「いい絵本」って何だろう?

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「先のこと」は考えずにやってきた

 

荒井 先ほど「絵本に着地した」とおっしゃっていましたが、そもそもアートの世界に入ろうと決意したのはいつ頃だったのでしょうか?

 

亀山 決断した瞬間ってないんですよ。美大を卒業してから3年間はふらふらしていたんですね。卒業して1年目にイタリアに留学しました。

 

荒井 なぜイタリアに?

 

亀山 なんとなくかっこよさそうだったんですよね。あと美術史のことはよく知らないのに、ルネサンス発祥の地だし、イタリア料理もおいしいしって。でもあんまり面白くなかったので3カ月で帰ってきました。

 

中川 「日本が一番いい」って言って帰ってきたんですよ(笑)。

 

亀山 帰国してふらふらして、卒業から3年経った26歳のときにtupera tuperaというユニット名を決めました。「さあどうしようか」って感じではじめて、どうあるべきか、なにをすべきかってことは一切考えずにこれまでやってきました。

 

でも、出版社に「持ち込み」はしないってことは決めていたんです。なんか面白くないんですよね。結果的に気の合う編集者と知り合うことができるならいいんですけど、お互いに興味がないもの同士で時間を使うのはいいことじゃないと思う。

 

荒井 「持ち込み」って、しんどいんですよね。

 

中川 「持ち込み」した時点で上下関係がついてしまったら、それはちょっと違うと思うんです。もちろん「作家」だから編集者よりも上っていうのも、なんか違う。

 

亀山 ぼくたちも、編集者も、同じ立場で楽しく遊んでいるような感じで仕事してきたんです。最初からどんな作品を作るか決めないで、共感してくれる人と出会って、一緒に楽しく遊びながら、どういう方向の作品を作るか決めていく。これまでそうやって、先のことなんて考えずにやってきました。

 

荒井 以前亀山さんが、仕事で遊び心を大切にするためにも、なるべくストレスを抱えたくないとお話になっていて、「あぁ、亀山さんという方は、きっとストレスでご苦労された経験があるだろうなぁ」と思ったのですが……。

 

中川 ない(笑)。

 

亀山 そう、ないんですよ。ストレスを感じたのは高校受験のときと、大学受験で2浪したときですね。

 

中川 その高校も厳しいところだったからつまらなかったみたいなんですね(笑)。

 

亀山 かなり厳しい男子校だったんですよ。受験予備校みたいな。先生がものさしで頭髪検査したり、スポーツも勉強も有名で、制服も学ラン詰襟。とにかくあまり楽しくありませんでした。ぼくが卒業して1年後に共学に変わったんですよ。制服もかわいらしいブレザーに変わって、しかも数年後には西野カナってシンガーまで現れて(笑)。

 

荒井 あはは(笑)。

 

亀山 今年の夏には、野球部が甲子園決勝まで進んで、アルプススタンドがうつるたびに「あぁ、やっぱり共学がいいなぁ」ってイライラしちゃって(笑)。まあ、最終的には心から応援しましたけど(笑)。

 

荒井 今日、はじめにご挨拶させて頂いた瞬間から、亀山さんも中川さんも「なんか、やわらかい方だなぁ……」と密かに思っていました(笑)。私はこうやっていろいろと人に会いに行く仕事をしているんですけど、実は筋金入りの人見知りなんです。でも、お二人とお話させていただいていると、とても気持ちが軽くなります。この空気感から、お二人の作品の遊び心が生まれてくるんですね。

 

 

単純に「楽しい」ことも大事

 

荒井 私は、これまで「障害」とか「心の病」をもっている人たちのアート活動のことを考えてきました。そこで感じたのは、社会の中で立場の弱い人たちの方が「純粋に楽しい」とか「ただ単にやりたい」といった動機で何かをする機会が少ないということなんですね。

 

障害を持っている人たちが絵を描くと、本人はただ絵を描きたいだけなのに、周囲が「リハビリですか?」「所得に繋がるんですか?」って「目的」や「利益」をとても気にするんです。さっきの「親目線の期待」ともつながる話ですが、子どももそういう立場に置かれる場合が多いような気がします。

 

中川 絵本評論家みたいな方のなかには、単純にゲラゲラ笑って終わりっていう絵本に、「それでいいの?」と思っている方はいますね。

 

亀山 うちらは言われがちだよね。中身がないって言われたら、まあそうなんだけど。

 

中川 単純に「楽しい」とか「笑える」ということに何かプラスしたいんでしょうね。「楽しくて勉強になる」みたいな。私たちも別に「面白いことが重要だ」ってことを強調するわけでもないんですけど。

 

読むだけでトイレの仕方を覚えられるようになったり、「手を洗いましょう」「歯を磨きましょう」っていうメッセージが自然に染みるような絵本というのも、それはそれで、とても意味があるものだと思います。ただ、私たちには作れません。

 

亀山 表現の方法に「正しい」「正しくない」とか、絵本は「こうあるべき」「こうあるべきでない」とかってないと思うんですよね。

 

そういえば、最近嬉しい話がありました。70歳くらいのお母さんが、90代でもう眼球しか動かせないようなおばあちゃんに、『パンダ銭湯』(絵本館)を読ませたらしいんですね。そしたら「ぶっ!」って噴出したらしくて。おばあちゃんも「まさか、パンダが……」って思ったんだと思うんですけど。

 

絵本って、単純にそういうのがいいなって思っています。

 

荒井 『パンダ銭湯』の、パンダの目の鋭さをぜひ皆さんに見ていただきたいです。あと、どこかの会社が「サササイダー」を商品化してくれないかな、なんて思っています(笑)。

 

 

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『パンダ銭湯』のラフ

 

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『パンダ銭湯』の原画

 

 

「いい絵本」の条件は?

 

荒井 制作についてお聞かせ下さい。お二人は、基本的には「貼り絵」で作品を作られていますよね。貼り絵という表現方法のメリット・デメリットってなんでしょうか?

 

亀山 「ダイナミックさ」が出しにくいかな。

 

中川 筆でグワッ!と描くときのスピード感は出せないですね。そういう点はデメリットですけど、でも二人で作業するという意味では、貼り絵は都合がいいかな。

 

私たちは別に試行錯誤の末に貼り絵にたどり着いたわけではないんです。でも、結果的に二人で作業するのには向いていましたね。私が鼻を作っているときに、亀山が目を作れますし、最終的にそれぞれのパーツを貼りつけるとき、「これじゃないな」って思ったらいくらでも差し替えられるので。

 

 

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「貼り絵」の素材

 

 

荒井 いろいろな素材を使っていますよね。一枚の紙の上に、異質な存在がたくさん集まって一つの絵を作っているところが面白いなぁと思いました。

 

中川 布とかチラシとか、いろいろ使っていますよ。『アニマルアルファベットサーカス』(フレーベル館)のときは、ちょっとノスタルジックな海外のサーカスみたいにしたかったので、洋書をいっぱい集めそれを切って作りました。

 

亀山 だんだん貼り絵になれてきましたね。昔の作品をみると、「いまはこうつくらないよな」ってものばかりです、良くも悪くも。

 

 

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『かおノート』(コクヨS&T)の原画

 

 

荒井 ご自身の作風が変わってきたと感じますか?

 

亀山 作風だけじゃなくて、何事も変わっちゃいますからね(笑)。【次のページにつづく】

 

 

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vol.266 

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