日本の男女賃金格差とペイ・エクイティ運動

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.ペイ・エクイティ運動の裁判での実践

 

1.京ガス男女賃金差別裁判

 

私が原告として闘った京ガス男女賃金差別裁判は、同一価値労働同一賃金原則を日本で初めて裁判の俎上にのせて闘った事件です。提訴した時点で私は検収・積算を担当する事務職であり、私が比較対象にした同期の男性はガス工事監督職で課長でした。

 

1998年4月27日、(株)京ガス(ガス配管工事事業を主要に請け負う建設会社)を被告に男女賃金差別事件として京都地裁に提訴し、01年9月20日に勝利判決を勝ち取りました。一審判決は、「原告と男性監督職の各職務を、知識・技能、責任、精神的な負担と疲労度を比較項目として検討すれば、その各職務の価値に差はない。労基法4条違反で違法、賃金格差は女性差別である」と明言し、事務職と監督職という異なる職務の「同一価値労働」を実質的に認めて原告勝訴としました。

 

判決は、事務職と監督職の職務評価を具体的に実践した、森ます美氏(昭和女子大学教授)執筆の『鑑定意見書』を証拠の筆頭に挙げています。職務評価の結果、主要5職務の評価点は、私が838点、男性監督職が780点で男性を100%として私は107%でした。一方で年収換算の時給は男性を100%として私は70%でした。この格差は女性差別であると是正を求め、京都地裁が女性差別を認定し、職務が異なる男女の職務評価の実践が判決として結実しました。

 

認定損害額は男性の85%と不当な部分もありますが、これは日本の司法の限界であり、「職務の価値」という概念を採用した内容は画期的でした。05年12月8日、大阪高裁の勧告による一審判決を活かした和解で解決しました。日本では立証が困難と言われた同一価値労働同一賃金原則を真っ向から掲げて闘った裁判は全国的な支援を得て、運動の力で勝利したものです。京ガスの地裁判決・高裁和解はその歴史的意義と社会的影響並びに波及効果は甚大であり、ペイ・エクイティ運動のスターティング・ポイントとなりました。

 

 

2.商社兼松男女賃金差別裁判

 

1995年に提訴した商社兼松の男女賃金差別裁判でも、職務評価を実践しました。原告6人の職務とそれぞれの仕事上でペアを組んでいた男性を比較対象にして職務評価を行い、02年10月「鑑定意見書」(森ます美氏執筆)を提出しました。地裁では「意見書」は採用せず、「憲法に反する差別だが、違法ではない」との意味不明な理由で敗訴しました。高裁で新たな「意見書」を提出した結果、08年1月31日の判決では、二人の原告を損害賠償から外すという不十分さはあったものの、職務評価結果を採用した原告側の勝訴でした。

 

高裁判決では、「コース別雇用管理制度の下で異なるコースに属する事務職(女性)と一般職(男性)の担当職務の同質性を認め、賃金に相当な格差があったことは合理的な理由は認められず、性の違いによって生じた労基法4条に違反する賃金差別である」と認定しました。男女雇用機会均等法が謳う「雇用管理区分内の機会の均等(コースが同じ場合だけ差別禁止の要件とする)」の論理を超えて、雇用管理区分が違う労働者間における職務の同質性にもとづいて賃金格差を差別と認めたことは、運動の未来に光を与えたといえます。

 

また判決は、転勤や転換制度が差別賃金の合理的根拠にはならないことにも言及し、コース別雇用管理区分による賃金格差を違法としました。この高裁判決は、職場内のコース別制度だけではなく、非正規と正規という雇用管理区分による賃金差別の理不尽さを指摘するものとして高く評価できます。09年10月、最高裁は原告・被告双方の上告を棄却し、高裁での勝利的判決が確定しました。

 

 

Ⅲ.安倍政権の働き方改革関連法は格差縮小につながるのか?

 

安倍政権が打ち出した「働き方改革関連法」の柱は同一労働同一賃金でした。非正規と正規の均等待遇を図ることを目的とされましたが、裁判で活かされることはあるのでしょうか? 2019年2月に労働契約法20条関連の事件で、高裁判決が出された二つの裁判について考えたいと思います。

 

 

1.メトロコマース事件 2月20日 東京高裁判決

 

「東京メトロ」の売店で働くメトロコマースの販売員は正社員、契約社員A(提訴当初)、契約社員Bの3つの雇用形態に分れ、まったく同じ仕事をしています。原告4人の契約社員Bは1年の有期雇用契約を約10年間更新してきました。労働契約法20条および民法90条を根拠に、基本給、各種手当、賞与及び退職金の差額を損害賠償請求してきました。一審はほぼ門前払いという「欠陥判決」だったため、高裁判決には全国の仲間が期待を寄せていました。

 

一審では比較対象者を正社員全員(600人)としていましたが、高裁では同じ売店業務の正社員に絞りました。判決で不合理と認めたものは住宅手当、残業手当、褒賞金だけです。退職金は「会社の裁量」とは関わりなく勤続に応じて支給されるため、「契約社員には少なくとも4分の1はこれに相当すると認められる」と4分の1だけ認めました。本給については、「正社員は代務業務やエリアマネージャー業務等、売店以外の業務に配置転換の可能性がある。本給は正社員と比較して低いとはいえず(72~74%)、正社員を厚遇することは当然」と格差を容認しました。資格手当も賞与も格差を不合理と認めませんでした。

 

また地裁判決と同じく「正社員に対し賞与の支給を手厚くすることにより、有為な人材の確保・定着を図る」と述べて、非正規社員の人格を貶めました。正社員の賞与は夏冬各2カ月分+17万円+期末手当10万円、契約社員Bは夏冬各12万円+期末手当2万円であり、大きな格差があります。また、労契法施行前に定年となり、再雇用で同じ仕事をしていた原告Sさんの請求をすべて棄却し、労契法を利用して原告を分断しました。勤続10年以上、正社員(正社員の勤続年数は平均10年)と同じ仕事をしてきた契約社員への差別に司法が是正の道を閉ざし、率先して格差を容認することは許されません。

 

請求金額は4人で約5千万円ですが、3人の原告に対して、わずかに総額約220万円の損害額を認めたにすぎません。勤続年数はほぼ同じなのに、退職金を正社員の4分の1しか認めないことは、はなはだしい侮辱だと考えます。基本給や賞与などを含め、本丸の賃金に同等の処遇を認めない司法のあり方には「日本型同一労働同一賃金」の限界が表れています。

 

「日本型同一労働同一賃金」では、基本給は、「能力・経験、業績・成果、勤続年数、配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理であってはならない」とされ、賞与は貢献度の相違に応じた支給とされていますが、業績・成果や貢献度の評価は「人の評価」であり恣意が入ります。正社員と同一労働という現実の労働実態を検証することなく、将来の(ないかもしれない)可能性だけで格差は合理的と言い切る判断は差別の上塗りであると言わざるを得ません。

 

 

2.大阪医科大学事件 2月15日 大阪高裁判決

 

アルバイト職員として研究室秘書をしていた原告は、正職員とまったく同じ就業時間で同じ仕事内容、同じ責任で働いていました。大阪地裁では「非正規の賃金、55%は一定の範囲に収まっている」との不当判決でしたが、大阪高裁では、賞与を正職員の6割、夏季特別休暇を5日、病気休暇の賃金保障その他を一定認め、非正規格差は不合理と断じました。賞与について「正職員の賞与も年齢や成績に一切連動していない。一定期間働いたことへの対価の性質がある」と認めましたが、正職員とまったく同じ条件で仕事をしながら、なぜ6割しか認めないのでしょうか? 仕事内容に関わらず正規と非正規には格差があって当然という、身分差別を温存しようとする裁判官の悪意が現れていると言えます。

 

20条関連裁判は郵政ユニオン2件を含め4件が、舞台を最高裁に移し、これから新たな闘いが始まります。

 

 

3.国際基準の職務評価で同一価値労働同一賃金原則の実践を!

 

労働者にとって賃金差別は日々の屈辱です。格差に客観的な根拠がなければ差別される方は納得できません。長年にわたって同じ仕事をしながら、使用者側が意図的に作った雇用形態を理由に差別されることは耐え難いことです。不当だと提訴しても政権におもねる司法が格差を容認する、これが安倍政権の働き方改革の実態だろうと思われます。

 

日本の裁判所は、日本型雇用慣行をベースに賃金格差を判断してきました。男性が主要な働き手という雇用慣行のなかでは、男女賃金差別という構造的な差別がベースにあり、非正規労働者の7割を占める女性たちは周辺労働者としてさらに排除される対象となります。差別とは何かを検証し、ジェンダーの視点に立った真の改革をすること、そのためには女性活躍推進法でも「男女の賃金の差異」を情報公表項目にすることが必要です。働き方改革の議論のなかではまったく無視されてきたILO条約を何度でも確認すべきです。ILO100号条約が規定する同一価値労働同一賃金原則による国際基準の職務評価の実践と制度化が今こそ運動の重要課題だと思います。

 

参考文献:屋嘉比ふみ子著「なめたらアカンで!女の労働」明石書店

 

 

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vol.267 

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