円高は経済政策の失敗が原因だ  

為替レートと経済政策を考える前提条件

 

前節では、「円高が大した問題でない」とする議論は正しくないことを論じたが、為替レートと経済政策を考えるにあたって最初に確認しておくべきことは何だろうか。それは「国際金融のトリレンマ」としてよく知られているものだ。

 

現代において、「国際資本移動の自由化」、「固定為替相場制度」、「独立した金融政策」のみっつの目的を同時に達成することは不可能である。日本は、「国際資本移動の自由化」と「独立した金融政策」を選択し、為替レートは変動相場制を採用しているため、為替レートを直接コントロールすることはできない。このことをまず押さえておくことが必要だ。

 

しかし直接コントロールすることは不可能であっても、為替レートの水準に影響を与えることは可能である。為替レートは貿易相手国との通貨(貨幣)の相対的価値を示す指標だが、各国の通貨(貨幣)の価値は、その存在量と予想(期待)収益率に依存してきまる。つまり、為替レートは貿易相手国との通貨の相対的な存在量と相対的な予想(期待)収益率に依存して決まるのである。

 

以上からは円高が進むのは、日本が貿易相手国と比較して円の相対的な存在量が少なく、相対的な予想収益率が高い場合ということになる。

 

金融緩和政策を行えば、円の存在量(マネーストック)は拡大し、予想収益率は低くなるため、円の価値は下落(インフレ)して為替レートには円安圧力がはたらく。そして高橋洋一嘉悦大学教授のコラム(「菅・小沢「代表選」政策論争で決定的に欠けている「金融政策」30~40兆円の量的緩和で1ドル100円に」現代ビジネス2010年9月6日)で明らかなように、現在円高が進むのは金融緩和政策が十分でないことの影響が大きい。

 

関連して、リスク回避により円高が進むという議論もあるが、この点は、同氏のコラム(「菅直人と小沢一郎、日銀をうまく操縦できるのはどちらか?相変わらずトンでも発言を繰り返す白川総裁に政府も不信感」現代ビジネス2010年9月13日)で示されているとおり、スイスフランについては成り立つかもしれないが、日本円については成り立たない。

 

まとめると、国際金融のトリレンマを念頭におくかぎり、為替レートを直接コントロールする政策を取ることは不可能であるし、すべきでもない。ただし金融政策は為替レートの水準に影響を与える。

 

為替レートの動向に過度に配慮した金融政策を行うことで、国内経済が犠牲になった失敗の経験は数多い。たとえば、1970年代前半の「狂乱物価」は、スミソニアン協定で設定された限度ぎりぎりの円安水準に為替レートを維持するため金融緩和を持続したことが、インフレをもたらした。そして、1990年代以降の長期停滞の原因ともなったバブルをもたらしたのは、「プラザ合意」に伴う急激な円高効果を是正するために行われた金融緩和策が一因である。

 

だが、デフレと円高が進む現状においては、デフレから脱却するため、さらには過度な円高に伴う企業の収益悪化や雇用悪化に対処するために、金融緩和策を通じた為替レートの円安を促していくことが必要なのは明白だろう。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.273 

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