『ヤバすぎる経済学』――政治をもっとよくするためのインセンティヴ

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この考えはあんまりウケが良くない。理由はいろいろある。1つには、政治家のお給料を上げようと思ったら、そういう運動をするのは政治家たち自身なわけで、政治的にはそうそう通らないだろう(とくに景気が悪いときはそうだ)。新聞にどんな見出しが躍るか想像できますか?

 

でもこの考え自体はなかなかいいと思いませんか? 選挙で選ばれた人たちもそうでない役人たちも、お給料を上げてやれば、a)本当は大事な仕事なのだよとメッセージを送れる、b)もっと儲かる業界に行っていた有能な人たちが政治の世界にやってくる、c)政治家の人たちに、収入のことを心配せずに大事な職務に集中してもらえる、そしてd)政治家たちが利権に惑わされにくくなる。

 

もう政府の関係者にはたっぷりお金を払っている国もある。たとえばシンガポールがそうだ。ウィキペディアにはこう書いてある。

 

 

シンガポールの大臣は世界で一番給与の高い政治家である。2007年には給与が60%引き上げられ、その結果、リー・シェンロン首相の給与は310万シンガポールドルになった。これはバラク・オバマ大統領の40万アメリカドルの5倍にあたる。治める国の規模に照らして高いことを問題視した国民からの批判が短い間投げかけられていたが、政府は一貫して、「世界に冠たる」シンガポール政府の効率の高さと腐敗と無縁の地位を保つには、給与の引き上げが必要であるとの立場を取ってきた。

 

 

最近になってシンガポールは政治家のお給料を大幅に引き下げたけれど、それでもまだとても高い。

 

でも、政治家のお給料を大幅に増やせばほんとにお仕事の質が上がるって証拠はあるんだろうか? クラウディオ・フェラスとフレデリコ・フィナンの研究論文によると、ブラジルの地方自治体ではちゃんと上がったそうだ。

 

 

我々の主要な発見によれば、より高い給与(を支払うこと)で政界の競争は強まり、教育、職歴、議員としての政治の経験で測った議員の質は向上している。こうした選別時における改善が見られるのに加え、給与は政治家の業績にも影響を与えることがわかった。これは議席を確保することの価値が上昇すれば、反応が行動に表れるとの解釈と符合する。

 

 

フィナン、エルネスト・ダル・ボウ、マーティン・ロッシの3人が書いたもっと最近の論文は、公僕の質もお給料を上げれば改善するのを発見した。今度はメキシコの都市が調査の対象だ。

 

 

より高い給与でより能力の高い応募者が集まることがわかった。能力は知能指数、人柄、公共部門の業務に向いた特徴で計測した。また、意欲の面で逆選択が起きているとの証拠は見られなかった。より高い給与の下では内定者が職を受諾する割合が上昇している。労働供給の弾力性は2近辺であり、ある程度の需要独占が見られることを示唆している。自治体までの距離と環境の悪さは、受諾率を低める強い効果を持つが、一方、高い給与は環境の悪い自治体における応募者の不足を緩和する効果を持つ。

 

 

政府の役人や議員にもっとお給料を払わないとアメリカの政治はよくならないよなんて言う気はない。でも、学校の先生のお給料が、他の分野で働く同じぐらい能力のある人よりも少ないというのはよくないと思うし、それと同じように、他のことをやればもっと稼げるというのに、できる人が政治家や公僕の仕事に十分集まってくれると思うのはたぶん考えが甘い。

 

ここのところぼくが考えているもっと過激なアイディアもある。政治家にインセンティヴを与え、彼らが議員としてやったことが社会にいい結果をもたらしたら、たっぷりお金を払うのはどうだろう? 

 

政治に付きまとう大きな問題と言えば、1つには、政治家のインセンティヴが有権者のインセンティヴとあんまり一致していない、ということがある。投票する人は政治家たちに、長い時間をかけて難しい問題を解決してほしいと思っている。交通、医療、教育、経済発展、地政学問題なんていうのがそうだ。一方、政治家のほうは、自分自身の利益で動く強いインセンティヴを抱えている。そして彼らの利益はだいたい目先のこと(再選、資金調達、権力その他)ばかりだ。だいたいの政治家がやることなすことに、ぼくたちは辟易しているけれど、でも、彼らは単に、政治の仕組みが自分たちの目の前にぶら下げたインセンティヴに反応しているだけなのである。

 

でももし、政治家に払うお給料を一律でなくしたらどうなるだろう? 今みたいな払い方だから彼らは議席を自分の利益に利用するばかりで、それが全体の利益に反していたりするのなら、彼らが全体の利益のために必死に働くようなインセンティヴを与えたらどうだろう?

 

どうすればそうなる? 政治家に、自分が携わっている法案に対するストック・オプションみたいなものをあげればいい。選挙で選ばれた人でも任命された人でも、あるプロジェクトに何年間も携わるのだとして、そのプロジェクトが公衆衛生なり教育なり交通なりの分野でいい結果をもたらすのなら、その人にたっぷりお給料を払おう。5年後になるか10年後になるかわからないけれど、ちゃんと検証して効果が確かめられたら小切手を切るのだ。どっちがいいか考えてみてほしい。教育長官に、何かいいことをしようがしまいが関係なく決まりどおりのお給料20万ドルを払うのと、長官がアメリカのテストの点を10年間で10%引き上げるのにほんとに成功したら500万ドル払うのと。

 

このアイディアをたくさんの議員にぶつけてみた。完全に頭がおかしいとは受け取られなかった。あるいは、礼儀正しくも頭がおかしいやつだなんて思ってませんよってフリをされた。最近、ジョン・マケイン上院議員にもこのアイディアを話す機会があった。彼は注意深く耳を傾けてくれた─うんうんとうなずき、にこにこしていた。話の間ずっとだ。こんなにも熱心に聞いてくれるなんて信じられなかった。おかげでぼくは調子に乗って、とても詳しいところまでどんどん説明を続けた。最後に、彼は握手の手を差し伸べた。「ステキなアイディアじゃないかスティーヴ」と彼。「幸運を祈ってるよ!」

 

で、彼は踵を返して立ち去った。その間もずっとにこにこしていた。ここまで完全に断られて、こんなにも気持ちよかったのは初めてだった。で、ぼくは思った。これが偉大な政治家ってことなんだな。

 

 

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