消費税率引き上げの経済への影響をどう考えるか

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経済・財政・社会保障の一体改革のために必要なこと

 

これまで消費税率引き上げの経済に与える影響について、97年の経験を考えると、経済に与える影響は一時的かつ小さいものとは考えられず、かつ早期の消費税率引き上げは緩やかな回復基調にある日本経済を、ふたたび失速させる可能性が高いということを述べてきた。

 

もちろん、筆者はこれ以上消費税率を引き上げる必要がないと述べているのではない。消費税率引き上げは、今後さらに進む少子高齢化に対応した税制と社会保障の仕組みを構築するにあたって、重要な検討課題のひとつである。

 

消費税そのものについても、消費税率を引き上げる際の低所得者対策としての給付付き税額控除、益税問題の対処策としての中小事業者特例措置の見直しやインボイス方式の導入、地方分権を進める際の財源としての地方消費税拡充の是非といった論点があげられる。

 

一方で消費税の検討を進めることは、所得税の検討を進めることも意味する。他国と比較して税の再分配機能が弱く、かつ高齢化にともなう社会保障の負担・給付の拡大による課税ベースの縮小にどのように対処するかといった、所得税に関する議論をより深めていくことも必要だ。

 

消費税率引き上げというと、財政赤字抑制といった観点から消費税率引き上げの是非が報道されるが、これまで論じたように、消費税率引き上げの際のタイミングを失すると財政赤字がむしろ拡大する可能性もある。現に97年に消費税率を引き上げた際には消費税収は増加したものの、景気悪化により所得税収および法人税収が減ることで全体の税収は減少した。

 

1月21日に内閣府は「経済財政の中長期試算」(http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h23chuuchouki.pdf)を公表し、そのなかで、「財政運営戦略」に対応した場合の国・地方の基礎的財政収支対GDP比と、名目成長率1%台、物価上昇率(GDPデフレーター上昇率)1%未満という慎重シナリオの下での国・地方の基礎的財政収支対GDP比との比較を行っている。

 

報道ではこの図から、2020年度に基礎的財政収支は23.2兆円の赤字となり、消費税で仮に賄う場合9%超の引き上げが必要だとの議論がなされている。しかしこの図から読み取るべきなのは、慎重シナリオにもとづく増税の必要性ではなく、政府が掲げる名目成長率3%台、物価上昇率1%台の成長シナリオを達成すれば2015年度の「財政運営戦略」目標は達成でき、かつ2020年度における増税・歳出削減の負担軽減に資するという点だ。

 

いま、経済・財政・社会保障の一体的な改革を進めるために必要なのは、早急な増税策の実行といった手段の議論ではなく、先進国唯一の10年超におよぶデフレから早期脱却し、政府が掲げる成長シナリオを消費税増税下でも確保できる経済状況を達成することである。

 

これには90年代の長期停滞以降、一貫して政府がマクロ経済政策の主軸としてこなかった金融政策を主軸とし、金融政策の効力を高めるためのインフレターゲット導入と、達成責任の明確化やガバナンス機能を高める方向での日銀法改正を行うことが必要だろう。

 

安易な増税議論ではなく、景気動向とのタイミングを考慮し経済成長との両立を図りつつ、現制度の問題点を改善するための税制や社会保障の検討こそが求められているのである。

 

 

推薦図書

 

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税制はわれわれの生活に直接影響を及ぼしており、他人事のように避けて通るわけにはいかないと筆者はいう。本書は税制の基本構造、わが国税制の歴史や税体系、所得税、法人税、相続税、消費税、地方税といった税について概要と課題が論じられている書籍である。公平性と効率性を両立させるためにはどのような方策が必要か。税について包括的に考える際に有益な書籍のひとつといえるだろう。

 

 

 

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