2017年の経済展望――世界経済を見る上での4つのポイント

中国経済の何をどう懸念すべきか

 

新興国経済に視点を移そう。昨年1月半ばに国家統計局から公表された中国の2015年実質GDP成長率は6.9%となり、暦年換算では2000年以降初めての7%割れとなった。1980年から2008年までの平均実質GDP成長率は10%であったが、今後もGDP成長率の鈍化が続くだろう。

 

中国経済の鈍化は中国向け輸出比率が高まっているロシア、南アフリカ、ブラジル、マレーシア、タイといった国々にとって、そして、中国へ原材料を輸出する一方で、中国で生産された電気機械や自動車・鉄鋼を輸入するといった形で2000年以降大きく成長したアフリカ経済の先行きにとっても懸念材料である。

 

さて、わが国が1960年代から70年代にかけて経験したのと同様に、10%程度の高度成長期から5%から6%の安定成長期に差し掛かっているのが中国経済である。経済成長を支えるのは、労働、資本、生産性の伸びである。これらが中国経済にどのように影響しているのかを検討すると、労働投入については少子高齢化を反映してさらなる低下が見込まれ、資本投入についても設備投資の調整を反映して同じく低下が見込まれる状況である。さらに生産性についても、リーマン・ショック以降、過去と比較して伸びが鈍化している。

 

つまり、足元の経済動向と潜在成長率の動きからは、7%弱の経済成長率は今年も引き続き修正を迫られる公算が高い。問題は成長率の低下がどの程度で、かつどのような時間軸で生じるのか、こうした成長率の低下が世界経済にどの程度のインパクトをもたらすのか、中国経済の何を懸念すべきかということだろう。これが2017年の先進国経済先行きの第三のポイントだ。

 

中国経済の今後を正確に予測することは困難だが、2016年以降に2010年代の平均GDP成長率が5.6%まで落ち込むとし、段階的に成長率が低下していくと仮定した場合の中国の実質GDP成長率は図7のとおりとなる。仮に2010年代の中国の平均実質GDP成長率が5.6%まで落ち込む場合には、2020年の中国の実質GDP成長率は1.0%まで低下する必要があるということだ。

 

 

図表7 中国経済の実質GDP成長率の推移と想定

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(注)2016年以降の成長率は、2011年~2020年の平均実質GDP成長率が5.6%を満たすように段階的に成長率が低下すると想定して計算した結果。

(出所)中国国家統計局データより筆者作成。

 

 

こうした中国の実質GDP成長率の急落は、筆者を含むエコノミストの大多数が予想していないと思うが、中国の実質GDP成長率が2020年にかけて6.9%を維持した場合と、図7にあるような成長率の低下を見込んだ場合とを比較して、失われた最終需要が世界経済に与える影響を試算してみよう。

 

なお試算にあたっては、OECD諸国を中心とする40カ国、35産業を網羅する国際産業連関表(世界各国間の投入・産出関係を整理したデータ)であるWorld Input-Output Database(WIOD)の最新版(2011年版)(http://www.wiod.org/new_site/home.htm)を用いた。

 

中国経済が2016年以降6.9%の成長率を維持した場合と、2016年以降に図表7に示した成長率で推移した場合とを比較して、WIODの最新版と同じ2011年の中国実質GDPに対する比率として換算すると、2016年から2020年までの5年間の累積で、2011年の中国実質GDPの実に28.9%に相当する中国の最終需要が失われることになる。

 

この中国の最終需要の減少が、各国間の輸出入を通じて各国の国内生産に与える影響はどの程度だろうか。WIODにおける中国経済の最終需要が2011年の中国実質GDPの28.9%分減少した場合に、各国間の輸出入を通じて各国の国内生産額にどの程度のインパクトが及ぶのかを試算してみたのが図表8である。

 

 

図表8 中国経済減速にともなう各国生産への影響

 

(注)中国経済が2016年~20年に6.9%の成長率を維持した場合と、図表7のような成長率で推移した場合とを比較して、両者のGDPの差を換算し、WIODに最終需要の減少分として与えて生産誘発額を計測した結果。

(出所)World Input-Output Databaseから筆者作成。

 

 

結果をみると、世界経済全体の生産は2011年の世界生産額で換算して4.0%減少する。各国への影響をみると、中国との交易関係が密である韓国や台湾への影響が大きく、日本への影響はドイツと同様に0.9%の国内生産の落ち込みとなる。

 

この影響は5年間の累積効果であるため、1年あたりの平均に直せば、単純平均で世界経済全体への影響は0.8%の落ち込み(=4.0%÷5)、日本経済への影響は0.18%の落ち込み(=0.9%÷5)となる。つまり中国経済の減速が輸出入を通じて各国経済に与える影響はわずかであるということだ。中国経済の成長率鈍化が図表7よりもマイルドであれば、さらに世界経済への影響は低下することになる。

 

だが、中国経済の動向について不安な点が無いのかと言われればそんなことはない。図表9は中国の外貨準備高の推移をみている。2014年春から2016年にかけて外貨準備高は大きく減少したが、これは人民元レートの安定的推移を担保することが目的であった。

 

2016年に入り外貨準備高は横ばいで推移したが、11月には前月比2.2%と1月以来の大幅な下落率となった。資本流出による人民元安の進行を食い止めるために中国人民銀行が外貨準備を使って人民元を買い支えているためである。他方で資本統制も行っている。こうした動きが進めば、欧州の銀行の経営にも悪影響を及ぼすことにつながるだろう。外貨準備高、為替レート、株価の急変といったマネーを通じた混乱に注意が必要だ。

 

 

図表9 中国外貨準備高の推移

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アベノミクスを貫徹させることが日本経済再生の最短距離

 

最後に2017年の先進国経済先行きの第四のポイントとして、日本経済について簡単に検討しよう。冒頭で紹介したOECD経済見通しによれば、日本の実質GDP成長率は2017年1.0%、2018年0.8%、名目GDP成長率は2017年1.1%、2018年1.6%である。

 

昨年12月に2008SNAへの対応がなされ、2011年基準改定値として公表された2015年名目GDPの水準は531兆円となったが、安倍政権が目標として掲げる2020年名目GDP600兆円を達成するために必要な年あたり成長率は2.5%である。そしてOECDが予想する成長率に沿う形で日本経済が推移すれば、2020年名目GDP600兆円の達成は困難になるだろう。

 

2015年の531兆円から2020年に600兆円へと名目GDPを拡大させるにはどうしたら良いのだろうか。図表10は不足額69兆円(=600兆円-531兆円)を、2015年名目GDPを構成する各支出項目のシェアで按分した結果である。

 

図表から明らかなとおり、名目GDP600兆円を達成するには名目GDPの6割弱を占める民間消費の拡大が不可欠である。そして民間消費を39.3兆円増加させるには2016年以降平均2.5%増のペースで毎年増加する必要がある。これは日本経済がデフレに陥った1995年以降で一度も達成していないペースである。つまりデフレから完全に脱却して民間消費の持続的拡大を伴わなければ不可能であるということだ。

 

 

図表10 2020年名目GDP600兆円達成のために必要な各支出項目の増分

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(注)有効桁数の関係で上記数字は厳密に69兆円とはならない。各項目の括弧内の値は2015年の名目値を示す。

(出所)内閣府「平成27年度国民経済計算年次推計(平成23年基準改定値)」

 

 

アベノミクスは大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の実行を通じてデフレからの脱却と富の拡大を目指した政策である。大胆な金融政策が継続する中で財政支出を拡大させる余地はあるのだろうか。

 

図表4の結果からは、2016年から17年にかけての2年間で名目GDP比2.2%(10兆円程度)の財政支出を新たに行う余地がある。内閣府の推計によれば、わが国のデフレギャップは4兆円程度と見込まれる。10兆円程度の財政支出の余地を活かして総需要を拡大させデフレからの完全脱却を果たすことで、短期的な景気刺激と長期的な財政健全化の両立を実現することが求められる。

 

今年9月に日銀が新たに採用した「長短金利操作」と「オーバーシュート型コミットメント」の2つの枠組みは、財政支出に伴う長期金利上昇圧力を抑制し、財政支出の効果を増幅することで、2%の物価安定目標の実現をさらに強固なものとする力となるだろう。アベノミクスを貫徹させることが、日本経済再生の最短距離であることは来年も変わらない。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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