マタニティーマークが妊婦であることを周囲に知らせるように、ヘルプマークは、援助を必要としていることを周囲に知らせることを目的として作成しました。
現在、大江戸線各駅の駅務室で、希望する方にヘルプマークを配布しており、すでに1万3千個ほど配布しました。また、大江戸線内の優先席付近にヘルプマーク周知のためのステッカーなどを貼っています。
―― 大江戸線でやられたのはなにか理由があったのでしょうか。
藤井 同じ東京都の組織なので、協力が得られやすかったというのがあります。さらに大江戸線は他の会社線と車両の相互乗り入れをしていないため、都営線のみで取り組むことができるので、モデル的に実施するには一番適しているのではないかと思いました。
―― 鉄道に限ったのは理由があるのでしょうか。
藤井 ヘルプマークは鉄道に限っているわけではないのですが、「優先席に座っていたら、非難されて肩身の狭い思いをした」という投書を新聞で読んだことがあるので、優先席の利用がしやすくなればいいと思いました。鉄道以外で、積極的に自分が困っているということを、知らせたいというシチュエーションが他にあるのか、いまはまだつかみ切れていないところです。もし、なにかお考えがあれば教えていただければと思います。
―― どのような声がありましたか。
藤井 「こういうことに税金を使うなんて」という意見もありますが、応援していますというメッセージを頂くことも多いです。
御意見としても、ヘルプマークそのものに対する反対というよりは、現在大江戸線内というすごく限られた範囲でやっているので、もっと大規模にやるべきじゃないかというものが寄せられています。
多田 こういったものをつくってもらって良かったというのも含めて、取り組みに対しては評価していただいています。
藤井 ですが、「つけていても譲ってもらえない」というご意見も頂くこともあります。譲る、譲らないという問題は、結局は個人の自発的な意志に委ねられていますから、なかなか難しいですよね。お年寄りや妊婦さんなど、外見でわかる人でも譲ってもらえない方もいらっしゃいます。
多田 なるべくは、譲ってもらいたいのですが、まずはヘルプマークをつけて優先席に座っている方がいたら、「なにか事情があって座っているんだな」と周りの人に知ってもらう。比較的、若くて健康そうな人であっても、この人はなにか事情があって座っているんだと暖かく見守ってもらえればなと思っています。
こだわりのデザイン
―― 「見えない障害バッジ」は、透明につくられていて、決して目立つデザインとは言えません。これはさりげなさや、持っている人の「心のよりどころ」といった狙いがあるのでは、と思っています。一方でヘルプマークはカード程の大きさで、とても目立ちますよね。
藤井 主旨としては、周りの方に知ってもらうというのが目的です。そのため、ある程度目立つということを意識しました。
ヘルプマークのデザインは、デザイナーの方にお願いしました。作成していた当時は、石原前都知事だったんですが、「役人がやるとろくな物をつくらない」という気持ちもあったかもしれませんね(笑)。前知事はヘルプマークを応援されていて、去年の都議会定例会の所信表明の時に、ヘルプマークをつくっていることを発言しました。
東京が成熟した都市としてその存在感を高めていくためには、高齢者や障害者、妊娠中の女性など、あらゆる人々が安心して街に出て、活発に行動できる環境を整えなければなりません。
障害のある方々の中には、外部からはわからない場合も多くて、今般、そうした方々のためにも、新しいマークを作成しました。これを都民・国民に広く周知させて、電車の車内の優先席にも標示いたしますし、援助が必要な方がマークをわかりやすい位置に身につけることで、周囲の理解も得られやすくなると思います。先ずは、来月末から都営大江戸線で取組みを開始し、都営交通を核にして他の交通機関にも拡げてまいります。
(2012年9月20日平成24年第三回都議会知事所信表明より抜粋
http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/ARC/20121031/HATSUGEN/SHOUSAI/30m9j100.htm)
実際、完成したものをみると、色は深く濃い赤色ですし、質感も柔らかいです。「普通のプラスチックと違う」と言われてもわからなかったんですけど、現物を見ると、素材にすごくこだわってつくっていることがわかりました。たとえば、ヘルプマークには表と裏があります。触ると十字とハートのマークが少し出っ張っているのが表で、平らな方が裏です。このように、デザイナーさんのこだわりが細部までつまっています。
―― 同封されている白いシールはなんでしょうか。
藤井 このシールに伝えたい事項等を書き、裏面に貼れるようになっています。これにも、議論がありまして、裏とはいえ、個人情報を見えるところに貼るのは良くないのではとか、知的障害の方だとはがしてしまう場合があるともうかがっています。貼ってもいいし、貼らなくてもいいし、なにを書いてもいいということをお伝えしています。
ヘルプマークはだれのもの!?
―― 東京都内に、ヘルプマークの対象となる方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。
藤井 正確な数となると、なかなか把握するのは難しいです。障害者手帳を持っている方の数というのはわかります。しかし、障害者手帳を持っている方すべてが、ヘルプマークを必要としているとは限りません。また、援助を必要とされていても、障害者手帳の対象とならない方もいらっしゃいます
また、ヘルプマーク自体、「なにかあったら助けて欲しい」という広い意味を想定しています。一時的にヘルプマークが必要となる方というのもいらっしゃるなど、流動的な部分もあるのかなと思っています。
ヘルプマークは申し出のあった方全員に差し上げています。そのときに、名前を書くわけでもありませんし、障害者手帳を見せる必要もありません。ですが、手帳を見せてくれる人もいるみたいですね。「だれにでも渡すのはおかしい」という意見もうかがったことがあります。ですが、もらいにくくなってしまうのも、主旨に反しています。「どういう困りごとなのか」を言いたくない方もいると思います。
その辺りは本当に難しいです。どうすれば本当に必要としている人に届けられるのかがわかれば、効率的に取り組めるんでしょうけど、まだ手探りな感じですね。
これからのヘルプマーク
―― 改善点や、こうしていけばよかったなという点はありますか。
藤井 まだ、そこまで浸透していないので、いまはどうやって普及していくのかを考えている状態です。また、いまは大江戸線だけなので、どこまで広報した方がいいのか難しい面もあります。
とはいえ、ヘルプマークを持っていることで、気を楽にして優先席に座っていられるのであれば、その取り組みは広げていきたいと思っています。
今回、ヘルプマークはメディアでも注目を浴びました。発表した翌々日に新聞でカラーで取り上げていただいたり、社説や読者の声でも取り上げてもらいました。とくに、新聞の折り込みもしている「広報東京都」に掲載したときには、見て下さった方が多かったようで、「これはどこでもらえるんですか」などの問い合わせの電話が一日中ありました。
正直、「広報東京都」の記事に対して、こんなに反応があるとは思っていなかったのですが、多くの反応があったことで、「作成してよかった」と思うとともに、都民の方々のヘルプマークへの期待を感じました。
今後は、ヘルプマークを多くの方に知っていただけるよう普及啓発を図っていくことで、見た目だけでは分からないけれども支援が必要な方がいることを理解していただくとともに、そうした方々に対して周囲の人が日常的に援助や配慮ができる社会になって欲しいと思います。
―― 記事、掲載のときに、お問い合わせが殺到したらすいません(笑)。
ぜひ、よろしくお願い致します。困ってるズの方も、ぜひもらいにきて欲しいです。利用したい方に知ってもらったり、「いいな」と思ってもらいたいですね。
●ヘルプマークのお問い合わせ:http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/helpmark.html
(2013年2月8日 東京都都庁にて)
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