「原発ゼロ」をどう考えるか ―― 政府試算からみた影響

産業別・世代別・地域別の影響

 

次に産業別、世代別、地域別の影響を考慮しつつ試算結果を見ていこう。これらについては4機関の試算の一つである慶應義塾大学野村准教授(KEOモデル)の試算資料(http://www.kojin.org/papers/Energy_co2_20120704.pdf)が分かり易くポイントを提示しており参考になる。

 

以下感想を交えつつ簡単に紹介しておこう。野村准教授の試算資料にある「分析結果のまとめ」をみると、世帯主年齢階層別の実質所得の減少効果は、若年層では原発ゼロの場合に20%という実質可処分所得の下落が生じるとの結果が得られている一方で55歳以上の世帯ではわずかな下落にとどまることが指摘されている。これは雇用減少による労働所得の低下(若年層では労働所得への依存度が大きいため効果が大きくなる)、電力価格上昇による実質可処分所得減少効果を反映している。

 

さらに産業別雇用への影響をみると、石炭製品、化学、紙パルプ産業、石油製品、非鉄といったエネルギー多消費産業へのマイナス効果が大きく(10%を超える生産低下と20%を超える総労働投入の減少)、一方で建設、精密機械、一般機械の生産・雇用が増加するとの結果が得られている。

 

しかし建設、精密機械、一般機械の生産・雇用増は省エネルギーや再生可能エネルギー振興に伴う投資に伴うものであり、これらの投資が十分になされることや、国内投資の比率が現状と大きく変わらないこと(輸入比率が高まらないこと)が前提であることに留意すべきである。

 

マクロの変化は数%だが、各産業セクターへの影響はマクロの変化と比較して一桁大きいものであること、言い換えれば、試算で想定されているような産業調整が進まない場合にはマクロへの影響はより大きくなることも留意点だろう。

 

地域への影響は、エネルギー産業の比重が高い県へのマイナス効果が大きい。試算結果は都道府県別の産業別付加価値構成(2009年)を前提とした場合、つまり産業別に得られた試算結果を都道府県別・産業別の付加価値構成で割り振った結果と考えられる。原発ゼロの場合は徳島県、山口県、鳥取県、福島県、大分県、山形県、千葉県といった地域で相対的に大きな負の影響が生じ、愛知県、沖縄県、長崎県などでは相対的に小さな影響との結果が得られている。

 

つまり電源構成の変化は、若年世帯から高齢世帯への所得再分配効果、エネルギー多消費産業からそうでない産業への所得再分配・雇用再配分効果、エネルギー多消費産業を多く抱える県からそうでない県への所得再分配という三つの再分配効果を伴いながら、マクロ変数として見てもマイナス効果につながることが試算からは読み取れるというわけだ。

 

 

電力価格・光熱費への影響

 

再び「経済影響分析結果一覧」(http://www.sentakushi.go.jp/database/#database1)に戻って電力価格及び光熱費への影響を見よう。図表3が結果だが、2030年の自然体ケースの電力価格からの変化率の形で記載されている。

 

 

図表3 電力価格(名目)

図表3 電力価格(名目)

図表3 光熱費(名目)への影響

図表3 光熱費(名目)への影響

(資料)「経済影響分析結果一覧」(http://www.sentakushi.go.jp/database/#database1)から転載

 

 

結果をみると、名目電力価格のインパクトは実質GDP等の場合と同じく2020年に原発ゼロを達成する場合が最も大きく、電源構成に占める原発比率が上昇するにつれインパクトは小さくなる。2020年原発比率ゼロの場合(ゼロシナリオ’)の電力価格は、2030年の自然体ケースの電力価格の1.8倍から2倍超との結果が得られている。そして炭素制約あり、なしの電力価格上昇の比較から、電力価格上昇の7割程度が炭素制約を満たすための炭素税上昇によるものであることもわかる。

 

家庭の電気代・光熱費の上昇については、節約効果、価格上昇効果を分けた形で要因分析を行った結果が示されている。図表4では家庭の電気代への影響を見ている。

 

 

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図表4 電気代の要因分析

 

図表4 電気代の要因分析

図表4 電気代の要因分析

(資料)「経済影響分析結果一覧」(http://www.sentakushi.go.jp/database/#database1)から転載

 

 

結果を見ると、新エネルギーの低コスト化が進み、家計が十分な節約をすれば影響はより抑制されるが、基準となる参照ケースでも一定の節電を想定しているため、大きな節約効果を見込むのは困難であると考えられる。節約効果が2030年の参照ケースと比較して更に1割から2割弱進み、かつ化石燃料や新エネルギーを消費することによる電気代の上昇分や炭素制約を加味すると、原発ゼロシナリオの場合には参照ケースと比較して2倍の電気代を甘受する可能性があり、光熱費に直せば6割程度の上昇となる可能性があることがわかるというわけだ。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.276 

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