就職氷河期世代にとって消費増税は天敵――あるべき経済政策はなにか

視点を変えて、われわれの収入はどうなっているでしょうか。次のグラフは、「日本国内で支払われた給料の総額」(総雇用者所得)と「消費者物価」の動きを1997年を基準として100としたものです。「総雇用者所得」は、「一人当たり名目賃金」(労働者の平均賃金)に「非農林業雇用者数」(働いている人の人数)をかけたものです。太線(総雇用者所得)が点線(物価水準)より下にありますが、その差が大きければ大きいほど、お給料が物価上昇分に追いつかず目減りしているということになります。赤い縦の矢印が一番差が大きいところにありますが、そこは当時の民主党政権が衆議院を解散した2012年11月を示したものです。

 

 

 

 

これをみればデフレで下がりまくった「国内で支払われた給料の総額」が、2013年からの金融緩和政策によって反転し、20年ぶりにやっと物価に追いついてきたことが分かります。しかしこれは本格的にデフレに突入する直前の1997年と同レベルに戻ってきただけで、給料生活者にとっては不十分です。なぜなら先のグラフでお分かりのように、世界的に見れば各国とも20年ではるかに豊かになっているからです。

 

「これだけ真面目に働いているのだからもっと豊かになって当然だ」とわれわれ国民は思っています。この状況でさらに増税をしてしまえば、国民は政府によって捨てられたと落胆し、将来への見通しが一段と悪くなり、消費者は今より一層おカネを使わなくなりかねません。

 

このように家計の消費支出とお給料を見れば、ともに今、消費増税をすべき局面ではないということが分かりました。

 

ここで増税をしてしまえば、家計の消費もさらに縮みかねません。消費が縮めば国内の需要も縮み、雇用の悪化を招きます。となれば雇用の調整弁扱いされている、低賃金の非正規労働で頑張っている人が多い就職氷河期世代が一番打撃を受けることになるでしょう。このように消費増税はとくに就職氷河期世代に大きな打撃を与えるのです。

 

 

5.所得再分配が必要なのに逆進性が強い消費増税はあり得ない

 

消費税という間接税を社会保障の財源として位置づける例は世界にもほとんど例を見ません。なぜなら消費税は、低所得者にとって負担の比率が大きいという逆進性を持つからです。法人税、所得税なら別ですが、逆進性のある税を弱者のため、所得再分配の機能を担う社会保障の財源とすることがナンセンスだからです。消費増税はわが国の低所得層、とくに今後正規労働者になれるみこみの低い就職氷河期世代を直撃します。

 

また出入国管理法の改正で外国人労働者が5年間で最大34万人増えるとされていますが、これ以外にも従来からのスキームでの外国人労働力の増加は続きます。単純労働力や技能実習生の増加は企業にとってはいいことでしょうが、非正規労働者の賃金を引き下げる方向に働きます。非正規労働者の比率が他の世代と比較して多い世代が就職氷河期世代であり、当然もっとも大きなダメージを受けることでしょう。これでいいわけがありません。またここでは詳しくは論じませんが、食料品などに対する軽減税率は政府のふれこみとは逆に高所得者にメリットが大きいのです。

 

さらに私が強調したいのは、消費増税を止めるだけでは政策として不十分だということです。新たに就職氷河期世代が生まれなくなるだけに過ぎません。これまでの就職氷河期世代をどうするのかというはるかに大きな問題が未解決のままです。

 

今の政権は2014年4月の前回の増税から、本来2015年10月に予定されていた10%への増税を2019年10月まで延期し、5年間半という猶予を手に入れました。政府が本気で「社会保障の財源として消費税を引き上げるのだ」と考えていたのならば、その間に所得の再分配など、われわれの生活を後押しする政策を打ち出さなければならなかったはずでした。しかし現実は誰もが知っているとおり企業サイドに立った政策ばかりでした。

 

今の就職氷河期世代の最年長グループは50歳目前に迫っていますが、彼らも5年前ならまだ40代前半で、転職や子育てで少なくとも今よりもずっとリカバーがしやすかったはずです。私の妻は42歳で次女を授かりました。40代前半は人によっては出産も可能な年齢です。ましてやそれ以下の年齢の人々にとっては早ければ早いほどいいのです。政府が緊張感なく無為に過ごしてしまった5年は大きいのです。

 

なぜ政治は5年間無為無策だったのでしょうか? 就職氷河期世代こそはバブル崩壊後に政府当局が経済政策の舵取りを間違えたことが生んだ犠牲者なのですから、政治の責任で必ず救済しければならないはずです。所得再分配が必要です。

 

最近の報道によれば、40歳以上のいわゆる「ひきこもり」に公的な支援が行われないとのことです。就労につなげづらいと判断したためのようですが、この発想は誤っています。仮に働くところまでいかなくてもいいじゃないですか、たんなる社会復帰でも大きな一歩です。非正規労働の就職氷河期世代をこのまま放っておくと、結婚もできず家庭も持てないままでこれから単身高齢者はどんどん増えていきます。彼らの多くは老後、無年金で生活保護に陥ることでしょう。となれば生活保護など社会的扶助のために膨大な予算が必要になります。

 

手の打ちようがなくなる前に公的な支えを入れなければならないはずです。企業からの声に応えて人手不足だからといって、後先も考えず外国人労働者を増やすというのなら、その前に国が就職氷河期世代に就業・教育支援して働いてもらうことが当然ではないでしょうか。長い目でみれば国の予算も助かります。

 

就職氷河期世代・ロスジェネ世代のリカバーを可能にするためには、最低限の生活を可能にする所得再分配や子どもたちの世代に対する教育・子育て支援が必須です。親から子への貧困の連鎖は、政府の手で断ち切らなければならないからです。

 

先に韓国の例を挙げましたが、日本よりもはるかに速い速度で成長しているあの国でさえ政情不安が起きています。11月2日の米中間選挙では、上院でトランプ大統領の共和党が勝ちました。欧州では極右勢力がすでに台頭しています。こうした結果の背景には移民や外国人労働者に対する有権者の反感があります。わが国でも外国人労働者を本格導入して就職氷河期世代を見捨てれば、棄民政策が摩擦と反発を生み、欧米と同じく排外勢力の台頭が起きかねません

 

霞が関官僚は財政緊縮・歳出カットばかり考えていますが、今ここでわずかな目先の予算を惜しんで就職氷河期世代に対して自立の手助けをしなければ、大勢の生活保護予備軍が生まれてしまい、霞が関の意図とは逆に将来、国庫に大きな負担をかけることになります。わが国が、霞が関官僚が推し進めている消費増税をはじめとする財政緊縮・歳出カット路線を離れなければ、就職氷河期世代の将来も暗いものとなり、また霞が関が望む財政再建も実現不可能となるでしょう。

 

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