2018.03.28

世界糖尿病デーに知る、糖尿病のいま

大杉満×近藤克則×荻上チキ

福祉 #健康格差#貧困#糖尿病

かつて「贅沢病」と言われた糖尿病。今、貧困層の患者が増え、世界的な問題になっている。「自己責任」では片づけられない糖尿病の複雑な要因。社会的な対策の必要を、専門家が訴えます。2017年11月14日放送TBSラジオ荻上チキ・Session22「世界糖尿病デーに知る、糖尿病のいま」より抄録。(構成/増田穂)

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →https://www.tbsradio.jp/ss954/

誰でもなりうる糖尿病

荻上 今夜のゲストを紹介します。国立国際医療研究センター病院、糖尿病情報センター長の大杉満さんです。よろしくお願いいたします。

大杉 よろしくお願いします。

荻上 大杉さんは糖尿病について、どういった活動をされているのですか。

大杉 国立国際医療研究センターは国の糖尿病など代謝疾患対策の中核として、糖尿病並びに関連する疾患の研究と啓発を進めながら、新たな治療法の開発をしています。具体的にはこうしたラジオでの啓発活動、基礎研究から臨床研究、国の政策にも関係する研究をおこなっております。

荻上 本日11月14に日は糖尿病の啓発デーとのことですが、この日はどういった位置づけになっているのでしょうか。

大杉 11月14に日はインスリン発見者のひとりであるバンティング博士の誕生日です。この 日を糖尿病の啓発デーとし、全世界で糖尿病についてよく知るための日として位置づけています。糖尿病は、感染症でない病気として初めて国連に重要な問題と認定された病気です。このままでは、世界中で6億近い人々が糖尿病になると予測されています。啓発を進め、病気を防ぐための活動として、10年以上前に制定されました。

荻上 世界中で糖尿病が問題になっているわけですね。

大杉 はい。文字通り世界的な問題です。よく糖尿病は裕福な国の病と思われがちですが、実は発展途上国など、貧困にあえいでいる国こそ重要な課題になっています。

荻上 そもそも糖尿病、どのような病気なのでしょうか。

大杉 人間の身体の中は、ブドウ糖が体中をめぐっています。これは人間にとって欠かすことのできない栄養素です。糖尿病になると、ブドウ糖もしくは血糖値と言われるものが必要以上に上昇し、それが慢性化します。初期の状態ではほとんど症状がなく、気づかずに放置されてしまうことが多いのですが、その間にさまざまな合併症を起こしてしまうのが糖尿病の恐さです。

大杉氏
大杉氏

荻上 症状の出方はさまざまなのですか?

大杉 ええ。最初期のころは、ほとんど症状はありません。糖尿病の症状としてよく言われるような「のどが渇く」「体重が落ちる」「トイレが近くなる」といった症状は、平均すると6~10年状況を放置して、かなり血糖値が高くなった方々から出てきます。つまり、身体への障害として、何らかの症状が出ている場合、すでに病状は進行していることが多いのです。

荻上 日本での患者数はどの程度なのですか。

大杉 今年の9月に厚生労働省などからあった発表では1000万人という報告になっています。

荻上 確率として誰がなってもおかしくない病気なのですね。患者数は増加しているのでしょうか。

大杉 以前ほどではありませんが、今でもゆるやかに増加しています。

荻上 糖尿病になりやすい人というのはいるのでしょうか。

大杉 性別では、女性より男性の方がなりやすいです。さらに、これは日本で初めて確認されている状況なのですが、65歳、とくに75歳以上の年齢の高い方は、かなりの確率で血糖値が高い方が多いです。年を取ることで筋肉量が落ち、ブドウ糖を上手く消費できないことがひとつの理由と考えられます。

さらに、一般に誤解されがちですが、糖尿病は社会的な弱者、経済的に豊かではない方々にも多い病気です。高齢者の中にも、困窮していて健康管理に費やす時間などがとれず、糖尿病になられる方が増えていると推測されます。

早期発見が難しい

荻上 糖尿病の初期症状についてリスナーから質問が来ています。

「最近夫がやたら喉が渇くといって、ペットボトルをがぶ飲みしていて、糖尿病の初期症状ではないかと心配してます。糖尿病になると喉が渇くとよく聞きますが、こうした症状はなぜ起こるのでしょうか。」

大杉 血糖値が高くなると、身体の反応として処理できない分の糖を抱えることになります。その処理方法の一つとして、身体は尿の中に余計な糖分を出します。すると、糖分だけでなく水分も一緒に排出し、おしっこの量が増えます。そのために糖尿病の古典的な症状の一つとして、トイレが近くなる、おしっこが増えるという症状があるんです。ただ、ここまで症状が出ているとなると、血糖値はすでにかなり高くなっているかもしれません。

荻上 お話の中ではペットボトルをがぶ飲みしているとのことでしたが、飲み物に入っている糖分も避ける必要があるのでしょうか。

大杉 糖尿病の患者さんには、糖質の入っていない飲み物、具体的には水やお茶をお勧めしています。しかし、なぜか糖尿病になられてる方は冷たくて甘い飲み物を好まれます。理由ははっきりわかっていませんが、そのほうが喉が乾いた感じが癒されるというのがあるそうです。ただ、血糖値が高い方が糖質をたくさん飲むと、さらに血糖値が高くなり、あまり良い状態ではありません。

荻上 スポーツドリンクなどはいかがですか。

大杉 実はスポーツドリンクも、かなり糖質が含まれています。他のジュース類と同じか、控えめにいっても半分くらいの糖質が入っているので、糖尿病の患者さんにとっては警戒すべきもののひとつだと考えられます。

荻上 こんな質問も来ています。

「私は体重130キログラムの者です。もう10年ほどこの体重なのですが、幸いにして健康診断では糖尿病といわれたことはありません。おそらくは私も糖尿病予備軍で間違いないと思いますが、糖尿病と体重の関係はあるのでしょうか。」

大杉 一般に体重の重い方は、糖尿病のリスクが増えます。ただし、一定の肥満の方が全員糖尿病かというと、そうではありません。これは医学上の謎で、その率も民族ごとに違うのですが、ある程度の肥満があっても、その内せいぜい10%ほどしか糖尿病にはならないと言われています。

荻上 糖尿病には種類があるのですか。

大杉 糖尿病には大きく1型と2型があります。1型は少数ですが、何らかのウィルス性の感染が引き金となっていると考えられています。例えば風邪を引いた時に何かが引き金になって、免疫異常を起こし、体のなかのインスリンを分泌する細胞を障害して血糖値の以上が起こる場合などです。

より一般的な糖尿病は2型です。肥満などを原因、要因として発症します。大きく関係しているのが家族歴。ひとつは遺伝による糖尿病になりやすい素因があり、さらにその人に合わない体重が増えるような食生活をしていると糖尿病になりやすくなります。

その他に、その他の病気が引き金になって糖尿病になる場合、厳密な意味での遺伝性の糖尿病などがあります。糖尿病と一言でくくっても、原因は多岐に渡ります。

荻上 質問が続いています。

「糖尿病であまりに血糖値が高いと手術ができないそうですがその場合、どう対処したらいいのでしょう。そしてそれはどのぐらいの経済負担になるのでしょうか。」

大杉 確かに血糖値がある程度高いと手術にリスクがあります。例えば手術をしたあとに傷が治りにくい、術後に感染を起こしやすいなどです。そのため、外科の先生は手術前に血糖値を下げてほしいとおっしゃいます。どうしても急ぎ手術をしない場合は、入院をして1週間ほど血糖値が下がるのを待ち、手術を行うこともあります。

経済的な負担については、もちろんある程度のお金はかかりますが、日本は入院をしても個人の負担はそこまで大きくありません。内科の入院であれば1日1万円くらいの金額になります。そういったものはすぐに高額医療の上限などに引っかかり頭打ちになりますので、治療自体ではそれほどものすごい負担にはならないと思います。

荻上 糖尿病は症状が出るのは病状が進行してからとのことですが、健康診断などで早期発見することはできるのでしょうか 。

大杉 はい。ただ、初期の段階では症状がないので、深刻に考えず、忙しく過ごしているあいだに病状が深刻化してしまうケースがとても多いです。

荻上 早期発見だけではなくて、通院しやすい社会環境を作っていくことも重要な課題なのですね。

大杉 いかにもです。

荻上 体験者の方からは、四肢の壊死や網膜症などさまざまな合併症を発症しているというお話もありました。

大杉 目の症状は、血糖値の高さを放っておけばほぼ確実に出てきます。足の壊死、もしくは壊疽といわれる症状も、糖尿病の合併症です。壊疽の過程として、真っ先に出るのは神経障害で、徐々に感覚がなくなり、多少のケガがあっても自分では気づかなくなります。さらに、治癒の力も落ちるので、少し赤く腫れている程度の傷が治らず、どんどん広がっていくことなどもあります。

荻上 いろいろと合併症を併発しだすと、精神衛生上もよくないと思います。そうした精神的な面が影響してくることもあるのでしょうか。

大杉 糖尿病の場合は双方向の関係があります。糖尿病があって、例えば治療の負担がある。さらに合併症が進んでしまい、それを苦に感じてうつになる方というのは健康な方よりも増えます。一方で、うつを患っている方は活力が湧かずどうしても糖尿病の治療からも距離を置きがちです。結果、症状が悪くなる、ということも起こっています。悪循環が起こってしまいますね。

荻上 糖尿病は完治する病気なのでしょうか。

大杉 一定期間の治療後、まったく病気のことを忘れ去ることができるという意味での完治は残念ながら今はできません。糖尿病の影響が出ないように、病状をコントロールするという方法になります。今の医療では付き合い続けるのが最前の方法です。

荻上 それは毎日服薬したり、頻繁に通院したりということになるのでしょうか。

大杉 血糖値が高かったり、1型の糖尿病であると、生きていくためにはインスリン注射が必要になります。こうした方は通院回数も頻繁になり、治療も複雑になります。

荻上 さらに質問が来ています。

「通院の際、アルコール依存の患者さんの中に糖尿病を併発している方を多く見かけました。アルコールと糖尿病の関係が知りたいです」

大杉 これにはさまざまな議論があります。一説では、アルコールを摂取しすぎると、肝臓と膵臓に及ぼしまします。膵臓はインスリンという血糖値を下げてくれるホルモンを出している臓器です。そこがダメージを受けることでインスリンが出にくくなる。結果糖尿病になりやすくなる、ということが考えられます。同じく肝臓も血糖値をコントロールする上で非常に重要な役割を果たしているので、アルコールによる影響で調節ができなくなり、糖尿病になりやすくなるなるようです。

糖尿病は裕福な人の病気?

荻上 糖尿病の話の背景には遺伝や家庭環境が関わっているとのことでした。糖尿病の分析は、こうした遺伝要素や家族要素などを細かく見ていく必要があるのでしょうか。

大杉 そうですね。以前糖尿病は偏見で「食事を自由に食べられて、自分では身体を動かす必要がない人がなる病気」でした。しかし、先ほどの5億人6億人いう糖尿病の推計からもわかる通り、貧困に喘ぐ国でも糖尿病患者が増加しています。これは大きな謎であると同時に、今後の分析の課題とされています。

荻上 そのあたりの背景について新たなゲストの方に伺っていきたいと思います。『健康格差社会」を生き抜く』などの著書がある千葉大学予防医学センター教授の近藤克則さんです。よろしくお願いします。

近藤 よろしくお願いします。

荻上 糖尿病の印象と現実の違いについてお話がありましたが、この点近藤さんはいかがお考えですか。

近藤 糖尿病というと、かつては「贅沢病」と言われていました。今でも生活習慣が悪い人がなる病気だから自業自得といった声があります。しかし、こうした認識は科学的な知見から事実誤認ということがわかっています。

確かに糖尿病には生活習慣も影響する一つの要素です。しかしそれ以外にも、遺伝子や暮らしている環境などが関係してきます。さらに最近は、出生時体重が少ない人ほど糖尿病になりやすいという関係がわかってきて、話題になっています。

荻上 生まれながらになりやすい人がいると。

近藤 そうです。ですので、成人期以降の生活習慣だけで糖尿病になるというのは、明らかに事実に基づかない偏見です。

荻上 糖尿病は自業自得と認識され、偏見を持たれることもあるようですが、この点についてはいかがですか。

近藤 ふたつの大事な要素を見落としています。ひとつは環境の重要性です。例えば非正規雇用の人が正規雇用の人に比べて糖尿病の合併症が多いという点を捉えて、非正規雇用の人が生活に気をつけてないのではないか、という発言を聞くことがあります。しかし、例えばヘルシーメニューを出している社員食堂がある会社なのに、非正規社員は「正社員じゃないから」と入れてもらえない会社があるそうです。公園のそばに暮らしている人のほうが運動頻度が多いことがわかっていますが、そういう環境の方が家賃も高い。つまり、健康に良い環境へのアクセスの良し悪しも考える必要があります。

荻上 健康を気に掛ける余裕があるか、どのように健康を維持すればいいのか知識があるか、幼少期からそういったことが自然と学習できる環境にあったかなど、さまざまな要因が絡んできそうです。

近藤 その通りです。さらに付け加えますと、お母さんネズミのお腹のときにいるときに飢餓状態にさらすと、子ネズミのインスリン感受性が変わってしまうという研究があります。生まれる前に置かれた状況でも大きな影響があることがわかってきています。

荻上 生前の親の健康状態が、子どもの病気のなりやすさに関わってくる。こうした要因の複雑性は糖尿病以外の病気にも言えるのでしょうか。

近藤 糖尿病以外にも心臓病はじめ、多くの病気についてこうしたことが言えます。

荻上 糖尿病へのなりやすさについては、どのような研究があるのでしょうか。

近藤 糖尿病に関しては、先ほどの、出生時体重が小さい方ほどリスクが高いと言う人間を対象に追跡したイギリスの研究があります。そのリスクは64年間で5倍以上でした。オランダでも、第二次世界大戦期の1945~46年に大飢饉に襲われた冬に生まれた子どもたちは大人になってから心筋梗塞やコレステロール異常が多いなどの研究もあります。

荻上 経済状況の影響という点では、個人の経済状況だけではなく、その社会の経済状況も影響してくるのですか。

近藤 そうした研究も進んできています。社会経済的な格差が大きい国と小さい国、例えばアメリカと北欧を比べると、格差が大きい国のほうがお金持ちも含めて死亡率が高いという研究が出てきています。

荻上 格差が大きいと、お金持ちも含めてそういう病気になりやすい。

近藤 はい。いろいろな理由が議論されていますが、一説には格差が大きい社会のほうが競争が激しく、ハラハラやドキドキなど心理的な不安やストレスが大きいことが関係するのではないかと言われています。

いわゆる勝ち組の方も、激しい競争の中で勝ち続けないといつ転落するかわからない状況です。不安にさらされて、走り続けないといけない。一方で北欧のように「なんとかなる」という安心感の大きい国では心持が大きく違うのではないでしょうか。

近藤氏
近藤氏

貧困と結びつく糖尿病

荻上 糖尿病は実は貧困な国ほどなりやすいとのことでしたが、この辺りはいかがですか。

近藤 時代によっても違うことがわかっています。途上国のような国ではお金持ちのほうがお腹いっぱい食べられて、車を乗り回して歩かないということで、富裕層のほうに糖尿病が多い傾向がありました。しかしある程度以上豊かになってくると、その状況が逆転してくる。さまざまなものが絡んでいますので、なかなか一筋縄では説明が難しいところです。

荻上 糖尿病の場合、貧しさはどのようにその発症につながっていくのですか。

近藤 食事と運動の影響があることは明確にわかっています。例えば食事でいうと低所得の方ほど野菜などの摂取頻度が少なく、炭水化物の摂取量が多く糖尿病のリスクが上がります。さらに子どもの頃に生活が苦しい経験をした人たちほど、高齢期になっても野菜の摂取頻度が少ないこともわかってきました。

運動についても、やはり社会経済的に豊かな人のほうが運動しています。フィットネスクラブに通ったり、健康を気づかって歩くように意識したりする人が多いようです。

荻上 食事、運動とくると睡眠も気になります。

近藤 睡眠も社会経済的な背景により大きく異なることがわかっています。明日の生活が不安では安眠できません。考えてみれば睡眠障害になるのも不思議ではありません。

荻上 糖尿病を巡る環境を改善していくためにはどのような対策が必要だとお感じですか。

近藤 これまで、知識を広めて,本人に気を付けてもらうということを中心に対策をしていきました。しかし、余裕のない方ほど、健康のことまで意識がまわりません。今後は、生育歴や環境に対するアプローチと組み合わせることが重要だと思っています。

荻上 貧困対策や教育、育児支援などさまざまな社会的インフラの整備も重要になりそうです。一方で、糖尿病は自己責任だから、医療費や生活保護をカットしようという議論も見受けられます。この点についてはいかがですか。

近藤 申し上げた通り、糖尿病は本人が選択した生活習慣だけで決まるものではありません。それ以外の要素が大きく影響している。自己責任以外の社会の側の責任も合わせて考えるべきではないでしょうか。

荻上 大杉さん、近藤さんのご指摘を受けていかがでしょうか。

大杉 戦後70年ほどの間に日本で起きたことは、今の近藤さんのご解説でほとんど説明つくと思います。さらに、今年ノーベル経済学賞をとったアメリカのリチャード・セイラーという行動経済学者がいますが、彼が唱えているの概念である、選択アーキテクトを視野に入れてもいいかもしれません。意志の力で物事を改善しようとするのではなく、合理的な判断をする結果としてよい結果に結びつくような構造をつくるということです。糖尿病に限らず、生活習慣病対策などもそういった視点から広め、進めていくべきではないかと思います。

理解を深め、糖尿病になりにくい社会へ

荻上 糖尿病の治療の面では具体的にはどのようなことが行われているのでしょうか。

大杉 その方の病気の成り立ちによりさまざまです。インスリンを使わないと生命に危険が及ぶ方もいれば、薬が必要なく、食事や運動に気を使うだけで十分血糖コントロールがつく方もいます。あとは、生活の改善ですが、これは本当に患者さんごとに異なる治療法になります。ただどのような治療をされていても、薬を使っていても、やはり食事に気を付けて、いくばくかの運動をすると、さらに糖尿病が良くなる方が多いです。

荻上 リスナーから小児糖尿病や妊娠糖尿病の体験談もいただいております。これらはどういったものなのでしょうか。

大杉 小児糖尿病は先ほど言った1型で、インスリン依存の糖尿病のことだと思われます。お母様が、自分のせいで子どもが糖尿病になったのではないかと罪悪感を持たれて、必死に治療される方は多いです。ただ、小児の糖尿病は大人の糖尿病と違い、合併症がどんどん進むということは少ないと言われています。

妊娠糖尿病は、実は今年の世界糖尿病デーのテーマで、啓発に力が入っている病気です。これは妊娠される女性の年齢が高くなっていることと関係があると考えられています。胎児は母体からの栄養に依存するわけですが、そうすると、さまざまなホルモンを出して、母体の血糖値を上げようとします。ある程度母体の年齢が上がると、そういったストレスにさらされたときに血糖値が上がってしまう方が一定数出るのです。

妊娠糖尿病は妊娠中であれば食事に気をつけることによって、ほとんどの場合お母さんにも子どもにも影響がないと考えられています。ただ、気をつけなくてはならないのが、これは一種、お母さんがストレステストにさらされている状況なので、残念ながら出産後、糖尿病になる方の確率が高いです。定期的な検診をお勧めします。

荻上 リスナーからの質問です。

「糖尿病の食事療法としてカロリー制限と糖質制限がありますが、健康雑誌を見ると意見が割れています。どちらが糖尿病の改善に有効なのでしょうか。」

大杉 二者択一でどちらが正しいかと聞かれると、実は両方とも正しいです。当然、糖質もカロリーですから、過剰な糖質を下げるイコール、カロリー制限になります。ただ、糖質脂質タンパク質とあるうち、どのようにカロリーをとったらいいかはわかっていない部分があり、実はこれも個人差が大きいと言われています。ですが、あまり過剰にどれか栄養素をとらなくするようなとり方、それから摂取エネルギー自体をものすごく低くするようなものはお勧めできません。

荻上 これからの課題はどうお感じになりますか。

大杉 まずは皆さんに糖尿病のことをよく知ってほしいです。糖尿病になると周囲から偏見をもたれたり、いろいろとうるさく言われるのではないかと気になって、検診などの一歩を踏み出せない方も多いのではないかと思います。ですから、選択アーキテクトなども踏まえて、こんなに簡単なんだ、こうすればよかったんだというふうな社会になっていけばいいと思います。

荻上 大杉さん、近藤さん、ありがとうございました。

プロフィール

近藤克則社会疫学

千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門教授、同大学院医学研究院公衆衛生学教授。国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター老年学評価研究部長(併任)。日本福祉大学健康社会研究センター長/客員教授(併任)。1983年千葉大学医学部卒業。博士(医学、社会福祉学)。東京大学医学部付属病院リハビリテーション部医員、 船橋二和(ふたわ)病院リハビリテーション科科長などを経て、 1997年日本福祉大学助教授。University of Kent at Canterbury(イギリス)客員研究員(2000-2001)、日本福祉大学教授を経て現職。「健康格差社会 何が心と健康を蝕むのか」(医学書院、2005)で社会政策学会賞(奨励賞)受賞。「健康格差社会」への処方箋」(医学書院、2017)。

この執筆者の記事

大杉満糖尿病研究

東京大学医学部卒。横須賀在日米海軍病院、ハワイ大学内科、ワシントン大学(セントルイス)内分泌・糖尿病・脂質研究科で研修および研究に従事ののち帰国。東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科、三井記念病院、東芝病院で勤務ののち、国立国際医療研究センター病院糖尿病内分泌代謝科第三糖尿病科医長・糖尿病情報センター長。糖尿病のみならず、内分泌疾患、肥満症の臨床及び、新規治療法の開発、ホームページ(http://dmic.ncgm.go.jp/)を通じた情報提供を行っている。

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