リーマンショック世代・ロスジェネ世代に希望はあるのか

最近、人手不足のニュースを耳にすることが多くなった。求人数と求職者数の比率を示す有効求人倍率も上昇を続けており、完全失業率も3%台半ばにまで下がってきている。リクルートやマイナビの調査[*1][*2]によれば、来春卒業予定の大学生の7月時点の就職内定率も、 前年同月比で約6%上昇しているという。

 

しかし、思い出してほしい。5年前、リーマンショック直後の2009年には、完全失業率は5%を超え、「派遣切り」「ワーキングプア」といった言葉がメディアを賑わせていた。この就職超氷河期を経験した、2010年ないし2011年春に卒業した人たちは、今の景気回復の恩恵を受けることができているのだろうか。

 

過去の日本においては学校を卒業するタイミングで不況を経験した世代は、その後何年にもわたって、ほかの世代に比べて雇用が不安定で年収も低かったことが知られている。日本の労働経済学者たちはこれを「世代効果」と呼び[*3]、多くの実証研究がなされてきた。本稿では、こうした過去の研究からわかっていることを概観したうえで、リーマンショック後の就職超氷河期を経験した世代がこれからどうなるのか、どういった対策が必要なのかを考えてみたいと思う。また、その前の不況期に卒業した、いわゆるロスジェネ世代の現状についても見てみたい。

 

[*1] http://data.recruitcareer.co.jp/research/2014/07/20147-2015-ba68.html(2014/8/20閲覧)

 

[*2] http://saponet.mynavi.jp/enq_gakusei/naiteiritu/ (2014/8/20閲覧)

 

[*3] 余談だが、「世代効果」という言葉がしばしば学卒時の景気動向が持つ長期的な影響という意味で使われるのは日本だけである。こんなところにも、日本においては学校を卒業するタイミングで景気がいいか悪いかが一生を左右する度合いが高いということを反映されているのかもしれない。ついでにいうと、日本ではこの「世代効果」の存在は少なくとも1990年代にはすでに知られていたが、欧米で学卒時の景気動向が持つ影響の分析が多く行われるようになったのは2000年代に入ってからだし、日本ほど強く持続的な影響が残るという国は私の知る限りない。

 

 

「世代効果」研究でわかっていること

 

学校を卒業するタイミングで不況を経験すると、その後の雇用や年収にどう影響するか、という実証結果は、日本の労働経済学者の間では少なくとも1990年代半ばには知られ始めて、今日までにはかなりの研究蓄積が進んでいる。

 

実をいうと、私が共著者2人とともに7年前に書いたサーベイ論文が無料で全文読める。経済学の専門知識がなくても理解できる内容なので、具体的にどのような研究がなされてきたのかを知りたい読者は下記の論文をあたってほしい。

 

太田 聰一・玄田 有史・近藤 絢子 「溶けない氷河――世代効果の展望」日本労働研究雑誌、2007年12月号(No.569)

 

上記の論文で紹介した内容も含め、これまでなされてきた実証研究でわかっていることを大雑把にまとめると、学校を卒業する前の年(つまり就職活動をする年)の失業率が高かった世代は、

 

 

(1)ほかの世代に比べて平均的な年収が低くなる。景気が回復した後もその差は残る[*4]。

 

(2)新卒時点で正規雇用の職に就けないとその後長期間にわたって非正規雇用のままになってしまいやすいので[*5]、その世代の非正規雇用比率は長期にわたって高いままになる。

 

(3)正社員の職であっても、希望に合った仕事に就けなかった人が増えるため、その後仕事を辞める人が増える。

 

(4)学歴別にみると、大卒よりも高卒により影響が大きく、かつ持続的である。これは日本に特有の現象で、欧米の実証研究では、むしろ逆で、学卒時の景気が持続的に影響するのは大卒やホワイトカラーに限られるという結果のものが多い。

 

[*4] 使うデータによって多少数字が変わってくるが、上記の論文では、卒業前年の失業率が1%あがると、その後12年間の年収が、高卒男性で約7%、大卒男性では2~3%低くなるという結果になっている。

 

[*5] 具体的には、1985~97年の間に卒業した人たちを対象とした研究では、学校を出てから10年後に正社員である確率が、男性で47%、女性で28%下がるという結果が出ている。ただし、データが女性に限られるものの98年以降に卒業した世代を含む別の研究では、10年後に正社員である確率の差は17%となっており、近年はこの効果が弱まってきている可能性もある。

 

 

こうした現象が生じる原因としては、正社員、特に大企業の採用活動が新卒市場に偏っていることや、(今はそうでもないがかつては)長期雇用が前提とされていたため転職者が少なく、欧米に比べて転職市場が未発達なためにいったん就職した後でよりよい職に動いていくことが比較的難しいこと、などが挙げられている。

 

 

 

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