日銀のマイナス金利政策は「劇薬」なのか!?

日銀マイナス金利の仕組み

 

日銀マイナス金利は日銀当座預金を基礎残高・マクロ加算残高・政策金利残高の三つに分類し、それぞれに付利プラス0.1%、付利0%、付利マイナス0.1%を課すという少し複雑な手法です。

 

ただし、中央銀行の当座預金を分類し、それぞれに違った金利を課すというやり方は、すでにスイス中央銀行・デンマーク中央銀行・スウェーデン中央銀行が実施しており、新日銀が始めてではありません。

 

まず付利0.1%の基礎残高からみていきましょう。量的・質的緩和にともなって金融機関が2015年1月から12月までに積み上げてきた超過準備はここに分類されます。つまり、昨年まで積み上げてきた超過準備についてはこれまでと変わらず金融機関は無リスクで利息を稼ぐことができます。

 

次に付利0%のマクロ加算残高からみていきましょう。ここにはまず従来からあった法定準備と貸出支援基金・被災地金融機関支援オペ等で金融機関が日銀から資金供給を受けている部分が入ります。

 

さらに新日銀は量的・質的緩和の一環として年間80兆円の速度で市中から国債買い入れを行っています。それにともない日銀当座預金は増加していくと見込まれるため、それに応じてマクロ加算残高は適宜増加させていくとされています。言い換えれば、今後、増加すると見込まれる超過準備には付利0%、つまり付利は事実上廃止されたといえます。

 

最後に付利マイナス0.1%の政策金利残高をみましょう。基礎残高・マクロ加算残高の合計を超過して金融機関が超過準備を積み上げる場合、政策金利残高に分類されます。ここに来てやっと「マイナス金利」が登場するわけです。

 

超過準備の中でマイナス金利の対象となる政策金利残高に分類されるのは(当初は)おおよそ10兆円分になります。念のために補足しておきますが、すでに積み上げた約210兆円分は基礎残高に分類され、プラス0.1%の付利がつきます。つまり、このままいけば金融機関は1年間で約2000億円以上の利息を日銀から受け取れます。

 

「『劇薬の投与』、『未踏の領域』、『“預金者を罰する”』などと報道されたから、マイナス金利ってどんなに恐ろしい政策かとおもったら、たったこれだけのことなの!?」と思った人が居るかもしれません。

 

ええ、仕組みは少し複雑ですが、マイナス金利になるのは本当にこの政策金利残高の部分だけなのです。

 

 

日銀マイナス金利の効果は?

 

それでは日銀マイナス金利は、どのような効果をもたらすのでしょうか?

 

1月29日に発表された方式(階層構造方式)は、金融機関の金融仲介機能をできる限り損なわず、なおかつ従来から行われてきた量的・質的緩和とマイナス金利が調和するように巧妙に作られています。

 

まず、日銀当座預金の大半の付利が0%もしくはプラス0.1%に維持されることで金融機関の収益が急激に悪化することがないように配慮されています。ここが第一に重要なポイントです。

 

第二に重要なポイントは政策金利残高のマイナス0.1%の付利が短期名目金利の下限を形成するという点です。日銀当座預金の中では(当面は)小さな部分に過ぎないこの政策金利残高が短期名目金利を引き下げる効果を持ち、長期金利の低下も促す役割も有しています。実際、日銀マイナス金利の発表以後、10年物長期国債の金利が史上最低となりましたが、それはまさにこの小さな部分が機能することを示しています。

 

少し専門的になりますが、短期金融市場の短期金利(オーバーナイトのコールレート[無担])は付利を下限、基準貸付利率を上限として決まります。1月29日以前は付利プラス0.1%が下限でしたが、2月16日以降は政策金利残高の付利マイナス0.1%が下限となります。付利(下限)と基準貸付利率(上限)で決まる金利の変動幅をコリドーと呼びます。政策金利残高のマイナス金利がコリドーの下限となって、短期名目金利を低めに誘導する役割を果たすのです。

 

さらに重要なのは、「今後、必要な場合、さらに金利を引き下げる。」とはっきり明記されたことです。これは新日銀がデフレを許容しないという固い決意を今まで以上に明確に示したものといえます。

 

つまり、日銀マイナス金利は、新日銀が2013年4月から目指してきた「レジーム・チェンジを通じたデフレ脱却(具体的には、予想インフレ率引き上げと長期金利低下)」をさらに推し進めたものだといえます。

 

 

最後に:政府は需要喚起策を

 

1990年代から2000年代にかけて、日本の長期停滞の原因は供給不足が原因なのか、需要不足が原因なのか議論されてきました。

 

岩田規久男現日銀副総裁が大学教員時代に編著した『昭和恐慌の研究』の280ページには「日本の長期停滞の原因について、供給不足を原因だと考える論者を構造改革派と呼び、需要不足を原因だと考える論者をリフレ派と呼ぶ」と明確に書かれています。

 

そして、後者の考え方に従い、旧アベノミクス3本の矢は、大胆な金融緩和と機動的な財政政策で需要不足を解決するべく始まったはずでした。

 

しかし、日本経済は、2014年4月の消費税率引き上げ以後消費が低迷し、さらに現在は中国を始めとした新興国の景気低迷にさらされています。

 

つまり、内需・外需両面からの需要不足に直面しているわけです。

 

日銀からの景気刺激策は提案されました。

 

次は政府が決断するときではないでしょうか?特に2017年4月の消費税率の8%から10%への再引き上げが予定されています。消費税率引き上げが再び深刻な需要不足を引き起こすのではないでしょうか。

 

政府には消費税率引き上げ延期を含め、本格的な需要喚起策を望みたいと思います。

 

[参考文献]

岩田規久男編著, (2004), 『昭和恐慌の研究』, 東洋経済新報社.

日本銀行, (2016), 「『マイナス金利付き量的・質的金融緩和』の導入」,  2016年1月29日.

日本銀行, (2016), 「(参考)本日の決定のポイント」,  2016年1月29日(2月3日にQ8を追加).

Goodfriend, Marvin, (2000), “Overcoming the Zero Bound on Interest Rate Policy,” Journal of Money, Credit and Banking, 32(4), pp. 1007-35.

Danmarks Nationalbank, https://www.nationalbanken.dk/.

European Central Bank, https://www.ecb.europa.eu/home/html/index.en.html.

Swiss National Bank https://www.snb.ch/.

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

昭和恐慌の研究

昭和恐慌の研究書籍

作者岩田 規久男

発行東洋経済新報社

発売日2004年3月19日

カテゴリー単行本

ページ数384

ISBN4492371028

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