消費税再増税を考えるための4つのポイント

2014年7-9月期GDP速報値にもとづく判断のポイント

 

冒頭に述べたように、安倍首相は2014年7-9月期のGDP統計を勘案しながら12月に再増税の是非を判断するとのことである。筆者自身は、2015年10月からの再増税の是非を検討する場合に、可能ならば7-9月期のGDP統計のみならず12月時点で参照可能な月次ベースの統計も合わせて参照すべきと考えるが、以下では2014年7-9月期のGDP速報値にもとづいて判断する場合にどのような点が判断基準になるのかを考えよう。

 

甘利経済再生担当大臣は、2014年4-6月期のGDP速報値直後の記者会見で、「1~3月期の駆け込み需要と4~6月期の反動減という今回の消費税に伴う上下の振れを除いて、経済全体の趨勢を見るということが大事だ」との認識を示し、2014年1-3月期GDPと4-6月期GDPの単純平均値と2013年の同時期のGDPや、2013年10-12月期のGDPとの比較を行っている。

 

筆者は駆け込み需要と反動減の影響を慣らしてみるのであれば、それは駆け込み需要と反動減が生じる民間消費と住宅投資のみに対して行うべきであるし、1-3月期GDPと4-6月期GDPの単純平均で駆け込み需要と反動減の影響を慣らした趨勢の動きを見ることができるとの指摘には全く賛同しないのだが、大臣が一旦発言した理屈を撤回することは難しいだろう。よってあえて甘利大臣の論理に沿った形で検討してみよう。

 

図表5は、実質季節調整済のGDPを参照の上で、2014年1-3月期と4-6月期の単純平均値を計算し、(1)7-9月期の実質GDPが14年1-3月期と4-6月期平均値と同じで推移する場合の実質GDPと、そのために必要な7-9月期の前期比年率成長率、(2)7-9月期の実質GDPが14年1-3月期と4-6月期平均値から年率2%成長する場合の実質GDPと、そのために必要な7-9月期前期比年率成長率を図示している。

 

 

graph5

 

 

政府が7-9月期のGDP統計をみて再増税に日本経済が耐えうるのか否かを判断するのであれば、1-3月期と4-6月期の単純平均値よりも7-9月期実質GDPが低い水準に落ち着くとしたら、これまで趨勢として上昇基調で推移していた実質GDPが下落基調に転じたということになるため、当然、再増税に日本経済は耐えられないとの判断になろう。そのためには、7-9月期の実質GDP成長率が少なくとも前期比年率3.8%を超えることが必要条件となる。

 

そして消費税法附則第十八条(景気条項)の判断に従えば、実質GDP成長率2%が判断基準となりうる。この場合には、7-9月期の実質GDP成長率が前期比年率5.8%を超えることが必要条件となる。

 

各種報道によれば、各調査機関の7-9月期の実質GDP成長率の見通しは前期比2%を下回る予測が多いとのことだ。こうした予測通りに推移するとすれば、成長率の観点からみて予定通りの再増税は困難という判断に落ち着くだろう。

 

もちろん、実質GDP成長率が先ほど述べた年率5.8%成長を上回ったとしても、成長率に寄与したのが輸入の減少や在庫の増加がメインであったとしたら好ましい動きとはいえない。消費税増税によって大きな影響を受けた民間消費や住宅投資が7月以降順調に回復しているのかどうか、増加が既に予想されている公共投資のみならず、設備投資や輸出の堅調な増加が確認できるかどうかといった視点も合わせて考慮することが必要だろう。

 

 

消費税再増税をどう考えるか

 

以上、消費税増税は社会保障制度を維持するための安定的財源たりえないこと、消費税増税は低所得者に対して厳しい税であって、弱者を救うことが目的の一つである社会保障制度の財源にはそぐわないこと、消費税増税は経済への悪影響が大きく、7-9月期の経済動向から判断する際には、年率5.8%、最低限少なく見積もっても年率3.8%を上回る成長率が必要であることを述べた。7月以降の経済指標の動きからは7-9月期に前期比年率3.8%を上回る成長率を達成できる可能性は低く、日本経済の状況に照らしてみて予定どおり2015年10月から再度消費税率を引き上げることが可能という判断を下すことは困難であると思われる。

 

周知のとおり、日本の社会保障制度は、現役世代が支払う保険料によって給付が賄われる社会保険方式を採用している。最初に述べたように、高齢化が進むと社会保障給付費は増加するが、これまで公費負担というかたちで税金が投入されることで保険料をできるだけ引き上げない政策がとられたことで、基礎年金、介護保険、高齢者医療の半分程度が、政府が徴収する税金や政府による借金で賄われるようになった。これは、どんな高所得者でも、受け取る社会保障給付の半分が国民の税金や借金から捻出されているということである。こうした税金や借金を主に担うのは、現在の高齢者ではなく、若者や将来世代であるため、「持たざる若者や将来世代」から持てる高齢者への再分配を行っているに等しいともいえる。消費税をさらに増税することは、このような歪んだ所得再分配を認め、さらに拡大させることにつながる。

 

まずは2015年10月に予定されている増税を延期して、日本経済を健康体に戻すことが先決だ。具体的には、安倍政権が目指している消費税増税に伴う物価の上昇分を除いたベースで2%のインフレ率を達成・維持することでデフレからの完全脱却を達成し、そのことで得られる経済成長を維持しながら税収を確保することが望まれる。政府は2020年度までに財政赤字を黒字化することを目標としているが、この目標の達成は現状では困難である。達成可能な財政再建の道筋を再度設定しなおすとともに、社会保障制度と消費税にある制度上の矛盾を解消していくことが今求められているのではないだろうか。

 

■あわせて読みたい

 

アベノミクスを成功させるために、消費税増税を先送りせよ 山本幸三×飯田泰之

消費税増税で財政再建は可能か 若田部昌澄氏インタビュー

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.277 

・坂口緑「生涯学習論にたどり着くまで──人はいかにして市民になるのか」
・平井和也「ジョージ・フロイド殺害事件から考える米国の人種差別問題」
・野村浩子「日本の女性リーダーたち」
・安達智史「「特殊」を通じて「普遍」を実現する現代イギリスの若者ムスリム」
・太田紘史「道徳脳の科学と哲学」
・石川義正「「少女たちは存在しない」のか?──現代日本「動物」文学案内(2)」