2013.01.08

性的マイノリティへのいじめをなくすために

明智カイト氏インタビュー

社会 #LGBT#いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン#ジェンダー#チャイルドライン

「女らしさ」「男らしさ」とはなんだろう。学生の頃に、友だちのことを「女の子みたい」「男の子みたい」とか「なよなよしてる」と悪気なくからかった経験を持つ人、それを傍観していた人は多くいるのではないだろうか。ジェンダーに関するからかいが当たり前になっている社会ってなんだろう。大人が守らずに、誰が子どもを守ってあげられるのだろう。

社会に蔓延るLGBTなどの性的マイノリティに対する偏見をなくさなければ、いじめをなくすことはできない。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」(http://ameblo.jp/respectwhiteribbon/)共同代表であり、「ストップいじめプロジェクトチーム」(ストップいじめ!ナビ http://stopijime.jp/)にも参加されている明智カイトさんにお話を伺った。(聞き手・構成/出口優夏)

 

「互助」だけではなく「公助」も

―― はじめに、「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」とはどういった団体なのでしょうか?

もともとホワイトリボン・キャンペーンとは、

(1)開発途上国における妊産婦の命と健康を守る運動

(2)男性が男性に対し、男性による女性への暴力(特にDV)を止めようと呼びかける運動

(3)自分がLGBTなどの性的マイノリティであることに苦しみ、自殺してしまう若者を救うための運動

(4)対テロ戦争を標榜する報復攻撃を止めようと呼びかける運動

の4つの社会運動のことを指します。

「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」では(2)と(3)に焦点を当て、「啓発・啓蒙活動によってジェンダー/セクシュアリティを理由とした暴力や差別のない社会を目指す」という理念のもとに、パネル展や講演会、ロビー活動などを行っています。

わたしたちは、数多くあるLGBT団体のなかでも特殊なスタンスをとっています。よく「自助」「互助」「公助」という言葉を聞くと思いますが、通常LGBTコミュニティーでは、電話相談や交流イベント開催といった「互助」が基本となっています。性的マイノリティに対する公的な支援や法整備がまったくなされていないので、「公助」をあてにしても仕方ないと考えているんですね。

しかし、「互助」はとても負担が大きいという現状があります。普通の仕事をやりつつ、ボランティアとして活動しなければいけないので、身体的にも金銭的にもどんどん疲弊してしまう。そう考えると「公助」も不可欠です。「それぞれの領域がどこまでやればよいのか」というラインを明確にする必要があるということで、わたしたちは「公助」つまり行政に対する働きかけや外部の支援者に対する啓蒙活動に力を入れています。

自分が動かなきゃ誰も動いてくれない

―― 明智さんが「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

わたしも学生の頃に「女の子っぽい」、「なよなよしている」という理由でいじめを受けていました。今でもいじめの後遺症に苦しんでいて、自殺未遂をしたこともあります。

もともとは「自分は助けられる方の立場であって、助ける方の立場ではない」と考えていたので、LGBTの活動はずっと傍観していたんです。でも、ある支援団体に要望を出した際に意図とはまったく異なることをされてしまった。自分は、「全部の政党に対して要望をしてほしい」と頼んだのですが、その団体は「こんな人がいるので、話を聞いて、票や支持の獲得のために使って下さい」と、特定の政党に私を売り渡してしまったんです。

「なぜ?」と聞くと、「もし他の政党に要望すると、懇意にしている政党が嫌がるので。」と言われてしまい、まったく意味がわからなかった。それならば、当事者である自分がやるしかないと思いました。

社会が性的マイノリティへのいじめを許容している

―― 性的マイノリティの当事者がいじめの被害者になりやすいのはなぜでしょうか。

性的マイノリティに対するいじめの発端というのは、学校のなかで比較的「なよなよしている」とか「オカマっぽい」、「女らしくない」ような子をからかうところから始まります。そこから殴る蹴るといった暴力的ないじめに繋がっていってしまう。

小中学生だと性自認は揺らぐし、自分が何者なのかもわかっていない、自分で情報や仲間を集めることも難しい時期です。そんな時期に自分を否定されてしまうと、立ち直りが難しくなってしまう。しかし、今の日本社会には「そういった子どもたちはいじめられて当たり前」という風潮が根強くあります。むしろ、「男は男らしく」「女は女らしく」という固定観念は、助ける側であるはずの大人の方が強く持っています。だから親や先生に相談しても、「なよなよしているのを直せばいい」とった的を射ない解決法ばかり提示され、ちゃんと向き合ってもらえないことが多い。これは教育の問題というよりも、日本社会全体の問題です。

本当であれば、理由となっているジェンダーハラスメントよりも、殴る蹴るといった具体的ないじめの中身の方が重大な問題なはずです。いじめの中身に焦点を当てたケアがされていないというのはおかしい。とくに性的いじめ、性的暴力に関しては被害を周りに訴えづらいということもあるので、それを受け止め、解決してあげる環境をつくってあげなければいけません。

身近に相談できる人をつくる必要性

―― 現行では具体的にどんな解決策があるでしょうか?

チャイルドライン(http://www.childline.or.jp/)などが行っている電話相談が主なものです。あとはメールやインターネット上の掲示板などでの相談です。しかし、これらの方法は知らない大人や仲間に助けてもらうというもので、顔が見える援助ではありません。

いじめを受けている子にとって、身近に相談できる人がいないというのは大きな問題です。本当ならば、家族、友人や先生、地域の人や病院の先生、カウンセラーとともに立ち向かっていかなければなりません。でも、いじめや「いじめの後遺症」で苦しむ当事者が病院に行ったとしても、精神病扱いされて薬をもらうだけで終わりになってしまうという現状があります。それは本質的に間違っている。わたしの場合、「うつ病ではない」と自分では思っていますが、おそらく病院に行けば「うつ病」という診断を受けてしまうと思います。でも、それは適切なケアを受けられなかったことに起因するものであり、自分ではなく社会に原因があるはずです。その原因を解消していくことが必要です。

―― そうですよね。電話相談ができる子って、じつは自分で乗り越えられる力を持っている子だと思います。苦しんでいても電話をすることができない子も大勢いるはずだから、結局のところ根本から社会を変えていかないといけない。

大人だったらハラスメントやいじめは裁判になる程の問題です。でも、子ども同士ではなかなか裁判にならない。自分から法的に訴える力もありません。まわりに支えてくれる大人がいない子どもに「一人で立ち向かえ」というのはどう考えても無理があります。子どもの問題に適切に介入していくのが大人の責任であるはずなのに、わたしには大人が大人を放棄しているとしか思えない。本来は大人によって子どもは保護されるべきなのに、子どもが大人をやらされているという気がしています。

現在の社会は、偶然にいじめのターゲットになってしまったがために、その傷が癒えずとことん堕ちていってしまうことを許容しています。もし、わたしもいじめに遭っていなければ、カミングアウトをすることもなく今ごろ楽しく生きていたでしょう。いじめのターゲットになるか否かでその後の人生が決まってしまうというのはどうしても納得がいかない。たとえ、いじめにあったとしても、すぐに立ち直れる社会をつくっていく必要があります。

社会を変えていくために

―― では具体的にどんな活動を行っていけば、社会を変えていくことができるのでしょう?

社会が変わるためには、全員が性的マイノリティに対する適切な知識をもって、ホモフォビアをなくしていくことが必要です。いじめを防ぐために社会からホモフォビアをなくし、いじめが起きたときには周りの大人たちが正しい心のケアをしていくという両輪で対応していかなければいけません。

実際、現場の声をきいてみると、「性的マイノリティで悩んでいる人は多く相談に来るが、知識がなく当事者でもないから対処の方法がわからない」という方が多くいます。そういった人たちが基礎知識を習得できるように、わたしたちは支援活動をしている人や学校の先生、電話相談員、カウンセラーの方々などを対象とした勉強会や講習会、シンポジウムを行っています。

また、行政を変えていくということです。性的マイノリティに関する公的支援や法整備を整えていくことで、自然と国民の意識も変わってきます。

わたしたちは、2011年から自殺総合対策大綱の改正にむけて性的マイノリティの視点を包括した新しい大綱の策定を要望してきました。自殺総合対策大綱の改正は、専門家の方の意見を集め、それを踏まえた上で自殺対策の担当政務三役と各省庁が改正案をまとめ、閣議決定をするという流れで行われます。わたしたちは専門家、政務三役、官僚の方にそれぞれ要望書を提出するという活動を行ってきました。

官僚のなかには性的マイノリティへの抵抗を抱いている人も多いので、性的マイノリティと自殺リスクに関する統計をとっている日高庸晴先生にもご協力いただいて、「自殺リスクが高いので、国として対策を行う必要がある」という事実を数字的に提示しました。

その結果として、2012年8月28日に初めて、自殺総合対策大綱に「性的マイノリティ」の文言が明記されました。これまで「性同一性障害者」の存在は明記しても、「同性愛者」や「両性愛者」などの存在を明記することを頑なに拒んできた政府が、それらを包括する「性的マイノリティ」という文言を明記したのはきわめて画期的なことです。また今回の明記によって、他の法律にも明記される可能性が出てきたので、そちらにも積極的にアプローチしていきたいと考えています、

―― 官僚の抵抗というのは、長らく与党であった自民党の保守的な考えの影響を受けているということなのでしょうか?

その影響はあると思います。実際のところ、大部分の国会議員はどうでもいいと思っているんですが、頑強に「性的マイノリティは家族を壊す」とか「同性愛者を増やすな」と主張している国会議員がごく少数います。そういう人が他の国会議員や官僚に「協力するな」とか「余計なことするな」と言っている。権力のある国会議員からの圧力は無視できないですから、官僚は板挟みになってしまっているという現状があります。

また、昔から日本には「右翼は反対で、左翼は賛成」というジェンダーに関するイデオロギー対立があります。そういった政治論争に巻き込まれてしまうと問題解決するのが困難になってしまう危険性がありますので、注意しなければいけません。アメリカでは、同性婚の是非が昔から政治家のあいだでのセールスポイントとなっていて、政治の道具として利用されてしまっています。しかし、わたしたちは問題解決をしたいので、政治の道具になってしまうのは避けたい。たとえ嫌がられたとしても、自民党の議員さんたちにも話を聞いてもらえるように根気強く努力していきたいと思います。

LGBTコミュニティーと外部をリンクする

―― 今までのLGBT団体の活動では、なかなか国会に声が届くことがなかった。今回のキャンペーンはなぜ成功できたんでしょうか?

 

従来のLGBTコミュニティーでは、パレードや当事者の選挙立候補の応援といった楽しい話題づくりを重視していました。それがコミュニティーのなかに発信されて、盛り上がっていくわけですが、メディアや行政といった外部にはまったく伝わっていないという状況だったんです。

当たり前ですが、外の世界とリンクしていなければ取り上げようがありませんよね。また、、自助で生活できているLGBTの方たちが中心となっていた。彼らはLGBTの活動を楽しむ余裕がある人たちです。しかし、わたしたちは互助や公助が必要な人たち、つまりいじめや自殺など生死に関わるような問題に焦点を当てて呼びかけを行ってきました。その結果として、意外にもマスコミの方がわたしたちの活動に注目し、連続的に取材をしてくださったことで、より外の世界とリンクすることができたと思います。

また、政治家や行政とうまく連携していくということも重要です。従来のLGBTのロビー活動というのは、当事者たちが支持している政党や、仲良くしている議員のみに要望していくという縦割りのロビー活動のみでした。しかし、わたしたちはすべての政党に対して同じ内容の要望書を提出し、横並びのロビー活動を行っています。これによって、各政党間の足並みを揃えることができ、わたしたちの要望が実現されやすくなりました。

2009年に「超党派勉強会でっち上げ事件」というものがありました。これは、ある党がLGBTへの活動実績をつくるために、実際はその党単独で行っていた勉強会を、まるで超党派で行っているかのように見せかけていたというものでした。わたしが各政党の国会議員の方たちにご挨拶へ伺っていたときに「あの政党でやっている勉強会は一体何なの?」と聞かれたことによって露見したのですが、この事件のせいで各政党のあいだに不協和音が生じてしまった。これは当事者が政治家を上手くコントロールできていないことから生じる問題です。一つひとつの問題を当事者が主体となってコントロールしていくというのはとても負担が大きいので、対応策を考えていかなければいけないと思っています。

わたしたちがやりたいことは、当事者、メディア、専門家が連携して、日本政府にどう働きかけていくか、どう動かしていくか考えていくということです。自殺総合対策大綱の改正では連携が上手くいった例だと思います。当事者自身が、いろんな人に万遍なく働きかけをするということを、これからも重視していかなければならないと考えています。

国だけでなく各自治体へ

―― 最後に、今後の展望をお聞かせください。

通常、市民活動というものは、地域で啓蒙啓発を行って区議会・市議会議員へ、そこから都議会・県議会議員へ、最後に国会議員、というように地域から活動が拡大していくものです。

しかし、わたしたちの場合は国に働きかけるところから始めてしまったので、これからは地域に根差した活動を行う必要があると思っています。大きな方針を決めるのは国ですが、具体的にどうしていくかというのは自治体が決めることです。現在、東京都や世田谷区で行っている活動を足掛かりとして、他の自治体にも広げていきたいと考えています。

(12月8日 渋谷にて)

プロフィール

明智カイトNPO法人市民アドボカシー連盟代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。中学生の時にいじめを受け、自殺未遂をした経験から「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、ホワイト企業の証しである「ホワイトマーク」を推進している安全衛生優良企業マーク推進機構の顧問などを務めている。

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