オープン・プロセスとソーシャルデザインの可能性

クリエイティブ・コモンズ・ジャパンによる、オープンカルチャーに関する新しい対話の場/学びの場であるCCサロン。第5回目は「建築・都市におけるソーシャルデザインの可能性」と題して、日本社会の縮小をポジティブに捉え直す「列島改造論2.0」を構想し、「公共建築から考えるソーシャルデザイン・鶴ヶ島プロジェクト」などを手がける建築家の藤村龍至氏をゲストに開催された。鶴ヶ島プロジェクトの可能性とは何か?(構成/出口優夏)

 

 

オープン・プロセスとはなにか

 

本日は「オープン・プロセスとソーシャルデザイン」と題しまして、普段からわたしが取り組んでいる建築のお話をさせていただこうと思います。

 

わたしは大学院で建築を専攻する前、社会工学科というところでコミュニティデザインをテーマにした研究室に所属していました。わたしが在籍していた2000年前後は、ちょうど「地方分権」が言われはじめた時代。いままでのようなトップダウン方式ではなく、現場のことは現場で決めなければならなくなったんですね。

 

そこで、都市計画のコンサル会社が大学の研究室と組んで、ワークショップやワーキンググループを企画するようになった。わたしも所属していた研究室経由でワークショップの手伝いに参加していました。そのときにはじめて、「プロセスをオープンにし、ボトムアップで意思決定していく」という現場に遭遇した。その経験と後に学んだ建築が統合され、自分で建築設計事務所を開いたときから、「すべてのプロセスをオープンにして建築物を設計していく」ということを考えはじめました。

 

建築設計におけるオープン・プロセスとはどういったものかということをご説明したいと思います。わたしの事務所では設計の際、「打ち合わせでなにかが決まるごとに、毎回模型をつくって保存する」ということをやっています。そして、案の作成には「ジャンプしない、枝分かれしない、後戻りしない」という原則を設定しています。

 

現在、建築設計事務所や建築家というのは、自らの作業内容の説明を積極的におこないません。むしろ、非連続性や飛躍を強調する傾向にあります。しかし、あえてそれを禁じ、毎回模型をつくって可視化することで、より個別性を高めたり、多くの課題に答えたり、スピードアップを図ったりできるんですね。

 

 

設計教育への応用

 

一般的なデザインのプロセスというのは、構造解析や音響解析、温度解析、クライアントの要望、法規といったさまざまな条件を入力し、ひとつのかたちへ統合し、アウトプットするという手順を踏みます。現在、解析のプロセスは充分に情報化されてきているのですが、統合のプロセスはいまだにデザイナーの経験や直感に頼ってしまっている。わたしはこれをもう少し開いていけないかと考えています。そこでわたしが取った方法は、「ひとつの入力に対してひとつの出力をする」というものでした。

 

その応用として、2008年からまず設計教育にオープン・プロセスを導入することにしました。現在の建築の設計教育は、学生一人ひとりに課題を出して、エスキースと呼ばれるチェックをして、プレゼンテーションをするというかたちで進んでいくのが一般的です。しかし、そもそも設計とはどういう行為であるのかということはあまり教えられない。だから、学生は先生の反応を見ながら手探りで設計を進めていかなければならないんですね。そこで、建築事務所の実務でわたしが実践してきたオープンプロセスの方法を同じように展開していこうと考えました。

 

さらに2012年からは、こうしたプロセスを大量設計、集団設計の方法論に応用し、ガバメントの領域に近づけようというのが東洋大学で取り組んでいる「鶴ヶ島プロジェクト」です。

 

埼玉県鶴ヶ島市は東武東上線の池袋駅から急行に乗って40分ほどの距離にあり、高度成長期には生産人口が大量に流入し、さまざまな公共施設が一気に整備された典型的な郊外都市です。しかし現在、1970年代に流入した住民が一斉に高齢化し、人口の流入が少なくなってきたことで、生産人口の減少とインフラの老朽化から近い将来、財政難が予想されています。大量のインフラを更新するのに十分な予算を市が確保するのはむずかしい。そこで、インフラの統廃合が必要になってくるのですが、それには市民からの反発が予想されるわけです。

 

この状況で、いきなり市長や行政職員がインフラの統廃合を提案すると角が立ってしまう。しかし、行政と住民のあいだに大学が入り、学生たちのプロジェクトを行政や住民の皆さんにサポートしていただくということであれば、話を聴いてもらえるかもしれない。そこでわたしは「行政の公開情報をもとに維持可能な床面積を予想し、公民館機能を複合化した小学校を設計する」という課題を設定し、学生たちに取り組んでもらいました。

 

 

鶴ヶ島プロジェクトの流れ

 

プロジェクトの実際の流れをご説明します。第一段階として、大学のなかで基本的な設計を進めていきます。学生たちは1/500の模型をつかいながら設計を進めていきます。1/500というのはスイスなどで公共施設の設計者選定の公開審査に用いられる縮尺で、全体像が把握でき、かつ部分も想像できる、という大きさです。A4サイズほどの模型を作成しながら、6000㎡の小学校と2400㎡の公民館の複合施設を今日のニーズに合わせて多機能化した上で、床面積を75%縮小するという条件で設計していく。

 

そして、それぞれのグループが作成した模型をみて、ほかの学生が付箋に評価を書いていきます。従来の設計教育の場合、先生が作品を前のほうで講評して、学生はうしろで聞いているというようなスタイルでした。これだと、前日までのプレゼン準備でつかれた学生たちは寝てしまう。しかし、講評のスタイルをワークショップにすると寝る学生がいなくなっただけでなく、作品に対して学生全員からのフィードバックがもらえ、モチベーションが高まるわけです。

 

このように学内で集団のワークショップを繰り返して学生を慣れさせたあと、第二段階として実際に鶴ヶ島の住民の皆さんとのワークショップに臨みます。このワークショップを「パブリックミーティング」と呼んでいるのですが、具体的には、2週間に1回、「地域支え合い協議会」という地元の協議会の方々にご協力いただき、住民の方々の前で学生がプレゼンテーションをおこない、どのグループがよいか投票をしてもらいます。そのなかで上位4位までの作品がワークショップに進み、質疑応答を経て最終的な1位を決定します。

 

こうした住民の方々の前で学生がプレゼンテーションをおこなう試みは全国的にも珍しいことではなく、東洋大でも朝霞市や川越市でこれまでおこなわれてきましたが、ここではパブリックミーティングを5回繰り返し、設計の初期からセッションをおこなうという点がこれまでの試みと決定的に異なる点です。一度限りの意見交換ではなく、意見交換された結果が具体的にフィードバックされていくというプロセスが特徴です。

 

 

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最初のうちは住民の皆さんからの質問は、耐久性や耐震性といった技術的なものに集中してしまいます。しかし、「技術的な問題は必ず専門家が解決する、皆さんにはどのようにこの施設を使っていきたいか、それによってどのような地域をつくりたいか、を話していただきたい」とお願いし、学生が財政状況のプレゼンテーションをして、インフラを縮小するというビジョンを示した上でワークショップをつづけていくと、だんだん「そういうことならば、一緒に考えなくてはいけない」という生産的な雰囲気になっていきました。

 

ワークショップを通してどういったかたちで設計が進んでいくかといいますと、キックオフの段階では面積と大まかな配置ぐらいしか決まっていないものが、対話を経るにつれて、どんどん具体的になっていく。学生たちは住民の皆さんの意見にインスパイアされ、それを取り入れながら、どんどん自分たちのイメージを膨らませていきます。

 

また、毎回順位が入れ替わるので、順位の上下動を見て学生たちは空気を読むことができます。こういうものは共感を呼ぶんだなとか、ああいうものはダメなんだなとか。そうやって設計を発展させていきながら、同時に途中で「救急車が必ず保健室に横づけできないとダメ」、「校庭で事故が起こりやすいから、必ず職員室が校庭に面していないとダメ」といった技術的なチェックを繰り返していきます。最終的には、プロがプロポーザルコンペのときに出すものと遜色のない、濃密な提案になっていきます。

 

 

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