アベノミクスで円安が起きていることがわかるたったひとつのグラフ

筆者最新刊『「円安大転換」後の日本経済 為替は予想インフレ率の差で動く』が3月15日に発売になり、発売一週間で重版が決定しました。お買い求めいただいた皆さま、書店員の皆さま、ありがとうございます。

 

本論考では、拙著最新刊の発売を記念し、新日銀正・副総裁の選出で注目の集まっている「為替レートの今後の動き」を占う上で重要な「この円安の正体は何か?」にあたる部分を、『「円安大転換」後の日本経済』から抜粋して掲載したいと思います。

 

 

ついにアメリカがインフレ目標政策を導入

 

2012年1月までは、投資家の間に「金融緩和のアクセルを踏むアメリカはデフレを回避しインフレを保つ一方、金融緩和に躊躇し続ける日本は、いつまでもたってもデフレから脱することができない」という予想が根強く残っていた。前述の通り、これが2010年7月から2012年1月にかけて起こった円高を、強力に後押ししていたのである。

 

しかし、この構図が2012年1月以降、少しずつ変わり始めた。その結果、2007年に始まった歴史的な円高を転換させることになったのである。

 

事の発端は国内ではなく、海の外からやってきた。2011年末に、FOMC (連邦公開準備委員会)という、アメリカの金融政策の舵取りを決める会議において、「FOMCに属するメンバーが抱く今後の金利・経済の見通しを、2012年から公表する」ということが発表された。

 

これは、FRBがそれまでの金融緩和政策を、将来どれくらい続けると想定しているかを、市場に明確に公表するということである。その結果、「FRBは超低金利政策を継続するつもりだ」という予想が広がり、それが市場金利の一層の低下をもたらしたのだ。そして、FRBの金融緩和効果をさらに強めることになり、景気回復刺激効果も高まったのだ。

 

このように、FRBが自らの政策スタンスをはっきりと示すことを通じて、金融政策の効果をより強める考えは、バーナンキ議長が従来から強く指摘していたことだった。その言葉通り、同じく2012年1月のFOMCにおいて、FRBは2%の「インフレ目標政策」の導入を決定し、宣言したのである。

 

1930年代にスウェーデンが導入したのを皮切りに、ニュージーランドやイギリスをはじめとする国々が、こぞって「インフレ目標政策」を導入してきた。そして、現在では先進20か国以上の国々が、この政策をとっている。しかし、先進国の中でアメリカや日本は例外的に導入していなかったのである。

 

バーナンキ議長はプリンストン大学の経済学者であった時代から、インフレ目標政策の必要性について提唱していた。その後、2002年にFRB入りし、それを実践しようとしたものの、FRB内部や政治家などから反対があり、なかなか実現しなかったという経緯があった。

 

市場では以前から、FRBが2%前後のインフレ率を理想として政策運営を行っていることは広く知られていた。それが2012年1月になってようやく、FRB内部の意見調整などが済み、決定されたのである。物価目標の公式表明に時間がかかったのは、FRBは「物価の安定」とともに「雇用の最大化」を目標としているため、「物価だけ」を目標とするのは問題になるという事情もあった。

 

こうして目標が明確になれば、物価変動に対してFRBがどのタイミングで政策を変更するかを、市場参加者は予想しやすくなる。そして、目標が人々のインフレ予想のアンカー(碇)になり、物価水準の達成と経済安定の実現にもつながりやすくなる。こうしたメリットがあるから、バーナンキ議長がFRBの他のメンバーを納得させることに成功し、「正式に」2%の物価目標を設定できたのだ。

 

 

 

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