「留学生ビジネス」の実態――“オールジャパン”で密かに進む「人身売買」

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『読売新聞』(2018年10月8日朝刊)によれば、学生の9割以上が留学生という専門学校は全国で少なくとも72校、学生全員が留学生という学校も35校に上っている。こうした学校は、経営維持のため偽装留学生の受け入れに走っている可能性がきわめて高い。一方、偽装留学生は専門学校や大学を卒業すれば、日本で「移民」となる権利を得ることになる。

 

安倍政権は「留学生30万人計画」と並び、留学生の就職率アップも成長戦略に掲げている。日本の専門学校や大学を卒業した留学生の就職率は4割に満たない。それを5割以上に引き上げようというのだ。

 

その方針のもと、日本で就職する留学生は増え続けている。2017年には過去最高の2万2419人が就職し、前年から約15パーセント、12年の2倍以上に増えた。さらに今後は、近年急増した留学生が就職時期を迎える。

 

そのなかには、相当数の偽装留学生が含まれる。彼らはアルバイト漬けの日々を送っているため、大学などを卒業しても専門的な知識や日本語能力が身についていない。そんな留学生でも日本で就職するケースが増加中だ。ホワイトカラー向けの在留資格「技術・人文知識・国際業務」(技人国ビザ)を得てのことである。

 

技人国ビザは日本で就職する留学生の9割以上が取得する。在留期間は1〜5年まで幅があるが、ひとたび取得すれば更新は難しくない。つまり、ビザ取得によって日本で「移民」となる資格を得るに等しい。だが、ここにもカラクリがある。

 

技人国ビザを保有する在留外国人は2018年末時点で22万5724人に上り、1年で20パーセント近く急増した。12年時点と比べれば約2倍の伸びである。その裏では、同ビザでの就労が認められた専門職に就くと見せかけ、実際には工場などで単純労働する“偽装就職”が増えている。

 

人手不足が深刻化しているのは単純労働の現場だが、留学生は単純労働目的に就職はできない。そこで「通訳」などホワイトカラーの仕事に就くと偽って技人国ビザを取得した後、実際には弁当工場などで働く。

 

ビザの取得は留学生自らでは無理だ。そんな彼らにつけ込み、「留学生サポート」と称して”偽装就職”を斡旋する業者が暗躍している。留学生たちから1人につき数十万円もの手数料を徴収するような業者もある。こうして偽装留学生たちは母国での留学斡旋ブローカーに始まり、来日後には日本語学校や専門学校、人手不足の企業、さらには就職斡旋業者にまでも都合よく利用され続ける。それが「留学生ビジネス」の偽らざる実態だ。

 

たとえ日本で就職しても、日本語能力を身につけていない偽装留学生はキャリアアップが望めず、底辺労働に固定されることになる。人手不足がもっとも進んでいるのは、日本人の嫌がる低賃金・重労働の職場だ。「留学生30万人計画」と同様、留学生の就職率アップという政策の“裏テーマ”もまた、底辺労働者の確保策なのである。

 

産業界にとっては、低賃金を厭わない底辺労働者が確保できれば大助かりだ。偽装留学生の労働力に依存してきた企業としては、彼らを長く日本へ引き留め、「移民」となった後も利用し続けたい。その声に応え、政府は今後も底辺労働を担う外国人の受け入れを拡大していくことだろう。

 

しかし、それは半世紀前、欧州が移民の受け入れで辿った失敗の道に他ならない。外国人労働者が増える職種では、日本人の賃金が確実に抑えられていく。また、ひとたび不況に陥れば、従順に働く外国人より先に日本人が職を失う可能性もある。そのとき、日本人の怒りが外国人に向かい、対立と排斥の動きにつながる危険はないのかどうか。

 

政府がビザを発給し続ける限り、日本語学校などは偽装留学生であろうと受け入れる。また、産業界が底辺労働者を求めるのも当然だ。ただし政府には長期的な国益の観点から、受け入れに伴う負の側面まで検証する義務がある。しかし、現実にはまったくなされていない。そして大手メディアも、東京福祉大のような大学を「特殊な存在」として取り上げるだけで、「人身売買」同然の「留学生ビジネス」が抱える闇の全体像には切り込まない。政府もメディアも検証機能を果たせていないのだ。

 

日本が「移民国家」へ向けて歩み始めたその陰には、日本人が目を背け続けている醜悪な現実がある。外国人たちは何を求めて日本にやってきて、どんな暮らしを強いられているのか。実習生が直面する問題については頻繁に報じる大手メディアは、実習生よりもさらに厳しい状況に置かれた留学生たちについて、なぜ知らんぷりを続けているのか。日本はいったいどんな国になっていこうとしているのか――。詳しくは、今年4月に上梓した拙著『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)をお読みいただきたい。

 

 

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