生活保護法改正法案、その問題点

日本の社会保障が危ない

 

5月17日、「生活保護法改正法案」が安倍内閣によって閣議決定され、今国会に提出される運びとなった。現在、「生活保護」など、日本の社会保障のあり方をめぐる議論は加速度的に動いている。

 

 

社会保障をめぐる大きな流れ

・社会保障制度改革国民会議 → 年金・医療・介護などについて議論中

・生活保護(生活扶助)の引き下げ → 8月から実施予定(削減案は予算成立)

・生活保護法改正案 → 閣議決定し今国会に提出

・生活困窮者自立支援法(生活保護の見直しも含む)→ 閣議決定し今国会に提出

・こどもの貧困対策法 → 議員立法予定

 

 

このように追いかけていくのが大変なくらい、同時進行的に、今後の社会保障の方向性を左右する非常に大きな議論が進められている。各法案や施策案に関しては、それぞれが提出された「背景の文脈」は必ずしも一致しない。しかし、いずれも社会全体のセーフティネットの根幹に関わる大切な議論であることにかわりはない。

 

これらはメディアなどでも少なからず取り上げられてはいるものの、まだまだ社会的な認知も低く、注目を集めているとは言い難く、実際に議論されている「内容」が、社会保障のあり方を決定的に変えかねないような非常に大きな転換を含んでいることが、残念ながらあまり知られていない。

 

とはいえ、いま進んでいるこの「大きな流れ」は、成立した後に「自分は関係ない」「知らなかった」「ダメならまた変えればいい」ではすまされない、一人ひとりの「いのち」に影響してしまうものだ。ここでは戦後最大の「改正」によって、そのあり方自体の前提が変えられようとしている「生活保護」について、その改正案の内容を紐解きながら、みていきたい。

 

 

生活保護法改正法案 どこが変わるのか

 

生活保護法改正法案の内容について整理すると、以下のような論点があげられる。

 

 

onishi

 

 

このうち「医療扶助・介護扶助について」は以前シノドスに掲載された鼎談を参照していただきたい。(α-Synodos vol.117、土居丈朗×大野更紗×大西連 / 社会を構成する医療・介護・財政)。また、「就労自立支援」「生活上の義務」「不正受給対策」については以下をご参照あれ。(『「生活支援戦略に関する主な論点(案)」における「生活保護の適正化」についての私見』http://synodos.jp/welfare/1449

 

*半年前に「生活支援戦略」だったものは現在「生活困窮者自立支援法」という新法になって「生活保護法改正法案」と同じく、閣議決定され今国会に提出される。

 

ここでは、「生活保護の申請手続きの変更」と「扶養義務の強化」の論点について考えていきたい。この2つは申請手続きの変更等、今後の生活保護行政に大きな影響を及ぼすことは間違いない。

 

 

申請手続きの変更で何が変わるか

 

まず、現行の生活保護法における「申請」について紹介しよう。生活保護は救急などの緊急対応を除いて、原則として「申請主義」となっている。

 

*生活保護制度の詳細は拙稿をご参照ください。

『貧困の「現場」から見た生活保護』 http://synodos.jp/welfare/1262

 

なので、生活保護が必要な状態になったら、本人の意思のもと福祉事務所に申請する。判例等によれば、その申請は口頭でもよいとされている。

 

申請の意思を伝えられたら(一般的には申請書などを書くかたちを取るが)、福祉事務所はそれを受理し、受理したあと原則14日以内(最長30日以内)に、収入や資産の状況などを調査し、その要否判定をおこなわなければならない。

 

このように、現行の生活保護法では「申請者」ではなく実施機関である「福祉事務所」に、「申請者」の権利を妨げないための手続き上の制約を課し、生活保護が必要かどうかを証明する責任がある。

 

一方、今回の改正ではどう変えられようとしているのだろうか。「生活保護法改正法案」では24条1~7項(申請による保護の開始および変更)が新設されている。この部分を要約すると、

 

 

1)申請者は厚生労働省令で定める事項を記載した「申請書」を福祉事務所(実施機関)に提出しなければならない。

2)申請書には氏名、住所(居所)、保護を受けようとする理由、資産や収入の状況を記載する。

3)その他必要な事項として厚生労働省令で定める事項の記載と、同じく必要な書類として厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない。

 

 

となっている。

 

一見これだけだと何が問題かわからないかもしれない。生活保護が必要かどうかを判定するために、書類の提出を求められることは当たり前のことだと思う方も多いかもしれない。何が変わるのだろうか。

 

問題なのは「申請」のときに「提出を求められる書類や事項がある」と規定されることだ。先述したが、現行法では口頭でも「申請」が可能だ。それは何日も食べていない、字を書くことが出来ない、DVで着の身着のまま逃げてきたなどの、そういった必要な書類等をそろえられない人も「申請」できるようにするためでもある。もちろん、実際には申請後、原則14日以内(最長30日以内)に福祉事務所が調査、収集し保護の要否判定をおこなっているので、そういった書類や事項が必要でないというわけではない。

 

しかし、改正案が決定すると、これからは申請のときに、「申請者」がそれらの事項を記載した「申請書」や「必要な書類」をそろえなければならないことになる。給与明細をもらえず収入がわからない、貯金通帳やキャッシュカードをなくしていますぐ再発行できない、DV被害を受けているが保護命令が出ていない、などのさまざまな事情で用意できない人はどうするのかという懸念がある。

 

ここには「厚生労働省令で定める」と書いてあるので、具体的にどのような書類や事項が「提出すべきもの」と規定されるかはまだ不明だ。もちろん、そういった事情の方には当然配慮されたものとなるだろう。

 

しかし、そういった「用意できない事情」のガイドラインをつくったとして、実際の運用の現場(福祉事務所の窓口)で、どういった判断がなされていくのかは分からない。(窓口での運用に関しては後述したいと思う)

 

そして、何よりの問題は、いままで福祉事務所(実施機関)に手続き上の制約が課されていたのに対して、改正案では「申請者」に手続き上の制約が課されてしまうことであり、福祉事務所ではなく「申請者自身」が、自らが保護を必要としている状態であることを証明しないと申請が認められない可能性があることだ。

 

生活困窮に陥る人のなかには、さまざまな社会環境のなかで複数の困難さを抱えていたり、そういった書類や事項をそろえられない方も多くいるだろう。この改正案は、彼ら・彼女らが保護を利用して生活を再建するための大きな障壁となることは間違いない。必要な人への入り口を狭めてしまう悪質な改正案と言わざるを得ない。

 

 

 

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