2025.02.19

『日本経済の死角 収奪的システムを解き明かす』(河野龍太郎)

吉田徹ヨーロッパ比較政治

日本経済の死角 収奪的システムを解き明かす

著者:河野龍太郎
出版社:ちくま新書

世にエコノミストと称される人物は数多存在するなれど、河野龍太郎氏は異色の存在だ。まず、その視線の広さ。日本経済についてはもちろんこと、欧米の政治や社会の動向を織り込んで比較の観点が盛り込まれる。

次にその見識の深さ。単に経済学や経営学をベースにするのではなく、歴史的な長期的な動向に目配りを欠かさない。最後に、社会正義の感覚が全体を覆う。前著『成長の臨界』の終章が「よりよき社会を目指して」となっていることは示唆的だ。

本書は、いわゆる「失われた30年」を焦点にあてて、日本経済の停滞の原因を探るものだ。その根本的要因はどこにあるのか。副題にある「収奪的システム」とあるのがヒントだ。簡単にいえば、日本の生産性は上昇しているのに、賃金増につながっていないことに問題がある。もちろん大企業(経営者)だけに責めを帰すわけにはいかない。資本所得を優遇するような施策が取られてきたから、それは企業にとって合理的な選択でもあるからだ。そもそも不況の原因はバブル崩壊だけではなく、働き方改革など、労働規制にも起因している。

このように、河野氏の特徴は(本書で度々参照される青木昌彦の制度論が置く前提のように)事象の多面的理解を核とするため、それゆえに制度的改革を漸進主義的に進めるべきといった妥当な結論が導き出されるような、方法論的な安定感が自然と導き出される点にある。それゆえに物足りなさを感じる読者もいるかもしれない。しかし、安易な答えを持つ知性の方こそが警戒されるべきである。上記に加えて、「河野経済学」がなぜ信頼に値するかの理由である。

プロフィール

吉田徹ヨーロッパ比較政治

東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学博士課程修了、博士(学術)。現在、同志社大学政策学部教授。主著として、『居場所なき革命』(みすず書房・2022年)、『くじ引き民主主義』(光文社新書・2021年)、『アフター・リベラル』(講談社現代新書・2020)など。

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