3.11後の電力自由化 ―― 今なぜ発送電分離が必要なのか

2011年3月11日の福島第1原発事故以降、電力自由化の議論がメディアを賑わすようになった。筆者は、『電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生』(日本経済新聞出版社)を出版したぐらいだから、当然電力自由化論者である。しかし、筆者のような研究者の力不足のためか、電力自由化は必要か、発送電分離をしても停電が起きないかなど、基本的な質問を受けることが多い。そこで、これらの論点をこの場で整理してみたい。

 

 

電力自由化とは何か

通常の財やサービスは、市場において、多数の供給者と多数の需要者との間で自由に取引されている。これが資本主義経済の基本原理である。しかし、電力のような公益事業では規模の経済性が働き、放置しておけばかぎられた企業が市場を支配してしまう。これが「自然独占」であり、通常なら独占禁止法に違反する行為として、企業分割などの対象になる。これを例外的にあらかじめ法律で容認し、その代わり、規制当局が認可料金によって独占価格を阻み、安定供給を義務づけるのが、「法定独占」である(図1)。

 

 

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図1 自然独占と法定独占、自由化と事実上の独占

 

法定独占だった電力市場を開放することが、電力自由化の出発点である。1980年代以降、小型ガスタービンの進化などにより、発電分野では競争が生じると考えられるようになった。もともと法定独占が例外だったのだから、法律によって閉じられていた市場を開き、誰でも参入できるようにした。実際、電気事業は、これまで独占禁止法の適用除外に指定されていたが、この規定が外された。

法令上、電力市場への参入が可能になったものの、すぐに競争は生じなかった。実質的に100%の市場を独占していた既存の電力会社(一般電気事業者)に対して(*1) 、新規参入者はゼロから始めなければならず、経験や技術でも劣るのは当然だった。とはいえ、何年経ってもなかなか新規参入者の市場シェアは高まらず、また電力会社間の地域をまたいだ競争も起きず、「事実上の独占」がつづいた。この背景にあったのが、発送電一貫体制である。

(*1)厳密に言えば、自由化以前にも10の一般電気事業者以外に、卸電気事業者と呼ばれる発電会社が存在した。電源開発といった国策会社(当時は特殊法人)は、発電した電気を一般電気事業者に卸売りしていたため、競争的な市場環境とは程遠かった。

 

日本にかぎらず、自由化以前の大手電力会社は、発電だけでなく送電や配電、そして小売りまでを一体的に担ってきた。電力市場では範囲の経済性も働くため、ひとつの電力会社が発送電一貫で全体を管理する方が効率的と考えられてきた。しかし、情報通信技術の進化などにより、異なる会社が発電や小売りのみを担っても、システム全体を制御できるようになった。電力システムでは需要と供給を瞬時に一致させなければならず、「系統運用」がきわめて重要であるが、これが容易になったことも電力自由化の背景のひとつである。

 

 

送電網は空港のように開放されなければならない

ここで、自由化といってもすべての市場を開放するのではないことに、注意が必要である。競争が可能になったのはあくまで発電と小売りの市場であり、送電分野はその性質上これからも独占のままである(図1)。新規参入の発電会社が、全国的な送電網を新たに建設しなければならないとすれば、その負担は余りにも大きい上に、日本には2倍の需要がないため二重投資になってしまう。だからこそ、このようなネットワークインフラは、市場のすべてのプレーヤーが同じ条件で使えるように開放しなければならない。

しかし、既存の電力会社に送電網の公正な開放を期待するのは無理な話である。競合他社である新規参入者は、送電網を使えなければ発電しても商売にならない。規制当局は法令にもとづいて送電網の開放を指導するが、電力会社は敵に塩を送るようなことをできるはずがない。そのため、様々な「競争阻害行為」が発生することになる。このように説明されても、電力システムでは発送電一貫が当たり前であったから、このような理屈をにわかに理解しがたい。そこで筆者がよく使う比喩は、同じ公益事業である航空システムである。

今、日本航空が全国の空港を所有し、航空管制も行っているとしたら、どのような問題が生じるだろうか。日本航空のみが航空会社であったら、すなわち1社独占であったら、とくに問題は生じない。競争がないために航空料金が高いとか、サービスが悪いといった問題は生じるだろうが、そもそも独占を容認して競争を否定しているのだから、システム全体を1社に任せてしまった方が効率的であろう。

しかし、日本の航空市場は独占ではない。自由化が進み、内外の航空会社が多数参入している。そこで日本航空は、自らが所有し運用している航空ネットワークインフラを他社に平等に使わせないようにするだろう。たとえば、自社便を優先的に離発着させる、自社便を利便性の高いゲートに割り当てる、自社便の荷物を速く処理する、他社から空港利用の申請があっても空きがないといって断るといった具合である。もちろん、現実の日本航空は空港を所有する独占的事業者ではないから、すなわち、自然独占の航空ネットワークインフラが航空事業者から切り離され、中立的主体によって運営されているから、このような問題は生じていない。

 

 

 

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