2014.02.04

3.11後初のエネルギー基本計画

東京都知事選が告示された1月23日。小泉元総理は、都知事候補の細川元総理の応援演説に立ち、安倍内閣の原子力推進の姿勢を批判した。「細川さんが原発ゼロで立候補するうわさが立った途端、エネルギー基本計画の決定を先送りしたじゃないか」[*1]。

そこから遡ること40日前の、2013年12月13日。経済産業省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において、「エネルギー基本計画に対する意見」(以後、「計画案」)が了承された。これは、エネルギー政策基本法に基づいて、政府が3年ごとに策定することになっているエネルギー基本計画の原案となるものである。これをもとに基本計画が閣議決定されれば、福島第1原発事故後は初めてとなる。

2010年の現行基本計画は、2030年の電源構成における原発比率を53%に増大させるものであった(図1)。しかし、2011年3月の福島原発事故を経て、この計画は宙に浮いた。野田内閣はこの見直しに着手し、2012年9月に「革新的エネルギー・環境戦略」(エネ環戦略)として、いわゆる脱原発を掲げた。これをもとに新たな基本計画が策定されるはずであったが、12月に政権交代が起きたため、民主党政権の手による改定はなされなかった。

図1 民主党政権のエネルギー基本計画2010と革新的エネルギー・環境戦略 出典:資源エネルギー庁資料
図1 民主党政権のエネルギー基本計画2010と革新的エネルギー・環境戦略
出典:資源エネルギー庁資料

政権交代後、安倍内閣はエネ環戦略の「ゼロベースの見直し」を主張し、「エネルギーの安定供給とエネルギーコストの低減に向けて、責任あるエネルギー政策を構築する」[*2]と繰り返し表明してきた。エネルギーについては、一般に「3E」(経済効率性、エネルギー安全保障、環境適合性)が重要視されるが、3.11後には安全性を加えて「3E+S」と言われるようにもなった。「3E+S」は今回の計画案にも明記されているが、4つの中でも安定供給(エネルギー安全保障)とコスト(経済効率性)の「2E」という判断基準を、1年前から設定していたことに注目されたい。

他方で安倍内閣は、「できる限り原発依存度を低減させ」る、そして「再生可能エネルギーの最大限の導入」といった基本方針も明示してきた[*3]。2013年3月以降、民主党政権下の基本問題委員会に替えて、新たに基本政策分科会(当初は総合部会、参議院選挙後に改称)において議論を重ねた結果が、今回の計画案である。

脱原発から原発復活へ

その最大の関心事は原発の扱いであったが、「基盤となる重要なベース電源」と位置付けられ、推進へと大きな転換が明記された(表1)。「安全性が確認された原子力発電所については、再稼働を進め」、「引き続き活用していく」のであり、「必要とされる規模を十分に見極めて、その規模を確保する」とまで踏み込んだ。2030年時点などの数値目標は明示されなかったが、少なくともその程度の将来において、原発は推進し続けるのであり、そのためには新増設も行うという決意表明であろう。

その理由は、「優れた安定供給性と効率性」という、原発への高い評価である。原発は「準国産エネルギー源」であり、「運転コストが低廉で変動も少な」い。2Eの視点に鑑みれば、「エネルギー需給構造の安定性を支える基盤となる」上に、「温室効果ガスの排出もない」。「安全性の確保を大前提に」すれば、3E+Sのすべてを満たす理想的な電源として、原発には3.11以前と同様の高い評価が与えられている。

graph1

 

そのために、批判が集まっている「高レベル放射性廃棄物については、国が前面に立って最終処分に向けた取組を進める」と共に、「核燃料サイクル政策」も引き続き推進するとした。他方、原発の安全性については、「いかなる事情よりも安全性を最優先する」と標榜しつつも、原子力規制委員会の独立性に配慮したのか、経済産業省としての施策は限定的で、「原子力事業者」が「自主的に不断に安全を追求する」といった表記が目立つ。

[*1]朝日新聞デジタル(2014年1月23日)。

[*2]2013年1月25日の日本経済再生本部における「総理指示」。2013年2月28日の安倍総理による施政方針演説でも同様の発言がなされている。

[*3]2013年2月28日の安倍総理による施政方針演説。

グリーンエネルギー革命から再エネ後退へ

原発とは対照的に、再生可能エネルギー(再エネ)の優先順位は大いに低下した。エネ環戦略では、再エネは「グリーンエネルギー革命」の柱と期待されたが、今回の計画案では、「様々な課題が存在する」「有望な」エネルギー源と定義され、「経済性等とのバランスのとれた開発」が不可欠という。そのため、「今後3年程度」「導入を最大限加速」するものの、あくまで「中長期的な自立化を目指」す。原子力や天然ガスには、「重要な」という形容詞が加えられたが、再エネにはなかった。

その第1の理由は、総合的に見たコストの高さだ。太陽光は、「中長期的に」「コスト低減が達成され」ても、「昼間のピーク需要を補」う位置づけに過ぎず、地熱も「開発には時間とコストがかかる」。第2の理由は、出力変動という安定供給上の課題である。太陽光には「出力不安定性などの安定供給上の問題があることから、更なる技術革新が必要」という。風力は、「大規模に開発できれば」「火力並」のコストだが、「出力変動」の問題があるため、「系統の整備」、「蓄電池の活用」などが不可欠であり、結果的に経済性は低くなる。

電源構成の数値目標は、再エネについても設定されなかった。欧州では、政府のコミットメントとなる再エネ導入目標を設けることが一般的で、それが投資家に安心感を与えると共に、買取価格の改定の指標にもなってきた。原発の稼働状況とは無関係に、再エネの導入目標を設定することは可能なはずだが、再エネ事業者などの要求にもかかわらず[*4]、見送られた。

そして、2012年から施行された固定価格買取制度については、早くも抜本的な見直しが示唆されている。「コスト負担増や系統強化等の課題を含め諸外国の状況等も参考に」、「エネルギー基本計画改定に伴いその在り方を総合的に検討し、その結果に基づいて必要な措置を講じる」。確かに再エネ特措法では、附則10条に「見直し」が規定されていたが、その方向性は自明ではなかった[*5]。再エネの重要性が下がった基本計画に則って制度を見直すとすれば、縮小や廃止になる可能性もある。

このように今回の計画案は、原発復活・再エネ後退とも言うべき内容であり、民主党政権のエネ環戦略からは180度の転換となる。それは政権交代の成果であり、民主主義の証としてそれ自体が何ら批判されるべきことではない。しかしながら、政策転換の中身を詳細に見れば、次の3点において大いに問題があると考える。

建前の基本方針、本音の個別施策

安倍内閣は、成立直後から「できる限り原発依存度を低減させ」るとの基本方針を示してきた。それは、今回の計画案にも明記されている。しかしながら、同じ政策文書における原発に関する個別の表記や施策は、明らかに推進や維持拡大を志向している。基本方針と個別施策が矛盾しているのである。

「低減」と言いつつも、その到達目標や具体的な工程、施策は触れられていない。民主党政権下では、原発依存度について、2030年時点で0%、15%、20~25%という3つのシナリオが提示され、国民的議論を行った。その結果が「2030年代の原発稼働ゼロ」だったわけだが、それと比べれば、どの程度の時間軸でどこまで減らすのか増やすのか、中長期的な方向性が分からない内容になってしまった[*6]。

政府の政策文書において、抽象的な方針と個別施策の整合性が取れないことは、実は必ずしも珍しいことではない。本来、基本方針こそ重要で、個別施策はそれに準拠しているはずだ。一方で、方針は抽象的で解釈の余地が大きいのに対して、個別施策はそうはいかない。かつて経済財政政策担当大臣として政策形成に携わった竹中平蔵氏は、「戦略は細部に宿る」と言ったが[*7]、多くの場合官僚が作成する政策文書において、細部についての記述こそが、政策に正当性を与える拠り所となる。要するに、個別施策にこそ執筆者の本音が表れているはずだ。政府は、原発依存度を低減させたいのではなく、復活させたいのである。

同様のことは、再エネについても言える。原発依存度の低減の手段としても、「再生可能エネルギーの導入を最大限加速していく」との基本方針が、計画案には明記されている。一方で、消極的な評価や限定的な普及策が列挙されており、両者は矛盾している。本音は後者である。政府は、再エネを大量導入したいのではなく、ほどほどに抑えたいのである。それは、原発復活の妨げになるという判断もあるのだろう。

前述の通り、政策文書において基本方針と個別施策の整合性が取れないことは珍しくはない。縦割りを旨とする官僚組織は、1つの政策文書の中にさまざまな方面からの要求に応えて多様な施策を盛り込ませる必要があり、どうしても総花的になる。しかしながら、方針と個別施策がこれほど矛盾する事例は、余りお目にかかることはない。経済産業省以上に原発を推進するために設置された原子力委員会[*8]が、この計画案の矛盾に異議を唱えたほどだ[*9]。これが第1の問題点である。

安定供給に関する理屈

政策転換の第2の問題点は、原発復活・再エネ後退の理屈である。真の方針が別のところにあったとしても、その理屈の筋が通っていれば、まだよい。残念ながら、政府が設定した2Eの判断基準に鑑みても、その説得力は乏しい。

まず、1つめのEであるエネルギーの安定供給について考える。安定供給とは多義的な概念であるため、エネルギーの調達先が国内か海外か(狭義のエネルギー安全保障)、出力が調整可能で系統運用上の問題がないか、発電設備が継続的に稼働できるか、の3つの要素に分けて検証する。

graph2

第1のエネルギー調達については、以前から原発は「準国産」と賞されてきたが、核燃料サイクル政策は実質的に破綻しており、「準」を付けるのにも無理があるのではないか[*10]。これに対して再エネは、「純国産」である上、原則として枯渇することはなく、他国との取り合いも起こらない。「国富流出」を本質的に解決する理想的なエネルギーといえるが、計画案の中ではそこまでの積極的な評価はなされていない。

第2の出力調整については、確かに風力や太陽光といった変動電源の大きな問題である。しかし欧州では、広域運用を含む系統運用技術の高度化や気象予測の精緻化により、出力変動の吸収が実践されており[*11]、日本でも同様の対策は可能である。また、日本に豊富な地熱やバイオマスは、出力調整ができる安定電源である。一方の原発は安定電源などと呼ばれるが、実は出力調整できないという問題を以前から抱えている[*12]。これは、夜間など軽負荷時の「下げ代不足」をもたらすため、電力会社は原発のために大量(2624万kW:世界最大)の揚水発電を建設してきた。これらは、天然の蓄電池として再エネの変動対策に転用可能だが、計画案の中でそのような指摘はない。

第3の稼働信頼性は、計画案では原発についても再エネについても触れられていないが、極めて重要な要素であろう。原発はこれまでにも、自然災害や事故のたびに頻繁に停止してきた。一度停止すると再稼動に時間がかかり、大規模集中型電源であるためその影響が大きい。2007年の中越沖地震の時にも、柏崎刈羽原発(世界最大の7基が立地)が長期間停止し、東京電力管内で供給力不足が表面化した[*13]。これに対して再エネは、設備利用率は低いものがあるが、年間で見れば確実にそれを期待できる。災害などにも強い上、分散立地しているため、一部が停止してもその影響は限定される。

[*4]例えば、自然エネルギーの普及に熱心な自治体や関連企業などの集まりである、自然エネルギー協議会。

[*5]当初の法案では「2021年3月31日までの間に廃止を含めた見直しを行う」とされていたが、「抜本的な見直し」に修正された。例えば、2011年8月24日の参議院経済産業委員会での議論を参照のこと。

[*6]基本政策分科会の委員である橘川一橋大学教授は、「『依存度は可能な限り下げる』としつつも『必要な量は確保する』としており、いったい何を言っているのか分からない」と、原子力の位置づけに関する記述を批判している。日本経済新聞(2014年1月20日)。

[*7]『構造改革の真実』(日本経済新聞社、2006年)。

[*8]「原子力の研究、開発及び利用に関する行政の民主的な運営を図るため」。原子力委員会設置法1条。

[*9](政府は)「原発依存度をできる限り低減させていくという方針の下で、原子力発電を重要なベース電源に位置づけるとしたことについて、この判断に至った熟慮の内容を国民に丁寧に説明するべきである。」「『エネルギー基本計画に対する意見』について」。原子力委員会(2014年1月9日)。近藤委員長は、「原子力ありきで決めていく問題ではない」と、拙速な審議を戒めたとのこと。毎日新聞(2014年1月9日)。

[*10]それを意識してか、今回の計画案では、「数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる」と説明されている。しかし、他の化石燃料と比べての優位性に過ぎない。

[*11]例えばスペインでは、風力と太陽光を合わせて19%の導入率(kWhベース:日本は1%)を誇るが、独立した送電会社REEによる再エネを優先した系統運用の下、停電が頻発しているわけではない。

[*12]フランスなどでは原発の出力調整運転を行っているが、日本では24時間運転が原則である。

[*13]その結果、東京電力は1776億円の当期純損失(単独:2008年3月期)を計上した。2009年3月期も、安全対策の遅れなどにより1131億円の純損失であった。

コストに関する理屈

次に、2つめのEであるコストについて考える。3.11以前は、原発のコストは5.9円/kWhと極めて低いと言われ、それが推進理由となってきた。しかし3.11後には、社会的費用を含めれば実態はもっと高いとの批判が、寄せられるようになった[*14]。これを受けて民主党政権ではコスト等検証委員会が設置され、原発は下限値として8.9円/kWhであり、事故対応費用次第で更に高くなるという結論が導かれた。

計画案ではこのような真のコストについての分析は十分になされず[*15]、ただ「運転コストが低廉」との前提で議論が進められている。ここでは改めて、4つの要素に分けて考える。それらは、変動費の多くを占めるエネルギー費用、固定費の多くを占める発電所を中心とした設備投資費用、その他の付随設備への投資費用、第三者が支払っている外部費用である。

graph3


 

第1のエネルギー費用であるが、原発はウラン燃料費が占める割合は非常に小さく、1円/kWhに過ぎない[*16]。これを石油火力(16円/kWh)や天然ガス火力(11円/kWh)で補おうとすれば、「国富流出」が起きるのは当然である。他方再エネは、バイオマスなどを除けばタダであることは、もっと評価されても良いのではないか。現時点でタダであるのみならず、地球環境が維持される限り、価格高騰リスクがない。

とはいえ第2に設備投資費用を見れば、再エネは安くない。だから固定価格買取制度が必要なのであり、計画案では賦課金負担を問題視している[*17]。一方で、再エネの設備費用は長期的に下がる傾向にあることに、留意すべきであろう。太陽光発電はとくにその傾向が強く、ドイツではすでに買取価格が家庭用電気料金以下になっている[*18]。反対に原発は、安全規制の強化に伴い建設費用が上昇し、新設中のフランスやフィンランドでは当初予定の2倍以上になり1兆円(1基当たり)を超えている。日本でも、既存の原発の追加安全対策費用が1.7兆円に達しており、「安価神話」は崩壊している。[*19]。

第3の付随的投資とは、送電網の建設費や蓄電池の設置費を指す。確かに兆円単位の莫大な費用がかかり、計画案では再エネの問題点と指摘されている。しかし、日本の10倍以上の再エネ導入率を誇る欧州諸国では、蓄電池をほとんど使っておらず、デマンドレスポンスなどスマート化による対応もこれからである。日本は再エネの後発国であり、系統安定化対策への投資はこれから徐々に発生すると考えられ、技術革新によるコストダウンにも期待できる。そもそも送電網や揚水発電は、原発を含むすべての電源に必要な共通インフラであり、その負担を再エネにのみ押し付けるのは適切ではない。ここにバックエンド費用を含めれば、原発の総額は不明であり、既に 廃炉の積立不足が懸念され、会計処理の変更を行ったところである。

第4の外部費用については、前述の原発の8.9円/kWhの試算において政策的支援などが勘案され、事故対応費用は下限値として5.8兆円が仮り置きされた。それから2年が経過し、未だ総額は不明なものの、少なくとも10兆円は上回る見込みだ[*20]。さらに注目すべきは、計画案において福島の「廃炉・汚染水対策」や「高レベル放射性廃棄物の最終処分」に、「国が前面に立つ」という表記が目立つことである[*21]。政府の役割を強化することは結構だが、根拠法なしに政府が民間企業に財務的支援を行うことは問題がある上、真のコストが分からなくなる。

一方で再エネは、固定価格買取制度が最大の財務的支援策だが、価格設定の過程が審議会という形でオープンにされ、負担のあり方も賦課金制度の下で電気料金明細に記されるなど、透明性が高い。ドイツでは、賦課金が家庭用電気料金の20%を超えるなど、決して安いとは言えないが、日本は後発でもあり制御可能な範囲内と言うべきであろう。

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原発が高コストで経済性が低いことは、少なくとも先進国では常識である。だから自由化が進んだアメリカでは過去30年間、イギリスでも20年近い間、原発の新設はない。そのためイギリス政府は、原発に対して15.7円/kWhで35年間の収入保証を行おうとしている(表4)。筆者はイギリスの原発事業者にこの件についてヒアリングしたが、原発はハイコスト・ハイリスクであるから、ここまで保証してくれなければ事業をできないと明言していた。

このように、2Eに基づいて判断すれば、原発の優位性は疑わしい。むしろ、「長期的、総合的かつ計画的」な観点(エネルギー政策基本法12条)からは、再エネの優位性が高いのではないか。それでも計画案は、3E+Sよりも2Eにこだわった。それは、原発を復活させ、再エネを否定するために逆算したからではないか。

S(安全性)については、言うまでもなく原発は再エネに勝ち目がない。一方でもう1つのE(環境適合性)は、原発の強みだと思われるが、あまり強調されていない。温室効果ガスについては再エネも劣らない上、放射能汚染という環境問題が3.11後に明らかになってしまった。そのため残る2Eであれば、「安定神話」と「安価神話」に基づいたストーリーを描けると考えたのではなかったか。安定供給といっても、出力の変動性に重きを置いた記述を心がけ、稼動信頼性には触れない。コストについては、固定価格買取や出力変動対策の負担を強調する一方で、原発は新たな政策的支援を列挙しつつも、それらを負担と見なさなかった。

[*14]例えば、大島堅一『原発のコスト』(岩波新書)を参照のこと。

[*15]基本政策分科会の場では、例えば京都大学教授の植田委員(コスト等検証委員会の委員でもあった)が真のコストについて問題提起しているが、議論が深まらずに終わっている。

[*16]基本政策分科会資料(2013年8月27日)。

[*17]現在の年間の負担は、「国全体で3500億円」であり、さらに「今後増加していく」。

[*18]コスト等検証委員会の試算では、日本でも2030年には12.1円/kWh近くまでメガソーラーの発電コストが下がるとされている。

[*19]日本経済新聞(2013年12月1日)。当初想定が10ヶ月間で倍増し、今後もさらに膨らむのが確実とのこと。

[*20]原子力災害対策本部「原子力災害からの福島復興の加速に向けて(案)」(2013年12月20日)。事故賠償に5.4兆円、除染に2.5兆円、汚染土の中間貯蔵施設に1.1兆円、廃炉に2兆円などと見込まれている。

[*21]福島の除染に対しても、東京電力株の売却益から2兆円が投入されるようだ。

政策形成過程における旧態依然

第3の問題点は、エネルギー政策の決め方が3.11以前に逆戻りしてしまったことである。福島原発事故の最大の反省点は、限られた数の利害関係者を中心に、国民があずかり知らないところでエネルギー政策が決められ、いくつもの「神話」が形作られたことであった。3.11を経て、エネルギー政策の形成過程を変革しなければならないという意見に、異論を唱える人は少ないのではないか。

だからこそ民主党政権下では、閣僚からなるエネルギー・環境会議を設置し、内閣がエネルギー政策を統括しようとした。複数の省庁の複数の審議会の議論をもとにして、エネルギー・環境会議がいわゆる3つのシナリオを提示した上で、全国各地で公聴会を行うと共に、討論型世論調査も試みた。これらの到達点が、脱原発のエネ環戦略であった。

今回の計画案でも、基本認識は同じようである。「福島第一原子力発電所事故の発生を深く反省」する「ことが、エネルギー政策を再構築することの出発点となる」。その反省点とは、「政府及び原子力事業者」が「安全神話」に陥ったことであり、「国民の間に原子力に対する不信・不安が高まり」、「エネルギーに関わる行政・事業者に対する信頼が低下している」。「この状況を真摯に受け止め、その反省に立って信頼関係を構築するためにも、原子力に関する丁寧な広聴・広報を進める必要がある」。

しかしながら、政策形成過程の改革や行政への信頼の回復について、具体的施策や工程表はない。そもそも経済産業省の審議会ですべてを決めようとしていること、その人選が原発推進に向けて偏ったものとなったことが、旧態依然と言われてもやむを得ないだろう。その結果、基本政策分科会では、原発の2Eに関する徹底的な議論はなされず、国民の意見を反映しようという努力もなされなかった[*22]。民主党政権下の基本問題委員会では、「二項対立」などと揶揄されたが、委員間で原発や再エネについて活発な議論が展開され、事務局はその対立点を資料として分かりやすくまとめた[*23]ことと比べれば、対照的であった。

ここでも、基本方針と個別施策(の欠落)との間で矛盾がある。その上で、前述の通り、「安定神話」と「安価神話」を取り上げて原発を正当化するようでは、どちらに本音があるかは明らかであろう。閣議決定は延期されたものの、すでに終了した定例のパブリックコメントを除けば、国民的議論が行われる予定はない。計画案の最後に、「エネルギーに関する国民各層の理解の増進」という節を付けただけでは、「エネルギー政策の立案のプロセスの透明性を高め、政策に対する信頼を得ていく」ことは、とてもできないだろう。

どうして国民的議論を行うなど、政策形成過程を改革したくないのか。それは、原発が抱える多くの矛盾点や莫大なコストを、執筆者自身が十分に理解しているからではないか。その証拠に、原発について、「運転コストが低廉」(強調筆者)と表記した。これは、燃料費に限定すれば誤りとは言いがたいからであろう。

そして、様々な隠されたコストが顕在化しつつあるからこそ、それを十分に認識しているからこそ、「国が前面に立つ」施策を列挙した。その最たるものが、「電力システム改革によって競争が進展した環境下においても、原子力事業者がこうした課題に対応できるよう、海外の事例も参考にしつつ、事業環境の在り方について検討を行う」という一文である。この分かり難い文章が意味するところは、今後大量の廃炉や安全対策、放射性廃棄物処理のため、原発には莫大な追加コストが発生することを踏まえ、別途イギリスのような支援策を講じるということだ。このような理解を前提とすれば、国民的議論ができるはずはない。

それでは、そこまでして原発を推進したい理由は何か。それは、2Eでも3E+Sでもないところに、重要な目的があるからではないか。筆者の考えでは、潜在的核抑止力や日米関係など軍事的安全保障のためと思われるが、計画案では明確に触れられていないため、推測の域を出ない。いずれにしろ、真の目的とそれに必要な真のコストが分からなければ、国民には判断のしようがないのではないか。

エネルギー基本計画の行方

このように本音と建前が錯綜し、問題点が多い計画案であるから、公表後はさまざまな反響を呼んでいる。計画案が出された時点では、2014年1月中の閣議決定が予定されていた。しかし、原発の推進を大きく打ち出した内容に与党内からも批判が高まり[*24]、また東京都知事選で原発問題が争点化してきたため、政府は基本計画の閣議決定を2月末に延期するという。

これに関連して茂木経済産業大臣は、原発について、「新増設について方向性を出すということは想定」していない、再生可能エネルギーについて、「3年間にとどまらず、その先も見据えて、より積極的な表現にしていきたい」と、基本計画の書きぶりを修正することまで示唆した[*25]。原発復活の印象を薄め、再エネ後退を改める方向である。

省庁の審議会による政府への答申を受け取った政府が本質的な部分において修正する。そのために閣議決定を1か月以上先延ばしするのは、異例である。この計画案は、基本政策分科会の委員が勝手に書いたわけではなく、経済産業省の事務方が書いたものである。その内容は、経済産業大臣は元より総理官邸も了承していたはずだ。そもそも経済産業省は、この計画案に「原発の新増設を盛り込みたい」とまで考えていたが、世論の反発を気にする総理官邸から止められたという[*26]。そこまで内容を調整した上に策定した計画案だったはずだ。

原発をどうするか、エネルギー政策をどうするかは、確かに極めて難しい問題である。長期的かつ包括的な視野に基づき、複数の学術分野にまたがる知識が総合的に必要とされ、それでも不確実性が極めて高い。と同時に、3.11を経験した我々は、エネルギー政策を大きく変えなければならないということも、多くの方が同意するのではないか。だからこそ、十分な議論を尽くした上で、できる限り国民的な合意形成を図るような努力が欠かせない。それは、1つの政権で決着するようなものではなく、何度かの政権交代を経て確定するものかもしれない。

1月25日に安倍総理は、エネルギー基本計画の閣議決定の遅れについて、「国民に徹底的に意見をうかがいながら党とも徹底的に議論をして、あるべきエネルギー政策をつくっていきたい」と述べたという[*27]。東京都知事選の結果がどうなるのか、それを受けてエネルギー基本計画がどうなるのか、現時点ではまったく見通せない。いずれにしても、本音の議論を尽くした上で、理屈の通ったエネルギー政策が策定されるよう、心から望みたい。今回の都知事選がその第一歩となる可能性は、十分にあるのではないか。

[*22]消費生活アドバイザーの辰巳委員は、特に原発について「国民の意見」が「全く反映されてはいない」と、審議プロセスを批判している。第13回基本政策分科会資料(2013年12月13日)

[*23]第25回基本問題委員会資料4「各々の選択肢の候補に関して提起された主な指摘について」(2012年5月28日)。

[*24]自民党・エネルギー政策議員連盟は、原発を「過渡期の電源」と位置づけて依存度を下げる工程表を示すべきとした提言を、2014年1月23日に発表した。

[*25]経済産業大臣記者会見(2014年1月14日)。

[*26]朝日新聞(2014年1月14日)。

[*27]日経ウェブ版(2014年1月25日)。

サムネイル「Catch the sun energy / Sunset Afterglow」MIXTRIBE

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プロフィール

高橋洋

富士通総研主任研究員。専門は電力・エネルギー政策。情報通信政策。経済産業省総合資源エネルギー調査会 電力システム改革専門委員会委員。大阪府市 特別参与(エネルギー戦略会議 委員)。著書に『電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生』(日本経済新聞出版社)など。

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