大型増税で個人消費は落ち込む――総需要安定化政策を徹底すべき

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「やむを得ない落ち込み」

 

アベノミクスによる個人消費の回復に話を戻そう。

 

増税前の駆け込み分を除いても個人消費は2%程度伸びている。これは1996年度以来のことである。デフレを放置し続けた金融政策の転換でデフレから抜け出すという妥当な政策対応の実現で、消費が18年ぶりの高い伸びになったということだ。脱デフレによってインフレ期待が醸成されることが、経済成長率全体に大きな影響をもたらしたのである。

 

このように考えている筆者は、日本銀行の適切な金融緩和策が今後も続き、これまでのように個人消費が抑制されずに、個人消費も長らく続いた停滞から脱すると考えている。ただ、4月からの3%の消費増税は、消費の「元手」となる実質可処分所得を2%前後も目減りさせる。インフレ期待の高まりで消費性向が高まっても、賃金上昇が始まったばかりの景気回復の初期段階なので、増税による大幅な所得の目減りを補うのは難しい。

 

筆者は年初に書いたコラム「日本経済は、消費増税の大逆風に耐えられるか」で消費増税を中心とした緊縮財政政策によって、2014年度の日本経済には大きな押し下げ圧力がかかり、個人消費がマイナスに落ち込むと予想した。

 

そう考えていた筆者にとっては、最近の経済指標が表す消費増税後の個人消費の減少は、「やむを得ない落ち込み」とみている。個人消費の落ち込みを「想定外」とする認識は、消費増税による所得目減りを軽視していたか、冒頭で紹介したメディアの楽観的報道を鵜呑みにしていたか、どちらかではないか。

 

 

いま必要なのは緊縮財政政策ではなく、総需要安定化政策

 

筆者が懸念していたとおりに日本経済は4-6月に増税の悪影響で大きく落ち込み、いまだ回復が鈍い。それでは日本経済は今後どうなるのか。それには増税後の個人消費の落ち込みが、企業や労働部門などに大きなショックを及ぼしているかを確認する必要がある。

 

企業利益や生産活動をみると、一部自動車などの製造業で、夏場にかけて売上減少や在庫積み上がりで生産活動の調整を余儀なくされている。ただ、消費の落ち込みをきっかけに、企業利益や投資活動に大きな悪影響を及ぼしているかどうか判断が難しい。例えば5月分の機械受注統計の大きな落ち込みで、企業の設備投資が変調しているなど悲観的な見方も聞かれるが、同統計のカバレッジの狭さや振れの大きさを考慮すれば、同統計の悪化を過度に悲観するのは逆に危険である。

 

6月後半に調査された日本銀行の短観では、2014年度の設備投資計画は大企業で+7.4%と、大企業を中心に高めの計画が示された。6月時点の同調査の企業の設備投資計画は、例年実績よりも高い伸びに上方修正される傾向があるが、それを割り引いても企業の設備投資意欲が強い。脱デフレによる実質金利低下と超円高の修正で、出遅れていた製造業でも国内生産能力の拡大を目指す動きが始まっているとみられる。こうした状況を踏まえると、企業の利益拡大で、キャッシュフローが増えればそれに応じて設備投資が伸びる状況にある。

 

増税後の企業景況感を、短観の業況判断DIで確認すると、駆け込み需要で景況感が最も良かった3月から、6月にやや低下した。ただ、2013年末時点にやや戻っただけだ。そして、先行き9月までの業況見通しはほぼ横ばいである。ロイター社による7月時点分の企業景況調査は、製造業は横ばいだった。これらのサーベイからみると、販売停滞が続く小売業を除けば、製造業を中心に、売上や利益が増税後は底堅く推移しているようである。

 

また、上場企業の4-6月決算が7月半ばから発表されている。企業によって決算の中身はまちまちな状況だが、7月末時点の状況では、企業部門全体でみて売上・利益見通しが大きく下方修正されていない。先に説明した、企業景況感などのサーベイとほぼ整合的である。

 

増税ショックが労働市場に及ぼした影響については、6月の完全失業率が3.7%と10か月ぶりに悪化したという一見心配な材料もある。ただ、失業率は月次のブレが大きい。実際にはアベノミクス発動の2013年初から始まった、就業者数の増加が止まる兆しはみられない。

 

より安定している経済指標で、景気判断の有力な経済指標である有効求人倍率は、消費増税後も改善し6月も0.01ポイント改善した。また、新規求人数も増加ピッチは衰えているが、増加基調を保っている。これらを踏まえると、労働市場の需給悪化をもたらすほどの、総需要の持続的な停滞が起きている兆候はない。

 

大型緊縮財政政策採用で個人消費が大きく落ち込み、2014年度の経済成長率は低下する。ただ、金融緩和の景気刺激効果の下支えと海外経済の回復で、総需要の持続的な落ち込みは免れ、緩慢ながらも景気回復は続いているとみられる。

 

日本経済について、過度な悲観は不要だろう。ただ、脱デフレを実現する途上で稚拙に緊縮財政政策を採用し経済成長を止めることは、かなり危うい政策であることは間違いない。経済正常化と脱デフレを完遂するために、2%インフレ安定と完全雇用状況を実現するまで、景気刺激的な金融政策を続ける必要がある。そして、大型増税を含めた緊縮財政政策は先送りし、総需要安定化政策を徹底すべきである。

 

※本記事中の発言は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属するアライアンス・バーンスタイン株式会社の見解ではありません。

 

サムネイル「Graph With Stacks Of Coins」Ken Teegardin

 

 

 

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