現代演劇の最新事情――新世代の登場と、演劇の遺伝子

長い間、演劇はカルチャーの鬼っ子だった。かつては映画や音楽やアートと同じ感覚で観たり論じたりすることができたのに、その輪からはずれてしまった……昨秋刊行された『演劇最強論』(飛鳥新社)は、そんな嘆き節から始まる。しかし、そのはぐれ者が「最強」とはどういうことだろう。著者は、演劇ジャーナリストの徳永京子さん、批評家の藤原ちからさん。二人のトークイベント、「『演劇最強論』の最新論〜ところで今、演劇って、どうなってる?」から、現代演劇の最新事情をお届けする。(構成/長瀬千雅)

 

 

「ゆとり派」演劇人の驚き

 

藤原 「演劇って今、どうなってる?」というテーマでお話ししていきたいと思いますが、まずこの本をなぜ出版することになったかということからはじめましょうか。

 

徳永 出版したのは2013年ですが、その時点での日本の演劇シーンを総ざらえするという本ではなく、現在の演劇事情を、ある角度をもって、私と藤原さんで切り取った本です。卑近な言い方になりますが、新しい風、いままでと違う風が演劇に吹いてきているなという直感があって、それをなんとか本というかたちに残せないかと思ったんですね。

 

 

演劇最強論

 

 

藤原 徳永さんと最初に会ったのが2009年の終わりぐらいでしたね。それで、おもしろい劇団があったらお互いに知らせ合おうみたいな、謎の契約ができたんです。これはおもしろかったとか、正直これは観なくていいのではないかとか、正直な感想をメールでやりとりしていて、二人とも「これはやばい!」となったのが、マームとジプシーやロロを観たときでした。

 

徳永 2010年に、マームとジプシーや、ロロ、範宙遊泳、ジエン社、バナナ学園純情乙女組(注:2012年解散)といった劇団を続けざまに観て、この人たちは一体何なんだろうと、ちょっと言葉にならないような驚きを感じたんです。一人ではそれが把握しきれないということで、劇評サイトの「ワンダーランド」で、藤原さんと、ライターの日夏ユタカさんと鼎談をしたんですね。

 

そのときに話したことのひとつは、「小劇場の作・演出家や俳優にイケメンやかわいい女の子が増えた」ってことでしたね。これは決してミーハーな話ではなくて、モテる人や人気のある人が向かう業界には将来性があるんです。そういう人たちがお笑いやアイドルに行かずに演劇をやってること自体が注目すべきことで、演劇の人材が充実してきている。それから、「生まれたときから社会は低成長、でも選択肢が自由で垣根がない」という世代的な特徴です。それは彼らの特権でもあると( http://www.wonderlands.jp/archives/12665/ )。そういう話をしました。

 

 

徳永京子さん

徳永京子さん

 

 

藤原 ぼくは、2009年あたりからどうも新しい流れが起こっていて、それを言葉にする人がいないから自分がやらざるを得ないという意識で劇評を書き始めたんですね。だから乱暴に言ってしまえば、すでに有名で評価が定まっている人については、ぼくが観て何かを書くという必然性は感じなかったんです。刺激的な挑戦をしているのに、まだあまり知られていない存在を世に知らしめたい気持ちのほうが強かった。その時期に、徳永さんに声をかけていただいて、その鼎談に参加しました。

 

 

藤原ちからさん

藤原ちからさん

 

 

徳永 私は2009年から東京芸術劇場(芸劇)の企画運営委員をしていて、若手劇団の招聘や企画立案などをしているのですが、2011年に芸劇が改修工事で長く使えなかったときに、代わりにというわけでもないんですが、水天宮ピット(芸劇が運営する稽古用スタジオ)を数日間使えることになったんですね。

 

さっき言った5つの劇団は、当時は作品力や集客力、知名度の面でまだこれからでしたが、ショーケース形式なら紹介できるんじゃないかと思って、「芸劇eyes番外編『20年安泰。』」という企画を立てて、それぞれに短い作品をやってもらいました。明らかに、それまでと違う手ざわりの演劇を生み出すつくり手たちの台頭を、わかりやすいかたちで観てもらえると思ったんです。

 

彼らは、映画も音楽もアニメも享受した上で、最終的な表現方法として演劇を選んだ人たちなんですね。「自分には演劇しかない」という切実さではなく、「たくさんの候補のなかから演劇を選択した」、いわば「ゆとり」派。そう気づくと、他にも、いろんなカルチャーを演劇に混ぜ込んでつくっている作家がたくさんいることが見えてきました。

 

そういうことを考えたり、書いたりしているうちに、彼らは突然変異的に生まれたんじゃなくて、演劇の歴史と「見えない記憶」でつながっていると思ったんですね。60年代のアングラ演劇を実際には観ていないはずなのに、その遺伝子をなぜか作品の中に取り込んでいる人がいたり、系譜で言えば現代口語演劇でありながら(その提唱者である平田)オリザ・チルドレンでは片付けられない、もっとレンジの長い歴史観を備えている人が複数いるということも感じ始めた。そっちにも手を伸ばして、書いてみたいと思ったんですね。

 

 

■マームとジプシー

http://mum-gypsy.com/
主宰:藤田貴大。2007年旗揚げ。

 

 『Kと真夜中のほとりで』国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2012

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