2012.04.26

多様な生き方を尊重しよう ――「東京レインボープライド2012」開催直前インタビュー

荻上チキ 評論家

社会 #LGBT#セクシュアルマイノリティ#東京レインボープライド#プライドパレード

セクシュアルマイノリティの人たちの「多様な生き方」を讃えるイベント「東京レインボープライド2012」が29日、東京・代々木公園で開催される。LGBT(Lesbian,Gay,Bisexual,Transgender:性的マイノリティの総称)とその賛同者の人々が、各自工夫をこらした服装で、歌ったり踊ったりしながら代々木公園から渋谷、原宿までの道を行進し、個性を讃え合うお祭りだ。

「プライドパレード」(性的マイノリティの存在アピールを目的としたパレード形式のイベント)は世界各国で開催されているが、日本でも1994年に初めて「第1回東京レズビアン・ゲイ・パレード」が行われて以降、全国各地で様々なパレードが行われている。しかし一方で、00年代に東京にてパレードを開催してきた「東京プライドパレード」は、予算や組織の課題によって、現在では年次開催を断念せざるをえない局面におかれている。この状況を受け、「東京で、毎年着実にパレードが開催できる体制」を構築することを目指し、2011年に新たに「東京レインボープライド」が設立された。

パレードを目前に控えるなか、同団体で広報を務める乾宏輝さんと、大塚健祐さんに、イベント設立の経緯や将来のビジョン、LGBT当事者たちの抱える問題などについて話を伺った。(聞き手/荻上チキ、構成/宮崎直子)

「東京プライド」でできなかったことをやる

―― 昨年「東京レインボープライド」(以下「レインボー」)が、「東京プライドパレード」(以下「東京プライド」)から別団体とて独立し、今年パレードを開催するにいたった経緯をお聞かせいただけますか。

 「レインボー」は、旧来の「東京プライド」のやり方に対して、課題や改善すべき点があると感じていた人たちが、若い世代を中心に集まり、“もう一つの”プライドパレードの実現を目指してつくられた団体です。

2011年の5月に発足しましたが、そのときはまだ「東京プライド」のパレードが翌年にできるかどうかわからない状況で、コミュニティ存続のための安全パイとして機能したいと思っていました。その後、2012年に「東京プライド」がパレードを開催するとわかり、「レインボー」でもパレードを開催するかどうかを再検討した時期があったのですが、やはり自分たちの意見を反映させたパレードをやりたいということで、継続したという経緯があります。

お互いに、より良いパレードを目指して切磋琢磨するような形になれば、コミュニティとして急速に成長できるのではないか、もう少し若い人たちの意見も取り入れて、フラットでクリエイティブな発想でもってできないかというのが、レインボーの根底にある想いです。ボランティアの自由度が高く、現場からの意見が上がりやすい、様々なアイデアが実現していくようなパレードにしたいと思っています。

大塚 お金の流れもまた、課題として感じていました。日本のゲイの歴史でいうと、やはりHIVのショックが大きかったと思います。いまだにゲイ・リベレーション(以下、ゲイリブ)の中核は、仲間たちをエイズで亡くした世代が中心になっています。彼らは言葉では表せない結束力の強さをもっています。

日本全国のゲイリブ団体は、厚生労働省や各都道府県のHIV関連機関のお金で成り立っていた面がありました。ですが、どんどんそれも絶たれていき、今は東京のNPO団体がなんとかそれを保持しているという状況です。東京プライドはそれらの団体と同盟関係にあったので、イベントで厚労省からの後援を受けることができていました。

一方で、お金については二丁目のゲイコミュニティにも多くを依存してきました。具体的には、二丁目の飲み屋に広告を求め、集金を行っていたんですね。しかし、長らく続いている不景気でそれがどんどん困難になってきた。私は「東京プライド」の内部で2006年から関わってきましたが、「東京プライド」は今予算がパンク寸前です。今後開催できるかどうかは、実行委員経験者としても疑問に思っています。

なので、これまでの「東京プライド」よりも予算は抑えめで、なおかつ行政のサポートがなくても、ネットワーク的にパレードを実現していくことができるようにしたいと思っています。ただ僕は経験者だからこそ、「レインボー」ではあまり新しい世代のやることに口を出さないようにして、やりたいことを応援しアドバイスする体制づくりを心がけています。

持続可能なパレードモデルを目指して

―― 世代交代を応援し、ある種「プライドパレード2.0」的なかたちで、「レインボー」を立ち上げられたということですね。今回、「レインボー」で新しく試みたことは何ですか。

 一つは、パレードの参加人数制限を取払いました。今まではオペレーションの効率を高め、警察との軋轢を避けるために3000人という枠を設けていましたが、デモというかたちで申請していますので、民主主義の建前上、何人参加してもいいですよね。高円寺の反原発デモには1万5000人が集まっていますし、僕らもなるべく大きな祭りにしたいと思いました。

今回はコアスタッフのメンバーに外国人も複数加わり、海外のプライドパレードのノウハウが存分に注入されています。彼らの思想は “There’s no dance, There’s no revolution”。楽しくないと革命なんて起きない、権利を叫ぶよりも、まずは楽しい場所をつくろうじゃないかと。

LGBTに限らず、一般の人たちにもたくさん参加してほしいと思います。「日本社会、なんか息苦しいよね」という思いはみんなどこかで感じているはず。その気分を打開するためのプラットフォームを、LGBTの人たちがつくりました。「なんだか面白い人たちがいるな」と思ってサポートしてもらえれば嬉しいですね。

もう一つは、とにかくコストを低く見積もりました。レインボーの予算は90万円。今までの予算よりはるかに少ないです。あらゆるオペレーションを簡素化しています。他にもFacebookやTwitterを使ってプロモーションを行ったり、イベントをドキュメンタリーとして記録するなど、いろんなことにチャレンジしています。

レインボーの最大の特徴は「規模の拡大」と「持続可能なパレードモデルの実現」。台湾(5万人)やニューヨーク(170万人)を目指して、5年後の2016年までに、アジア最大級となる5万人規模のプライドパレードにすることを中期ビジョンとしています。

東京プライドも新しく何かをはじめるだろうし、僕らはまた来年それを超えるものをつくっていく。そうしたダイナミズムが生まれるといいなと思っています。

セクシュアルマイノリティの生きづらさ

―― 「なんか息苦しい」というお話がありましたが、たとえばイベントに関わっているLGBTのメンバーたちは、どういった悩みや課題を抱えているのでしょうか。

 4月13日付の毎日新聞に「自殺総合対策大網」の改正に関する、性的マイノリティの記事が掲載されていました。その中に、日本の性同一性障害診療の拠点、岡山大学病院での調査が紹介されていて、患者1154人のうち6割が自殺を考えたことがあり、3割が自傷行為や自殺未遂を経験していると述べられていました。

セクシュアルマイノリティであることによって引き起こされる偏見などにより、自殺やひきこもりや抑うつなど、様々な生きづらさを抱えています。

大塚 家族の問題も忘れてはいけません。肉親と関係がこじれることも多くありますし、それではとパートナーと新しい家族を築こうと思っても、日本では同性婚が認められていなかったりします。

 僕はフリーライターとして働いていますが、「生きづらさ」を一つのライフワークにしています。今年の1月にハワイでパートナーシップ法が施行され、その取材を行ったときに、日系アメリカ人がこれに貢献していたことを知りとても勇気づけられました。日系人は戦時中に差別を受けたので、あらゆる差別に対してセンシティブです。LGBTの権利を獲得しようとなったときも、日系人で影響力のある人たちが動いたんですね。

よく日本人は権利意識が薄いといわれますが、固有にそういう性質があるわけではないと思います。若い世代は、年長世代とはまた感覚が違うのではないかと感じます。ボランティアで集まってきた人たちは、公共に対する意識がすごく強いし、「他人と違うこと」に賛同する感受性がとても優れてるように感じています。

―― たとえば、今は、新宿二丁目などのコミュニティに依存しなくても、サークルやネットワークでつながるという選択肢も増えているように思いますが、意識や課題などに変化はあるのでしょうか。

大塚 確かに二丁目に行ったことのない若い人は増えていますし、その必要性もなくなっています。ゲイに限らず、性的指向・志向は多様になってきていますので、二丁目に行くよりもネットのほうがいろんな要望を満たせる状況にはなっていますね。

 ボランティアの方が面白いことをいっていました。今のLGBTはオタクの一類型だというんですね。ガンダム好きでグッズをコレクションしている人と、「僕ゲイなんだよね」という人を同じ感覚で捉えている。

―― マイノリティの人たちが生きづらい社会が相変わらず存在する一方で、たとえば民主党内で「性的マイノリティ小委員会」が築かれたりと、前向きな動きも見え隠れします。どう捉えていますか。

大塚 関西でパレードが行われたときに、橋下前府知事が応援メッセージを寄せていました。決してLGBTに敵対的な方ではないと思いますが、彼が行う政治は、次々と仮想敵をつくりそれを切り捨てていくようなやり方ですので、LGBTもいつやり玉にあがってもおかしくないという危機感は持っています。

もう一つ避けて通れないのは、貧困問題です。レズビアンカップルの場合は、女性の低収入の問題がダブルで起こります。非正規雇用についてもやはりヘテロ・セクシュアルよりも多い印象がありますし、フリーランサー的な、不安定な働き方をしている人がたくさんいます。LGBTの多くは体や心を害していますので、仕事をする上で何らかの支障をきたす人も少なくありません。

何かに困った人たちは、どうしても大きな物語に頼りたくなります。政治の動きも重要ですが、そればかりに依存せず、いかに細かい部分にまでこだわっていけるのかが、当事者に求められているテーマだと思います。

企業戦略と若者へのサポート

―― 「楽しくなければ、革命なんて起こらない」というお話がありました。動員のためには、ある種ゲーミフィケーション的な方法も必要になると思います。「楽しさ」をよりシェアするためにやろうとしていること、あるいは今後の課題として考えていることはありますか。

 来年から企業に公式メッセージをお願いして、ブログに掲載していきたいと考えています。先日、元宝塚劇団員でレズビアンの東小雪さんが行った問い合わせを受けて、ディズニーリゾートが、同性結婚式の利用を正式に認め、TwitterやFacebook上で大きな話題になりました。こうした、SNS時代の社会の変え方というのがあるのではないかなと、常々考えています。

アメリカで百貨店のメイシーズがプライドパレードを支援したときに、どこかの団体がそれに反対して不買運動を起こしたのですが、それに怒り狂ったリベラル派が、逆にメイシーズで買い物をしまくり、売り上げが伸びたという面白い話があります。

誰がどう設計するのかは難しいですが、企業戦略が必要なんだと思いますね。津田大介さんの『動員の革命』(中央公論新社)に書かれていたような方法論も参考になります。また、企業を説得するためには、マーケット分析も必須です。LGBTの構成要素、人口分布、所得などを調査して、運動の基盤にできれば一番いいのですが……。

大塚 あとは、若者のサポートですね。集まったボランティアの人たちは、圧倒的に若者が多く、さらに性的マイノリティという問題を抱えています。われわれのミッションとしては、彼らの面倒を見ることが一番重要ではないかと思っています。

パレードが終ったあとも、翌年まで放置するのではなく、数ヶ月おきにミーティングをしたり、他の団体が主催するイベントに参加したりと、ゆるやかな連帯をつくっていこうと考えています。それは、彼らにとってもプラスになるし、団体の生命力にもつながります。

 人材バンクのような面がありますね。ここでの経験をいかして、次のステップで活躍するというプラットフォームでもあるので、そうした機能は常に果たし続けていきたいなと思っています。

地方で活性化する支援活動

―― 様々な社会起業などが注目されてもいますが、セクシュアルマイノリティを支援するNPO団体は、どのような動きをみせていますか。

大塚 地方都市の成功モデルをあげると、たとえば、NPO団体「レインボープライド愛媛」では、LGBTの映画祭を成功させ、継続しようとしています。メンバーシップも100名近くいます。

先ほどの、ディズニーランド婚の話題をつくった東小雪さんは、「ピアフレンズfor girls」で若いレズビアンのためのイベントを企画したり、故郷の金沢で「レインボー金沢」を立ち上げて、交流会を開くなど、地域に密着した活動を行っています。

大都市以外にも、地方からの動きが出てきているというのは注目すべきところです。地域ごとの支援団体が着実に増えていき、それらがつながっていければいいですね。

―― 今年の1月に、早稲田大学のサークル「Re:Bit(りびっと)」がLGBT成人式を行い話題になりました。今後の学生の活動にも期待したいですね。

 そうですね。個人的には、慶應SFCのベンチャースピリットに、早稲田のジャーナリスティックなテイストが加われば面白い(笑)。LGBTの人々が住みやすい社会は、多くの人がそれぞれの可能性や幸福を追及できる社会でもあります。そんな想いを、一緒に世の中に広めていける仲間が、これからどんどん増えていくことを願っています。だからこそ、パレードが、そのための交流の場になれば、とても嬉しいと思います。

マスコットキャラクターの「TOBE(トビー)」(日本の固有種であるムササビ)。森の中を滑空するイメージに、LGBTが差別や偏見を乗り越え、伸びやかに飛躍していくイメージを重ねている。名前は「飛(とび)」と「to be」=「あるべき姿」の掛け言葉。LGBTが自身の「あるべき姿」を表現し、それが自然に受容される社会を実現したいとの思いが込められている。

プロフィール

荻上チキ評論家

「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『ネットいじめ』『いじめを生む教室』(以上、PHP新書)ほか、共著に『いじめの直し方』(朝日新聞出版)、『夜の経済学』(扶桑社)ほか多数。TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。同番組にて2015年ギャラクシー賞(ラジオ部門DJ賞)、2016年にギャラクシー賞(ラジオ部門大賞)を受賞。

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