2020.07.23
GoToキャペーンと感染症対策、二兎追うならCOCO割
8月には医療崩壊が現実化!
COVID19の再流行が勢いを増している。東京で、1日の新規陽性判明数が200名を超えて高止まりするだけでなく、大阪でも100名を超えてギネス、愛知・福岡も過去最高を更新した。こんな危うい状況で、全国的に人の移動が促されるGOTOキャンペーンが本日から始まる。直近、全国の1日当たりの新規陽性判明者は600名を超えているが、じきにこの数は1000名に達するだろう。新規陽性判明者の増加に対しては、「重症者がふえていないから大丈夫」という声が多々聞かれるが、それは誤りだ。前稿(https://note.com/ebitsugu/n/nd8eab0a6d842)で書いた通り、少し前までは感染は夜の街を中心とした若者に限られており、高齢者が非常に少なかった。6月ひと月を見た場合、東京都の60歳以上の感染者は107名でしかなく、これは4月の1100名の1割以下だ。だから、重症の出現もピーク時の1割以下に抑えられていただけなのだ。
ただ、感染が蔓延すれば、次第に高齢者の感染も増えだす。7月に入ると東京都の高齢者の感染者数は、21日までで250名に迫るほど増え出し、結果、直近9日間では重傷者は5名から14名へと本格的な増加基調に入った。
加えて言うと、旅行に出かける人の割合は年代差が非常小さいため、GOTOキャンペーンに加わる高齢者の数は非常に多いと予想される。それを迎える側の観光産業(サービス業)従事者も高齢者の割合が低くはないために、このキャンペーンを通した感染蔓延は、高齢者比率を押し上げていく。
つまり、8月には4月以上の高齢者感染が起こり、重症者が増えて医療崩壊が目の当たりになる可能性が高い。
PCR強化では経済再開は無理
とはいえ、現在の観光産業は瀕死の渋滞でもある。このまま何も手を打たなければ、半年持たない事業者が多いのも事実だ。ということで、「経済を殺すな」という声が聞こえてくる。その気持ちも十分理解できる。経済を殺さず、感染症対策も行う方法はないのか?
ワクチンや治療薬に期待するのは現時点では無理だ。
他の方法としてはよく上げられるのが、PCR検査の拡充だ。PCR検査により陰性とわかった人たちに絞って、経済活動を行うという案だ。旅行に出る場合もPCR検査を行い陰性者だけが参加するということになる。昨日(7月21日)のテレビ朝日モーニングショーでも、コメンテータの玉川徹氏(テレビ朝日局員)がそのように話していた。一見、正しく見えがちだが、この件については、第8稿(https://note.com/ebitsugu/n/n335bf4a3c975)で小林慶一郎氏の試算を徹底的に批判している。
現在、日本のPCR検査実施数は、1日2~3万件が上限となる。仮に、10日かけて全国民1億2000万人に検査を行とした場合、一日あたり1200万件のキャパが必要になる。現状の400~600倍だ。日本よりはるかにPCR検査態勢が拡充している中国やアメリカでも、全国民に検査を施すには2か月以上かかる。世界中どこでも無理な話なのだ。
しかも、全国民にくまなくPCRを行った場合、その費用は2兆円にもなる。これはGOTOキャンペーン総額の1.5倍にもなる。
さらにいうと、仮にこの体制が敷けたとしても、万全とは言えない。まず、検査の感度は70%程度だから30%の見逃しが起こる。しかも、全国民に検査が行きわたるまでに10日あるので、その間に陰性だった人も、無症状感染者と接触して新規感染してしまうかもしれないからだ。
結局、PCR検査でCOVID19を防ぎ切るには、最低でも毎週1回程度、PCR検査を続けていかなければならない。前出の小林慶一郎氏は、小黒一正氏などとそうした継続的PCR検査を推奨していたが、氏らの試算によると2週に一回それを実施した場合、費用は54兆円にもなるそうだ(http://www.kazumasaoguro.com/COVID-19-3.pdf)。とても現実的とは思えないだろう。いわば一種の宗教ともいえるほどこういうPCR拡充論を言い募る人たちが世間にはいる。その様を、小林よしのり氏は「PCR真理教」と揶揄していた。
COVID19対策は中国型・韓国型の2つに絞られる
COVID19のような無症状感染者から感染が起きるような厄介な病気の場合、効果的な対策は二つだ。一つは、感染者の感染経路をたどり、その途上で濃厚接触をした人を積極的に検査すること。それにより、クラスター(感染爆発が起きた場所)が特定できれば、より効率的に感染者を特定することが可能となる。
この手法は、国民全員に投網的にPCR検査を受けさせるよりもはるかに効率的だ。当然、いち早く感染者が判明するようPCR検査のキャパシティーは上げなければならないが、それは500倍などという途方もない話ではなく、せいぜい現状の10倍程度で十分だ。
もう一つの方法は、他人との接触機会をゼロにすること。ようは、自宅待機を強制して、厳しく外出禁止を守らせることだ。
日中韓の極東3国は、一回目のCOVID19蔓延時に、うまくコントロールすることに成功した。それぞれの手法を見ると、日本は濃厚接触者をたどってクラスターをつぶすという第一の手法を主にし、徐々に自粛の段階を上げていくという形で、早期から第二の手法を従として用いている(詳細は第2稿を参照)。
中国は、短期間に感染者数が指数関数的な伸びをしたため、圧倒的に第二の手法、外出禁止に軸足を置いた。その徹底度合いはさすが共産主義国家と言わざるを得ないほどのものだが、第12稿(https://note.com/ebitsugu/n/n53426b41a711)に詳細を書いている。
韓国は、日本同様第二の手法はあくまでも「自粛」であり、第一の濃厚接触者対策が柱となっている。同国の場合、日本よりもPCR検査の拡充が進んでいたため、早期から大量に感染者の把握ができた。PCR真理教者はこのことをもって、PCR体制の拡充が感染を防ぐ事例として韓国を称揚するが、事はそう単純ではない。
実際にはプライバシーを無視した形で、感染者に対して徹底的な行動追跡を行い、さらには彼らの情報を公開して、近隣住民や経路上の滞在者に警告メールを送り、濃厚接触者の検査を行ったのだ。それがどれくらいすさまじいものかというと、携帯位置情報、クレジットカード、電子決済、本人画像データと市中監視カメラの突き合わせなどを行い、感染者がどこにいたか1分ごとの履歴がわかるほどなのだ。PCR真理教は進歩的知識人に多いせいか、こうした韓国のあらっぽい措置に対しては、ほとんど口をつぐんでいるのは、腑に落ちないところだ。韓国の状況についても詳細は第12稿(https://note.com/ebitsugu/n/n53426b41a711)にて触れている。
COCOAがあれば日本のお家芸は威力100倍に
そうした意味では、6月23日に厚労省から配信された接触管理アプリのCOCOA※などは、非常にうまくできている。日本国民のプライバシーを守りながら、韓国式の効率的な濃厚接触者追跡を可能とする。一例に過ぎないが、これこそが、「日本型の社会」で「中韓型の良いとこ獲り」をするという、考え方だろう。
※COCOA/スマートフォンにダウンロードして使う接触管理アプリ。ブルートゥースを利用して過去2週間に自分の周囲にいた人を認識が可能となる。2週間以内に周囲にいた人がCOVID19に感染した場合、感染者本人がその旨登録すると、接触(周囲にいた)履歴のある人全員に通知が行く。ただし、2週間以内の接触履歴だけを管理するもの
で、その他の個人情報は一切このアプリケーションでは関知しない。
日本お得意の濃厚接触者を辿ってクラスターをつぶしていく方式だが、これも、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)が普及すれば、今までよりはるかに効率的にできるようになる。COCOAがうまくできているのは、韓国型の「個人情報丸出し」方式ではなく、接触履歴以外は管理されないことだ。自分が辿った経路上で、感染者が発生した場合のみ、通知が来る。ただ、こうしたアプリケーションには初期不具合が非常に多い。また、運用上の問題も出てくるだろう。たとえば、感染者本人がその情報を入力しなければ、何も通知はされない。この「個人の良心に委ねる」方式では成果が出ないかもしれない。こうした点の改良も必要だろう。一番のハードルはそこで、用変更で医者が入れるようにすると、少し進歩。最終的にはシステム変更で、Bluetoothを通して検診機関が自動で入力できるようにするなどの改善策が待たれる。
実際、COCOAのダウンロード数は6月末の段階で、全人口のほぼ4%になっていた。つまり、国民の25人に一人がこのアプリのユーザとなっていたといえる。ただ、7月21日の段階で、COCOAに陽性判明を入力した人は、34名しかいない。この間に全国でCOVID19の新規陽性判明者は8000人いた。その25人に一人なら、300人以上がCOCOAで陽性判明を入力していてもおかしくない。COCOAのダウンロード数は7月になってさらにのびて、直近6%近くにまでなっているので、陽性判明入力はもっと多くてもおかしくはないはずだ。ここに一桁のずれがある。
「そもそも、COCOAを早期にダウンロードするくらい防疫意識が高い人たちだから、感染も少ないのではないか」という人もいるが、やはり、自ら入力するという点が運用上の問題になっているのではないか。このあたりの運用には改良の余地がある。
青木理氏の残念な「他人事」発言
このアプリを国民の6割以上が使いだすと、クラスター対策が効率的に行えるようになるという。こういうと、「6割に達しなければ意味がない」後ろ向きにとらえる人も出そうだ。ただ、この論拠はクリストフ・フレイザー教授(オックスフォード大学)らが『SCIENCE』の2020年3月号に寄稿した論文だ。そこで書かれてていたのは「他の対策をとらない場合に流行を抑え込むには」という話であり、自粛や人的経路探査なども含めて行えば、それよりも低い値でも効果が出る。
COCOAリリースに際しても、それを取り扱うワイドショーで、前向き・後ろ向きの対照的な場面があった。
「一つこの際、みなでやってみようよ」(加藤浩次、6/23、日テレ「すっきり」
「アベノマスクと一緒でみな、使わないのではないか」(青木理、6/24、テレビ朝日「モーニングショー」)
コロナ対策は、国任せで「やってもらう」ものではない。国民一人一人が主体的にかかわって、作り上げていくべきものだ。加藤氏の発言はそのことをわきまえている。対して青木氏のコメントは、まるで他人事としか感じられない。高名で影響力のあるジャーナリストなのだから、「アベノマスクにならないよう、みなでぜひ使おう」と言ってほしかったところだ。
PCRをあと少し拡充し、COCOAも浸透ができれば、お家芸のクラスター潰しのキャパは、4月時点よりも数倍になるだろう。結果、ますます緊急事態宣言のバーは高くなるはずだ。
GOTOとCOCO割の合わせ技で経済と感染症対策の両立を
さて、そこで、いよいよCOCOAの浸透策だ。
今、瀕死の重傷となっている産業界=宿泊・飲食・サービス業では、業界を挙げてCOCOA浸透策に取り組んだらどうだろう。
COCOAを導入した顧客には、割引や一品無料、キャッシュバックなどを行うのだ。たとえば宿泊が500円安くなるとしたらCOCOAをダウンロードする人はかなり出る。こうした割引目的のダウンロードだと、すぐにアンインストールしてしまう人も多いだろうが、その後も行く店・行くホテルでCOCOAを提示するだけでサービスが受けられるのなら、使い続ける人が多くなるだろう。どのお店・ホテル入っても合言葉のように「COCOAをお使いならサービスが」と言われれば、このアプリの認知率も急上昇するはずだ。そんな感じで、多重にCOCO割(割り引き)・COCOスペ(スペシャルサービス)・COCOバック(キャッシュバック)と多重に展開していく。
ちなみに、筑波大学の試算によると、感染症対策を行っていなかったホテルは、GOTOキャンペーンにより1カ月後に感染者数が2.6倍になるのに対し、感染症対策を行いその上、宿泊者がCOCOA活用をした場合は、1.06倍にしかならないという(NC9、NHK、7月21日)。
旅行・観光消費動向調査によれば、7-9月に国内旅行をする人は7000万人近くになるという。この時期こそ、COCO割・COCOスぺが最適だろう。加えて8月下旬以降はGOTOイートも予定されている。これに絡めて飲食・サービス利用者へもウイングを広げれば、COCO割・COCOスペのカバー範囲はとてつもなく広くなる。GOTOキャンペーンとGOTOイートは、さしずめ、COCOA普及の露払い役になるだろう。こんな感じで、日本がちょっとやそっとじゃ倒れない体制を作っていくべきだ。それは、中国や韓国のような乱暴に過ぎる防疫体制ではなく、スマートな日本オリジナルとなるはずだ。
ニューノーマルの話をするとき、ワクチン・治療薬ができるまでは「自粛モード」が決まり文句のように使われる。ただ、COCOAの普及次第で、その様相は一変するはずだ。ある程度自由に動きながら、感染の連鎖を止められる社会をつくるためにも、COCOAの浸透に本気で取り組んでほしいところだ。
ただ、蛇足となるが、GotoキャンペーンとCOCOAの所管官庁が異なることが少々心配だ。COCOAは厚労省管轄であり、Gotoキャンペーンはトラベルが国交省、イートが農水省となる。縦割り行政の中で自省庁の点数にならないことに対して、この糞忙しい時期にそこまで差配をするか、と気をもんでしまう。こういうムーブメントには目ざとい経産省がCOCOAとGOTOの連携の音頭取りをしてくれることに期待してはいるが・・・。
すでに、個店・個宿ではCOCOA割、始めているところが少なくない。彼らみな、クラスター対策で、最初は連絡先を書かせていたそうだが、利用者は、飲食店だとまず書いてくれないし、宿でもメアドや携帯はいい加減に書く人が多かった。それで窮余の策で、COCOA入れてくれれば割り引く、としたそうだ。こうした現場の情報を吸い上げて、政府が音頭を取ればGOTOもより良い施策となるだろう。もしくは、自治体がCOCO割を奨励するのでも良い。「交付金」を元に、県独自のCOCO割奨励金を用意すれば、「◎◎県方式」という名でそれが全国に広がって鼻高々になれるのではないか。
プロフィール
海老原嗣生
株式会社ニッチモ代表取締役、『HRmics』編集長。