「原発ゼロ」をどう考えるか ―― 政府試算からみた影響

試算結果の概観

 

試算結果を概観する際には、”エネルギーと環境のみらい”の重要文書・データにある「経済影響分析結果一覧」が役立つ。この資料は各ケースの電源構成が【分析したシナリオの前提】として示されており、推計した結果がCO2排出量、GDP等、産業別影響等、電力価格等、光熱費等、就業者数等に分けて示されている。それぞれについて筆者がポイントとなると考える点を中心に見ていこう。

 

 

GDP等への影響

 

まずGDP等への影響を見ていく。資料では2020年時点及び2030年時点の自然体ケースの経済指標からの変化率という形で示されている。図表2は2030年時点の実質GDP(炭素制約あり・なし)、家計消費支出(実質)、貿易収支のGDP増減への寄与(実質)につき、2030年時点の自然体ケースとの変化率をまとめている。なお、「ゼロシナリオ」とあるのは2030年までに原発比率をゼロにした場合、「ゼロシナリオ’(ダッシュ)」とあるのは2020年までに原発比率をゼロにした場合である。

 

 

図表2 GDP等への影響

図表2 GDP等への影響

(資料)「経済影響分析結果一覧」(http://www.sentakushi.go.jp/database/#database1)から転載

 

 

結果を見ると、図表の一番左側に配置された2020年に原発ゼロを達成した場合(ゼロシナリオ’)の実質GDP押し下げ効果が最も大きく、原発比率が高まる程実体経済への影響はマイルドなものとなっている。つまり原発ゼロを早期に実施するほど経済への影響が大きいということが試算からは読み取れる。

 

ちなみに影響が最も大きい2020年に原発ゼロを達成した場合(ゼロシナリオ’)の場合の実質GDP押し下げ効果はマイナス7.6%からマイナス1.4%となるが、決して無視することができないインパクトである。

 

なお、試算結果のインパクトでばらつきが見られる理由は、各モデルで想定している電力の価格弾力性の違いや試算に含まれる省エネ投資の効果の大小が影響している。電力の価格弾力性が高ければ、わずかな価格上昇で大きな効果が見込めるため、炭素制約を満たすために必要な炭素税の上昇幅は少なくなる。

 

炭素税の上昇幅が少なければ経済への影響もわずかなものに留まるというわけだ。DEARSモデルの場合は日本のエネルギー価格上昇によって他国の生産量が増加するという効果(リーケージ)が考慮されていることが大きなインパクトをもたらす一因とされている。

 

図表2では炭素制約なし(CO2制約を満たすために炭素税を課さない)の場合の実質GDPへの影響を掲載している。電源構成のみを変化させ、炭素制約を満たすための炭素税引き上げを行わなければ実質GDPへの影響は、炭素制約を課した場合と比較して軽微となる。つまり原子力から新エネルギーへのシフトと炭素制約を満たすための炭素税付加という二つの原因がコストを押し上げることで、実質GDPを低下させるという事がわかるということだ。

 

さらに図表2では実質家計消費支出と貿易収支のGDP増減への寄与を掲載しているが、これらへの影響はマイナスとなっている。電気代や光熱費といった生活コスト増が家計の実質所得を押し下げることで消費を冷やし、電力価格上昇が資本コストを引き上げることで投資を冷やし、実質ベースの純輸出は実質GDPに対して赤字方向に寄与することが読み取れる。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.276 

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