消費増税は乗り越えられるか――消費増税集中点検会合(仮)

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消費の停滞に対する懸念

 

消費活動指数(日本銀行)と消費総合指数(内閣府)を利用すると、経済全体の消費の動きを月次単位で把握することができる。そこで、この2つの指数をもとに、2014年以降の消費の動向について振り返ると(図表3)、14年4月の消費税率引き上げ後に消費の大幅な落ち込みが生じ、2年以上にわたって停滞が続いた。その後、16年の年央あたりから持ち直しの動きがみられるようになり、現在はようやく13年春頃の水準まで回復している。もっとも、このところ増勢が鈍化しており、10月以降は再び消費の水準の低下が見込まれる。

 

 

図表3 消費の動向

(資料出所)日本銀行「消費活動指数」、内閣府「消費総合指数」より作成

 

 

今回の増税に際しては駆け込み需要が前回よりも目立たなかったということがよく指摘される。これがキャッシュレス決済時のポイント還元などの需要平準化策の効果によるものであれば、増税後の消費の落ち込みは前回よりも軽微なもので済む。だが、消費の勢いそのものが前回と比べて弱まっており、消費者のマインドも前回増税時より弱めであることに留意が必要である(図表4)。

 

 

図表4

(資料出所)内閣府「消費動向調査」より作成

 

 

消費者のマインドに関して気になるのは、消費者者態度指数(内閣府)の構成項目のうち「雇用環境」の指数の低下がこのところ目立つことだ。19年9月の41.5は同じ基準で統計のとれる13年4月以降で最も低いものとなっている。雇用にやや弱い状況が生じていることについては新規求人数(厚生労働省「一般職業紹介状況」)が頭打ちになり、むしろ下振れが生じていることからも確認される。

 

また、毎月勤労統計(厚生労働省)をもとに賃金の動向をみると、実質賃金は19年8月まで8か月連続で前年の水準を下回って推移しており(サンプル入れ替えの影響を受けにくい共通事業所系列のデータでも弱い動きが続いている)、この点からも雇用・所得環境に変調が生じつつあることがうかがわれる

 

このような雇用の状況と消費者のマインドの低下を併せて考慮すると、「駆け込み需要が盛り上がった分だけ反動減は小さくて済む」というのはやや楽観的な見方ということになりそうだ。

 

 

2013年への逆戻り?

 

最近公表された経済指標をながめると、

 

・消費活動指数・消費総合指数でみた場合の実質消費は2013年春頃と同じ水準

・在庫が積み上がり、鉱工業指数の在庫率は2013年1月以降で最高を更新中

・日銀短観の大企業・製造業の業況判断指数(DI)は2013年6月調査以来の低水準

・消費者態度指数は同じ基準でデータのとれる2013年4月以降で最低を記録

 

というように、アベノミクスと異次元緩和(量的・質的金融緩和)がスタートした2013年の年初あるいは春頃の水準まで逆戻りしてしまったものが少なくない。このように景気の弱い動きがある中で消費増税のショックが加わると、デフレへの逆戻りも懸念される。

 

消費者物価指数の上昇率(前年同月比)は0%台半ばで推移しているが、このところ上昇の勢いが弱まっている。2014年の経過を振り返ってみると、消費税率の引き上げ前には消費者物価上昇率(前年同月比)が1%台半ばに達していたが、増税後は需要の減退などから物価上昇のペースが鈍化し、原油価格下落の影響と相まって2%の物価安定目標の達成が遠のく結果となった。今回についても足元の弱い動きがさらに顕著になる可能性がある。

 

 

景気動向指数の「上げ底」に注意

 

10月7日に景気動向指数(内閣府)の基調判断が「悪化」に下方修正された。内閣府の基準によれば、これは「景気後退の可能性が高いことを示す」ものだ。景気動向指数の基調判断は景気の現状を示すCI一致指数をもとに判定がなされるが、10月以降のCI一致指数については上振れが生じる可能性があることに留意が必要である。というのはCI一致指数の算出に利用されているデータ(個別系列)のうち商業動態統計のデータが、消費税率引き上げの影響で実勢よりも強めに出るためだ。

 

CI一致指数の算出においては、商業動態統計のうち小売業販売額(前年同月比)と卸売業販売額(前年同月比)が9つある個別系列のうちの2つとして利用されているが、これらの販売額は消費税込みの金額となっている。このため、消費税率の引き上げが実施された月から1年分のデータについては、増税分だけ前年同月比のデータが実勢よりも上振れて推移することになる(たとえば18年10月の販売額については8%の税率をもとにした金額で、19年10月の販売額については10%(軽減税率対象品目については8%)の税率をもとにした金額で、販売額が計算されるため)。

 

このように技術的な理由から景気動向指数に「上げ底」が生じてしまう可能性があることにも留意が必要となる。

 

 

3.気になる経済対策の効果

 

増税対策の評価

 

こうしたもとで実施された消費増税に対しては、軽減税率の適用や教育無償化などの措置に加えて2兆0,280億円の「臨時・特別の措置」が講じられている。これにより、数字の上では消費増税に伴う負担増を上回る負担軽減がなされることになり、増税後の景気の落ち込みに対しては万全の対応がとられているとの見方もある。

 

もっとも、この増税対策の内容を個別にみると、ポイント還元(2019年度分の予算額2,798億円)については、予算額の4割程度が事務経費や広告宣伝費などに充てられることから実際の還元に利用できる予算は2千億円を下回り、これを総人口で除して日割り計算すると1人当たり1日分の還元額は8円程度にとどまることになる。しかも、このポイント還元は来年(2020年)6月までの時限措置となっている。

 

コンビニエンスストアなどでは店頭でのキャッシュレス決済時に直ちに値引きをするという形で還元がなされることから、従来よりも購入時の支払額が少なくて済むケースがあるなど、「消費減税」が心理的に消費を下支えする効果はたしかに見込まれるが、ポイント還元事業の実施店舗がこの制度の対象となる店舗の4分の1(50万店程度)にとどまっていることもあり、効果は限られたものとなるだろう。

 

プレミアム商品券(2019年度分の予算額1,723億円)は、住民税非課税世帯と3歳未満の子どものいる子育て世帯を対象に実施されるものであるが、住民税非課税世帯については購入前にあらかじめ申請が必要であることもあって、どこまで利用が広がるか現時点では見通しにくい状況にある。仮に利用が広がったとしても、対象者が限られることや対策の規模からいって、景気を下支えする効果は限られたものとなるだろう。

 

さらに留意が必要なのは、2兆円の増税対策の過半(1兆3,475億円)が公共事業であるということだ。つまり、2兆円がそっくりそのまま家計に給付されるわけではないということになる。ここで想起されるのは2014年に実施された5.5兆円の経済対策のことだ。時々誤解がみられるが、8%への税率引き上げ時に増税の影響緩和のための措置は何もなされなかったわけではなく、むしろ5.5兆円の措置により増税に伴うマイナスの影響には万全の対応がとられているとされていた。

 

だが、その対策の過半は復興、防災・安全対策の加速のための経費として措置された公共事業であり( 3.1兆円)、人手不足や資材価格高騰の影響をうけて円滑な執行が確保できなかった。このため、2014年度の公共投資(公的固定資本形成)は前年度の実績を下回り(実質成長率に対する寄与はマイナス)、この対策による景気の下支えは期待された成果をあげることができなかった。建設関係の人手不足は前回引き上げ時と比べると緩和に向かっているが、それでもなお不足超となっており、事業の円滑な実施が確保されない場合には、今回の措置についても景気を下支えする効果が十分に期待できないことになる。

 

 

追加の対策の余地は?

 

9月30日に開催された経済財政諮問会議では、民間議員から「内外経済状況をこれまで以上に丁寧に点検し、リスクが顕在化する兆しがある場合には、機動的なマクロ経済政策を躊躇なく実行すべき」との提案がなされた。「機動的なマクロ経済政策」には金融政策による対応と財政政策とよる対応があるが、この両者による追加の政策対応の余地がどの程度あるか検討しておくこととしよう。

 

このうち金融政策については、ETFの買い入れ額の拡大といった措置に加えて実際に採られる可能性のある措置としてはマイナス金利の深掘りがある。だが、日銀当座預金の一部にマイナスの付利を行うというタイプのマイナス金利政策については、その拡大が景気にむしろマイナスの影響を与えてしまうおそれがある。というのは、マイナス金利には「銀行税」という面があり、これがはたして金融緩和措置といえるのか、かなり微妙なところがあるからだ。

 

日銀当座預金に対するマイナスの付利は、市場金利の低下を通じて金利全般を押し下げる効果があるが、預金金利に対してマイナスの付利をすることが難しい中で貸出金利の低下が生じると、預金と貸出の間の利ざやが縮小して金融機関の収益にマイナスの影響がもたらされる可能性がある。この場合、貸出態度はむしろ慎重化して、マイナス金利の拡大が所期の目的を十分に達成できないおそれがある。マイナス金利が純粋な金融緩和措置であるとすれば、財務省が日銀当座預金の一部を課税標準とする外形標準課税を導入することで、税収と金融緩和効果の両方を手に入れることができるはずだが、もちろんそのようなことはない。

 

財政支出の拡大や減税などの財政による対応については国債発行が必要となるが、現在の金融市場の状況からすると、このような国債発行による資金調達に大きな困難は伴わない。足元、長期金利(10年物国債利回り)はマイナス圏(▲0.1%~▲0.2%程度)で推移しており、その他の年限の国債についても金利水準が大きく低下しているため、発行時にも低利での資金調達が可能である。

 

もっとも、追加の経済対策の規模(今年度の補正予算で対応する分)が1兆円程度にとどまらない場合、「消費税率を引き上げたのに財政赤字(新規国債発行額)が増えた」という状況が生じてしまうことになる。このようなことになった場合には「何のために増税したのか」「増税を予定通り実施するという判断は適切だったのか」という批判の声が上がることが避けられないかもしれない。

 

 ここまで消費増税の影響について考察してきた。増税の実施から間もない現在の段階で、増税の影響がどの程度のものとなるかは見極めにくいが、今後も展開を引き続き注意深くながめていきたい。

 

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vol.267 

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