2023.01.18
タイ人留学生が語る日本留学の魅力とチャレンジ
現在、多くのアジアの人びとが日本で働き、学んでいます。彼らはなぜ日本に来ることになったのでしょうか。「ジャパニーズドリーム」では、彼らにインタビューを行い、日本で実現したい夢を紹介しています。
第2回は、タイ出身で筑波大学大学院修士課程のアンチャリー・ヴォントさんにお話をうかがいました。来日当初は日本のことをよく知らなかったそうですが、次第に日本の人びとや文化に興味を持つようになったそうです。【翻訳 / 芹沢一也】
――自己紹介をお願いします。
私の名前はアンチャリー・ヴォント、ニックネームはディアです。タイ出身です。茨城県に2年ほど住んでいます。コロナの最初の波に襲われていた2020年9月頃に日本に来ました。現在は、筑波大学大学院の国際公共政策プログラムの修士課程に在籍しています。指導教員は外山文子先生です。筑波大学に来る前は、明治大学で研究生をしていました。
――日本に来る前は日本にどのようなイメージをもっていましたか?
私はタイ北部に住むふつうの女の子で、「名探偵コナン」や「ドラえもん」といったアニメで日本を知りました。朝の連続テレビ小説でみていて、小さい頃から身近に感じていました。でも、正直なところ、最初は日本に興味はありませんでした。
学校を卒業したとき、まだ実現していなかったのが留学でした。内気な性格で、夢を実現させる自信がなかったのです。実は、高校生のときに交換留学のチャンスがあったのですが、受けませんでした。卒業後、タイで3年間働きましたが、やりたいことを実現するために何かしなければと思いました。それで夢を追いかけて、日本に英語を学びに来たんです。
――日本に留学して、日本に対する見方は変わりましたか?
大きく変わりました。先ほども言いましたが、私はもともと日本に興味がある方ではありませんでした。若い頃は、日本について知っていることといえば、アニメや文化くらいでした。だから、まさか自分が日本で勉強することになるとは思ってもいませんでした。 たまたま奨学金をもらって留学したのですが、しかし、その後、私の日本に対する見方やイメージは一変しました。
来てからしばらくは、じつは自分が日本を好きで、日本に甘えていたことに気づきませんでした。それが2022年3月に友人とニューヨークを訪れ、カルチャーショックに襲われたとき、初めて自分が日本に甘えていたことに気づきました。そのとき、私の中で日本の味方が変わりました。今では、人や文化、言葉遣い、責任感、そして清潔感など、日本が大好きな理由がたくさんあります。
――日本での生活で苦労したことはありますか?
まず、当然のことながら言葉の壁です。日本語ができないので、英語ができない人とのコミュニケーションは大変です。これは日本での生活で一番苦労することです。
次に、食べ物。私は食べるのが大好きで、タイ料理の辛さにはまっています。しかし、ここ日本では、すべてがヘルシーで、みんな野菜やサラダが大好きです。味の違いに驚きました。日本の料理はタイよりだいぶ甘いですね。
利用者への親切さ、時間厳守、職場環境
――どのような場面で日本とタイの違いを感じますか?
カルチャーショックを受けたのが、日本の商品のパッケージです。そしてこれは、私が日本で一番好きなことのひとつです。たとえば、初めて日本に来て、ホテルで検疫を受けたとき、短いストローのついた牛乳パックを買いました。ストローを伸ばせることを知らなかったので、なんでこんなに短いんだろうと思いました。タイにこのようなパッケージはありません。ブラジル人の友人にこの話をしたら、彼女も「そういう使いやすいパッケージの文化はない」と言っていました。
もうひとつは、時間についてですね。タイにいたときは、日本ほど時間の大切さを実感することはありませんでした。母国では電車を使う機会がなかったので、日本で初めて駅を利用しました。タイでは、通勤や移動にはバイクや車を使います。電車はそれほど普及していません。日本で駅を利用してみて、日本人は時間を大切にするんだなあと思いました。
タイでは、友達と会うときは、1時間や2時間くらい遅れても平気なんです。でも、ここ日本では、たった10分遅れただけで、とても申し訳ない気持ちになります。タイで看護師をしていた友人に話を聞くと、彼女にはタイ人と日本人の患者さんがいるのですが、タイ人の患者さんは1時間や2時間遅刻しても謝らないし、罪悪感も示さないそうなんです。一方、日本人の患者さんは、たった2~3分遅刻しただけで、「ごめんなさい」と何度も謝り、罪悪感を持っていたそうです。友人は、同じアジア人でありながら、こんなにも違うのかと衝撃を受けていました。
もうひとつの違いは、賃金です。日本の物価はタイの10倍くらいで、とても高いです。しかし、タイで働くより、日本で働いたほうがいいのです。東京でアルバイトをしていたとき、交通費が給料に加算されることを知りました。タイにはこれがないんです。さらに残業ですが、日本では残業すると、余分に働いた時間を正確に計算し、その分賃金が支払われます。また日本では、飲食店で働くと食事もタダでついてきます。タイで1日中働いて得られる給料と、日本で1時間働いて得られる給料は同じです。これは大きな違いです。
多様性の中に新しい世界を築く
――アンチャリーさんにとって日本留学のメリットは何ですか?
まず、チャンスです。私はまだ人生に迷いがあり、人生設計も全くできていませんが、日本で与えられたすべてのチャンスに感謝したいと思っています。そして、私にとってのメリットは、世界の見方が変わることです。タイにいたころは、何でも知っているつもりで、それ以上知りたくないと思っていました。まるで水で一杯になっているコップのようでした。
今、別の国に住んでみて、自分が世界について何も知らないことに気づきました。コップの中には半分しか水は入っておらず、知識や情報、文化など、まだ多くの新しいことを学べることがわかりました。これまでとは別の視点を持つことで、世界を新しい見方でみることができ、自分自身や自分のやりたいことをより深く知ることができる。それが私にとってのすべてです。
留学生ばかりのクラスで、主に英語を使って学んでいますが、これは初めての経験です。授業が終わると、学生たちは日本語を話そうとするのですが、みんな違う文化や背景を持っているのに、こうしてコミュニケーションをとっているんだなあと思います。これはまるで社会のようです。この経験には感謝しています。
――日本ではどのようなチャンスがあると思いますか?
日本の学生の中には、アルバイトを優先している人がいますが、これは面白いですね。タイでは学生は勉強が最優先なので驚きました。親は子どもたちに、「あとで働けばいいんだから、働かなくていい」と言うんです。そして、これはタイの文化に欠けている部分です。勉強だけで、はたしてどれだけの経験ができるのか。勉強だけしかしていないのに、やりたい仕事はどうすればわかるのでしょうか。
私はなるべく働いたり、新しいことをたくさんするようにしています。英会話のアルバイトをしたり、また日本の高校生との英語合宿も経験しました。最初は高校生や中学生と会話してお金をもらうことに意義を感じていませんでした。ところがある日、友人が、「日本政府は子どもたちに、英語でコミュニケーションする機会を与えている」と教えてくれました。
それは次世代への投資であり、とてもクールなことだと思います。日本政府は、彼らが将来、国のためにどのように働くのか、どのような知識を身につけるのか、そして、どれだけコミュニケーション能力があるかを重視しているのです。新しいことにたくさん挑戦し、日本の人びとや留学生から多くのことを学ぶことは、私にとっての留学の最大のメリットです。
――日本で実現したい夢があれば教えてください。
将来チャンスがあれば、日本で働きたいと考えています。自分の日本語能力を考えて、英語を使う会社に就職したいです。そして、他の国の人たちとコミュニケーションをとりながら仕事をしたい。それが私の将来の夢です。今は、英語圏の企業でインターンシップができないか探しているところです。まだ具体的な夢はありませんが、日本では国連でインターンシップをすることを目標にしています。
枠にとらわれず、オープンマインドで交流しよう
――私たちは日本人とアジア諸国の人々との交流が盛んになることを期待しています。そのためには、どのようなことが必要だとお考えですか?
異なった国の人びとと交流する前に、一番大切なことは、私たちはあくまでも人間であり、境界線がないことを理解することです。人を隔てる国や地域はありません。何かを変えようとするとき、私たちは皆、人間であることを理解し、境界を壊す必要があるのです。ただ、育った地域や文化、言語が違うだけなのです。
正直なところ、私は偏見に満ちた人間でした。違う国から来た学生と一緒に仕事をするとき、なぜ彼らが自分と同じように行動しないのか、不思議に思っていました。自分の文化や教えられてきたことを基準に、彼らを判断していたのです。
しかし、私たちは少し違うということを理解すべきでだと気づきました。彼らが間違っているわけでも、私たちが正しいわけでもないのです。実りある交流をする前に、このことを理解する必要があるのです。相手の行動が理解できないときは、相手の説明を聞くことで、相手のことをより深く知ることができます。
私は文化交流の難しさを知っています。自分の文化から抜け出し、異なる文化を理解するのは難しいことです。私たちがオープンマインドであれば、例えば、相手の接し方や社会など、さまざまな視点から相手に触れ、深く考えることができるのです。そうすることで、私たちが共に生きるより良い世界に向けて、自らを変容させていくことができるのです。
私たちの世界は多文化社会ですから、他の国との関係なしに自分の国で生きていくことはできません。ですから、私たちはまずオープンマインドである必要があるのです。
アジアの人々にとって魅力的な国にするために、日本はどのような変化を遂げるべきだと思いますか?
前学期、日本、台湾、その他のアジア諸国とのフォーラムに参加しました。そこで、日本がアジア人や台湾人をもっと惹きつけるために、どのような政策をとるべきかを話し合いました。その際、インターンシップ政策がアジア人にとって問題になっていると聞きました。
たとえば、タイ人の看護師は5年契約のインターンシップで来ている人が多いそうですが、その後、また母国に戻らなければなりません。契約期間が終わったら、自分の国に帰らなくてはならない。それは時間とお金の無駄です。日本では今、人口が減少し、高齢者が増えています。アジアの人たちを惹きつけるために、日本はこうした問題にもっと関心を持つべきだと思います。
――日本への留学を考えているアジアの人たちに、何かアドバイスはありますか?
アジアの人たちは、日本に来たいと思っている人が多いと思います。私は「イマジン・ザ・フューチャー・フェア」で働く機会があったのですが、日本で働きたい留学生がたくさん参加していました。彼らの悩みは、もちろんお金でした。
私の経験談をお話ししましょう。奨学金をもらっていなかったら、日本で勉強していなかったと思います。奨学金や交換留学のチャンスをみつけさえすれば、日本に来ることができます。ですから、最初はとにかくやってみること、そして自分のコンフォートゾーンを出るために、心を開くことを学んでください。難しいけれど、これが一番大事なことだと思います。