医療通訳はだれのため?――在日外国人の健康格差、現実に即した医療体制とは

解消しない健康格差

 

近年、外国人旅行者の増加やオリンピックを契機に、日本を訪れる外国人のための医療体制が注目をあびている。1990年代以来、外国人の医療の相談に応じてきた私たちとしては、この課題に関心を持っていただけることはうれしいことである。しかし、その整備のあり方については一言お伝えしておきたい。

 

まず、在日外国人の健康状態はどのようなものだろうか。2010年の人口動態統計によると、日本に住んでいる外国人は、日本人に比べて男女ともに2割以上も死亡率が高い。同じ日本に住んでいても、外国人と日本人の間には明らかな健康格差が生じている。

 

このような格差は、もともとの病気があったり、もとから不健康だったからではないかという見方もあるかもしれない。もしそうであれば病気の種類によって死亡率に違いが出るだろう。しかし現実には、がん・心臓病・脳卒中と自殺を除く全ての病気で外国人の方が死亡率が高いのである。

 

 

図:主要死因別年齢調整死亡率の国籍(日本・外国)別にみた比較 -平成22年- 出典:平成26年度 人口動態統計特殊報告「日本における人口動態-外国人を含む人口動態統計-」から(データは平成22年のもの) http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/gaikoku14/dl/02.pdf

主要死因別年齢調整死亡率の国籍(日本・外国)別にみた比較 -平成22年- 出典:平成26年度 人口動態統計特殊報告「日本における人口動態-外国人を含む人口動態統計-」から(データは平成22年のもの)

 

こうした健康格差は、外国人の人口が急速に増えた1990年代以降から注目されている。当時は、就労するための適切な在留資格がなく、健康保険に入れない外国人労働者が多くいた。つまり、経済的理由により治療が受けられないことが、死亡率の高さの主な要因だと考えられていた。

 

その後、日本の経済情勢や労働政策が変化し、在留資格のない外国人の割合は約23%(1992)から2.6%(2015年)に激減した。そして、現在では医療機関を訪れる外国人の大半が健康保険加入している。

 

それでもこの格差は解消する気配がない。その原因には、外国人特有の問題である言葉の障壁が大きく影響しているのではないかと私は考えている。では言葉の不自由さがどのように健康リスクを増加させるのか。私がこれまでに出会った患者さんを例に紹介しよう。

 

 

言葉の壁と健康リスク

 

【ケース1】

50代の外国人女性は、甲状腺に腫瘍が見つかり病院に紹介された。検査の結果、癌が疑われ、吸引細胞診(腫瘍に針を刺して細胞レベルの診断をすること)をすることになった。病院側は、検査をするためには詳しい説明が必要なので、通訳ができる人を探して連れてくるように説明した。

 

しかし、言葉が堪能で平日の昼間に同席してくれる人を探すことは簡単ではなかった。女性は癌の疑いという医師の説明もよく理解ができておらず、結局一年近く病気を放置してしまった。

 

 

【ケース2】

30代の日系人の女性は、体の痛みで病院を受診し、指示されるままに5人の医師をめぐったが診断がつかなかった。ほとほと困ってしまい通訳者のいる診療所を受診したところ、重症の膠原病であることがわかり、すぐに大学病院に紹介され、翌日入院した。

 

 

【ケース3】

ある男性は、糖尿病のため大学病院で治療を受けていた。しかし、毎日3種類10数錠の薬を飲んでいても血糖が下がらず、ついにインスリンの注射が必要と言われた。注射を打ちたくなかった彼は、この時点で通訳の対応ができる医療機関に転院した。この結果、言葉の障害のため、食事指導の内容がほとんど理解されていなかったことが判明。じっくりと食事の注意を話したところ、インスリンは使わず一種類の薬だけで血糖がほぼ正常化した。

 

このように、言葉が不自由なために治療が遅れてしまったり、治療効果が上がらずにいる外国人の患者さんがたくさんいる。【次ページにつづく】

 

 

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