世代間格差は「解雇規制の緩和」では解消されない

「ソリティア社員」と仕事がない若者

 

3月末に卒業予定の大学生に関して、昨年12月1日時点での就職内定率が68.8%と低く、過去最低を更新したことが一月中旬に報道されました。こうしたなか、若者が仕事をみつけにくい一方で、すでに正社員として働いている年長者は終身雇用により過剰に守られているのではないか、したがって解雇規制の緩和が必要ではないかといった意見が、最近頻繁にみられます。

 

たとえば、会社でたいした仕事もせずに暇そうにしていて、パソコンでソリティアなどのゲームをして時間をつぶす正社員がいるからこそ若者が雇われないのだといった話を、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

 

このような主張における「解雇規制の緩和」が、実際にどのような制度変更を意味するのかは必ずしも明らかではないのですが、暇なのに高給取りの正社員が1人解雇されれば若者が1人以上雇われるだろうという期待が、このような言説を支えているようにも思われます。

 

そこで本稿では、この議論のどこに問題があるのかを指摘し、世代間格差の是正のために本当に考えなければならないのはどのような施策なのかを検討しましょう。

 

 

解雇はなぜ行われるのか

 

解雇規制の緩和とその効果を議論するためには、まず解雇とは何かを知っておく必要がありますね。解雇には、懲戒解雇、普通解雇、そして整理解雇の三種類があります。

 

まず懲戒解雇とは、あらかじめ就業規則で定められた懲戒事由に該当する行為を、労働者が行った場合に行われる解雇を意味します。たとえば採用時に経歴詐称があったり、職場で盗みを働いたりした場合などがこれに当てはまります。

 

次に普通解雇とは、何らかの理由で、労働者がこれまで通りに仕事をつづけられない場合に行われる解雇を指すものです。たとえば犯罪行為により当該労働者が刑務所に入ってしまったら仕事をつづけられませんね。また何らかの理由で労働者がやる気をなくしてしまったときに、上司や周囲の人が真摯に当人に向き合って話し合ったとしても、そして負担の少ない仕事への配置転換などさまざまな手段を講じたとしても、やはり状況が改善されないとしたら、これも仕事をつづけられない場合に当てはまるでしょう。

 

そして整理解雇とは、時代の変化や技術進歩、そして消費者の好みの変化などの理由で、仕事がなくなってしまった場合に行われる解雇です。たとえば特定の事業分野からの撤退や工場の閉鎖により、これまで企業が雇っていた労働者が不要になってしまったケースなどを想定すればよいでしょう。

 

普通解雇と整理解雇の分かりやすい判別方法は、解雇が行われたあとに後任が雇われるかどうかをみることです。たとえば、ある労働者が解雇されたあとに、その人が担当していた仕事が残っている場合には後任が雇われるでしょう。これが普通解雇です。一方で、仕事がなくなったことが理由で解雇されたのなら、後任は雇われませんね。

 

また懲戒解雇や普通解雇は労働者側に責任があるのに対して、整理解雇は労働者側には責任がない、いい換えれば、労働者は悪くないのに解雇されることだと理解されるのが一般的です。

 

 

解雇規制とは何か

 

つづいて解雇規制とは何かを説明しましょう。これは使用者側が(雇う側のことを労働の専門家の間では「使用者側」といいます)労働者を解雇した際に、裁判所によってその解雇が権利の乱用であると認定された場合には、解雇が認められないことを意味します。裁判所の判例により形成されたこの解雇権濫用法理は、現在は労働契約法第十六条として定められています。

 

たとえば、職場のボールペンを一本だけ家にもち帰ったことが分かったからといって懲戒解雇をするのはやりすぎでしょう。また飲み過ぎて翌朝に遅刻した労働者は、たしかに契約通りに仕事を遂行できていないわけですが、それが初めてのことであるならやはり解雇は行きすぎだといえるのではないでしょうか。このような考え方から、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされているのです。

 

しかし次のようなケースはどうでしょうか。あるラジオ放送局のアナウンサーが、朝寝坊してしまい定められた放送ができず、いわゆる放送事故を起こしてしまいました。そしてこれが一度だけでなく、二週間のあいだに2回も寝坊してしまったのです。

 

そこで放送局は、このアナウンサーは仕事を適切に遂行する能力がないと考えて普通解雇にしたところ、それが濫用ではないかとの争いになりました。そして昭和52年に示された最高裁判所の判断は、この解雇を無効とするものでした。これが普通解雇について争われた高知放送事件の概要ですが、人によってはこの場合は、解雇されても仕方がないと感じるかもしれませんね。

 

次に仕事がなくなったことが理由で行われる整理解雇についても考えてみましょう。定年までの長期雇用が想定されている正社員に対して、仕事がなくなったという理由で解雇するのは、長期雇用という約束の一方的な反故にあたるため、やはり解雇には正当な理由が必要とされています。

 

これが判例により形成された整理解雇法理とよばれるもので、整理解雇をする際には、(1)人員整理の必要性が本当にあるのか、(2)解雇を回避する努力をしたか、(3)解雇対象者の人選は合理的になされたか、そして(4)解雇に際して適正な手続きが行われたか、という四つの判断要素を考慮して、裁判所により解雇の有効性が判断されることになっています。

 

なぜ裁判所は場合によっては整理解雇を認めるのでしょうか。それはたとえば、このままでは近いうちに倒産してしまい労働者全員が失業してしまうが、一定の労働者を解雇して身軽になれば復活可能である場合などにおいては、整理解雇を行った方が労働者全体の利益となるからです。

 

おそらく倒産により労働者全員が失業者になってしまい、皆が同時に新たな職探しをするよりも、解雇を一部に留めることで同種の技能をもつ失業者が少ない方が、再就職は容易だと考えられるでしょう。

 

また、そもそも整理解雇が不可能であるとするなら、使用者は最悪のことを見越した労働条件を提示するでしょうし、労働条件がなかなか改善しないことにもつながりかねません。

 

そして企業にとっては労働者を雇うことの負担が大きくなるために、最初から少ない人数しか雇わないかもしれませんし、また仕事の一部を外国企業に下請けに出したり、人手を使わずに機械によって仕事を置き換えたりもするでしょう。これらはわが国の労働者全体の視点からも、望ましくないことだといえます。

 

 

 

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